R18/SS『虎治と千鶴 ―― 硬派なヤクザと初心なお嬢』

緑野かえる

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続編SS 『ちづるととらじ』 (千鶴の視点/2話)

1 好奇心は猫をも

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 虎治はかっこいい。
 背筋がすっと伸びていて、スーツに皺なんてなくて、髪もいつも綺麗に襟足が切り揃えられていて。あと革靴も艶があって手入れをしてる。

「とーらー!!」

 でも、そんな几帳面な虎治には悪い癖があった。

「はーなーしーてー!!」

 私を、離してくれないのだ。
 お正月を過ぎて、私は小さな引っ越しをした。
 虎治が借りている『訳アリ可』のマンションに移り住んで、今は一緒に暮らしている。それでも結婚までのお付き合いの手順としてスジを通したいと言ってくれた虎治とはまだ同棲の段階。婚姻届すら手元にない。

 それでも私はすごく嬉しかった。
 毎日が新鮮、とはもう張り切って言える年齢ではないけれど虎治も私との生活を楽しんでくれて……い、っ……。

「とらっ!!噛まないって、約束……っ」
「歯を当てただけですよ」
「ぞわぞわするから駄目って言ってるのに」

 夜の虎治は、私に噛みつく。
 耳の先とかに歯を当てたり、唇で挟んだりするだけだけど経験がごく浅い私はそれだけで動けなくなってしまう。
 あと今、仰向けに寝かされていた私の足の間に虎治の膝が来ちゃって、その。

「千鶴、腰が揺れてますよ」

 恥ずかしくて咄嗟に腰を引いてしまえば意地悪なとらはもっと詰め寄ってきて、逃げられなくなった私にぐりぐりと膝を押し当てて反応を窺っていた。
 本当は気持ちいいのに私も意地になってそれを言わない。うう、絶対に言わないんだから。

「ほら、千鶴はこうして」
「ん、っく」
「そろそろ下着を汚しちまいますから、脱ぎましょうかね」

 それは虎治が膝でぐりぐりするから!!なんて……もう、そんな恥ずかしいこと言えるわけがないじゃない。

「千鶴、今日もあなたは綺麗だ」

 それに耳元で囁かれてもどう返事をしたら良いのかわからない。いつもよく分からないまま脱がされて、虎治はいつも私を綺麗だと言ってくれる。
 あと虎治は最近、本部の中にある総務部へと移動した。一応、お父さんの付き人と私のお目付け役を兼任していたんだけど私と暮らすようになってからそれらを解任されて……でも今までとあまり変わらないそう。

「とら……疲れてない?」

 環境の変化に私は敏感で、虎治と暮らし始めた時もちょっと長めの風邪をひいてしまった。今はもうすっかり治っているけれど虎治も職場や私が来たことによって人として自然にかかってしまうストレスとか……。

「俺ですか?俺はご覧の通り元気で」
「~っ、ち、がっ!!そうじゃなくて!!」

 ああもう。私に気を許してくれた虎治はなんかちょっと、エッチな人だった。夜だけ、ではあるけれど。
 そんな彼の太い腕が近くにあったから、ぐっと掴む。それはかたくて、あつい。

「年甲斐も無くあなたに夜毎、情を勃たせるくらいにゃ」
「だ、っ、から……違う、違うのに」

 ちゃんと話をして、と言い掛けて飲み込まされた。なんだろう――虎治は本当に大丈夫と言うか元気で、私の方が虎治のことをちゃんと見てなかったのかな。

「千鶴、あなたのその芯が一本通った心意気は美徳です」

 体を起こした虎治は私を真っ直ぐに見つめて、眉尻を落として笑っていた。私の心配を汲むように……でも、そうだよね。虎治は私より年上で、色んなことを知っている。私は子供っぽいところがあってさ。こういう気持ち、なんて言うんだろ。
 なんか、恥ずかしいな。

「天真爛漫で……だが人に深慮をするのを忘れず、時に自らが深く傷付く選択を迫られても決断を厭わない。俺はそんなあなたに惚れちまった。そんな人と暮らせてるんだ……贅沢この上ねえ話だってのに、不安に思わせちまうなんて。もっと鍛えなきゃ伝わらねえ、か。ああ……伝わらねえよな……」

 これ以上、虎治が体を……鍛え……?

「あなたに心配を掛けさせない為にも」

 そっと私の頬をひと撫でした虎治は勢いよくタイトな半袖の肌着を脱いで放ってしまう。
 今日も虎治の肩にいる猫ちゃんは可愛かった。

「とら……なんか、ごめ……」
「俺はあなたに謝らせたくねえってのに気の利いた言葉が出ねえ」
「ううん。とらみたいな余裕をもっと持てるように私も鍛えなきゃね」

 私の言葉に笑ってうなずいてくれる優しい人。

「じゃあまずはコッチの方から」
「え、え?!」
「色々と鍛えましょうや、千鶴」
「うそっ、え、あ、うわああああああ!!」

 転がされるように全部脱がされて、虎治も下までぜーんぶ脱いじゃった。それからしばらく私のデリケートな部分を丁寧に触ってくれた虎治の方もいよいよ凄いことになっちゃってるし、そんなの初めて見たような……。

「その千鶴の視線のせいで毎度、ゴム着ける時に余裕が無くなっちまうんですよね」
「だって、なんか」
「グロテスクだとかは」
「わかんない……でも、嫌じゃない……」

 ムラムラしてるとか、期待とか、そういうのでもない。ただ、なんだろな……私を見て、凄いことになっちゃうのってやっぱり、ふふ。だめだ、見ちゃう。

「好奇心ってやつですか?俺、そのうち千鶴に」

 ――空っぽになるまで搾り取られちまうかもしれねえな。

 にや、と歯を見せて笑った虎治を見てから私の記憶は……。

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