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第一章 クリスタル領で再会

15、チーム・オリビアの栄光3

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 トーマス医師が「そんなことが可能なのですか?」 と目を見開く。オリビアは彼に向かって笑みを浮かべたまま頷いた。

「もちろん! ジョージがやるわ」

「やっぱ俺か……。責任重大じゃないですか」

 ジョージは少し面倒そうに、眉間に皺を寄せ、口を尖らせた。

「仕方ないじゃない。絶妙な力加減が必要なの! あなたの出番よ」

「はいはい、わかりました」

 周りを見渡し、適任がいなさそうだと観念したのか、ジョージは肩をすくめた。
 オリビアは他の護衛たちにも役割の説明をする。

「護衛のみんなは、実際の施術の時にセオが動かないよう押さえるのをお願い」

「「はい! 承知いたしました!」」

 筋肉隆々の護衛たちが、元気に返事をした。

「それからディラン。あなたはこれを煎じてお茶にして持ってきてくれる? 少しぬるめがいいわ」

「承知いたしました」

 エリオットの護衛兼補佐のディランは、オリビアから白い手のひらサイズの包みを受け取り、部屋を後にした。

「お兄様は最後に魔法を使ってもらうので、このまましばらくお待ちください」

「あぁ。わかった」

「あとはリタを待ちましょうか」

 そう言って室内のソファに座るオリビア。向かいにエリオットも座り、息を吐く。

「本当に成功するのか?」

「ええ。成功させるつもりです」

 オリビアはそう言って自信たっぷりの笑みを浮かべた。

 十分ほど待っていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「失礼いたします」

 リタが入室する。添え木用の板と大量の包帯が入ったカゴを持っているが、その歩みはスタスタと全くブレることがなかった。

「リタ、ありがとう」

「大変お待たせいたしました」

 リタは主人に一礼し、添え木や包帯の入ったカゴをベッド脇に置いて、セオにも挨拶をした。ちょうどその時、ディランがティーセットを持って戻ってくる。

「これで準備ができたわ。さあ、始めましょう!」

「はい!」

 ソファから立ち上がったオリビアがみんなに声を掛け、エリオット以外は背筋を伸ばしお互いに顔を見合わせる。

「セオ。治療の内容は聞こえていたかしら?」

「はい。ずれている骨を元の位置に戻すと……」

「その通りよ。骨を戻す時、おそらく激痛が走るから、動かないよう護衛たちに押さえさせるわね。あとは痛みを感じにくくするお茶を用意したの。まずはこれを飲んでちょうだい」

「ありがとうございます」

 オリビアはディランが持ってきたお茶をカップに注ぎ、セオに渡した。独特の香りのお茶に、セオは目をつむり一気に飲み干した。

 そして数分後。

 セオの様子が明らかに変わる。体の力が抜け、口元は緩み、気持ちよさそうに目を細めている。
 その様子を見たトーマス医師は、顔をこわばらせ、小さく自身の手を握りしめていた。

「お、お嬢様。これはもしや……」

「トーマス医師はアンバー領の頃から代々医師の家系だったわね」

「やはり、ケシュニアなのですね。なんてことを!」

 オリビアの返事に、トーマス医師が声を荒げる。そして、周りからの視線を感じ、すぐに肩を小さく丸めた。

「本来の使い方よ。常用しなければ問題ないわ。安心して。さ、護衛のみんなは布団を捲ってからセオを押さえて」

「は、はい!」

 表情を変えることなくトーマス医師に返事し、護衛たちに指示を出すオリビア。一瞬凍りついた空気に戸惑った護衛たちも、気を取り直して指示通りセオの体を押さえた。

「次はいよいよジョージの出番よ!」

「……はい」

 ジョージはオリビアの隣に立ち、セオの足に手を当て、腫れている部分に少し圧力をかけた。セオは痛みを感じていないようで、表情は変わらず緩んだままだ。

「骨がずれているのは感じる?」

「はい。おそらく絵の通りかと」

「確かに責任重大だけど、ジョージならできるって信じてるわ」

 そう言ってジョージにしっかりと目を合わせ頷くオリビア。彼は大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐いた。

>>続く
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