R18『千代子と司 ～スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる～』

単話『これからも、ずっと』

(4/11)

　司が買ってきてくれたシュトーレンを大切に食べている千代子のとある日の昼下がり。
　その手にはスマートフォン、画面にはフルーツケーキの焼き方をレクチャーしている動画。ハイエンドモデルの高機能のオーブンレンジがあるので焼く事には問題ないけれど、上手に作れるかどうか。
　グラタンやラザニアなどの調理をする為にオーブン機能は普段から使っているから熱の加減は分かっている、筈。
　それでも繊細なお菓子作り――千代子はクリスマスケーキの代わりに、と司でも食べやすいように甘すぎないオトナな味のフルーツケーキを焼こうと考えていた。

　手間と言えばレーズンやドライフルーツをラム酒に漬ける程度とは言え明日あたりにでも練習としてレーズンだけのシンプルな物を焼こうか考える。
　この買ってきてくれたシュトーレンの味を司も気に入っていたみたいで、生クリームの乗ったケーキよりは焼き菓子寄りのものにしようと決める。

　司が買ってきてくれたプロの味や焼き加減とまでは行かなくても素朴な物が焼けたらな、と動画のサムネイルが表示されている画面を指先でなぞる。

　幾つか動画を見ながら紅茶を飲んで、候補を絞っていく。
　菓子にしろ普段の料理にしろ、このレシピや作り方を探す作業が千代子は好きだった。
　そしてキッチンの棚には千代子秘蔵のちょっと値の張るスーパーで買って来た製菓用の小麦粉がある。

　二人で楽しく食卓が囲めるだけでいい。贅沢は……ちょっとだけするけれど、とクリスマスまでが楽しみだな、と千代子は買い物リストにドライフルーツを足す。バターも早めに買っておかないと、と司との暮らしの楽しさを――そして買ってきてくれたシュトーレンの美味しさを噛みしめる。
　今日は一切れだけ、と思っていたがもう一切れ取り出してきて食べてしまったのは司には内緒だった。

　・・・

　季節がまた少し進む。
　クリーニングから帰って来た司の冬物の衣類をクローゼットにしまう千代子は同じく自宅で数回に分けて洗った物もジャンル分けをしてしまう。
　男性物のコートをラックに掛け、揃いのマフラーと手袋もひと目で分かる場所に置いておく。

　二人で快適に過ごせるように決めた幾つかの約束。
　洗濯をして欲しい物があればパウダールームの籠の中に入れて置いて欲しい事とか、どれもちょっとした事だったけれど司はずっと守ってくれている。

　帰宅が遅い日は相変わらず、千代子が保存容器に詰めてストックしているおかずを自分で出して食べているし、帰る時間が変更になる時は分かった時点で連絡をくれる。完璧な人、と千代子はいつも思っていた。
　だから、自分の両親への――これからの事について話し合う事に不安は無かった。ただ、タイミングが掴めずに言い出せないだけ。

　クリスマスマーケットに行く前に解決した方が楽しいクリスマスと年末を迎えられる。
　だから司が定時で帰って来る日に話をしよう、と千代子は決心する。