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第三章 アレキサンドライト領にて
90、デートがはじまる1
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オリビアとの連絡を終えたジョージは王都の繁華街にあるバーに来ていた。今夜のデート相手が指定してきた店で、ジョージにとっては初めての店だった。
「いらっしゃいませ! お客さん、ひとりかい?」
「いや、待ち合わせ」
長い金髪を後ろに束ねた、ジュエリトス向きなルックスの男性店員が声をかけてくる。店内は程よく賑わっており、ジョージは待ち合わせの相手がいないかぐるりと辺りを見渡した。
すると、奥のテーブル席から自分を呼び、手を上げる女性が目に入った。
「ジョージ! こっちよ!」
「ああ、いたいた……。あ、その麦酒もらうわ」
「まいど! ごゆっくり!」
店員から紙幣一枚と引き換えに麦酒の瓶を受け取り、ジョージは女性の待つテーブルへ向かう。
「遅かったね。先に始めてたわよ」
「お待たせ、オリーブ姐さん」
ジョージは着席と共に女性、オリーブの持つグラスに麦酒の瓶を軽く当ててから、一気に半分ほどを飲んで息を吐いた。
「会うのは一ヶ月ぶりくらい? なんか荒んでるねえ」
「いや……ちょっとややこしい仕事が入ってね」
「そ! あたしに見栄はってもしょうがないと思うけど」
「姐さんみたいなイイ女の前ではカッコつけたくなっちゃうもんだよ」
オリーブが艶のある長い黒髪をかきあげ、緑色の瞳を細めた。
その仕草に目を奪われた周囲の客が視線を集中させている。
八歳年上の彼女は、ジョージがオーナーを務めるクリスタル領にある娼館の女将だった。ジョージが酒を飲める年齢になってからは飲み仲間でもある。
「ふうん。ガキの口説き文句には乗らないよ」
「手厳しいなあ。ガキだと思ってるんならもう少しかわいがってよ」
ジョージは麦酒を今度は一口だけ飲んで、上目遣いでオリーブを見つめた。彼女はジョージにふっと小さく息を吹きかけ、口角を上げた。
「アンタ、かわいげがないのよね。で、わざわざ王都まで私を呼んだわけを話してくれる?」
「へいへい……。実は、今のうちに冬物のコートを仕立ててくれる店を探してて」
オリーブが一度眉を吊り上げて戻した。さらに小さく頷くのを見て、ジョージは彼女に用件が通じたことを感じ取った。
「へえ……。まだ春なのに今からってことは、きっと高級で希少な生地を使いたいんだろねえ」
「さすがは姐さん、その通り。生地は厚手で軽い高級生地がいいんだ。色は……黒で」
「なるほど。高級生地って言ってもいろいろあるからねえ。例えばエアウールにファイアカシミア、それから……」
「ハイランドシープ?」
ジョージは上目遣いで今度は首を軽く傾げてみた。可愛げを表現したつもりだ。
しかし、オリーブがそこに触れることはなかった。彼女はわずかに鼻で笑うと、ジョージの仕草ではなく言葉に食いついたようで、目を見開き顔を近づけてきた。
「それは超高級品だよ、ジョージ。あたしが高級娼婦として貴族様の相手をしていたときでもほとんど見たことがなかったね」
>>続く
「いらっしゃいませ! お客さん、ひとりかい?」
「いや、待ち合わせ」
長い金髪を後ろに束ねた、ジュエリトス向きなルックスの男性店員が声をかけてくる。店内は程よく賑わっており、ジョージは待ち合わせの相手がいないかぐるりと辺りを見渡した。
すると、奥のテーブル席から自分を呼び、手を上げる女性が目に入った。
「ジョージ! こっちよ!」
「ああ、いたいた……。あ、その麦酒もらうわ」
「まいど! ごゆっくり!」
店員から紙幣一枚と引き換えに麦酒の瓶を受け取り、ジョージは女性の待つテーブルへ向かう。
「遅かったね。先に始めてたわよ」
「お待たせ、オリーブ姐さん」
ジョージは着席と共に女性、オリーブの持つグラスに麦酒の瓶を軽く当ててから、一気に半分ほどを飲んで息を吐いた。
「会うのは一ヶ月ぶりくらい? なんか荒んでるねえ」
「いや……ちょっとややこしい仕事が入ってね」
「そ! あたしに見栄はってもしょうがないと思うけど」
「姐さんみたいなイイ女の前ではカッコつけたくなっちゃうもんだよ」
オリーブが艶のある長い黒髪をかきあげ、緑色の瞳を細めた。
その仕草に目を奪われた周囲の客が視線を集中させている。
八歳年上の彼女は、ジョージがオーナーを務めるクリスタル領にある娼館の女将だった。ジョージが酒を飲める年齢になってからは飲み仲間でもある。
「ふうん。ガキの口説き文句には乗らないよ」
「手厳しいなあ。ガキだと思ってるんならもう少しかわいがってよ」
ジョージは麦酒を今度は一口だけ飲んで、上目遣いでオリーブを見つめた。彼女はジョージにふっと小さく息を吹きかけ、口角を上げた。
「アンタ、かわいげがないのよね。で、わざわざ王都まで私を呼んだわけを話してくれる?」
「へいへい……。実は、今のうちに冬物のコートを仕立ててくれる店を探してて」
オリーブが一度眉を吊り上げて戻した。さらに小さく頷くのを見て、ジョージは彼女に用件が通じたことを感じ取った。
「へえ……。まだ春なのに今からってことは、きっと高級で希少な生地を使いたいんだろねえ」
「さすがは姐さん、その通り。生地は厚手で軽い高級生地がいいんだ。色は……黒で」
「なるほど。高級生地って言ってもいろいろあるからねえ。例えばエアウールにファイアカシミア、それから……」
「ハイランドシープ?」
ジョージは上目遣いで今度は首を軽く傾げてみた。可愛げを表現したつもりだ。
しかし、オリーブがそこに触れることはなかった。彼女はわずかに鼻で笑うと、ジョージの仕草ではなく言葉に食いついたようで、目を見開き顔を近づけてきた。
「それは超高級品だよ、ジョージ。あたしが高級娼婦として貴族様の相手をしていたときでもほとんど見たことがなかったね」
>>続く
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