R18『千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~』

緑野かえる

文字の大きさ
29 / 40
単話『これからも、ずっと』

(9/11)※

しおりを挟む
 夜が更ければ、お風呂に入って……クリスマスマーケットで購入してきたブランケットを膝に掛けてまだテレビを見ていた千代子はもう先にお風呂を勧められていた。上がってきてみればキッチンにあった洗い物の予洗いも済んでいてちゃんとシンクの隅に寄せられていたのでやる事は殆どなく。

 これからすることは分かっている。
 でも司は疲れて……いないらしい。そう言えば食事の時にそんな事を言っていた。

 頬に勝手に熱が集まる。
 いつ鍛えているのか、会社で気分転換に軽くトレーニングをしているのか……スーツの仕立ての良さも相まって見た目はすらりとしていても素肌の司は筋肉質で張りのある体をしている。
 そして、色の無い墨の濃淡のみで彫られているカラス彫りの入れ墨の存在。ごく少数の人物しか知らない司の秘密。

 それに触れられるのは、自分だけ。

 企業経営者、冷静沈着、完璧な人……それらを幾ら並べても、それは表向きの顔。千代子の知っている司は優しくて心配性だし、すぐに甘やかそうとしてくるし、ちょっと味付けの濃い物が好きで、目を離すとワーカーホリックになっちゃうし――本当は、とても情熱的な人。

「ちよちゃん、眠い?」

 ふ、と意識が戻る。

「そのまま寝たら風邪引いちゃうから」

 髪を乾かしただけのバスローブ姿で困ったように笑う司。
 千代子は司が風呂から上がるのを待っていたがつい、程よいお酒と風呂上りの温かさにうたた寝をしてしまい司は自分をベッドに、就寝の意味で寝かせようとしてくれたけれど――いつもだったら寝間着を着て出て来る人がバスローブ姿で出て来る意味を千代子も勿論知っているから、合理的な人はどうせ脱いじゃうならこのままでいいんじゃないかと思っていただろうから。

 千代子は屈みこんでいた司の唇に自分の唇を寄せる。
 短く呻いた人をそのままソファーに膝をつかせて。

「ちよ、ちゃん」

 驚いている司に視線をずらした千代子。自分でキスをしておきながら恥ずかしくて視線が泳いでしまっている。

「そう言うのは私に任せて」

 ぐ、と深く沈みこんだソファーと改めて……深く、交わってしまう。
 呼吸を許してくれないような深いキスにギブアップする千代子の手すらきつく掴んで、離してくれない。

「んん……っ」

 身を捩って訴えた所でやっと離してくれたと思えば「リビングじゃ体冷えちゃうから、ね」と司の寝室に“連れ込まれて”しまう。お風呂の前にどうやらしっかり室温を上げていたらしい抜かりの無い男は愛している初恋の女性の体を丁寧に丁寧に扱い始める。

 それはされている方の千代子が恥ずかしくて枕を抱きかかえてしまう程だった。
 ただその枕は勿論、司が普段使っているもの。

「枕に嫉妬をする日が来るとは」

 まだ完全には素肌ではなかった千代子。
 今夜、彼女が身に着けていた下着は司も初めて見る物だったと言うか普段の千代子は洋服に響かないようにシームレスでシンプルな物が多く、夜も同じようにごくシンプルな物が多かったが……いつもの寝間着を捲ってみれば、だった。

 品の良いレース地、淡く肌に馴染む少しピンク寄りのヌーディーカラーが千代子の体の美しさを引き立てていた。
 すぐに脱がしちゃうのはもったいないな、と司も思ってしまっての行動は千代子に枕を抱き締められる結果となってしまっていた。

 じわ、と滲んでしまう程の愛情、こんな事ならまだ全部脱いじゃっていた方が恥ずかしくないかも、と気づく頃にはもう遅く。ショーツの上からなぞられる羞恥に小さく喘ぐばかり。

 自分の指先だけで濡れ乱れてゆく様子は美しい。
 彼女が魅せる大人の女性の片鱗――眉根を寄せた艶のある眼差し、快楽に漏らす吐息、その薄く開いた唇。喘ぐ声はか細くとも、体をよく見ていれば千代子が感じてくれている事など明らかだった。

「綺麗だな……」

 無意識に呟いた言葉に司もはっとして手を止める。
 涙目になっている千代子もその瞳を丸くさせて司を見上げ、抱き締めていた枕を隣に置いてしまう。そしてまだバスローブを羽織っていた司の体を引き寄せ、自分はどうやって溢れそうになる思いを表現したら良いのか分からないから、とぎゅっとすることで愛情を伝える。

 千代子の胸に抱かれる心地よさ。
 柔らかくて、温かくて、感情を伝えようとしてくれているその気持ちはちゃんと司の心に届いていた。

「ちよちゃん」
「……はい」

 そろそろ脱ごうか、と耳元で……絶対にわざと言った司に頬を真っ赤にさせた千代子。
 爽やかに、きっぱりと、まだ浮かせてもいない背に思い切り手を差し込まれてあっという間にホックを外され肩紐も抜かれて視界から消えて行く自分のブラジャー。ショーツも引きずり下ろされて無くなってしまう。

 待って、の言葉を全然聞いてくれない。

 それどころか司も羽織っていたローブの紐の結びを解いて本格的に千代子と素肌を重ねようとする。
 そして素肌と素肌が擦れ合い、千代子の閉じられている太ももを優しく撫でたりしている内に差し込まれるのは司の大きな手の指先。
 丁寧に、傷つけたりなどしないようにゆるく、それでも時々大胆に、甘い快楽に浅い呼吸を繰り返す愛しい人の胸や唇を啄ばみながら少し深い所まで丹念にほぐす。

 熱くて、とろけてきている千代子の意識と同様に司の差し込まれた指先もとろとろと溢れ出てくる蜜に濡れる。

「ちよちゃん。私のお願い、聞いて貰っても良い?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤクザは喋れない彼女に愛される

九竜ツバサ
恋愛
ヤクザが喋れない女と出会い、胃袋を掴まれ、恋に落ちる。

お客様はヤの付くご職業・裏

古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。 もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。 今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。 分岐は 若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺) 美香による救出が失敗した場合 ヒーロー?はただのヤンデレ。 作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

処理中です...