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第五章 交差する陰謀
131、ジョージの週末3
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「オリーブ、ドレスでも見ていて」
「はあい」
ジョージはオリーブに店内の品物を確認させ、自分も店内を見渡した。頭から爪先まで、一通り揃うようだ。品揃えは悪くない。
「本日はお連れ様のドレスをお探しでしょうか?」
「ん? ああ、それと、少し早いんだが主人の使いで冬のコートを仕立てたくてね。ここは生地見本をもらえたりする?」
「はい、もちろんでございます。当店では貴重な生地も手に入りますし、腕の良い職人もおりますから、高品質で着心地の良いものをご提供できます」
一見品の良さそうな男性店員はドレスとコートの売り上げを瞬時に計算したのか、両手をにぎにぎと揉んで目尻を下げた。ついでに小物やアクセサリーの営業まで始まった。
ジョージは話を戻そうと数回相槌を打った後、今度は自分から話を始めた。
「ありがとう。検討してみるよ。主人に確認がしたいから、コート用の生地見本をもらえる?」
「かしこまりました。ちなみにどのような生地をお探しでしょうか?」
「そうだなあ、なるべく貴重なものがいいんだ。ハイランドシープとかね」
「ハイランドシープ、どこでそれを? そういった超高級なものは身分のしっかりしたお得意様にしか販売しないのですが……。冷やかしでしたらお引き取りいただいてよろしいでしょうか」
店員が緩んだ顔を引き締めた。ここで追い出されてはいけないと、ジョージは主人オリビアの恋人の名と、彼が主人に宛てた手紙を出した。
「実は、私の主人が恋人に丈夫で品質の良いコートを贈りたいと。恋人はアレキサンドライト家の次男リアム様です。これはアレキサンドライト公が主人に宛てた手紙です」
「ア、アレキサンドライト公爵家……ですか? たしかに、この紋章は……」
「そう。主人はアレキサンドライト公爵夫妻とも顔見知りでね。あと、そこの彼女のドレスは今日、私が現金で買うつもりだ」
アレキサンドライト家に食いついた店員へのダメ押しで、ジョージは胸の内ポケットから財布を出して開いて見せた。中には普段は持ち歩かないような大金が入っている。店員の目がキラリと光ったように見えた。
「お客様、大変失礼いたしました。すぐに生地見本をご用意いたします」
「ありがとう。黒や茶、紺色などの濃い色を用意してくれるかい?」
「かしこまりました」
店員は深々と頭を下げると、カウンターの奥の部屋に走り去っていった。
ジョージは静かに息を吐きオリーブに視線を移した。彼女はこちらを見て、笑顔で深緑色のドレスを持って向かってくる。
領収書はもらえるだろうかと、オリーブの手にバッグや靴も引っ掛かっているのを見て頬の筋肉が引きつった。
「ありがとうございました。コートのご注文もお待ちしております」
「ああ、また来るよ」
ジョージはドレス他の会計を済ませ、満面の笑みを浮かべる店員に見送られながら、同じく満面の笑みを浮かべるオリーブと店を出た。
そのまま、彼女が宿泊する宿屋まで戻る。
「悪いねえ、こんなにたくさん買ってもらっちゃって」
「いえ、姐さんがくれた情報に比べたら安いもんです」
ジョージは生地見本帳と書かれた小冊子を手に、オリーブに笑いかける。その代償に懐は随分と寂しくなったが、領収書が受理されると信じていた。
「さて、これからどうする?」
「俺はこのままクリスタルに帰ります。姐さんも乗って行きますか?」
「ああ、そうしようかねえ。早く帰ってドレスも着たいし」
ジョージはオリーブの荷物持ちをしながら馬車に乗り、クリスタル領を目指した。
>>次話へ続く
「はあい」
ジョージはオリーブに店内の品物を確認させ、自分も店内を見渡した。頭から爪先まで、一通り揃うようだ。品揃えは悪くない。
「本日はお連れ様のドレスをお探しでしょうか?」
「ん? ああ、それと、少し早いんだが主人の使いで冬のコートを仕立てたくてね。ここは生地見本をもらえたりする?」
「はい、もちろんでございます。当店では貴重な生地も手に入りますし、腕の良い職人もおりますから、高品質で着心地の良いものをご提供できます」
一見品の良さそうな男性店員はドレスとコートの売り上げを瞬時に計算したのか、両手をにぎにぎと揉んで目尻を下げた。ついでに小物やアクセサリーの営業まで始まった。
ジョージは話を戻そうと数回相槌を打った後、今度は自分から話を始めた。
「ありがとう。検討してみるよ。主人に確認がしたいから、コート用の生地見本をもらえる?」
「かしこまりました。ちなみにどのような生地をお探しでしょうか?」
「そうだなあ、なるべく貴重なものがいいんだ。ハイランドシープとかね」
「ハイランドシープ、どこでそれを? そういった超高級なものは身分のしっかりしたお得意様にしか販売しないのですが……。冷やかしでしたらお引き取りいただいてよろしいでしょうか」
店員が緩んだ顔を引き締めた。ここで追い出されてはいけないと、ジョージは主人オリビアの恋人の名と、彼が主人に宛てた手紙を出した。
「実は、私の主人が恋人に丈夫で品質の良いコートを贈りたいと。恋人はアレキサンドライト家の次男リアム様です。これはアレキサンドライト公が主人に宛てた手紙です」
「ア、アレキサンドライト公爵家……ですか? たしかに、この紋章は……」
「そう。主人はアレキサンドライト公爵夫妻とも顔見知りでね。あと、そこの彼女のドレスは今日、私が現金で買うつもりだ」
アレキサンドライト家に食いついた店員へのダメ押しで、ジョージは胸の内ポケットから財布を出して開いて見せた。中には普段は持ち歩かないような大金が入っている。店員の目がキラリと光ったように見えた。
「お客様、大変失礼いたしました。すぐに生地見本をご用意いたします」
「ありがとう。黒や茶、紺色などの濃い色を用意してくれるかい?」
「かしこまりました」
店員は深々と頭を下げると、カウンターの奥の部屋に走り去っていった。
ジョージは静かに息を吐きオリーブに視線を移した。彼女はこちらを見て、笑顔で深緑色のドレスを持って向かってくる。
領収書はもらえるだろうかと、オリーブの手にバッグや靴も引っ掛かっているのを見て頬の筋肉が引きつった。
「ありがとうございました。コートのご注文もお待ちしております」
「ああ、また来るよ」
ジョージはドレス他の会計を済ませ、満面の笑みを浮かべる店員に見送られながら、同じく満面の笑みを浮かべるオリーブと店を出た。
そのまま、彼女が宿泊する宿屋まで戻る。
「悪いねえ、こんなにたくさん買ってもらっちゃって」
「いえ、姐さんがくれた情報に比べたら安いもんです」
ジョージは生地見本帳と書かれた小冊子を手に、オリーブに笑いかける。その代償に懐は随分と寂しくなったが、領収書が受理されると信じていた。
「さて、これからどうする?」
「俺はこのままクリスタルに帰ります。姐さんも乗って行きますか?」
「ああ、そうしようかねえ。早く帰ってドレスも着たいし」
ジョージはオリーブの荷物持ちをしながら馬車に乗り、クリスタル領を目指した。
>>次話へ続く
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