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第八章 決戦!ペリドット領

196、イタズラな王子は去り際に爆弾を落とす

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「オリビア嬢、さあ手を取って」

「リアム様、ありがとうございます」

 オリビアはリアムの手を取り馬車を降りる。リタとジョージも降りて、馬車の中のレオンに三人で「ありがとうございました」と礼をした。

「こんなことでよかったら、いつでも言ってよ。そうそう、オリビア嬢」

「はい、何でしょう?」

 問いかけるオリビアに、レオンが白い歯を覗かせイタズラな笑みを浮かべた。

「さっき『オリビア嬢が至急会いたがっている』って伝えたら、リアムってば大喜びで鼻歌を歌って残務処理に取り掛かっていたんだよ」

「え? リアム様がですか?」

「レオン殿下っ!」

 慌ててレオンを制止しようとするリアム。自由気ままな第三王子はくすくすと笑いながらオリビア達に手を振った。

「君はとっても愛されているね! それじゃあまた!」

 こうしてレオンの馬車は颯爽と去っていった。
 オリビアは隣に立つリアムを見上げた。彼は片手で口元を押さえ、大きく息を吐き、オリビアを見つめた。

「黙っていてくれと言ったのに。困ったお方だ」

「リアム様、本当に鼻歌を歌ったのですか?」

「もう、その件には触れないでくれ。頼むよ」

 リアムの頬が赤みを帯びる。ごまかすように屋敷の門を開け「早く中に入ろう」と言う彼のことが、オリビアは愛おしくてたまらなくなった。顔を綻ばせ、嬉々としてリアムの後をついていく。

「今日も人払いは済ませてある。安心してくれ」

 ゲストルームに通され、椅子に座るよう促されたオリビアは、着席早々リアムに礼を言った。

「リアム様、ご配慮いただきありがとうございます」

「いいんだ。ところで君は領地に帰るだけで私に帰宅をせがむことはないだろう。一体、何があったんだ?」

「はい。ご説明いたします」

 オリビアはリアムが隣に座ったタイミングで、領地の殺人事件とラピスラズリやペリドットについて話をした。初めは冷静に聞いていた彼は、カタリーナが持っていた証拠の話まですると、眉をひそめ、目元を歪ませていた。

「なんとおぞましい。ラピスラズリ侯が関わっている可能性が高いなら、慎重に事を進めなければいけない。オリビア嬢の考え通り、指輪だけでは証拠が弱いな」

「はい。なので私は明日領地に戻り、ペリドットを調査いたします」

 リアムが目を見開き、何か言いたそうに口を開いた。しかし彼はすぐに言葉を発しなかった。数秒、小さく唸って目を閉じ、ゆっくりと開く。

「わかった。私も行こう。急ぎの仕事を片付けたいから……そうだな、木曜の午後にはクリスタル領に着くようにする」

「リアム様? そ、そんなお仕事を休ませてしまうのは申し訳ないですし、リタやジョージもいますから大丈夫ですわ」

 オリビアは咄嗟に両手を胸の前に出して振った。それが、リアムの手に包まれる。

「オリビア嬢、私が君のそばにいたくて行くと言っているんだ。木曜までは待っていてほしい。いいね?」

 優しい声色ではあったが有無を言わさぬリアムの言葉。オリビアは彼を見つめ、こくりと頷いた。

「わかりました。木曜、クリスタル家でお待ちしております」

「ああ、必ず行くよ」

 オリビアが静かに笑ってみせると、リアムからも優しい笑顔が返ってくる。柔らかく弧を描く深緑の瞳がオリビアの心を温めた。

 学院の門限に間に合うギリギリの時間まで、オリビアはリアムとのひとときを楽しんだ。

>>続く
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