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単話『とある冬の日(司の視点)』 2025/03/20 new!!
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しおりを挟む「司さん、あの……ね」
彼女が本心を伝える時、言葉が少し砕ける。
私の方が年上だとしても、大人になった私たちの四歳差はさほど大きく離れているものではない。けれどちよちゃんはいつも私に丁寧に接してくれるから私も同じように返していた。
ちよちゃんが私に伝えてくれたことは今夜はベッドを共にしたい、と言うこと。それは単に一緒に寝るのではない方。ちよちゃんの心のゆらぎとか、体のこととかあるから私も様子見をして見送ることはあった。それが男とは体がまるで違う女性に対する大切な思いやりだと、パートナーと暮らすにあたって……ね、私いま、嬉しくて少し舞い上がってる。
恥ずかしそうにしているちよちゃんの申し出が嬉しくて、冬のもこもこのルームウエアを着ている体をつい、抱き寄せてしまう。
「ふふ、ちよちゃんふかふかだ」
抱き締めて、ベッドに寝転がる。
そうしたらもぞもぞと私のお腹のあたりにちよちゃんの手が伸びて来て。今夜はきっと積極的な気分なんだな、とそのままベッドの上でじゃれ合うようなことをしていたら勢いよく私の上衣が捲り上げられた。
「やっぱり」
何がやっぱりなのだろうか、と私が問いかける前に間髪入れずにちよちゃんは「お洗濯ものが少ないな、と思ってたんです」と言う。
もこもこなちよちゃんに見下ろされる私はずり上がっている自分の腹にしっとりとした指先があてられるのを感じて少し力が入ってしまった。
「司さんは薄着派ですか?」
以前にもちよちゃんにそんなことを言われたような……でも、考えてもみなかったな。
ずっと一人だったから、スーツばかりの毎日で他人の服装に頓着なんてしなかったし周りは芝山や松戸の勝手知った仲。
でも、ちよちゃんは違う。私のことを、知ろうとしてくれている。
すっかり大人になった私を……確かに極道の世界に半身浸かっていた私のことを彼女は深く知らない。それでも色々、私生活についても根掘り葉掘りと踏み込み、聞いてこないのも彼女の優しさだと思っていた。
ちよちゃんの持つ繊細な部分が大丈夫だったなら、聞いてくれたなら、私も全てを正直に話すのが筋だと考えていたけれど。
昔から変わらず優しいちよちゃんの私に対する興味関心はどうやら私が考えていたのとは違う方に向いているようだった。
「薄着……言われてみればそうかも」
「なんか私だけもこもこにふくれちゃってて」
ああ、なんて可愛いんだろう。
ちよちゃんと暮らすようになってから、今までの私は自分の皮膚にある墨色のような冷たく、色の無い日々を送っていたのだと気づかされる。
「今度、お揃いの部屋着でも買いに行こっか。ちよちゃんも気づいてると思うんだけど私の部屋着、こんな感じのスウェットしか持ってないから」
思い付きの提案にぱっと反応するちよちゃんがはにかみながら嬉しそうにしているのを見ていると私まで同じ気持ちになるんだ。
体の上に乗っていいよ、と誘ってみればおずおずと上半身を落として体重を掛けてくれるちよちゃんをもう一度抱き寄せて、甘い花の香りにくすぐられた心がもっと、温かくなる。
・・・
脱がしてしまうのもなんだかもったいないな、と思うくらいに私はちよちゃんのふかふかさを気に入ってしまったようだった。
それに私が中途半端に脱がせてしまったせいで身動きができなくなってしまっている姿は妙にその……正直に言うと欲を誘う。
なるべく優しく、出来る限り丁寧に。
今夜はちよちゃんが誘ってくれたから。
「司さん、みたいに……」
「うん?」
ぺたぺたと私の胸元に触れる手。
「鍛えてる、と……さむく、ない、とか」
「ああ、どうだろう。私は昔から結構薄着だったから、癖みたいな感じかな」
鍛えすぎて、体脂肪をあまりにも絞っても体に良くない。何事も自分の体と相談をして、なんて考えていれば「私も少し運動しないと」とちょっと落ち込んでいるような素振り。触り心地が良いからってちょっと、こう……ちよちゃんが考えるデリケートな部分に今夜は触れ過ぎただろうか。柔らかかったから、つい。
「多分、在宅仕事にしてから通勤時間がなくなって……スーパーとかには行くけど毎日は歩かなくなっちゃった、から」
ちよちゃんの気分が外に向いてきているのはいい傾向だけど私はどう答えたらいいのか正直、迷ってしまった。
この部屋に閉じ込めておきたいなんて最初は思ったけれど、それは違う。
今の彼女の思いや考えを尊重したい、と言うことだけは確かだから。
「あの、それで……スーパーに行くときはなるべく行きは遠回りにして、お散歩しようかな、って」
眉尻を落として恥ずかしそうに笑っているちよちゃんの姿に堪らな……いや、私は彼女のことが好きなのだと改めて思う。
半分だけ剥いていたもこもこごと抱き込んで、じたばたとするちよちゃんを離さないでいれば体はもっと、もっと、熱くなって。
大好き、愛しいの気持ちを今夜はいっぱい知って貰いたいな、と少しだけ悪い私の思惑が彼女の体に手を掛けた。
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