R18/SS『秘して色づく撫子の花 ~甘え上手な年下若頭との政略結婚も悪くない~』

緑野かえる

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最終話、撫子の花の意味

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 体力の残りカスをかき集めたようなふらふらの状態で宗君に心配されながらシャワーを浴びて、それから気を失ったように眠ってしまった。

 目が覚めたのは昼前。
 バスローブを体に引っ掛けただけで殆ど裸で寝てしまっていた私。起きてみればきちんと整えられているベッドルーム。

「……宗君」

 ふらふらとリビングに顔を出せばしっかりとブラックスーツを身に纏ってどこかに電話をしている彼がいた。
 外に出ていたのかな、と思ったけれど私の声にすぐ通話を切りあげてネクタイを緩める。多分、スケジュールを調整していたのかもしれない。

「まだ寝ていて下さい……無理をさせ過ぎました」

 本当、あれだけしておいて何とも無さそうなのは流石、と言うか。

「今、夜の会食まで時間作ったんで明るい内は一緒に過ごせそうです。まあ会食と言っても撫子さんの……会長からのお誘いで」
「父の……ああ、思い出した。毎年恒例のやつ……私もそれ誘われていて……父親みたいな男性幹部ばっかりでむさくるしいから嫌、と言っていたんだけど」

 宗君が行くなら行こうかな、と言えば彼の表情がパッと明るくなる。

「そうだ。こんな事をしてまで私たちをどうにかしたいのなら、いっそのこと外野が手出し出来ないくらいの仲なのだと見せつけてしまえばいいのかもね」
「あー……あとですね、ウチの親父も出席するようでまた二人で悪巧みと言うか、次は“愛の巣探しだ”とか言い出していまして。俺の父も本当に申し訳ない……俺が婿に入るから、支度金としてマンションを用立てたいと言って聞かなくて」
「そう、二人揃っているのなら本当にこっちから“カチコミ”に行くしかなさそうね」

 私に流れている極道者の血が騒ぐ。
 良いわよ、やってやろうじゃない。

「ちょっと、撫子さん?」
「お風呂入って来る。宗君、お昼ご飯お願い出来る?カチコミと決まったからにはお肉を食べたい気分なの」

 ・・・

 俺の愛している人の気迫に尻込みしたのは親父たちだった。
 彼女は正真正銘の極道者、女性に生まれただけであって芯にあるモノは筋金入りだった。

「育てて貰った恩はあるけれど、やりすぎなのよ……恩返しの為に納めている私の上納金アガリが足りないってンなら今の倍額振り込んでやる……」

 今、彼女に刃物でも渡したら絶対に駄目だな、と思いながら俺は彼女の――朝方まで俺の為にゆらゆらと揺らしてくれていた腰に手を当てる。瞬間的にひくん、と肩が跳ねたのが分かった。可愛い。

「撫子さん、落ち着いて」

 お正月の祝いの席ですから、ともう一度撫子さんの腰に触れるとすっかりしゅん、と大人しくなってしまう。まだ、その体に俺との余韻が残っているのか……本当は寝ていたい、俺だって寝かせておいてあげたかったけれど。

 俺は撫子さんのこう言う性格を愛している。
 強くて、可愛い人。

「宗く……あ、」

 一応、成人を過ぎたあたりからの撫子さんは他人の目がある場所では俺の立場もあって“宗一郎さん”と呼んでくれていたけれど流石にあれだけベッドの中で名前を呼ばれちゃうとね。
 親父たちとそう歳の変わらない幹部連中たちが何かを堪えるように下を向いているけれどもう完全に吹っ切れている撫子さんは言う。

「宗君と私で決める事だから、手出し無用!!」

 泣く子も黙る極道の親父二人を前に派手に啖呵を切る女傑。
 その柔らかな胸には白い撫子の花を咲かせて……そう、確か白い撫子の花の花言葉は“才能”で、俺が胸に彫った赤い撫子は“燃えるような愛”だった。名は体を表すと言うけれど本当に俺の愛している人は才のある、愛情深い人だった。


 おしまい。

 ・・・

 あとがき

 普段の作者緑野は男性が少しだけ年上のスパダリヤクザ物をよく書いているのですが今回は少しだけ年下の設定にしてみました。
 わんこ系過ぎず、でも相手の女性に大好きを隠さないオトコに仕上げたかったのですがいかがでしたでしょうか。
 楽しんでいただけたなら幸いです。今年もどうぞ、緑野の作品をよろしくお願いいたします。
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