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第一章 クリスタル領で再会
2、魔獣との遭遇2
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魔獣事件の一ヶ月前、クリスタル伯爵家。
ジュエリトス王国の辺境にあるこの家では、長女オリビアの婚約話が進んでいた。
「オリビア、実はアレキサンドライト公爵家から、次男のリアム様と婚約の打診があったんだがどうだろう?」
クリスタル家当主で自分の父でもあるジョセフがそう切り出したので、オリビアは一瞬ちらりと彼に上目遣いで視線を送って返事をする。
「リアム様。お兄様のご友人でもありますわね」
オリビアは視線を父から外し、興味がないということを全力でアピールしながら紅茶を飲んだ。しかしジョセフはその様子に気づかない様子で話し始めた。彼はいつも言葉の奥にある本当の意味に気づかない。
「そうなんだ。アレキサンドライト公爵家は王族とも繋がりのある筆頭公爵家だ。本来なら田舎の伯爵家である我が家との婚姻はあり得ないんだが……。公爵様が友人のエリオットの妹でもあるオリビアをぜひにと仰ったんだ」
どこか誇らしげに経緯を説明した父に、オリビアは小さく息を吐いた。鈍感すぎるのもいささか面倒だ。
「なるほど。我が家よりずっと格上のアレキサンドライト公爵家からの申し出だから、お引き受けするしかないということですね」
「せ、先方からは、断っても構わないが前向きに検討してほしいと言われている」
ジョセフが娘の意地悪な問いに眉を下げ、困ったような顔で返事をする。そんな父の顔を見て、オリビアはさらに意地悪な返事をした。
「では、お言葉に甘えてお断りしてもよろしいのでしょうか?」
ジョセフがさらに狼狽し、すがるような視線を向けてきた。しかしオリビアは返事を覆さない。
すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。オリビアとジョセフは部屋の入り口に注目する。
「オリビア、あまりお父様をいじめるな」
「お兄様!」
ドアを開け部屋に入ってきたのは、帰宅した兄エリオットだった。彼はすかさず父に助け舟を出した。
オリビアは「人聞きが悪いですわ」と口の先を尖らせ、拗ねたふりをした。
「リアム様は良い方だ。公爵家へ嫁ぐのは大変かもしれないが、彼は次男だから家は継がなくていい。それに領地や、うまくいけば王都で商売もできるかもしれないぞ」
「そうだぞオリビア! リアム様の姉のシャーロット様は、王太子殿下と婚約している。こんな優良な縁談、今後二度とないぞ!」
オリビアの性格を熟知しているエリオットがさらに援護射撃する。ジョセフもそれに乗っかるようなかたちで良縁を主張するが、逆効果に近い。
オリビアはこれ以上引き伸ばしても仕方ないので覚悟を決めた。紅茶を一口飲みにっこりと微笑む。
「それは魅力的なお話ですわ。確かにリアム様は幼い頃何度かお話ししたことがありますが良い方でしたし。謹んでお受けしますとお返事してください、お父様」
「オ、オリビア~。良かった~。本当に断ったらどうしようかと思った~」
ジョセフは目に涙を浮かべ、心底ホッとしたという様子だ。思わず情けない声が出てしまっている。オリビアは笑いを堪え、若干肩が揺れた。
「お兄様、リアム様は騎士団に入隊しているんですよね?」
「そうだ。確か現在は遠方で訓練中と聞いているが……。お父様は何か聞いていますか?」
「実はその訓練が隣のペリドット領で行われていてな。もしオリビアから婚約の承諾がもらえたら、演習の終わりに会いに来たいと言われている」
オリビアは顔色を窺うように覗き込んできたジョセフに気づかないふりをしつつ微笑んだ。
「お待ちしておりますとお伝えください」
「早速返事の手紙を出そう!」
ジョセフが弾むような足取りで部屋を出ていった。オリビアは見送りながらクッキーに手を伸ばす。
「お前の商才を考えるともったいない気もするが……。おめでとう、オリビア」
「ありがとうございます。お兄様」
兄からの祝福の言葉に、オリビアは静かに微笑んだ。
>>続く
ジュエリトス王国の辺境にあるこの家では、長女オリビアの婚約話が進んでいた。
「オリビア、実はアレキサンドライト公爵家から、次男のリアム様と婚約の打診があったんだがどうだろう?」
クリスタル家当主で自分の父でもあるジョセフがそう切り出したので、オリビアは一瞬ちらりと彼に上目遣いで視線を送って返事をする。
「リアム様。お兄様のご友人でもありますわね」
オリビアは視線を父から外し、興味がないということを全力でアピールしながら紅茶を飲んだ。しかしジョセフはその様子に気づかない様子で話し始めた。彼はいつも言葉の奥にある本当の意味に気づかない。
「そうなんだ。アレキサンドライト公爵家は王族とも繋がりのある筆頭公爵家だ。本来なら田舎の伯爵家である我が家との婚姻はあり得ないんだが……。公爵様が友人のエリオットの妹でもあるオリビアをぜひにと仰ったんだ」
どこか誇らしげに経緯を説明した父に、オリビアは小さく息を吐いた。鈍感すぎるのもいささか面倒だ。
「なるほど。我が家よりずっと格上のアレキサンドライト公爵家からの申し出だから、お引き受けするしかないということですね」
「せ、先方からは、断っても構わないが前向きに検討してほしいと言われている」
ジョセフが娘の意地悪な問いに眉を下げ、困ったような顔で返事をする。そんな父の顔を見て、オリビアはさらに意地悪な返事をした。
「では、お言葉に甘えてお断りしてもよろしいのでしょうか?」
ジョセフがさらに狼狽し、すがるような視線を向けてきた。しかしオリビアは返事を覆さない。
すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。オリビアとジョセフは部屋の入り口に注目する。
「オリビア、あまりお父様をいじめるな」
「お兄様!」
ドアを開け部屋に入ってきたのは、帰宅した兄エリオットだった。彼はすかさず父に助け舟を出した。
オリビアは「人聞きが悪いですわ」と口の先を尖らせ、拗ねたふりをした。
「リアム様は良い方だ。公爵家へ嫁ぐのは大変かもしれないが、彼は次男だから家は継がなくていい。それに領地や、うまくいけば王都で商売もできるかもしれないぞ」
「そうだぞオリビア! リアム様の姉のシャーロット様は、王太子殿下と婚約している。こんな優良な縁談、今後二度とないぞ!」
オリビアの性格を熟知しているエリオットがさらに援護射撃する。ジョセフもそれに乗っかるようなかたちで良縁を主張するが、逆効果に近い。
オリビアはこれ以上引き伸ばしても仕方ないので覚悟を決めた。紅茶を一口飲みにっこりと微笑む。
「それは魅力的なお話ですわ。確かにリアム様は幼い頃何度かお話ししたことがありますが良い方でしたし。謹んでお受けしますとお返事してください、お父様」
「オ、オリビア~。良かった~。本当に断ったらどうしようかと思った~」
ジョセフは目に涙を浮かべ、心底ホッとしたという様子だ。思わず情けない声が出てしまっている。オリビアは笑いを堪え、若干肩が揺れた。
「お兄様、リアム様は騎士団に入隊しているんですよね?」
「そうだ。確か現在は遠方で訓練中と聞いているが……。お父様は何か聞いていますか?」
「実はその訓練が隣のペリドット領で行われていてな。もしオリビアから婚約の承諾がもらえたら、演習の終わりに会いに来たいと言われている」
オリビアは顔色を窺うように覗き込んできたジョセフに気づかないふりをしつつ微笑んだ。
「お待ちしておりますとお伝えください」
「早速返事の手紙を出そう!」
ジョセフが弾むような足取りで部屋を出ていった。オリビアは見送りながらクッキーに手を伸ばす。
「お前の商才を考えるともったいない気もするが……。おめでとう、オリビア」
「ありがとうございます。お兄様」
兄からの祝福の言葉に、オリビアは静かに微笑んだ。
>>続く
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