R18『千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~』

緑野かえる

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単話『これからも、ずっと』

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 その頃の司は執務室で芝山と日程調整を行っていた。

「どうです、若。先方は変更可能そうなニュアンスでしたので、入れ替えて」
「そうだな、昼なら時間はあるからな」
「兄貴、神宮外苑のクリスマスマーケットに行くなら幾つか周辺の良さそうな店ピックアップしておきましょうか?」
「頼む……私では思いつかん」
「案外そう言う所ありますからね」

 初恋の幼馴染と初めてのクリスマス。
 こりゃあもうしっかり気合入れなきゃッスよ、と松戸に言われた司もそこは正直に頷いていた。自分のサーチ力では及ばないと判断した司は松戸にトレンドを追って貰う事にして自らは――千代子はどんな時に一番笑顔になっているかを思い返す。

 やはり美味しい物を食べている時だろうか。
 それとも出掛けて……やはり美味しい物を食べている時だ。

「ちよちゃんはクリスマスに何作るんですかねえ」
「……ローストビーフとカボチャのキッシュとミルクシチュー」
「え、もうメニュー知ってるんスか」
「ああ。楽しみにしているが彼女の事だから他にも作るんだろうな」
「何スかその惚気と自慢は」

 全く兄貴は良い人を見つけちゃって、と松戸は手元の端末で千代子の好きそうな店を検索し始めようとしたがどうにも芝山の様子がおかしい。またしてもいたく感激した様子で「千代子さんの事ですから、若の為にケーキとかも焼くんでしょうな」と言葉を掛ける。
 確かに、千代子はケーキの事については言及していなかった。普段からホットケーキとパンケーキは冷凍されている程に彼女の好物であったが……シンプルな物が好きなのかもしれない。

 そして、可愛い物好きなのも知っている。

 少し寒くなって来たあたりでルームシューズがふかふかの物に代わって、ソファーに置いてあるクッションのカバーも最近は毛足の長い手触りの良い物に変わっていた。千代子の手で、自分でも流石に殺風景だと思っていたリビングに小さな明りが灯ったようで遅く帰って来て晩酌をしようとした時にも気を許している人との生活の温かさを感じていた。

 松戸が「色々まとまったら送っときますね」と言う。


 そして帰宅時間となった司はたまにはケーキを買って帰ろうと専属のドライバーにデパートに寄って欲しいと告げる。
 和と洋、様々なスイーツの専門店が並ぶセクションで少し目移りをしてしまうが出掛けた千代子もきっとこんな感じで選んでくれているのだろう、と思いをはせる。どれもきらきらと輝くようで、クリスマス商戦を前に客の獲得をしようとしているようにも司の経営者としての目には映るが今は千代子の為に、と少し見て歩く。

 司は何と言うか、こういったキラキラした物について本当に疎かった。自らが自覚し、松戸に外注してから検討した方が良いと思う程に情報が足りなかった。

 すると自分の前に同じ年頃の仕事帰りと見られる男女二人が仲良さそうにショーケースを見て回っているようで、何か参考になれば、とそっとその会話に耳を傾ける。

 千代子が一緒に居てくれるお陰で殆ど外食をしていない、と言うのは裏を返せば千代子を外に連れ出していないと言うことにもなる。
 もう危険は限りなく低く、自分のマンションに閉じ込めてしまわなくても大丈夫な筈なのに。

 聞き慣れない単語が女性の口から発せられる。
 知ってはいるけれど、食べた事はないもの。

(ちよちゃんは食べた事、あるだろうな)

 よくよく見れば洋菓子の店のショーケースの上などにも予約を受け付けていたりその日の分の物が売られていたりする。
 大きい物も、半分にカットされた物もある。


「それで、買ってきてくれたんですか?」

 革のビジネスバッグ以外に珍しく幾つかの紙袋を提げて帰って来た司は夕飯の用意をしていた千代子に「私も、目移りしてしまってね」といつも千代子が食品フロアの誘惑に負けている事をなぞらえて笑っている。

「シュトーレン、大好きです」

 紙袋を覗き込んでから取り出す千代子の仕草と声色から察するに本当に嬉しそうにしてくれているのが分かる。

「食後のデザートにさっそく食べましょう」

 これはパウンドケーキとかよりも薄く切って食べるんですよ、と教えてくれる千代子。
 他にもある程度日持ちする大きなクッキーやチョコレート菓子も買って来た司は瞳を丸く、そして少女のように輝かせている千代子に「お風呂入って来るね」と言づける。
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