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第三章反逆王子
進撃のゴブリン
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「ゴウガウッ!」
「「「ガアアア!!!」」」
時はエラクレスが宣戦布告して1ヶ月後…
ネリーキア王国東部ストラス辺境伯領の都市『リトポ』の迷宮では夥しい数のゴブリンが探索中の冒険者や巡回中の衛兵を見つけ次第襲いながら出口に殺到していた。
それも数頭のゴブリンキングに統率されていた。
そしてその数頭のゴブリンキングを従える者こそ、東軍団総指揮官『ゴブキン』である。南軍団総指揮官から配置換えになったのだ。
「ひ、ヒィィ!なんだコレ!」
「どんだけ居んだよ!?あ、マズ…」
「ててて撤ーたーい!」
「駐屯兵を呼べー!」
「隊長に知らせろ!」
動揺が広がっているように見えるものの、冒険者と衛兵の行動は俊敏である。
「所詮ここは迷宮、何があっても驚かないさ!」
「それに数が多いで有名のゴブリンじゃ、意外性がないわ!」
「前にもあったよな、こういうの。」
「ゴブリンがいっぱい?はいそうですかってな!」
「よっしゃ!ちょっくらここ塞ぐぜ。」
「「「ファイヤーウォール!!!」」」
魔法を使える者たちが何重にもなる炎の壁を展開し、足止めを行う。迷宮のタイプや層によって異なるが、総じて迷宮の道は狭い傾向にある。この迷宮もそれに当てはまっていた。
「今だ!出口へ急げ!奴らにゴブリンメイジが居るとなると長くはもたん!」
「「「へーい」」」
返事をするものの、それよりも早く冒険者は一目散に駆け出していたのだった。
1つ、2つ…階層を上がり、後少しで迷宮から出られると思ったところで…
「…!止まって!」
探知魔法が使える魔法使いの女が言った。
「なんで…って、まさか!」
彼女と同じパーティに所属している男が顔を真っ青にする。
「前にも複数の敵の反応があるのよ!」
「そうは言っても後ろから来てんだよ!切り開くしかねえ。」
他のパーティのいかにも戦士の装いをした男が呆れたように言った。
「バカ言わないで!簡単な数じゃないのよ!探知し切れない程なのよ!」
ハスキー声で怒鳴る女、近接戦闘に自信がない者たちが一斉に暗い顔をする。強行突破する時に一番狙われるのは自分たちだという自覚があるからだ。
『どうすればいい』
皆が考え込むなか一人の中年男性が進言する。40を超えたくらいだろうか。
「道を外れて隠れたらどうじゃ?」
「ああん?なんだ…ッチ、アンタかよ…。」
血の気が多い若手の戦士が突っかかろうとしたが、発言者を見てバツが悪そうな顔になる。
発言者はネリーキア王国の東部ではかなり名の知れたベテラン冒険者だったからだ。若き日にはネリーキア王国とエカルム王国の戦争にも従軍し、終戦後は数多の迷宮に潜った歴戦の猛者だ。
「敵中に孤立など戦場ではありふれたことよ…とくに儂らのような者はな…。そういう時は真っ直ぐ味方の方に行くのではなく、道を外れて鬱蒼と茂る山や森、時には迷宮の中にまで転がり込んだことよ。」
そこで一度区切った。まだ後ろからゴブリンの気配はない。それは探知魔法を使える女が騒いでないことからも確実である。
(まだ僅かに時間がある。)
「まだ我らは前方のゴブリンに接敵しておらず、ゴブリンは出口へ一目散。後方のゴブリンも同様だとすると横道にそれて、出口へ続く道から遠ざかれば充分にやり過ごすことは可能じゃ。やがて外からの駐屯兵や騎士が駆けつけて蹴散らすであろう。その時まで力を温存しようではないか。」
頷きながら聞いている冒険者が大半を占めるが、それでも不安そうな顔をした者たちが多い。
「まあ、どうするかは個々のパーティに任せる。儂は隠れさせてもらう。」
ベテラン冒険者がそう言って横道に向かうと、オロオロしながらも全員が横道に降りて、出口から遠ざかった。
一方で…
地上の駐屯兵は苦戦…否、大苦戦を強いられていた。
「り…りゃ!ゼエゼエ…」
「ふ…ふぁ!ゼエゼエ…」
「く、ぐぐぐ…ぜ、ゼエゼエ…」
迷宮から出てくる魔物対策に建てられた入り口を覆うような壁と櫓を使って激戦を繰り広げた。
戦いが始まって早、3時間…最早駐屯兵の疲労は限界を超えていた。
(ち、ちくしょう!なんてタイミングで来やがったんだ!獣王との戦争のために隊長、副隊長をはじめとした熟練兵はほぼ、領主様に徴兵されちまったのに!今いるのはケツの青い新兵と最古参という名のジジイどもしか居ねえんだよ!)
しかもなんでゴブリンがまともな装備してやがんだ。…と心のなかで付け足す。
今までは地の利があって、相手もゴブリンということも重なって新兵でも対応できていたが、文字通り3時間ぶっ通しで戦えばしんどいに決まっている。寧ろ新兵達は頑張っている方だ。
苦戦の要因は他にもある。
魔法使いの圧倒的不足である。
こちらも戦争に徴集されたことによる不足である。ゴブリンメイジが作るファイヤーウォールやサンドウォールなどを崩せないでいた。これがキツイったらありゃしない。なぜなら攻城兵器なんて作れないゴブリンは魔法で作られた壁をつたって壁を越えようとするからである。
サンドウォールさえ…
あれさえ…
何度も隊長代理の頭によぎる。
「隊長代理さんや…潮時じゃ。」
自身も弓、ハルバードを振るって戦っていると壁の下から声をかけられた。
声の主は数少ない熟練魔法使いの高齢女性だった。
彼女は余りにも年寄りであり、女性だということも相まって徴集を免れたのだった。
老いたりとは言え、壁の下から敵を見ずに、無詠唱で風魔法『風の刃』を命中させる大活躍を見せていた。
「ここで駐屯兵と魔法使いが全滅したら元も子もなかろう。街まで撤退じゃ。」
周囲を見渡すと遂に1頭のゴブリンが槍で駐屯兵を突き、壁を乗り越えた。しかも、まだまだ迷宮からゴブリンの波は止まらない。
「クソッ…」
隊長代理はそいつに地面に転がってた槍を投げて見事に命中させる。そして近くの1番若そうな兵士に本営の旗を取って街へ向かうように指示を出す。
「撤退!撤退だ!」
「「「てったーい!!!」」」
「「「街へいそげええ!」」」
「「「街をまもれぇぇぇ!!!」」」
「「「てった…」」」
数少ない熟練兵が最後の力を振り絞って撤退を叫びながら殿を務める。
新兵が這々の体で槍や剣を杖にしながら壁を駆け降りる。
「隊長代理さんや…」
「なんでございますか?馬車の準備は出来ております。必ずや街までお届けいたします。」
ささ、お早く…と出発を促す隊長代理を老婆は押し留めた。
「詠唱する。時を稼げい。」
「…?…は!承知!」
最初は何のことかサッパリだった隊長代理だったが、すぐに理解してハルバードを握り直す。
(この方は普段無詠唱のはず…であるのに詠唱をするということは…)
「ここに居られます、太古の精霊よ…我らが身に宿りその力をお貸しください…嵐よ!吹け!敵を薙げ!…」
詠唱が中盤に差し掛かると風が止む。
「ウラアア!」
ブシュ!
気合の声を上げ隊長代理がファイヤーボールをハルバードで叩き伏せる。
壁に辿り着いたゴブリンが矢を射かけ、投石をし、ゴブリンメイジが魔法を放つが尽く彼が阻む。
「……せ!『精・風輪』」
詠唱が終わり老婆はへたり込む。この魔法はただの風魔法ではない。精霊の力を借りて使う精霊魔法だ。精霊という不確定要素をふくむため、下振れ れば並の風魔法と変わらないこともありが、上振れれば通常の風魔法など比較にならない。
「伏せろ!」
隊長代理の指示に熟練兵や老婆は知る者達は伏せる。
「ギ?」
「クァ?」
「ク?」
人語が分からないゴブリンは突然の奇行に困惑し…伏せる兵士に攻撃を加えようとした…瞬間…。
強い…風が吹いた。
その風は壁の下から壁を登り壁の上を通って迷宮まで吹いて何事もなかったように霧散した。
「ギヤ~グン?」
「ゥン?」
「カー?」
再びゴブリン達は困惑した。
『なぜ地面がこんなにも近いのか』
…そこで意識は途絶える。
「お…おお…あ…」
櫓に居た兵士の顔は一瞬、歓喜に包まれるものの、直ぐ様顔色を悪くする。
老婆の放った魔法で出て来たゴブリンは1頭残らず一掃されたが、迷宮からまだまだゴブリンは出てきていた。
「何をしている?!降りて来い!」
馬車の御者席に座った隊長代理が怒鳴る。老婆を乗せたのだろう。
櫓の兵士も慌てて降りて街に向かう。
この戦いで魔物の封じ込めにこそ失敗したものの、老婆や熟練兵の奮闘によって撤退戦では一人も死者を出さないという快挙を成し遂げた。
しかし、城壁から外を見る隊長代理の顔は険しかった。街に撤退するということは、街以外を守らないということだからだ。街の外にある村や畑が大量のゴブリンに蹂躙されるのを指を咥えて見ていることしかできないのだ。あの迷宮を囲んでいた防衛線はそれらを守るためにあったのだ。
どうやらゴブリンは…否。ゴブリンの将はこの街を包囲することにしたらしく、魔法などを使って、いたるところに拠点を築いていた。
当然、それを見過ごすわけがなく、夜襲を何度か仕掛けたが夜戦は魔物が得意とすることであり、そもそも前述の通り魔法使いの数に圧倒的な差があったので戦果を上げることはできなかった。
1度だけ老婆の魔法が炸裂して包囲陣の1部の破壊に成功したが、次からは老婆への攻撃が集中して行われることになった。更に、おそらく変異種と思われる黒いゴブリン率いるゴブリンの猛攻により老婆を守って死ぬ者の増加や老婆自身が負傷した事により攻撃意欲を削がれ、遂に包囲陣が完成されてしまった。
領主であるストラス辺境伯の屋敷がある都市『ストラス』への援軍要請の使者は包囲陣の完成前に送り出すことが出来たが、いつ援軍が来るのか不明である。
「ッチ…忌々しい。」
今日も街から遠方に向かう土煙が見える。
誰のか?
決まっている。『村を襲いに行くゴブリンのだ』。
隊長代理はまさかこれがゴブリンによる史上最大の大略奪になるとは思わなかった。
「「「ガアアア!!!」」」
時はエラクレスが宣戦布告して1ヶ月後…
ネリーキア王国東部ストラス辺境伯領の都市『リトポ』の迷宮では夥しい数のゴブリンが探索中の冒険者や巡回中の衛兵を見つけ次第襲いながら出口に殺到していた。
それも数頭のゴブリンキングに統率されていた。
そしてその数頭のゴブリンキングを従える者こそ、東軍団総指揮官『ゴブキン』である。南軍団総指揮官から配置換えになったのだ。
「ひ、ヒィィ!なんだコレ!」
「どんだけ居んだよ!?あ、マズ…」
「ててて撤ーたーい!」
「駐屯兵を呼べー!」
「隊長に知らせろ!」
動揺が広がっているように見えるものの、冒険者と衛兵の行動は俊敏である。
「所詮ここは迷宮、何があっても驚かないさ!」
「それに数が多いで有名のゴブリンじゃ、意外性がないわ!」
「前にもあったよな、こういうの。」
「ゴブリンがいっぱい?はいそうですかってな!」
「よっしゃ!ちょっくらここ塞ぐぜ。」
「「「ファイヤーウォール!!!」」」
魔法を使える者たちが何重にもなる炎の壁を展開し、足止めを行う。迷宮のタイプや層によって異なるが、総じて迷宮の道は狭い傾向にある。この迷宮もそれに当てはまっていた。
「今だ!出口へ急げ!奴らにゴブリンメイジが居るとなると長くはもたん!」
「「「へーい」」」
返事をするものの、それよりも早く冒険者は一目散に駆け出していたのだった。
1つ、2つ…階層を上がり、後少しで迷宮から出られると思ったところで…
「…!止まって!」
探知魔法が使える魔法使いの女が言った。
「なんで…って、まさか!」
彼女と同じパーティに所属している男が顔を真っ青にする。
「前にも複数の敵の反応があるのよ!」
「そうは言っても後ろから来てんだよ!切り開くしかねえ。」
他のパーティのいかにも戦士の装いをした男が呆れたように言った。
「バカ言わないで!簡単な数じゃないのよ!探知し切れない程なのよ!」
ハスキー声で怒鳴る女、近接戦闘に自信がない者たちが一斉に暗い顔をする。強行突破する時に一番狙われるのは自分たちだという自覚があるからだ。
『どうすればいい』
皆が考え込むなか一人の中年男性が進言する。40を超えたくらいだろうか。
「道を外れて隠れたらどうじゃ?」
「ああん?なんだ…ッチ、アンタかよ…。」
血の気が多い若手の戦士が突っかかろうとしたが、発言者を見てバツが悪そうな顔になる。
発言者はネリーキア王国の東部ではかなり名の知れたベテラン冒険者だったからだ。若き日にはネリーキア王国とエカルム王国の戦争にも従軍し、終戦後は数多の迷宮に潜った歴戦の猛者だ。
「敵中に孤立など戦場ではありふれたことよ…とくに儂らのような者はな…。そういう時は真っ直ぐ味方の方に行くのではなく、道を外れて鬱蒼と茂る山や森、時には迷宮の中にまで転がり込んだことよ。」
そこで一度区切った。まだ後ろからゴブリンの気配はない。それは探知魔法を使える女が騒いでないことからも確実である。
(まだ僅かに時間がある。)
「まだ我らは前方のゴブリンに接敵しておらず、ゴブリンは出口へ一目散。後方のゴブリンも同様だとすると横道にそれて、出口へ続く道から遠ざかれば充分にやり過ごすことは可能じゃ。やがて外からの駐屯兵や騎士が駆けつけて蹴散らすであろう。その時まで力を温存しようではないか。」
頷きながら聞いている冒険者が大半を占めるが、それでも不安そうな顔をした者たちが多い。
「まあ、どうするかは個々のパーティに任せる。儂は隠れさせてもらう。」
ベテラン冒険者がそう言って横道に向かうと、オロオロしながらも全員が横道に降りて、出口から遠ざかった。
一方で…
地上の駐屯兵は苦戦…否、大苦戦を強いられていた。
「り…りゃ!ゼエゼエ…」
「ふ…ふぁ!ゼエゼエ…」
「く、ぐぐぐ…ぜ、ゼエゼエ…」
迷宮から出てくる魔物対策に建てられた入り口を覆うような壁と櫓を使って激戦を繰り広げた。
戦いが始まって早、3時間…最早駐屯兵の疲労は限界を超えていた。
(ち、ちくしょう!なんてタイミングで来やがったんだ!獣王との戦争のために隊長、副隊長をはじめとした熟練兵はほぼ、領主様に徴兵されちまったのに!今いるのはケツの青い新兵と最古参という名のジジイどもしか居ねえんだよ!)
しかもなんでゴブリンがまともな装備してやがんだ。…と心のなかで付け足す。
今までは地の利があって、相手もゴブリンということも重なって新兵でも対応できていたが、文字通り3時間ぶっ通しで戦えばしんどいに決まっている。寧ろ新兵達は頑張っている方だ。
苦戦の要因は他にもある。
魔法使いの圧倒的不足である。
こちらも戦争に徴集されたことによる不足である。ゴブリンメイジが作るファイヤーウォールやサンドウォールなどを崩せないでいた。これがキツイったらありゃしない。なぜなら攻城兵器なんて作れないゴブリンは魔法で作られた壁をつたって壁を越えようとするからである。
サンドウォールさえ…
あれさえ…
何度も隊長代理の頭によぎる。
「隊長代理さんや…潮時じゃ。」
自身も弓、ハルバードを振るって戦っていると壁の下から声をかけられた。
声の主は数少ない熟練魔法使いの高齢女性だった。
彼女は余りにも年寄りであり、女性だということも相まって徴集を免れたのだった。
老いたりとは言え、壁の下から敵を見ずに、無詠唱で風魔法『風の刃』を命中させる大活躍を見せていた。
「ここで駐屯兵と魔法使いが全滅したら元も子もなかろう。街まで撤退じゃ。」
周囲を見渡すと遂に1頭のゴブリンが槍で駐屯兵を突き、壁を乗り越えた。しかも、まだまだ迷宮からゴブリンの波は止まらない。
「クソッ…」
隊長代理はそいつに地面に転がってた槍を投げて見事に命中させる。そして近くの1番若そうな兵士に本営の旗を取って街へ向かうように指示を出す。
「撤退!撤退だ!」
「「「てったーい!!!」」」
「「「街へいそげええ!」」」
「「「街をまもれぇぇぇ!!!」」」
「「「てった…」」」
数少ない熟練兵が最後の力を振り絞って撤退を叫びながら殿を務める。
新兵が這々の体で槍や剣を杖にしながら壁を駆け降りる。
「隊長代理さんや…」
「なんでございますか?馬車の準備は出来ております。必ずや街までお届けいたします。」
ささ、お早く…と出発を促す隊長代理を老婆は押し留めた。
「詠唱する。時を稼げい。」
「…?…は!承知!」
最初は何のことかサッパリだった隊長代理だったが、すぐに理解してハルバードを握り直す。
(この方は普段無詠唱のはず…であるのに詠唱をするということは…)
「ここに居られます、太古の精霊よ…我らが身に宿りその力をお貸しください…嵐よ!吹け!敵を薙げ!…」
詠唱が中盤に差し掛かると風が止む。
「ウラアア!」
ブシュ!
気合の声を上げ隊長代理がファイヤーボールをハルバードで叩き伏せる。
壁に辿り着いたゴブリンが矢を射かけ、投石をし、ゴブリンメイジが魔法を放つが尽く彼が阻む。
「……せ!『精・風輪』」
詠唱が終わり老婆はへたり込む。この魔法はただの風魔法ではない。精霊の力を借りて使う精霊魔法だ。精霊という不確定要素をふくむため、下振れ れば並の風魔法と変わらないこともありが、上振れれば通常の風魔法など比較にならない。
「伏せろ!」
隊長代理の指示に熟練兵や老婆は知る者達は伏せる。
「ギ?」
「クァ?」
「ク?」
人語が分からないゴブリンは突然の奇行に困惑し…伏せる兵士に攻撃を加えようとした…瞬間…。
強い…風が吹いた。
その風は壁の下から壁を登り壁の上を通って迷宮まで吹いて何事もなかったように霧散した。
「ギヤ~グン?」
「ゥン?」
「カー?」
再びゴブリン達は困惑した。
『なぜ地面がこんなにも近いのか』
…そこで意識は途絶える。
「お…おお…あ…」
櫓に居た兵士の顔は一瞬、歓喜に包まれるものの、直ぐ様顔色を悪くする。
老婆の放った魔法で出て来たゴブリンは1頭残らず一掃されたが、迷宮からまだまだゴブリンは出てきていた。
「何をしている?!降りて来い!」
馬車の御者席に座った隊長代理が怒鳴る。老婆を乗せたのだろう。
櫓の兵士も慌てて降りて街に向かう。
この戦いで魔物の封じ込めにこそ失敗したものの、老婆や熟練兵の奮闘によって撤退戦では一人も死者を出さないという快挙を成し遂げた。
しかし、城壁から外を見る隊長代理の顔は険しかった。街に撤退するということは、街以外を守らないということだからだ。街の外にある村や畑が大量のゴブリンに蹂躙されるのを指を咥えて見ていることしかできないのだ。あの迷宮を囲んでいた防衛線はそれらを守るためにあったのだ。
どうやらゴブリンは…否。ゴブリンの将はこの街を包囲することにしたらしく、魔法などを使って、いたるところに拠点を築いていた。
当然、それを見過ごすわけがなく、夜襲を何度か仕掛けたが夜戦は魔物が得意とすることであり、そもそも前述の通り魔法使いの数に圧倒的な差があったので戦果を上げることはできなかった。
1度だけ老婆の魔法が炸裂して包囲陣の1部の破壊に成功したが、次からは老婆への攻撃が集中して行われることになった。更に、おそらく変異種と思われる黒いゴブリン率いるゴブリンの猛攻により老婆を守って死ぬ者の増加や老婆自身が負傷した事により攻撃意欲を削がれ、遂に包囲陣が完成されてしまった。
領主であるストラス辺境伯の屋敷がある都市『ストラス』への援軍要請の使者は包囲陣の完成前に送り出すことが出来たが、いつ援軍が来るのか不明である。
「ッチ…忌々しい。」
今日も街から遠方に向かう土煙が見える。
誰のか?
決まっている。『村を襲いに行くゴブリンのだ』。
隊長代理はまさかこれがゴブリンによる史上最大の大略奪になるとは思わなかった。
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