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単話『とある冬の日(司の視点)』 2025/03/20 new!!
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しおりを挟む色の無かった毎日。
いつものこと、と過ぎ去るばかり。
それはきっと諦めみたいなものだった。
「は、ふ」
腕の中にいてくれる人は頬を赤くさせて、私の胸の内を熱くさせてくれる。経営者として会社に赴き、必要な仕事と社交をして帰って来るだけの日々は変わっていないのに。
おかえりなさい、と出迎えてくれる人が今はいる。私はその人のことがずっと、ずっと……大好きだった。元気かな、って色の無い日々の中、心のどこかで求めてしまっていた。
これはすべてが偶然、奇跡みたいな話。
「ちよちゃん」
名前を呼んで、耳の先を少し吸ってみれば相変わらず身を竦めて小さくなってしまう彼女の手は、私の腕をしっかりと掴んで……時には彼女の方が私を抱き締めてくれる。私はその心地よさに甘えても良いのだと知ったんだ。
ちよちゃんと再会してまだ間もなかった頃。仕事も、裏社会の後始末についても全てを完璧にケリをつけようとしていた時、彼女は行きすぎた私の行動を止めてくれた事がある。
どこからがオーバーワークなのか私も気づかなくて、あの時は本当にちよちゃんに酷い事をしてしまった。
許して欲しいなんて甘い考えに至るなんて出来なかった私に彼女は……そう。私はいつも、この温もりに助けられている。
「千代子、愛してる」
びく、と跳ねた体に私は笑ってしまいそうになるのを堪えながらもう一度、彼女の耳元で大切な言葉を……。
・・・
大変なことになっちゃったな、と私も感じていた。
「ひゃ、ん……っく、んぅ」
もとより今夜はちよちゃんが誘ってくれて私の気分も、ね。多分お互いに結構、昂っていたと言うか、何と言うか。そんな日があっても全然、良いと思うんだけどちょっとこれは……やりすぎちゃったかもしれない。
私も丁寧に愛したかったんだけど、もうこれ以上は言い訳になってしまいそうだ。
大人同士の恋愛を越えた、結婚を前提にした私たち。ちよちゃんとは何でもない時にも戯れに軽いキスだってする。
今夜みたいに何でもなくない、夜の時間にはそれよりももっと……ね。
「っ、ん……く、い、く」
唇が外れた途端にうわ言のように私を感じながら言うちよちゃんは私の下で既にふにゃふにゃになりながら揺れていた。
何度も甘く、小さく果てているのが分かる。
「ひ、っ……!!」
でもちよちゃんはもうふにゃふにゃだから、私の首や背中に腕を回すことも出来ずに柔らかい胸元を寄せるように手を組んでいた。
その胸元は薄い汗でしっとりして、柔らかそうだな、って。
「ちよちゃん、触って良い?」
私もとんでもないことを聞いているな、と思ったけれど今はそう言う時間。こくこくと頷いて、私からの申し出を許してくれる姿が可愛くて、嬉しくて。緩く揺れながら彼女の胸の先に指の腹をあてればそこは完全に充血しきっていた。
「んッ」
指の腹で撫でる程度でも感じているんだな、と思っていたら涙目のちよちゃんが「なん、か……むずむず、する」と言う。
それを別の言葉で表現するとなると『疼く』だろうか。でも彼女が気持ちいいことを求めるのなら私は爪の先で、傷付けないように慎重に。
「ひゃ、あッ――!!」
引っ掻くまでとは行かずとも、私の爪の先はちよちゃんの敏感になっている胸の先を掻く。その度にびくびくと繋がり合っているところが収縮を繰り返すから、私も感じてしまう。
爪を立てたり、指の腹で少し押したりつねったり。下の方はみるみるうちに滑りが良くなっていくから私もつい、腰が進んでしまって。
「ちよちゃん、気持ち良いね」
必死にうん、うんと頷いてくれる彼女が可愛くて堪らない。
ただ、ふわふわのもこもこに囲まれている素肌のちよちゃんを愛せる嬉しさに私も気を取られていた。
「んく、ふふっ……つか、さ……さん、も」
ぺと、と私の胸元にちよちゃんの綺麗な爪の先。
まさか、と……そう、最近のちよちゃんは前よりうんと積極的になってきているから。
「ち、よ……ちゃ、ん」
「きもち、い?」
彼女はわりと好奇心が旺盛だった。
私の熱に触れたい、と指先を這わされた時もあってその時の私はどうしたんだっけ。
考えたら私も何だかそう、疼く。
「ちよちゃん……今日は、ありがとう」
「え、あ……んく、っ」
「すごく、嬉しかったんだ」
いま言っておかないと、このまま上がるばかりの荒ぶる熱に思考が支配されてしまうから。愛情に目が眩む前に言葉で伝えないと。
「つかさ」
「っ、ちよちゃん、それはだ、め」
私の下で、私の胸元をまだ指先で悪戯しながら笑っているちよちゃん。名前を呼ばれると弱いのはどうやらお互い様だったようで、しかもそれをすっかり覚えた彼女は……。
ああ、私の欲が膨らむ。
余裕を気取ってなんかいられない。
快楽を追及しようとする私の欲を受け止めてくれる彼女の身悶える体を抱き締めて、こうするとすぐいっちゃうんだったっけ、と悪い私は何度も何度も二人で気持ちよくなれるように……ね。
「千代子……ッ」
どんなに抱き締めたって足りない。
言葉にならない彼女の囁くように喘ぐ声に腹に力が入ればあとは込み上げてくるものに逆えず。スキン越しに彼女の中に出してしまえば……ああ、やってしまった。
ひ、と切ない呼吸を繰り返すちよちゃんの目尻には涙が溜まっている。これは明らかにやりすぎてしまったようだった。
誘ってくれたのもあるし、ふわふわもこもこのちよちゃんが可愛かったから。
翌朝、私の言い訳に眉根を寄せながらも聞いてくれている彼女はすっかり、またもこもこの姿になってリビングのソファーに座っていた。ちよちゃんに朝のコーヒーを淹れて持って来た私も隣に座って朝のニュース番組をちらりと見る。テーブルには私が温めたパンも置いてあった。
「ちよちゃん……また、誘ってくれる?」
「!!」
朝から何を、と言わんばかりに瞳を丸くさせているちよちゃんが可愛い。
けれどコーヒーの入ったマグカップを手にしながら「わかった」と小さく呟く彼女に私は今日一日、彼女をどれだけ甘やかせるか考えを巡らせ始めるのだった。
おしまい。
* * *
ちよちゃんも司も誰かに甘える、が上手く出来なかったので……そんな冬のおはなしでした。
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