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第五章 交差する陰謀
139、僕は剣術が得意じゃない3
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レオンは目の前で小さく唸り悩んでいるオリビアを見守った。
ここですぐに断らないということは、彼女は賭けに乗るだろう。自分の剣術に自信があるのか、それとも自分が過小評価されているのかはわからないが、要は勝てばいいのだ。
「どうかな、オリビア嬢? ちなみに僕は剣術が不得手だ」
「……わかりました。賭けに乗りましょう」
「よし、決まりだ」
一回戦はレオンもオリビアも相手がクリス先生目当ての女子だったため圧勝だった。すぐにふたりの二回戦が始まる。
「オリビア嬢、お互いに手加減はなしだよ」
「はい。申し訳ありませんが忖度はいたしませんわよ」
ふたりは対峙し、それぞれ剣を構える。オリビアの剣はかなり細く、非力さを武器の軽さでカバーしようとしているのが丸わかりだ。
さすがに、勝つな——。
そう思いレオンの表情が緩んだ。
「構えて……はじめっ!!」
クリスが大きな声で開戦を宣言し場外に出た。
向かいに立つオリビアが一歩踏み出したので、レオンも前に踏み出した。
このまま剣をたたいて折るか飛ばすかしてしまおうと、彼女の剣に刃を合わせる。
しかし、オリビアの剣は折れることも飛ぶこともなかった。
「え?」
「殿下、ご覚悟をっ!」
刃が合った瞬間オリビアの体が横に一歩ずれ、レオンの剣を流れるように滑って手元までやってきた。そして剣でレオンの剣越しに手首を捻り、思わず落としてしまったそれを思い切り蹴飛ばした。レオンの剣は場外に出ていく。
「私の勝ちでございますね」
「……そのようだね」
喉元に剣の先を突きつけられ、レオンは静かに両手を上げた。
「そこまでっ! 勝者、オリビア・クリスタル!」
オリビアが勝ってしまったため周りはざわついたが、彼女が次の試合で自分の護衛ジョージに一瞬で完敗し、なんとなくレオンが手加減をしたということで話が落ち着いた。レオンはオリビアと並んで試合を眺めていた。
「オリビア嬢、君は本当に剣術を嗜んでいたんだね」
「レオン殿下は、本当に剣術が不得手だったのですね」
レオンは一瞬、自分の笑顔が歪んだのに気づき、慌てて王子様スマイルをオリビアに向けた。だが彼女はまっすぐに試合風景を見ていたので一部始終に気づいてはいなかった。
「……で、君は何が知りたいの?」
「え?」
「賭けは君の勝ちだ。僕について知りたいことはない?」
「そうですわね。レオン殿下自身のことではないのですが……」
オリビアがレオンの方を向いて、ある言葉を発した。それはレオンにとっては慣れ親しんだものだが、彼女のような失礼ながら田舎貴族が知っているとは思えないものだ。
「ハイランドシープについて教えていただけませんか?」
「なぜ知っている? ハイランドシープは現地でも貴重で生地の流通はほぼない。ジュエリトスでも知っている者が限られている代物だよ」
「なるほど。私のような田舎貴族の娘が知っていること自体がおかしいのですね」
「そこまでは言っていないよ。ただ、本当に貴重なんだ」
レオンは心の中で冷や汗をかいたが、気取られないように言葉を選んだ。目の前のオリビアはそれすらも見透かしているかのように肩を上下させ、息を吐いた。
「お気遣いいただきありがとうございます。ハイランドシープはジョージの知り合いに貴族を顧客にもつ娼館の勤めの女性がおり、彼女経由で聞いたのです」
「そう。オリビア嬢はどうしてハイランドシープのことが知りたいの?」
なるほど、王都の宿屋にいたのはその女性の可能性が高い。レオンは小さな疑問を解消し、オリビアに問いかけた。
「実はリアム様に何度かプレゼントをいただいたので、そのお返しがしたいと思いまして。冬までにコートを仕立てたいのです」
「そう。それくらいなら僕が生地の仕入れをしてもいいよ。量産するほどの生地は無理だけど、リアム一人分くらいなら平気さ。母に頼んでおこう。近いうちに生地見本を持ってくるよ」
「ありがとうございます、レオン殿下!」
目を細め、嬉しそうに明るい声で礼を言うオリビアを見て、彼女の言葉に裏はなさそうだと笑顔を返すレオン。
彼女の魔法はわからなかったが、また次の機会に調べてみることにしようと、オリビアの護衛が決勝で勝つまで試合を観ていた。
>>続く
ここですぐに断らないということは、彼女は賭けに乗るだろう。自分の剣術に自信があるのか、それとも自分が過小評価されているのかはわからないが、要は勝てばいいのだ。
「どうかな、オリビア嬢? ちなみに僕は剣術が不得手だ」
「……わかりました。賭けに乗りましょう」
「よし、決まりだ」
一回戦はレオンもオリビアも相手がクリス先生目当ての女子だったため圧勝だった。すぐにふたりの二回戦が始まる。
「オリビア嬢、お互いに手加減はなしだよ」
「はい。申し訳ありませんが忖度はいたしませんわよ」
ふたりは対峙し、それぞれ剣を構える。オリビアの剣はかなり細く、非力さを武器の軽さでカバーしようとしているのが丸わかりだ。
さすがに、勝つな——。
そう思いレオンの表情が緩んだ。
「構えて……はじめっ!!」
クリスが大きな声で開戦を宣言し場外に出た。
向かいに立つオリビアが一歩踏み出したので、レオンも前に踏み出した。
このまま剣をたたいて折るか飛ばすかしてしまおうと、彼女の剣に刃を合わせる。
しかし、オリビアの剣は折れることも飛ぶこともなかった。
「え?」
「殿下、ご覚悟をっ!」
刃が合った瞬間オリビアの体が横に一歩ずれ、レオンの剣を流れるように滑って手元までやってきた。そして剣でレオンの剣越しに手首を捻り、思わず落としてしまったそれを思い切り蹴飛ばした。レオンの剣は場外に出ていく。
「私の勝ちでございますね」
「……そのようだね」
喉元に剣の先を突きつけられ、レオンは静かに両手を上げた。
「そこまでっ! 勝者、オリビア・クリスタル!」
オリビアが勝ってしまったため周りはざわついたが、彼女が次の試合で自分の護衛ジョージに一瞬で完敗し、なんとなくレオンが手加減をしたということで話が落ち着いた。レオンはオリビアと並んで試合を眺めていた。
「オリビア嬢、君は本当に剣術を嗜んでいたんだね」
「レオン殿下は、本当に剣術が不得手だったのですね」
レオンは一瞬、自分の笑顔が歪んだのに気づき、慌てて王子様スマイルをオリビアに向けた。だが彼女はまっすぐに試合風景を見ていたので一部始終に気づいてはいなかった。
「……で、君は何が知りたいの?」
「え?」
「賭けは君の勝ちだ。僕について知りたいことはない?」
「そうですわね。レオン殿下自身のことではないのですが……」
オリビアがレオンの方を向いて、ある言葉を発した。それはレオンにとっては慣れ親しんだものだが、彼女のような失礼ながら田舎貴族が知っているとは思えないものだ。
「ハイランドシープについて教えていただけませんか?」
「なぜ知っている? ハイランドシープは現地でも貴重で生地の流通はほぼない。ジュエリトスでも知っている者が限られている代物だよ」
「なるほど。私のような田舎貴族の娘が知っていること自体がおかしいのですね」
「そこまでは言っていないよ。ただ、本当に貴重なんだ」
レオンは心の中で冷や汗をかいたが、気取られないように言葉を選んだ。目の前のオリビアはそれすらも見透かしているかのように肩を上下させ、息を吐いた。
「お気遣いいただきありがとうございます。ハイランドシープはジョージの知り合いに貴族を顧客にもつ娼館の勤めの女性がおり、彼女経由で聞いたのです」
「そう。オリビア嬢はどうしてハイランドシープのことが知りたいの?」
なるほど、王都の宿屋にいたのはその女性の可能性が高い。レオンは小さな疑問を解消し、オリビアに問いかけた。
「実はリアム様に何度かプレゼントをいただいたので、そのお返しがしたいと思いまして。冬までにコートを仕立てたいのです」
「そう。それくらいなら僕が生地の仕入れをしてもいいよ。量産するほどの生地は無理だけど、リアム一人分くらいなら平気さ。母に頼んでおこう。近いうちに生地見本を持ってくるよ」
「ありがとうございます、レオン殿下!」
目を細め、嬉しそうに明るい声で礼を言うオリビアを見て、彼女の言葉に裏はなさそうだと笑顔を返すレオン。
彼女の魔法はわからなかったが、また次の機会に調べてみることにしようと、オリビアの護衛が決勝で勝つまで試合を観ていた。
>>続く
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