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第三章 アレキサンドライト領にて

88、マルズワルト王国2

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「アイツですか……」

 オリビアの笑顔とは裏腹に、リタが顔をしかめた。その顔を尻目に苦笑しながらオリビアは耳飾りに触れる。
 そこへほんの少し魔力を流すと、耳飾りについたクリスタルが淡く光った。
 すると、数秒後に耳飾りからは頼りになるはずの護衛、ジョージの声が聞こえる。

『お疲れっす~』

「ジョージ、お疲れ様。休みなのに悪いわね。デートかしら?」

『はい。そろそろ出ようかってところですね。そっちはどうですか?』

「こっちは問題なしよ。顔合わせも済んだし、今後正式にリアム様と婚約となるわ」

『そうっすか。筆頭公爵家なんて玉の輿じゃないですか。給料アップ楽しみにしてますね』

「もう! その話はいいわ。大事な話があるのよ。周囲を確認してちょうだい」

 耳飾りの奥から聞こえるジョージの声が少し高めに語尾を伸ばしていた。からかわれていると判断したオリビアは、眉を寄せて唇を結び、鼻から息を吐いた。そのタイミングで、ジョージの笑い声が聞こえる。

『ははっ。伯爵令嬢がそんな鼻息荒げちゃダメっすよ~。周りの確認完了です、どうぞ?』

「ジョージ。あなた週明け覚えておきなさいよ。……本題に入るわ。セオからの報告で、騎士団襲撃事件にマルズワルトが関わっている可能性が出てきた。襲撃者が着ていたローブはマルズワルト製、それもハイランドシープの毛を使った高級品よ。デートなら高級生地を扱う店へ行って、黒いコートに使える厚手の生地を探して欲しいの」

『なるほど……。わかりました』

 オリビアは耳飾りから聞こえるジョージの声が落ち着いたのを確認し、王都にいる彼を思い浮かべ、一度瞬きをしてしっかりと目を見開いた。

「一見《いちげん》では相手にしてもらえないかもしれない。そのときはドレスや小物を買うといいわ。無理はせず、慎重にね」

『了解です』

「それじゃあ、また休み明けにね」

『はい。帰るときは気をつけて。王都で待ってますよ』

「ありがとう」

 オリビアは自分では見えない耳飾りに視線を送り微笑んだ。淡い光が消え、それは元のアクセサリーに戻る。

「ああ、これがオリビア様の……!」

「セオ……」

 オリビアはうっとりと瞳を輝かせて話し始めたセオの前で、人差し指を唇の前に立ててみせた。彼は慌てて口を閉じ、息を吐いてから頭を下げた。

「も、申し訳ありません。軽率でした」

「一応、クリスタル領ではないから気をつけてね。異国の言葉では「壁に耳あり、ジョージにメアリー」というのよ」

>>続く
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