128 / 230
第五章 交差する陰謀
129、ジョージの週末1
しおりを挟む
オリビアとリアムのデートの翌日。
気持ちのいい晴れ模様から打って変わって、朝からしとしとと雨が降り続いていた。
オリビアは昨日のデートに酔いしれているので天気など全く気になっていない。
「おはようございます。オリビア様」
「おはよう、リタ。いい朝ね」
朝の支度に現れた侍女のリタも笑顔で「そうですね」と答えたことから、彼女もまた機嫌がいいのだと察した。
たしかにリタさんは昨日とても楽しそうだったな、とエルとの仲良しクッキングの風景を思い出しながらオリビアはふふっと笑う。そのまま昨日目の前に座って甘い時間を過ごしたリアムを思い出す。そして再び笑う、の繰り返しだった。
「オリビア様、いってらっしゃいませ」
「じゃあね、リタ。いってきます!」
リタに見送られ、オリビアは迎えにきた護衛とともに女子寮を出る。
「おはよう、ジョージ」
「はよっす。朝から雨でいや~な感じっすね」
ふたりがすっぽりとおさまる大きな傘を差し、ジョージがやや上方をみて顔をしかめた。
「そお? たまにはこんな日があってもいいじゃない」
「……わっかりやす」
「なあに?」
「いいえ、何も言ってませんよ」
「そう、早く行きましょう」
「へいへい」
オリビアは弾むような足取りで校舎に向かった。
授業が始まってからもオリビアは終始機嫌がよかった。得意の算術の授業や経営学の授業などをこなし、休み時間のたびに前日のデートを思い出してニヤつくのを繰り返した。
週末リアムが仕事で他領に行くとのことだったので、その間に次のデートに着ていく服でも見繕いに行こうかなどと考えて楽しい一日を過ごす。
「お嬢様、今日中に話しておきたいことがあります」
しかし、このジョージの発言と彼の真剣な眼差しで、これから状況が一変するのだと予感する。オリビアは緩み切った顔を引き締めて返事をした。
「わかったわ。今夜、部屋にきてちょうだい」
「了解っす」
そして夜、ジョージが闇に紛れていつも通り窓からオリビアの部屋にやってきた。
雨は一日中やむことはなく、リタがジョージにタオルを渡し、かわりに濡れたジャケットを受け取ると壁際にかけて乾かしていた。
さらに彼女は温かいハーブティーを淹れ、主人と同僚に振る舞った。
「ありがとう、リタ。あなたも座ってちょうだい」
「はい。失礼いたします」
リタが向かいのジョージが座るソファに腰掛けた。オリビアは日中から彼の表情が堅いことに気づいていた。きっと深刻な話なのだろう。早く楽になってもらおうと、話を促した。
「ジョージ、話というのは?」
「はい。実は昨日オリーブ姐さんと会ってたんです。そこで……」
話の内容は、衝撃的なものだった。ペリドットとマルズワルトの繋がり、新たに出てきたラピスラズリ侯爵の名前……。
「貴族の中で数十年かけて力を蓄えてきたラピスラズリ……。彼の目的がどの程度かわからなくて恐ろしいわ。今後も貴族として君臨し続けたいだけなのか、国内での要職を狙っているのか、自分自身が国を治めたいのか……」
「そ、そんな! 国を治めるというのは?」
「国家反逆っすか……」
「可能性はゼロではないわ」
オリビアの発言に、リタは息を飲みジョージは小さく頷いた。
「とりあえず、俺は明日オリーブ姐さんとラピスラズリ家が経営しているブティックにいってみます」
「わかったわ。私は早急にクリスタル領に戻ってセオに説明するわ。隣の領地だし、何かあったらすぐ連絡し合えるようにしておかないと。お兄様にも簡単に話しておくわ」
「俺は行かなくて大丈夫っすか?」
「ええ、馬車での移動だしリタがいるから大丈夫よ」
「わかりました。気をつけてくださいね」
オリビアはジョージ、リタと顔を見合わせて頷いた。そして、ジョージにこう付け加える。
「あなたも気をつけて。もし何かあったら、リアム様の名前を出すといいわ。この国の人間相手なら通用するはずよ」
「はい。わかりました」
ジャケットが乾いたのを確認し、ジョージがまた窓から男子寮へと戻っていった。その後、寝支度を済ませたリタが侍女控え棟へ戻っていき、オリビアはひとりベッドに入る。
しかし、今夜ばかりは昨日の幸せな時間を塗り替えるほどの情報量の多さと濃さにあてられて、なかなか眠りにつくことができなかった。
>>続く
気持ちのいい晴れ模様から打って変わって、朝からしとしとと雨が降り続いていた。
オリビアは昨日のデートに酔いしれているので天気など全く気になっていない。
「おはようございます。オリビア様」
「おはよう、リタ。いい朝ね」
朝の支度に現れた侍女のリタも笑顔で「そうですね」と答えたことから、彼女もまた機嫌がいいのだと察した。
たしかにリタさんは昨日とても楽しそうだったな、とエルとの仲良しクッキングの風景を思い出しながらオリビアはふふっと笑う。そのまま昨日目の前に座って甘い時間を過ごしたリアムを思い出す。そして再び笑う、の繰り返しだった。
「オリビア様、いってらっしゃいませ」
「じゃあね、リタ。いってきます!」
リタに見送られ、オリビアは迎えにきた護衛とともに女子寮を出る。
「おはよう、ジョージ」
「はよっす。朝から雨でいや~な感じっすね」
ふたりがすっぽりとおさまる大きな傘を差し、ジョージがやや上方をみて顔をしかめた。
「そお? たまにはこんな日があってもいいじゃない」
「……わっかりやす」
「なあに?」
「いいえ、何も言ってませんよ」
「そう、早く行きましょう」
「へいへい」
オリビアは弾むような足取りで校舎に向かった。
授業が始まってからもオリビアは終始機嫌がよかった。得意の算術の授業や経営学の授業などをこなし、休み時間のたびに前日のデートを思い出してニヤつくのを繰り返した。
週末リアムが仕事で他領に行くとのことだったので、その間に次のデートに着ていく服でも見繕いに行こうかなどと考えて楽しい一日を過ごす。
「お嬢様、今日中に話しておきたいことがあります」
しかし、このジョージの発言と彼の真剣な眼差しで、これから状況が一変するのだと予感する。オリビアは緩み切った顔を引き締めて返事をした。
「わかったわ。今夜、部屋にきてちょうだい」
「了解っす」
そして夜、ジョージが闇に紛れていつも通り窓からオリビアの部屋にやってきた。
雨は一日中やむことはなく、リタがジョージにタオルを渡し、かわりに濡れたジャケットを受け取ると壁際にかけて乾かしていた。
さらに彼女は温かいハーブティーを淹れ、主人と同僚に振る舞った。
「ありがとう、リタ。あなたも座ってちょうだい」
「はい。失礼いたします」
リタが向かいのジョージが座るソファに腰掛けた。オリビアは日中から彼の表情が堅いことに気づいていた。きっと深刻な話なのだろう。早く楽になってもらおうと、話を促した。
「ジョージ、話というのは?」
「はい。実は昨日オリーブ姐さんと会ってたんです。そこで……」
話の内容は、衝撃的なものだった。ペリドットとマルズワルトの繋がり、新たに出てきたラピスラズリ侯爵の名前……。
「貴族の中で数十年かけて力を蓄えてきたラピスラズリ……。彼の目的がどの程度かわからなくて恐ろしいわ。今後も貴族として君臨し続けたいだけなのか、国内での要職を狙っているのか、自分自身が国を治めたいのか……」
「そ、そんな! 国を治めるというのは?」
「国家反逆っすか……」
「可能性はゼロではないわ」
オリビアの発言に、リタは息を飲みジョージは小さく頷いた。
「とりあえず、俺は明日オリーブ姐さんとラピスラズリ家が経営しているブティックにいってみます」
「わかったわ。私は早急にクリスタル領に戻ってセオに説明するわ。隣の領地だし、何かあったらすぐ連絡し合えるようにしておかないと。お兄様にも簡単に話しておくわ」
「俺は行かなくて大丈夫っすか?」
「ええ、馬車での移動だしリタがいるから大丈夫よ」
「わかりました。気をつけてくださいね」
オリビアはジョージ、リタと顔を見合わせて頷いた。そして、ジョージにこう付け加える。
「あなたも気をつけて。もし何かあったら、リアム様の名前を出すといいわ。この国の人間相手なら通用するはずよ」
「はい。わかりました」
ジャケットが乾いたのを確認し、ジョージがまた窓から男子寮へと戻っていった。その後、寝支度を済ませたリタが侍女控え棟へ戻っていき、オリビアはひとりベッドに入る。
しかし、今夜ばかりは昨日の幸せな時間を塗り替えるほどの情報量の多さと濃さにあてられて、なかなか眠りにつくことができなかった。
>>続く
0
あなたにおすすめの小説
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
君を探す物語~転生したお姫様は王子様に気づかない
あきた
恋愛
昔からずっと探していた王子と姫のロマンス物語。
タイトルが思い出せずにどの本だったのかを毎日探し続ける朔(さく)。
図書委員を押し付けられた朔(さく)は同じく図書委員で学校一のモテ男、橘(たちばな)と過ごすことになる。
実は朔の探していた『お話』は、朔の前世で、現世に転生していたのだった。
同じく転生したのに、朔に全く気付いて貰えない、元王子の橘は困惑する。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる