5 / 5
最終話、撫子の花の意味
しおりを挟む
体力の残りカスをかき集めたようなふらふらの状態で宗君に心配されながらシャワーを浴びて、それから気を失ったように眠ってしまった。
目が覚めたのは昼前。
バスローブを体に引っ掛けただけで殆ど裸で寝てしまっていた私。起きてみればきちんと整えられているベッドルーム。
「……宗君」
ふらふらとリビングに顔を出せばしっかりとブラックスーツを身に纏ってどこかに電話をしている彼がいた。
外に出ていたのかな、と思ったけれど私の声にすぐ通話を切りあげてネクタイを緩める。多分、スケジュールを調整していたのかもしれない。
「まだ寝ていて下さい……無理をさせ過ぎました」
本当、あれだけしておいて何とも無さそうなのは流石、と言うか。
「今、夜の会食まで時間作ったんで明るい内は一緒に過ごせそうです。まあ会食と言っても撫子さんの……会長からのお誘いで」
「父の……ああ、思い出した。毎年恒例のやつ……私もそれ誘われていて……父親みたいな男性幹部ばっかりでむさくるしいから嫌、と言っていたんだけど」
宗君が行くなら行こうかな、と言えば彼の表情がパッと明るくなる。
「そうだ。こんな事をしてまで私たちをどうにかしたいのなら、いっそのこと外野が手出し出来ないくらいの仲なのだと見せつけてしまえばいいのかもね」
「あー……あとですね、ウチの親父も出席するようでまた二人で悪巧みと言うか、次は“愛の巣探しだ”とか言い出していまして。俺の父も本当に申し訳ない……俺が婿に入るから、支度金としてマンションを用立てたいと言って聞かなくて」
「そう、二人揃っているのなら本当にこっちから“カチコミ”に行くしかなさそうね」
私に流れている極道者の血が騒ぐ。
良いわよ、やってやろうじゃない。
「ちょっと、撫子さん?」
「お風呂入って来る。宗君、お昼ご飯お願い出来る?カチコミと決まったからにはお肉を食べたい気分なの」
・・・
俺の愛している人の気迫に尻込みしたのは親父たちだった。
彼女は正真正銘の極道者、女性に生まれただけであって芯にあるモノは筋金入りだった。
「育てて貰った恩はあるけれど、やりすぎなのよ……恩返しの為に納めている私の上納金が足りないってンなら今の倍額振り込んでやる……」
今、彼女に刃物でも渡したら絶対に駄目だな、と思いながら俺は彼女の――朝方まで俺の為にゆらゆらと揺らしてくれていた腰に手を当てる。瞬間的にひくん、と肩が跳ねたのが分かった。可愛い。
「撫子さん、落ち着いて」
お正月の祝いの席ですから、ともう一度撫子さんの腰に触れるとすっかりしゅん、と大人しくなってしまう。まだ、その体に俺との余韻が残っているのか……本当は寝ていたい、俺だって寝かせておいてあげたかったけれど。
俺は撫子さんのこう言う性格を愛している。
強くて、可愛い人。
「宗く……あ、」
一応、成人を過ぎたあたりからの撫子さんは他人の目がある場所では俺の立場もあって“宗一郎さん”と呼んでくれていたけれど流石にあれだけベッドの中で名前を呼ばれちゃうとね。
親父たちとそう歳の変わらない幹部連中たちが何かを堪えるように下を向いているけれどもう完全に吹っ切れている撫子さんは言う。
「宗君と私で決める事だから、手出し無用!!」
泣く子も黙る極道の親父二人を前に派手に啖呵を切る女傑。
その柔らかな胸には白い撫子の花を咲かせて……そう、確か白い撫子の花の花言葉は“才能”で、俺が胸に彫った赤い撫子は“燃えるような愛”だった。名は体を表すと言うけれど本当に俺の愛している人は才のある、愛情深い人だった。
おしまい。
・・・
あとがき
普段の作者緑野は男性が少しだけ年上のスパダリヤクザ物をよく書いているのですが今回は少しだけ年下の設定にしてみました。
わんこ系過ぎず、でも相手の女性に大好きを隠さないオトコに仕上げたかったのですがいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけたなら幸いです。今年もどうぞ、緑野の作品をよろしくお願いいたします。
目が覚めたのは昼前。
バスローブを体に引っ掛けただけで殆ど裸で寝てしまっていた私。起きてみればきちんと整えられているベッドルーム。
「……宗君」
ふらふらとリビングに顔を出せばしっかりとブラックスーツを身に纏ってどこかに電話をしている彼がいた。
外に出ていたのかな、と思ったけれど私の声にすぐ通話を切りあげてネクタイを緩める。多分、スケジュールを調整していたのかもしれない。
「まだ寝ていて下さい……無理をさせ過ぎました」
本当、あれだけしておいて何とも無さそうなのは流石、と言うか。
「今、夜の会食まで時間作ったんで明るい内は一緒に過ごせそうです。まあ会食と言っても撫子さんの……会長からのお誘いで」
「父の……ああ、思い出した。毎年恒例のやつ……私もそれ誘われていて……父親みたいな男性幹部ばっかりでむさくるしいから嫌、と言っていたんだけど」
宗君が行くなら行こうかな、と言えば彼の表情がパッと明るくなる。
「そうだ。こんな事をしてまで私たちをどうにかしたいのなら、いっそのこと外野が手出し出来ないくらいの仲なのだと見せつけてしまえばいいのかもね」
「あー……あとですね、ウチの親父も出席するようでまた二人で悪巧みと言うか、次は“愛の巣探しだ”とか言い出していまして。俺の父も本当に申し訳ない……俺が婿に入るから、支度金としてマンションを用立てたいと言って聞かなくて」
「そう、二人揃っているのなら本当にこっちから“カチコミ”に行くしかなさそうね」
私に流れている極道者の血が騒ぐ。
良いわよ、やってやろうじゃない。
「ちょっと、撫子さん?」
「お風呂入って来る。宗君、お昼ご飯お願い出来る?カチコミと決まったからにはお肉を食べたい気分なの」
・・・
俺の愛している人の気迫に尻込みしたのは親父たちだった。
彼女は正真正銘の極道者、女性に生まれただけであって芯にあるモノは筋金入りだった。
「育てて貰った恩はあるけれど、やりすぎなのよ……恩返しの為に納めている私の上納金が足りないってンなら今の倍額振り込んでやる……」
今、彼女に刃物でも渡したら絶対に駄目だな、と思いながら俺は彼女の――朝方まで俺の為にゆらゆらと揺らしてくれていた腰に手を当てる。瞬間的にひくん、と肩が跳ねたのが分かった。可愛い。
「撫子さん、落ち着いて」
お正月の祝いの席ですから、ともう一度撫子さんの腰に触れるとすっかりしゅん、と大人しくなってしまう。まだ、その体に俺との余韻が残っているのか……本当は寝ていたい、俺だって寝かせておいてあげたかったけれど。
俺は撫子さんのこう言う性格を愛している。
強くて、可愛い人。
「宗く……あ、」
一応、成人を過ぎたあたりからの撫子さんは他人の目がある場所では俺の立場もあって“宗一郎さん”と呼んでくれていたけれど流石にあれだけベッドの中で名前を呼ばれちゃうとね。
親父たちとそう歳の変わらない幹部連中たちが何かを堪えるように下を向いているけれどもう完全に吹っ切れている撫子さんは言う。
「宗君と私で決める事だから、手出し無用!!」
泣く子も黙る極道の親父二人を前に派手に啖呵を切る女傑。
その柔らかな胸には白い撫子の花を咲かせて……そう、確か白い撫子の花の花言葉は“才能”で、俺が胸に彫った赤い撫子は“燃えるような愛”だった。名は体を表すと言うけれど本当に俺の愛している人は才のある、愛情深い人だった。
おしまい。
・・・
あとがき
普段の作者緑野は男性が少しだけ年上のスパダリヤクザ物をよく書いているのですが今回は少しだけ年下の設定にしてみました。
わんこ系過ぎず、でも相手の女性に大好きを隠さないオトコに仕上げたかったのですがいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけたなら幸いです。今年もどうぞ、緑野の作品をよろしくお願いいたします。
11
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
お客様はヤの付くご職業・裏
古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。
もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。
今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。
分岐は
若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺)
美香による救出が失敗した場合
ヒーロー?はただのヤンデレ。
作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる