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第三章 アレキサンドライト領にて

95、思い出の庭で3

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「オリビア嬢、あなたの誠実……確かに受け取った。アレキサンドライト公爵家の人間として、王立騎士団小隊長として、未来の王太子妃の弟として、そしてもちろんリアム・アレキサンドライト個人として、あなたに困難が訪れ私の力が必要な時は、何をおいても馳せ参じ共に困難に立ち向かうことを誓いましょう」

「リアム様、ありがとうございます!」

  オリビアは静かに微笑むリアムに満面の笑みを向けた。あまりにも自分に都合のいい発言だったので、最悪婚約を白紙に戻されることも覚悟した。しかし、それでも彼に話すべき時は今だ、と勘のようなものが働いていた。安堵して胸に片手を置き、胸を撫で下ろす。

 すると、今度はリアムが目の前で跪く。それから、ゆっくりとオリビアを見上げた。

「オリビア・クリスタル伯爵家令嬢、この私リアム・アレキサンドライトをいつか生涯の伴侶にして欲しい。まずは婚約者として、恋人として、互いを知り、心を通わせ、真に愛し合えるふたりを目指したい……」

 リアムが懐から手の平に収まるほどの箱を取り出した。そして蓋を開けると、そこには入っていたのは大きな一粒石をあしらった指輪だった。

「受け取ってくれますか?」

 指輪の箱は一瞬、小刻みに揺れぴたりと止まった。自分を見ているリアムの唇が一文字に結ばれ、瞳が庭の照明を反射し揺れていた。
 彼もまた緊張しているのだ。
 すぐに返事をしたいが、オリビア自身も先ほどから胸が激しく高鳴り、苦しくて言葉が出ない。呼吸を繰り返し、何とか落ち着かせてからやっとのことで言葉を絞り出す。

「はい……喜んで」

 外気で少し冷え始めたオリビアの左手に温かい何かが触れた。
 それはリアムの左手だった。彼はそのままオリビアの手を引き寄せ、左手の薬指に差し出していた指輪を右手でゆっくりと滑らせた。

「よかった。サイズは合っているようだ」

 指輪はオリビアの指にピッタリとはまった。華奢な指に大きな深い赤い色の石が輝いている。

「素敵……。これはルビー……いいえ、アレキサンドライト?」

 オリビアは左手の薬指をうっとりと眺めながら呟いた。リアムがそれに頷いて柔らかに微笑んだ。

「気に入ってもらえて嬉しい。祖母から叔母に引き継がれものらしい。婚約指輪はダイヤモンドが一般的だが、叔母が作った庭で出会った私たちだから、これが一番ふさわしいのではと思ってね」

「ありがとうございます、リアム様。大切にしますわ」

 オリビアは礼をしてから精いっぱいの喜びを表現すべく満面の笑みでリアムを見上げた。絹糸のような銀髪と白く滑らかな肌、薄紫の瞳が照明を反射してきらきらと輝いている。

 そして、リアムと目が合った瞬間、オリビアの体はふわりと宙に浮いた。
 急なことに驚き、目を丸く見開く。リアムの顔が先ほどより随分と近くにあることにさらに驚いた。自分との距離はわずか顔ひとつ分というところだ。
 優しく目を細める彼を見て、今オリビアはリアムに抱きかかえられていることを自覚する。

「オリビア嬢、嬉しいよ!」

「リ、リアム様!」

「今日からあなたは、私のかわいい恋人で婚約者だ!」

 恥ずかしさに降りようと体を揺らすオリビア。しかし鍛え上げられたリアムのがっしりとした腕からは逃れられなかった。
 彼はにこにこと、今ままでとはまた違う緩み切った笑顔で心から嬉しいそうにしている。
 そしてオリビアを抱えたまま、くるくるとその場で一回転した。
 こんなに嬉しそうな、浮かれているリアムを見るのは初めてだ。思わずオリビアにも自然な笑顔が溢れる。

「私も嬉しいです、リアム様。これから……よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしく、オリビア嬢」

 優しく光る鳥たち、虹色に煌めく噴水の水飛沫、それらの祝福を受けて輝く恋人の笑顔と自分の指に光る誓いの指輪。
 出会いの庭に刻まれた新たな思い出を、オリビアはきっと一生忘れないだろうと強く思った。


>>続く

第三章終了です!
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