上 下
225 / 230
終章 婚約者はマッチョ騎士!

226、謁見

しおりを挟む
 裁判から五日が経ち、オリビアはリアムと一緒に馬車に乗り、王宮に向かっていた。

「もう王宮が見えます。王家の馬車は並大抵の速さではないのですね、リアム様」

「ああ、馬にも馬車にも魔法がかけられているんだ。乗り物酔いはしていないか、オリビア嬢?」

「はい。平気ですわ」

 正面に座り気遣う恋人に笑顔を返す。
 結局、裁判は被告人死亡のまま結審し、ペリドット伯爵家は爵位と領地を失うことになった。死亡したペリドット夫妻には子供も親戚もおらず、特に影響を受ける者はいなかったこと、事件に関わらなかった領民たちは今まで通り領地で暮らしていけることが救いだ。

 事件後、オリビアは学院には登校せずクリスタル領に戻った。心配したリアムが休暇を取り、今日までずっとクリスタル家に滞在して、ふたりで穏やかな時間を過ごした。ふとしたときに思い出してしまう真っ赤な証言席を、彼の優しい笑顔と温かな手が拭い去ってくれ、次第に心は落ち着きを取り戻していった。

「リアム・アレキサンドライト様、オリビア・クリスタル様ですね。国王陛下は謁見の間でお待ちです。ご案内いたします」

「ありがとうございます」

 王宮に着くと、国王陛下直属の執務官が出迎え、丁寧に腰を折った。彼についていき、オリビアは生まれて初めて王宮内を歩く。豪華なだけではなく重厚感がある調度品の数々は、ここがこの国の頂点であると主張しているようだった。執務官が大きな扉の前で立ち止まる。

「こちらでございます。国王陛下、リアム・アレキサンドライト様、オリビア・クリスタル様をお連れいたしました」

「通しなさい」

 裁判所で聞いた明瞭な声が内側から聞こえてくる。両開きの大きな扉はギイと音を立てて開き、前方の玉座には国王陛下が待っていた。執務官に促され、オリビアはリアムと室内に足を踏み入れた。そして王に向かい立ち跪いて頭を垂れる。

「ふたりとも、顔を上げなさい」

「「はい」」

 顔を上げると、国王は一見穏やかな笑顔でこちらを見ている。しかし空色の瞳には憂いが滲んでいた。

「まずは此度の裁判について、ふたりとも証人としてよくやってくれた。あのような結果になってしまい残念だ。特にオリビア・クリスタル伯爵令嬢は、まだ学生だというのに凄惨な場面を見せてしまったということに、私も心を痛めている」

「お気遣いいただきありがとうございます、国王陛下」

 亡くなってっしまったペリドット夫妻を不憫に思ったのか、息子と同い年の令嬢に申し訳なく思ったのか。オリビアは一礼し寂しげな表情を浮かべる王を見上げた。彼の笑顔がわずかに和らぐ。

「国家反逆を未然に食い止めてくれたことも礼を言う。ふたりのおかげで王都に住む大勢の国民の命が救われた。本当にありがとう」

「もったいないお言葉でございます。王立騎士団に所属する者として当然のことをしたまでです」

 リアムがしっかりと腰を折り丁寧に礼をしたので、それにならうオリビア。再び顔を上げると、王は玉座を下りた。

「それから、私の息子のことで謝らなければいけない。裁判のほんのひととき見ただけで、ふたりが互いを大切に思い合っていることが見て取れた。そんな君たちを引き裂くようなことをしてしまい、すまなく思っている」

「いいえ、もう済んだことです。お気になさらないでください」

「謝罪などとんでもないことでございます、国王陛下!」

「いいや。こういうことは、きちんとせんとな」

 国王がゆっくりと階段を降りくる。オリビアは恐縮しながらリアムを見ると、彼も焦った様子で後ずさっている。そして王はふたりの前に立つと、冠を外し、頭を下げた。

「レオンの父として謝らせてほしい。本当に申し訳なかった」

「陛下、本当にもう結構です! 頭を上げてください!」

「レオン殿下とも和解しています、お気になさらないでください!」

 リアムが両手と首を振りさらに一歩引いた。ほぼ同時に同じ動作をして、オリビアも足を後ろに引く。その様子を見た国王は肩をすくめ息を漏らした。

「リアム、お前の姉は先に話を通したら、烈火のごとく怒っていたぞ。アイザックが宥めるのに苦労していた」

「あ、姉は、そういうところがありますから……」

 そういえば、彼の姉は王太子の幼馴染で婚約者だった。恐縮しつつも気心が知れていそうな雰囲気のリアムと国王を見て、改めて自分の恋人が上流貴族だと思い知る。話が落ち着いたところで、国王が冠を頭に乗せ直し、再び玉座に戻っていった。

「すでにアレキサンドライト家とクリスタル家には書簡を送っているが、直接伝えることにしよう。リアム・アレキサンドライト、オリビア・クリスタル、ふたりの婚約を正式に認める!」

 ずっと心待ちいしていた言葉が玉座から降り注ぐ。胸の奥から湧く喜びが目頭を熱くする。オリビアはリアムと顔を見合わせ、とびきりの笑顔を彼に向けた。

>>続く
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

桜の季節

恋愛 / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:7

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,921pt お気に入り:3,672

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:31,431pt お気に入り:35,206

婚約破棄であなたの人生狂わせますわ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,824pt お気に入り:49

処理中です...