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第九章 幕引き

218、第二の裁判

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「これより、ジョルジュ・ペリドットとエヴァ・ペリドットによる国家反逆未遂とクリスタル家令嬢とその従者二名の誘拐暴行事件の裁判を開始する!」

 オリビアは引き続き証人控え席で次の裁判を迎えていた。国王が主任裁判官であることは変わらなかったが、多くの貴族や騎士団員が傍聴席や原告、被告控え席に並ぶ大法廷に場所が移っており、緊張は増した。

 つい先ほどまでカフェテリアで和やかに過ごしていたのが懐かしく思える。

「オリビア嬢、緊張しているのか? 私もいるから安心してくれ」

「リアム様、ありがとうございます」

 隣には同じく証人として控えているリアムがいる。こちらに笑顔を向け小声で話しかける姿に緊張の糸がわずかに緩んだ。

「被告人は宣誓を!」

 オリビアは証言席に視線を移した。ペリドット夫妻が並んで宣誓をしている。彼らはそれぞれ騎士団員が持つ縄に繋がれ、夫ジョルジュはかなり不満そうに顔をしかめていた。エヴァは初めて会ったときのように無表情だ。

 彼らの背面奥に傍聴人席がある。ずらりと並んだ貴族達の中には、リアムの父リチャードやオリビアの父ジョセフもいた。そして、ラピスラズリ侯爵の姿もあった。彼は余裕たっぷりの笑みを浮かべ裁判を眺めている。その笑い方が王妃アデルに似ているような気がして背筋が冷えた。

「被告人ジョルジュ・ペリドットと妻エヴァ・ペリドットは夫婦で共謀し自領の兵士や外部から傭兵を雇い、国家転覆と国王暗殺を企み、偶然集会を目撃してしまったオリビア・クリスタル伯爵家令嬢と二名の従者を襲撃、誘拐し暴行を加え、さらには彼女らを救出しようとしたリアム・アレキサンドライト少尉に怪我を負わせ、証拠隠滅のために殺害しようとしたものとする」

 騎士団の裁判担当者が並べる言葉を聞きながら、オリビアは彼らがずいぶんと取り返しのきかないことをしたのだと改めて感じていた。引き受けてしまったものの、この事件の証人は気が重くなる。ペリドット家の廃爵は確定だろう。担当者が息継ぎをして罪状を述べた。

「罪状は国家反逆罪と誘拐、さらには暴行致傷、殺人未遂である。原告である王立騎士団は領地の剥奪と財産没取に加え廃爵、そして極刑を望みます!」

 傍聴席がざわつく。何十年も発生していないが、ジュエリトスの極刑は死刑だ。国家反逆を企てた罪は重いということを思い知らされる。すると、被告人ジョルジュ・ペリドットが証言台の柵を掴み裁判官席に向かって叫び声を上げた。

「そんな、あんまりです! 極刑だけはお許しください!」

 目元口元を下げ、すがるような涙声で懇願するジョルジュ。オリビアはよく暗殺しようとした相手に言えたものだと、親子ほど歳の離れた被告人に呆れてしまった。心なしか、傍聴席の貴族達の視線も冷ややかに見える。

「黙りなさい、被告人。傍聴席も静粛に! これから審理を始め判決を下す。言いたいことがあるならば被告人尋問のときにしなさい」

「は、はい」

「では被告人、そなたには黙秘権がある。答えたくなければ行使して構わない。その上で問う。罪状の内容に間違いはないか?」

「ま、間違いありません……」

 背中を小さく丸め、ペリドットが呟くように返事をした。彼の小さな体がより小さく見える。このまま被告人質問は終わりそうだ。オリビアは自分の出番が迫り、徐々に心拍数が上がる。

「被告人は下がりなさい。では次に証人尋問を始める。一人目の証人、オリビア・クリスタルは証言席へ!」

「はい!」

 立ち上がり証言席へ向かう数歩、オリビアは無数の視線を感じながらその緊張感は増していった。再び証言席に立ち、宣誓する。大勢の傍聴人に囲まれながら、オリビアの証人証言が始まる。

>>続く
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