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本編 (2024 11/13、改稿しました)
3.ソファー
しおりを挟む「よいしょ、っと」
カジュアルなベージュのワイドパンツにオフホワイトのリブ素材の長袖のボートネック。その袖をまくり、千代子は司の部屋で開封作業を進めていた。
キッチンの近くにあった段ボール箱を開け、枚数は多くは無かったが中に入っていた皿や緩衝材を出して司に聞いていた通りにオープンタイプの食器棚に丁寧に乗せていく。
既にいくつかのグラスはその棚に出ていたが本当にそれだけで、調理や食事に必要な物の一切が全く引っ越し当初から取り出されていなかったのだと知る。
(このタイプの棚って憧れだったんだよね)
置き場所は大まかにしか司からは言われていなかったので並べ方は千代子のセンス次第。何枚か取り出した皿を並べてはうーんと唸りながら少し遠目からの見栄えを意識して作業を続ける。
しかし、長く一人暮らしだったのか司が揃えている食器の大半は二枚ずつ、そもそも全体的な枚数も少なかった。
複数名の来客すら想定していないような、ごく少ないシンプルな白い食器。
それでも今日の千代子はこのキッチンでランチを提供する事になっていたのでどの皿を使おうかな、と考えなが取り出していた。
「そっちの進捗はどう?」
「七割って所で峠は越えました。あとは段ボールとかケースを片付けるのが大半ですね」
司さんの方はどうですか?と千代子に問われた司は反らすように少し視線をフローリングへと移した。どうやらあまり進んでいないらしい。
分かりやすい仕草をした司にふふ、と笑う千代子。少し眉尻を下げて視線を上げた司は整い始めているキッチンを眺める。
全体的な部屋の色合いに見合った落ち着いたオフホワイトのカウンターキッチン。大理石の作業スペースと木目の美しいカウンターテーブルが一体となっている場所に今、千代子が立っている。
そしてそのカウンターテーブルには訪れる前に用意してきてくれたらしい今日のランチの食材が入った袋が置かれており、リビングのソファーのそばにはトートバッグが一つ、置いてある。
「ランチの用意はダイニングテーブルの方で良いですか?」
「うん、お願い」
しかしそのダイニングテーブル――少し大きいサイズの二人掛け用のそれは千代子が初めて訪れた日の夜には存在していなかった。
千代子もこれだけ未開封の荷物があるくらいだから本当に引っ越してきたばかりで家具の購入や搬入が今になってしまったのかもしれない、と解釈していたが実際は司が急遽購入した物だった。
カウンターテーブルで並んで座っても良いがやはり千代子とは向き合って食事がしたい。
たったそれだけの為に購入を決めてしまった司に後悔など微塵もなかった。
「ちよちゃんに進捗を聞いておきながら私の方はまだ半分……本を出すと駄目だね、つい立ち読みしちゃって」
「よく私もやります」
笑う千代子は話をしながらもちゃんと手を動かしてたので司もいい加減、油を売っていないで書斎兼寝室に戻ろうとするがその前に、と立ち止まる。
「粗方片付いたらそのままお昼、お願いしても良い?」
「はい。いろいろと勝手に使っちゃいますけど」
「足りない道具があったらごめん」
「全然、私の部屋なんて小さいから……」
持てるだけの物で最大限活用しなければならない生活を送っている千代子。彼女にとってこのキッチンは広々としているだけでもう、十分だった。
フラットなビルトインのIHコンロだって三口だ。鍋を置いて、フライパンを置いてもまだ一つ残っている。
「でも司さん、本当にあのランチプレートの感じで良かったんですか?」
「あれこれ考えていたんだけど、いざとなったら纏まらなくなっちゃって。ここはちよちゃんに全部任せてしまった方がいいかな、と」
恥ずかしそうに笑う司の表情に少しだけ千代子が伏し目がちになる。
「あの……もし変な物が出てきても笑わないでくださいね」
「と、言うと」
「最近、ちょっと凝っている物があるので」
「それは気になるけど」
完成してからのお楽しみだね、と言って司はまたまだ荷解きが半分しか終わっていないと言う私室の方へ戻っていく。いつまでも“まるで同棲を始めたばかりの恋人同士”のような穏やかな立ち話をしていても荷物は勝手に片付いてくれない。
千代子も残りの作業を終わらせ、昼食づくりに専念しようと手を進める。
そんな千代子の姿を伺うように振り向いた司の口元が固く結ばれ、表情は厳しくなる。
こんなに優しくて良い子な“ちよちゃん”を傷つけ、飼い殺しにした企業とは一体どこだろうか。
(喰らい、潰してしまおうか)
そんな会社、喰ったとしてもこちらが腹を壊すか、と意識を切り替えた司は本棚に経営学関連の書籍や文献を並べ置く。
それよりも今は千代子が作ってくれると言う“変な物”が楽しみだった。
千代子の事だから突飛な創作料理ではなさそうだし、部下の松戸や芝山をも巻き込んで悩んだ末に導き出した『ちよちゃんの好きな物でいいよ』のたった一行のメッセージ。それに連なるいくつかのやり取りを思い出せばまた自然と手が止まってしまう。司は流石に終わらせないとまずいな、と広げてしまった書籍の収納を再開した。
今日は開けっ放しにしてある私室の扉。リビングダイニングの方から包丁を使う軽やかな音がする、と言う事は千代子がランチの支度を始めた事を意味していた。
千代子には詳しく言っていないが確かに普段の司は芝山に頼んで高級仕出し弁当やテイクアウトを多用していた。そのため、自分では飲み物を用意する時くらいしかキッチンは使わない。
そう、そのキッチンはこれから千代子に管理を任せたい場所だった。
だから皿を置く場所も千代子のセンスに全て任せていた。
雇用も対価も、経営を任せているのが信頼出来る松戸なら何も心配する事はない。松戸は物事を見極める良い観察眼を持っている。だからこそ手持ちの事業の中でも規模の大きい人材派遣会社の経営を司は一つ年下の彼に任せていた。
まだ千代子に話すらしていない。それでももし、彼女をこの部屋に……自分の目が届く場所に居て貰えたなら。
突然の提案に気が退けて目を丸くさせ困ってしまっている千代子の姿など容易に想像出来る。そんな姿も実際に見てみたい気もするが、と司はつい自分の悪い部分が千代子に向いてしまい、大きく息を吸って意識を抑える。
ハウスクリーニングやハウスキーパーのサービス業と提携している派遣会社への登録、と言う体裁なら普通の雇用となんら変わらない。
なるべく、千代子の嫌がる事はしたくなかった。
これ以上、あの瞳から大粒の涙をこぼさせるなど、あの肩を震えさせるなど。
あの夜に触れたのはなんとも心もとない、薄い背中だった。
食事は日頃送って来る画像を見ればそれなりに摂っているようではあったが、千代子には心も体も健やかでいて貰いたい。
(ああ、やはり気に入らないな)
千代子を悲しませたのはどこのどいつだ、と司の目が暗く、光を失う。
本人から聞き出しても良いけれどまた涙を滲ませる真似はさせたくないし……大体の事なら自分の持っている部下たちを使えば調べがつく。
ドアの向こう、リビングの方では千代子が昼食の支度をしてくれている音が続いていた。換気扇を付けて何か炒め物をしている音も聞こえる。これは本当に早く片を付けなければ、と司は三度止まってしまっていた手を動かした。
・・・
千代子はカウンターテーブルの上に置いておいた食材の袋とは別に、ソファーのそばに置いておいたトートバッグから一枚のエプロンを取り出して身に着けると腰元でリボンを結ぶ。
今日、この日の為に出かけて購入した一枚。
手をよく洗い、考えて来たメニューの一つ一つに取り掛かる。
購入してきた食材は全て一回で使い切ってしまおうと色々試行錯誤の末にメニューを決め、ある程度は自宅で下ごしらえを済ませて来た。
半玉のキャベツなどは刻んでコールスローにする物とポトフにする物とで一回で切り分ける。人参や他の食材も同様に多くの道具を使わず最短の工程で済ませられるようによく考えた。自宅の小さなアパートで培ったとてもコンパクトな作業の動線は大きく物を広げる事も無く、手元で全てを綺麗に完成させてしまう。
嫌いな物は無いと言う司だったので千代子も気兼ねなく調理を進めながら自分で棚に並べた皿の中からいくつかをピックアップする。
広く開放的なキッチンが使える喜びを一人、噛みしめる。
司は殆ど使っていないようだったがまだつい最近、買ったばかりのように真新しく見える最低限のボウルやフライパンなどの調理器具もあり、今のところ不自由なく支度が進んでいる。
(でも、炊飯器が見当たらなかったな……)
やはり司の部屋には存在していなかった炊飯器。
鍋で炊けなくはないが慣れるまでが難しい。
ご飯ものをメニューには入れていなかったのでとりあえず大丈夫だったのだが普段の司は本当に既製品が多いのだと、調味料を探す為に開けさせてもらった冷蔵庫内の状況を見た千代子は思う。
それは人それぞれだから。自分もどうこう言えない暮らしをしているけれど今日くらいは先日のお礼とお詫びのほんの端っこくらいにはなるだろう、と手を進める。
そして一つ、千代子が最後に作り始めたもの。
バゲットを買ってきても良かったけれど予定を変更した。一度、自宅で作ってみたら美味しかったものを司にも食べてみて欲しくてボウルに卵を割り入れ、混ぜて、レシピ通りの量の牛乳を注ぐ。
使った事のないIHコンロの火加減に奮闘しつつも何とか自分の中の理想通りの仕上がりになっていく料理たち。これなら大丈夫、と最後に一緒に焼いた目玉焼きを乗せ、ランチプレートが完成する。
「司さん、お昼の支度が出来ましたよ」
開けっ放しになっているドアから姿を覗かせた千代子の姿に司は危うく手にしていた厚みのある本を足元に落としそうになった。
千代子が、エプロンをしている。
清潔感がある淡い水色の、少し細身なワンピース風の丈があるエプロン。
先日のフレアスカートもよく似合っていた千代子は少し少女趣味があるのかもしれないがあくまで控え目で、落ち着いた装い。
「司さん?」
「あ、いや、ごめん。今、行くね」
「もしかしてそうやって一冊一冊ちょっとずつ読んでるから終わらないのでは」
疑っている千代子の視線に苦笑をする司はまさか千代子本人の事をあれこれ考えていて手が度々止まっていたなど到底言える筈も無く。疑いの目をしつつも「飲み物は冷蔵庫の中にあったアイスコーヒーで良いですか?」と問う千代子にそれもまた司はお願いをする。
リビングに向かえばこの日の為に用意した二人掛けのテーブルに彩りの良いランチプレートのセットが二つ、並んでいた。
「ちよちゃん、やっぱり才能があるね」
「え、あ……そんな、簡単な物の寄せ集めと言うか」
「そんな事ないよ、凄いな」
すぐに手を洗って戻ってきた司にはにかむように笑う千代子は見込んだ通りに手際が良かった。
ちら、とキッチンカウンターの方を見ても使った道具類はもう片付いて、少し乾かしているのかあとは棚にしまうだけになっている。
席につく司に差し出されるアイスコーヒー。
ちよちゃんももう座って、と促して二人だけのランチが始まる。
「これってアレだよね、海外の定番のモーニングとかランチの」
「はい。あの、このパンケーキなんですけど……お砂糖は入っていないので普通のパンみたいに食べられるので」
千代子が作ったのはパンケーキの上に目玉焼きや焼いたベーコン、ズッキーニの輪切り、レタスなどを乗せたオープンスタイルの食事系パンケーキプレート。
付け合わせにコールスローサラダ、スープは具だくさんのポトフ。
よくよく見てみればほぼ全てにおいて、具材がそれぞれに流用されている。パンケーキに乗っている焼かれたズッキーニは輪切りで、ポトフの中に入っている方は切り方を賽の目状に変えている。コールスローに入っている野菜もポトフの中に入っており、パンケーキの上に乗っているベーコンもまた、ポトフの中にある。
全てを余すことなく、よく考えて作られている。
「変な物、ってまさか」
「パンケーキ、人によっては見た目で敬遠されてしまうので……日本だとホットケーキとかの甘い印象が強いから」
切り分けて口に運ぶ司に向けられる心配そうな視線。味は大丈夫ですか?と聞く千代子のその表情に司は「美味しいよ」と若干食い気味に感想を述べた。
そんなの当たり前だ。
本当はそばにいて欲しいと思っている女性が作った手料理。いつも画像だけを見せられ、お預けをくらっていたが今日は出来立てが食べられるなど……司にとっては夢のような状況だった。
「あとその、司さん体が大きいからどれくらい食べるのか分からなくて」
足りなかったらごめんなさい、と謝る千代子だったがちゃんと成人男性が摂取する量。下手に大きく盛ったりはしていなかったけれどよく見ると千代子のパンケーキは二枚で司の方は三枚になっていた。
「このパンケーキの粉は司さんと会った日に行っていたスーパーに売ってて、スーパーのオリジナル商品なんです。あの日は甘みの入っているホットケーキミックスを買いに行っていたんですが美味しかったのでまた行ってみたら甘くないパンケーキ用のも売っていたので……ってごめんなさい、変な事喋っちゃって」
きっとそれが千代子の最近の趣味なんだろうな、と司は優しく笑いかけて「ちよちゃんが元気そうで本当によかった」と言う。涙をこぼして、それを必死に止めようとして肩を震わせていた彼女が自分に向けて一生懸命に説明している姿は何とも言えない気分にさせてくれる。
愛する、と言う感情を当てはめても足りない。
切なくなるほどの愛おしさが心の奥深くから込み上げてくるようだった。
「それでね……ちよちゃんに一つ、提案があるんだ」
食事も終わり、残っていたアイスコーヒーを飲みながら他愛ない談笑をしていた二人。ふと、話を切り出した司の少し緊張感のある声に千代子は敏感に気づいた。
「私は今、いくつか管理を任されている会社の総合的な経営者と言うか……まあ、そんな事をしているんだけどご覧の通りの生活をしていてね。その傘下の、私が信頼して任せているビジネスパートナーが人材派遣会社を経営していて」
司は手にしていたグラスを置いて「家事代行サービス業とも提携しているから、ちよちゃんにはその大本の派遣会社に登録してもらって、この部屋の管理を任せたいんだ」と真剣な眼差しで伝える。
そんな司にやはり千代子の瞳は丸く、見開かれてしまった。
「えっと……その」
「ちよちゃんになら任せられると考えていたんだ。あまり、自宅に人を出入りさせる事が苦手なんだけどそれだと片付かないし……今日、少しだけちよちゃんの行動を見させて貰ったけど全くもって申し分ない」
「そんな……雇ってもらう、と言うことですか」
「そう。ちよちゃん、きっと色々焦ったりしてるんじゃないかと思って。来てくれる日や時間はちよちゃんに合わせて構わないし、昼間は私も空けているから基本的に一人で仕事が」
少し、俯いてしまう千代子。
「ごめん、ちょっと強引過ぎるよね。私は相手がちよちゃんだからっていつも距離感を忘れて……」
千代子は言葉が喉に詰まってしまったのか、小さく頭を横に振る。
「誰かに心配してもらうの、久しぶりで……」
「大切な事だし、すぐに返事をしてくれなくても私は構わないから」
「いえ、あの……」
――お願いします。
そう確かに言葉にした千代子。
その丸い瞳はやはりどこか泣きそうだったが、それでも声の中にはしっかりとした意思を持っている事が司には分かった。
そんな責任感の強さが反面、彼女の弱い部分になってしまっているのだろうか。全てを綺麗に全うしようとして、知らず知らずに無理が積み重なっていく。そうして周りも――本人すら深く傷ついてしまっている事に気が付けないで、壊れてしまう寸前でやっと気が付いて。
「本当に、お願いして良い?」
「はい。私の方が雇ってもらうのにそんな」
「あまり難しく考えなくて大丈夫だよ。紙のパンフレットとかもあるみたいだから近い内に一緒に見て色々決めよっか」
そうして司は千代子を、雇う。
千代子の小さなアパートから歩いて通える距離、買い出しのスーパーもその範囲にある。
千代子の生活圏が全て、司の目が届く位置に集約されていく。
・・・
司とよく話し合った結果、まずは月水金の週三回のフルタイムで掃除や雑用、食事の買い出しと作り置きなどを行う事となった。司が仕事に出向いた後の九時から帰宅する前の五時。勿論、一時間の休憩時間も設けられている――と言うか、司にとってはそんなこと、本当にどうでもよかった。
好きな時に休憩して良いし、疲れたならそこのソファーでお昼寝でもして、食事も予算など考えずに千代子の好きな物を作って良い。
そうして決めた千代子の初出勤から今はちょうど半月ほど経過したとある平日の昼下がり。
「絶対に違うと思うんです」
「うん?どうしたの」
出退勤はネットで管理されているのでスマートフォンが一つあれば十分。事業所も都心――と言うかそもそも司の居るビル内にあり、松戸の管理している会社なのでどうとでもなる。
「だって、いくらなんでもこんな」
自由すぎます、と言う千代子。
その手にはフローリング用のワイパーが握られている。いきなり「今から帰るね。あと五分くらいで着くかな」と連絡をしてきた司。千代子はつい先ほどまで他の部屋で掃除機を掛けており、今は仕上げに拭いていた所だった。
「司さん、本当にこんな緩い感じでお給料をいただいてしまうのは」
「そう?ちよちゃんが来てくれてから私の部屋はいつでも清潔でとても暮らしやすいよ」
今日は千代子の出勤日の水曜。
なぜ平日の日中は不在の司が突然に帰宅し、ソファーに座ってのんびりと千代子の働く姿を眺めていたのかと言うと……眺めていたかったからだ。
今日はさほど立て込んだ案件も無く芝山に仕事を任せ、昼を過ぎたあたりで帰って来てしまった。
今までも時々、司はそうやって息抜きの為に早く上がる日を設けていたがあの再会した日もたまたまそんな日で、二人の偶然の行動が重なっていた。
千代子が出してくれたアイスコーヒーをローテーブルに置いて、久しぶりにのんびりとした半休の穏やかな昼下がり。
司は「ちよちゃんも休憩を」と言ってみたが今から風呂掃除をしてそれから作り置きの食事の調理に取り掛かるので駄目、らしい。
幸いこの部屋はリビングダイニングのカウンターキッチン仕様、幾らでも彼女の姿は眺めていられる。
先日は荷解きのお陰で千代子がキッチンで調理をしている姿を見ることは出来なかったが、今日は心ゆくまで堪能出来る。
そして、千代子が冷蔵庫に並べ置いてくれる食事は美味しかった。
素朴な物も、手の掛かる煮込み料理も夜遅くに口にしても負担にならない程度の味付け。
(もっと早く、彼女を見つけ出せばよかった)
いつかまた出会えたなら、と思い続けていた。
ソファーに深く背を預けた司は少しだけ瞼を閉じるように目を細める。
本家との養子縁組を意味するのは自分が日陰の、その中でも特に色濃い者として生きて行く事を“選んだ”事になる。
高校三年生を前に伯父の進に引き取られ、望むままに大学に行かせて貰い、暫くは一般社員として、義父の側で秘書として段階的に働いた後に引き継いだ経営者の座。
まだ幼かった司自身が周りから“ヤクザの子”と言われている事に気づいたのは、物心がついてすぐのときだった。
生まれた家がただそうであったに過ぎないと言うのに蔑まれ、疎まれ、一つを間違えば壊れてしまうような上辺だけの薄い付き合いの友達関係しか築けていなかった。どうにか取り繕う、孤独な毎日。
丁寧な口調も、物腰も、今でこそ社会人生活もあり染みついてはいても、学生の時から気にしていたのは自分と言う存在を卑しいモノだと見られたくなかったからだった。言葉づかいだけでも、その所作だけでも、と必死だった。
自分は世間的にはどういった立場なのか、痛いほどよく分かっていた。
だからそんな世界から飛び出したくても一人で生きて行くにはまだ十代では未熟すぎ……物事への理解力と理性が無謀な振る舞いをしそうになる衝動をなんとか抑え付けて過ごしてきた。
そして関東最大の連合の三次団体に過ぎない“ただの端くれの組長”だった実父と、今や連合直系の大幹部である本家今川組組長の伯父との大きな差をまざまざと目にしてしまったのは中学生くらいの時だったか。
伯父の進は、強かった。
それは全てに於いて実父の、ヤクザと言えども人を率いていると言うのにまるで惰性で組織を動かしているような父、修の姿とは違っていた。
お陰で実家は“今川三兄弟”の中では一番構成員の少ない組だった。
(それとも、もしかしたらこの暗い世界にうんざりしていたのだろうか……今の私がそうであるように)
それは司には分りかねる事。
父親とは全く連絡を取っていない。
連合の代が二代から三代に変わると同時に直参の二次団体への昇格、瞬く間にまい進していく肉親ではない人。
わざわざ時間を作っては会いに来てくれ、何かと面倒を見てくれていた。
相当気に入られているんだな、と司自身も確かに感じていた頃に養子縁組の話が出たのだった。
ヤクザと言う業を持ちながらも時代の波に沿うよう形態を変えようと奔走していた伯父の姿を見ていたからか、嫌悪の中に僅かな憧れを抱いてしまうのは無理もない話だった。
強い者に惹かれるのはやはり、血なのだろうか。
「司さん、どうぞ」
俄かに思い出してしまった過去のこと。
アームレストに頬杖をついていたせいで眠いのかと思ったらしい千代子がタオルケットを差し出してくれる。
優しい子だ。
理由などない喧嘩を吹っ掛けられても司は伯父からの言い付けで手を出す事を必死に我慢し……そんな中でも手酷く、もはや喧嘩などではない一方的な暴行を受けた日の司をたまたま見つけたのが中学生だった千代子だった。
話をした回数は少なくても、小さな頃から地域の子供たちの集まりなどで互いに顔や素性もよく知った――家もたった数軒先の身近な近所の女の子だった千代子は今にも泣きそうな顔で手当てをしてくれた。
――司さんは何も悪い事をしていないのに、どうして。
通っていた高校側もそうだった。
ヤクザの息子を処分すれば何かと面倒な事になる。さっさと卒業をさせて、厄介払いをしてしまいたかったのだろうか――ちょっとした騒動にはなったが停学や休学処分にはならず、そして司だけが傷だらけで喧嘩を仕掛けて来た方は全員が無傷。手を出していない事など誰の目にも明白だった。
当時はまだ中学生と高校生の子供同士。年齢は少し離れていたがそれからは司を見かけると気軽に挨拶をし、にこにことしていた千代子。親からは関わるなとずっと言われていた筈なのに、怖い物知らずな子供時代。
あの何気ない笑顔に、どれだけ救われたか。
千代子が父親の転勤で引っ越してしまうと分かった時、ちょうど司も伯父から本家の子にならないか、と持ちかけられた。
それは『ヤクザの子はヤクザにしかなれない』と言う長い因習による理由とは若干違っており「お前にはいずれ俺の会社を継いで欲しくてよ。なんかデカくなり過ぎちまった。俺の側で暫く働いてりゃお前ならすぐにでもやれるさ」と言われ……極道の世界がどうの、と言うよりは経営者の面を当時から進は強調していた。
しかしそんな言葉の裏に隠された伯父の真意を当時の司は見抜けなかった。
なぜ伯父は自分を養子にとったのか。
実父の修からすれば一人息子であり、なぜ兄弟もいない自分を手放したのか。
それは司自身も知らない内に芽生えさせてしまっていた、今川の血に流れる強い闘争本能の存在のせいだった。
その血が、争いへの渇望が、破裂しそうな程に大きく膨らむ野心が大勢の他者を巻き込んだ破滅へ向かってしまわないようにするため。強い者の手によって抑えつけ、育つにつれて鋭さが増す怒りや衝動を自身で的確にコントロール出来るよう、徹底的に伯父によって教育させられていたのだと知ったのは成人後、自分のあり方を見つめ直す機会も増えて来たあたりだった。
伯父は極道の組織の跡目ではなく“俺の会社を継いで欲しい”と言っていた。
それはまるで「お前だけはカタギになれ」と言われているようだったが結局は司も正式ではないにしても伯父の持つ邸宅で暮らせば“若”と呼ばれてしまい、事実上の本家今川組の一員……若頭となっていた。
二十歳を過ぎ、大学生活を送りながら表も裏も、伯父の側で“社会の構造”と言うものを色々と見て来た。
特に裏の世界。構成員の中には元はただの債務者で、借金の肩に末端のヤクザとなっただけの今でもカタギに戻りたい者たちがいる事実を目の当たりにした。
そしていざ足を洗っても元の生活に馴染めずにまた出戻って来てしまう悪循環。酷ければ警察の世話になる者も少なくない。
そして司の目には血脈の衰退もまざまざと映し出されていた。
今や血統で組を継いで組長となる者も減っている。
組の解体、吸収も盛んだった。
先日も一件あったと芝山から聞かされている。
連合と言えども、もはやそこに権威などなく自分たちが存続出来るよう寄りあっているだけの組織。
もう、ヤクザの時代じゃない。
バブル時代の華やかだった幻影に縋って生きているだけの“臆病な者”たち。
司は自分に権力が譲渡されたら、全てを解散させる腹づもりでいた。
組織を解散させた際に行き場がなくなってしまう者たちを収容出来るくらいの規模の大きい事業……松戸に持たせてある人材派遣会社がその最たるモデル事業だった。日陰の者だった彼らがカタギとして社会生活をどうか全う出来るよう、ずっと松戸と共に考え、その経営を見守って来ていた。
いずれ司自身も今川の血脈から完全に離れ、一から小さな会社でも立てて、それで……あても大して無い癖に“初恋の女性”を探そうとしていた。
自分ではない誰かと結婚をしていたとしても、元気に暮らしているかどうかさえ分かれば良かった。
「ちよちゃん」
「はい」
「この前作ってくれたパンケーキ、冷凍出来る?」
もちろんです!!と勢いよく返ってくる言葉に司は自然と笑っていた。
「あ、でも粉がないので次回でいいですか」
「うん。朝食代わりにしたいから少し小さ目でもいいよ」
「わかりました」
ポケットの中のメモ帳を取り出して嬉しそうにメモを取る姿。
高校生当時、連絡先を交換出来なかったのは怖かったからでもある。
年齢も子供目線からすれば離れていた。これ以上、自分に深く関わらせたら彼女に危険が及ぶのではないのか、とも思っていた。幼過ぎ、今のような考えに全く及んでいなくとも、千代子の存在そのものの大切さを当時から司は優先していた。
それこそ、幼い恋だった。
いつも一生懸命に掃除をしてくれている千代子。
動きに合わせて軽やかに揺れるエプロンの裾。松戸からは「事業所の制服として渡しているエプロンがあるんですけど」と言われたが千代子には似合わなそうだったので断った。雑費で計上していいから、とエプロンは必要な分を、彼女自らが気に入った物を購入するよう言ってある。
涙をこぼした日の室内履きの頼りない不安定なリズムではない、今は軽快に聞こえるぱたぱたとした足音が耳に心地いい。
このまま本当に眠ってしまいそうだ、と司は千代子が差し出してくれたタオルケットを開いて久しぶりに訪れた穏やかな眠気に任せて瞼を閉じる。千代子の料理をしている姿を見たかったけれどそれはまた、今度。
暫く静かに作業をしていた千代子だったが通りすがりに瞼を閉じている司をそっと覗き込む。
(寝ちゃった……)
ローテーブルの上の、もう氷が溶け切ってぬるくなり始めているグラス。千代子はなるべく物音を立てないように回収をして、濡れた場所を軽く拭き上げるとキッチンでの作業に戻る。
それから一時間も経たないくらい。浅い眠りに起きた司の珍しくぼーっとしている姿がキッチンの中で洗い物をしていた千代子の視界に入る。
ふふ、と笑う千代子は「何か飲み物を」と声を掛けるがもう千代子はそろそろ終業の時間だった。
「ちよちゃんも夕飯していけば良いのに……」
名残惜しさと寝起きでとんでもない事を口走ったな、と司はすぐに謝ったが「一度、帰っても良いですか」と恥ずかしそうにしている千代子に司の方が目を丸くさせてしまう。
「いいの?」
「え、はい……あ、やっぱり迷惑」
「言い出したのは私の方だから、それに……一人の食事は、ね」
一時間くらいしたらまた来ます、と言う千代子。
何か用でもあったのかな、と――しかしながらこの後も千代子と一緒に居られるとは、と司は表情には出さなかったが密かに感激してしまう。
本当は吐きだしてしまいたいこの“好意”と言うよりももっともっと、強い気持ち。
胸に長くとどめ置いていたせいで若干、澱んでしまっている自覚はあったが司は千代子の事を心から愛していた。
・・・
それから本当にぴったりの一時間後の午後六時。
千代子は保冷バッグと「ごはん、食べませんか」の言葉を持ってまた司の部屋を訪れていた。保存容器に詰められた炊き立てらしいそれはすぐに、今や千代子の城となっているキッチンで蓋を開けられて冷まされている。
「ああ……炊飯器、買ってなかった」
言ってくれたら用意したのに、と言う司に「司さんはあまりごはん食じゃないのかな、と思って」と言う互いに笑ってしまうようなすれ違い。
そして千代子の服装が変わっていた。髪形も、少し違う。
就業時間中は作業がしやすいようにしっかりと髪をまとめてスキニーパンツを履いていたが今は比較的ラフなワンピース姿。
オンとオフをはっきり使い分けるタイプかな、と司は思いながら「今から注文するから一緒に選ぼう」とソファーに誘ってみれば就業時間中とは打って変わって千代子は素直に隣に座る。
それと同時に、司の私用のスマートフォン画面を覗き込む千代子の体からふわ、とシャンプーの匂いがした。
甘い花の香りの、心をくすぐる匂い。
これは、駄目だ。
確かに空調は一定とは言え、掃除や料理をしていればうっすら汗もかく季節。
千代子の動線を考えると自宅に戻ってからすぐに米を研いで炊飯器のスイッチを入れ、シャワーで汗を流してきたのだろうか。そして支度が終わる頃には米は炊けている、と。それをそのまま容器に詰め、部屋にやってきた。
「ちよちゃんおすすめの機種とかある?」
「そうですね……司さんのお部屋ならスタイリッシュな見た目の……」
隣に座った千代子はごく自然に、先ほどまで司が使ってそのままになっていたタオルケットを手にして畳みながら画面を覗き込んでいる。
「炊飯器でケーキが焼けるの?」
「しっとりふわふわのカステラみたいなやつですね」
「作った事あるんだ」
「もちろんです」
そのまま慣れた仕草で畳んだタオルケットをアームレストにぽん、と置く。
「買ったらリクエストしていい?」
「はい、ぜひ……でも司さんって案外こう、焼き菓子みたいな物が好きなんですね」
「ああ、それは」
それは、千代子が……くれたから。
全てが過去に通じている。
いつかのバレンタインデーの日、自分に差し出してくれたクッキー。友達同士で交換する用の、今もその辺のコンビニで売っているような既製品を可愛らしい袋に包んだだけではあったが、恥ずかしそうにはにかみながら渡してくれたあの日の笑顔を忘れた事は一度も無かった。
「これにしよう」
今はエントリーモデルでもどれを選んでも失敗は無いと言う千代子に使い勝手がいい合数を教えて貰い、ごく自然に上位機種の方を選ぶ。
千代子はとても何か言いたげではあったがそれは仕方ない。今の彼女の生活状況を鑑みた司は「楽しみだね」と軽く流してやる。
「そうだ、ちよちゃんはお酒大丈夫だったよね」
少し晩酌に付き合って、とお願いをすれば頷いて了承をしてくれる。
「ウイスキーはちょっと今の時間はきついだろうから……ちよちゃんはハイボールとか飲める?」
今や千代子の城となっているキッチンはいつも清潔に片付いていた。今は炊かれたばかりの保存容器に入ったご飯が冷まされてはいるが……グラスを用意する司はそれらすら愛おしいような視線を向けてから冷蔵庫を開ける。
「これ、開けて良い?」
冷蔵庫の中にはいつも一品だけ、つまみとして温めなくても良いような濃いめの味付けの物が用意されている。
つい数時間前に千代子が作って冷蔵庫にしまってくれていた保存容器を取り出していれば「それなら私も」と千代子も一緒にキッチンに立つ。
そうすればまた、千代子からシャンプーの良い匂いがしてしまう。
皿の用意を千代子に任せ、グラスを用意する司の指先に力が入る。
どこか沸き立ってしまう衝動を堪えるが上から見下ろすような身長差は彼女のラフなワンピース姿の首もとの、その奥を見てしまいそうになった。
女性に対して無礼な真似を、と司はすぐに視線を反らしたが相手は千代子だ。なんとも言えない切なさが込み上げてしまう。
「絶対に、私のペースに……飲ませ過ぎたか……」
ソファーの上で半身、崩れるように横になっている体に先ほど畳んでくれたタオルケットを掛ける。どうやら千代子の空きっ腹にアルコール、は駄目だったようだ。
頭を抱える司は松戸から「兄貴はウワバミだ!!」と言い放たれた事があった。そんな自分と最近は缶チューハイのひと缶も飲めないと言っていた千代子が釣り合うはずもない。
酔わせるつもりなんて無かった。
ただ、楽しくて……嬉しかったから。
司は心の中で言い訳を繰り返してしまう。
「んん……」
酔った彼女が眠ってしまうタイプで本当に良かった。
(本当に、良かったのか?)
掛けたタオルケットを掻き抱く千代子の姿。自分が使っていた、エチケット程度に付けている僅かな香水がしみているタオルケットを大切そうに胸に抱いて、クッションに深くうずもれている。
アルコールで染まった頬、薄く開いている唇。
なんて美しいのだろう。
触れてみたかった頬、奪ってしまいたかった唇が今、手の届く場所にある。
それを意識してしまえば途端に、千代子の全てを手に入れてしまいたくてたまらなくなる。
(ちよちゃん……)
屈みこんで、中指の腹でそっと頬に触れてしまった。
まるで禁忌を犯しているように心がざわつく。指の腹を滑らせれば思った通りに頬はすべすべとなめらかだった。
それにほんのり温かで、柔らかくて。
滑らせた指先のままに、唇の輪郭をなぞる。
異物を感じ取ったのかきゅ、と指を挟んだまま閉じられてしまう唇。
「……っ」
慌てて手を引いたが強く息を吐かなければ抑えられそうにもない。自分は酔った女性になんてことをしているのだろうか。こんなの最低だ。
――醜悪、だ。
きつく眉根を寄せた司は眠っている千代子に声を掛ける。
「ちよちゃん、起きて」
遅くなってしまったらいけないから。
「お願いだから」
独り善がりの醜い熱が、昇り切ってしまう前に。
ソファーの前に片膝をついた司は、とんとん、と彼女の手の甲を指先だけで叩く。
もう起きて、と何度も。その温かな手を握って、離さなくなる前に。
司の行動にやっと気が付いた千代子がうっすらと瞼を開けてどこか不思議そうな、とろんと蕩けた甘い表情で笑いかけ……その一回り大きい司の手を、指先を、浅く握ってしまった。
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