髪の毛切ったらクレープ食べよ

 大学生の瑞己(みずき)は、過干渉な母の元育てられ、全てに無気力に生きてきた。
 進学先も、着るものも食べるものも、全て母の意向に沿うように。例えば大学近くに時折出店しているキッチンカーのクレープでさえ、瑞己は食べたことがない。

 けれどそんな母が、急死した。

 突然の自由に、瑞己は戸惑う。そして自らが母の言葉や周囲に流されているだけの、空っぽな人間であることに気づいてしまった。

 叫び出したいのに、それすら上手くできなくて。
 衝動的に、ペン立ての鋏で髪を切った。毛束を引っ掴んで、気が済むまでざくざくと鋏を入れ続けた。鏡には、ぼろぼろの姿の自分が映っていた。

 もうこんな自分は嫌だった。

 髪型だって好きに変えたいし、着るものだって自分で選びたい。クレープだって、食べてみたい。

 そうして、泣きながらも瑞己は決意する。
 
 変わりたいと、強く願う。

 と言っても、何から始めたらいいのかさえわからないけれど。でもまずは、このぐちゃぐちゃに乱れた髪を、整えてもらうたころからだろう。

 そうして、瑞己は一歩を踏み出す。
 一歩一歩、恐る恐る進んでみる。

 瑞己は何を見て、何を感じていくのか。

 今まで何事にも無気力に生きてきた女の子の再出発が、今、始まる。

 髪の毛切ったら、クレープ食べて。
 その先にあるのは、なんなのだろう。
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