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楽しい軟膏作り
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「お嬢様。こんな沢山の薬草を集めて一体何されるんですか?」
昼前に訪ねてきたルドが怪訝そうな顔をしている。実験用も兼ねて多めに注文したため、小屋の中は乾燥した薬草ででわっさわさだ。
「保湿クリームを作るのよ。余ったらハンナとルドにも分けてあげるわ。ふふ、楽しみにしていて」
私はテンションが上がっていた。ずっと作りたかったのに、貴族が労働者階級のような真似をするんじゃないと言われてハーブ軟膏作りが出来なかったのだ。刺繍が良くて軟膏作りがダメって、どういう基準? 本当に貴族令嬢は縛りが多くて面倒くさい。
まずは届いた薬草を種類ごとに選り分け、調合していく。カレンデュラを中心に、抗炎症作用に優れた薬草を混ぜ合わせる。カモミールは香りがいいから多めにしましょう。防腐剤がわりに、抗菌効果のあるローズマリーも加える。うん、香りもいい感じ。
調合した薬草を軽く潰して砕いたものを、熱湯消毒した広口の瓶に入れる。そこにホホバ油を注ぎ込んで仕込みは完了。ホホバ油は普段スキンケアに使っているものだ。スキンケア用品は、傷まないように厨房の冷暗棚に預けておいたので妹には盗まれていない。
そういえばあの子、お肌の手入れはどうしているのかしら。私の化粧品は、「そのみっともない皮膚かぶれを隠せ」と父に言われて相当カバー力も肌負担も強いものを使っていたから、普通のスキンケアでは肌荒れが酷くなるはずだけれど。
この国のスキンケア用品は、有効成分を多く抽出するためにアルコールが含まれているので、人によっては酷くしみる上に乾燥が悪化するのだ。
本当はこのハーブも蒸留酒を使った方が成分が多く抽出できるのだけど、私の肌はアルコールがしみるので、今回は油浸抽出にした。
「んふふふ~、出来上がりが楽しみ~」
毎朝瓶を振って中身を混ぜる。ここから半月ほど寝かせたら、蜜蝋でクリームにするのだ。
抽出が終わるまでの間は他に予定もないので、筆頭執事のローレンスが持ってきた書類仕事をガシガシこなす。
義妹は夜会やお茶会みたいな面倒な仕事を奪ってくれた天使ちゃんだけれど、書類仕事までは奪ってくれなかった。まああの子の頭では無理だものね。
カトリーヌお義母様も義妹のアリシアも金遣いが荒く、この家に来てから豪遊しているみたいだけれど、帳簿はローレンスが握っているため家が傾く心配はない。これ以上の浪費をしたければローレンスを通じてお父様にねだるしかないもの。あの人たちにそんな度胸はないし。
予算関係の書類はこれで良し。ああでも、あの母娘のことだから勝手に屋敷の美術品や骨董を売り払ってお金を作ろうとするリスクはあるわね。メイド長に指示を出して、貴重な美術品は然るべきところへ預けておきましょう。
小屋の中での書類仕事は、以前よりもはるかに捗っている。重たいドレスを着て執務室でメイドが側に控えているような状態だと、集中できなかったのよね。
今の私は自分で縫ったスウェットもどきを着て、木箱を座卓がわりにして床にあぐらで座っている。ハンナが差し入れてくれたクッキーを齧りながら作業するなんてお行儀の悪いこともできてしまう。楽すぎて涙が出そう。在宅ワークはこうでなくっちゃ。
出来上がった書類をローレンスに渡すと、彼はなぜか涙ぐんでいた。
「お嬢様……。このように理不尽な仕打ちを受けながら、これほど早く仕事を仕上げて頂けるだなんて。なんとご立派な……」
な、なんだか感嘆の目で見られている。小屋の中で自堕落な姿勢で作業をしていた罪悪感から、ローレンスの言葉に慌てて首を振る。
「私は当然のことをしているだけよ。そんな褒められるような事じゃないわ」
「なんと謙虚な……」
なんだかさらに感動されてしまった。違うのに……。
昼前に訪ねてきたルドが怪訝そうな顔をしている。実験用も兼ねて多めに注文したため、小屋の中は乾燥した薬草ででわっさわさだ。
「保湿クリームを作るのよ。余ったらハンナとルドにも分けてあげるわ。ふふ、楽しみにしていて」
私はテンションが上がっていた。ずっと作りたかったのに、貴族が労働者階級のような真似をするんじゃないと言われてハーブ軟膏作りが出来なかったのだ。刺繍が良くて軟膏作りがダメって、どういう基準? 本当に貴族令嬢は縛りが多くて面倒くさい。
まずは届いた薬草を種類ごとに選り分け、調合していく。カレンデュラを中心に、抗炎症作用に優れた薬草を混ぜ合わせる。カモミールは香りがいいから多めにしましょう。防腐剤がわりに、抗菌効果のあるローズマリーも加える。うん、香りもいい感じ。
調合した薬草を軽く潰して砕いたものを、熱湯消毒した広口の瓶に入れる。そこにホホバ油を注ぎ込んで仕込みは完了。ホホバ油は普段スキンケアに使っているものだ。スキンケア用品は、傷まないように厨房の冷暗棚に預けておいたので妹には盗まれていない。
そういえばあの子、お肌の手入れはどうしているのかしら。私の化粧品は、「そのみっともない皮膚かぶれを隠せ」と父に言われて相当カバー力も肌負担も強いものを使っていたから、普通のスキンケアでは肌荒れが酷くなるはずだけれど。
この国のスキンケア用品は、有効成分を多く抽出するためにアルコールが含まれているので、人によっては酷くしみる上に乾燥が悪化するのだ。
本当はこのハーブも蒸留酒を使った方が成分が多く抽出できるのだけど、私の肌はアルコールがしみるので、今回は油浸抽出にした。
「んふふふ~、出来上がりが楽しみ~」
毎朝瓶を振って中身を混ぜる。ここから半月ほど寝かせたら、蜜蝋でクリームにするのだ。
抽出が終わるまでの間は他に予定もないので、筆頭執事のローレンスが持ってきた書類仕事をガシガシこなす。
義妹は夜会やお茶会みたいな面倒な仕事を奪ってくれた天使ちゃんだけれど、書類仕事までは奪ってくれなかった。まああの子の頭では無理だものね。
カトリーヌお義母様も義妹のアリシアも金遣いが荒く、この家に来てから豪遊しているみたいだけれど、帳簿はローレンスが握っているため家が傾く心配はない。これ以上の浪費をしたければローレンスを通じてお父様にねだるしかないもの。あの人たちにそんな度胸はないし。
予算関係の書類はこれで良し。ああでも、あの母娘のことだから勝手に屋敷の美術品や骨董を売り払ってお金を作ろうとするリスクはあるわね。メイド長に指示を出して、貴重な美術品は然るべきところへ預けておきましょう。
小屋の中での書類仕事は、以前よりもはるかに捗っている。重たいドレスを着て執務室でメイドが側に控えているような状態だと、集中できなかったのよね。
今の私は自分で縫ったスウェットもどきを着て、木箱を座卓がわりにして床にあぐらで座っている。ハンナが差し入れてくれたクッキーを齧りながら作業するなんてお行儀の悪いこともできてしまう。楽すぎて涙が出そう。在宅ワークはこうでなくっちゃ。
出来上がった書類をローレンスに渡すと、彼はなぜか涙ぐんでいた。
「お嬢様……。このように理不尽な仕打ちを受けながら、これほど早く仕事を仕上げて頂けるだなんて。なんとご立派な……」
な、なんだか感嘆の目で見られている。小屋の中で自堕落な姿勢で作業をしていた罪悪感から、ローレンスの言葉に慌てて首を振る。
「私は当然のことをしているだけよ。そんな褒められるような事じゃないわ」
「なんと謙虚な……」
なんだかさらに感動されてしまった。違うのに……。
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