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第6話
勝てば官軍、ヤッたもん勝ち (3)
しおりを挟む本当の偉明はよく笑う人なのだろうか。
じとーっとした琳華の遠慮を捨てた視線に偉明は「気が休まるのは執務室にいる時くらいだ」と素の心情らしきものを吐露する。
「偉明様、もう色々と遠慮をしない発言をしてもよろしいでしょうか」
「ああ、その方が話は早く進む。非常に合理的だ」
「わたくしの甘く、しょっぱい思想や素行は置いといて、なのですが……秀女の中によくない家柄の者がいると言うのは本当なのでしょうか」
「正確にはその父親だな」
「やはり正室、あるいは生母の外戚と言うのはとても地位が」
頷く偉明に琳華は自分の父親の顔が浮かぶ。
「ご息女が今考えている顔を当ててやろうか」
「わたくしの心を読まないでください」
「しかし周先生なら」
琳華と偉明の声は『やりかねない』と重なる。確かに琳華の父の剛腕さならなそうなのだが仕事をしている父を多く知っているのは間違いなく自分よりも偉明の方。
「ふふっ」
ここでやっと琳華が息を漏らすように小さく笑い、偉明も鼻で軽く笑う。
「まあ、そうだな。話を戻すと……伯家と劉家だ」
「丹辰様と愛霖様の」
「ああ。目星はその二つの家。何故か、と言う顔をしているが……内定調査の結果と言っておこうか」
「ではわたくしのように親衛隊の方や父のような人物から依頼され、調べている方が他にもいらっしゃるのですか」
琳華の問いかけに対してしっかりと頷く偉明は「手駒と言ったら聞こえは悪いが全ては宗駿様の御身の為だ。宮正の中にもこの件を知っている者がいる」と言う。
「先ずはそうだな、伯家。あの派手な娘がそうであるように血の気の強い一族だ。どこにいようが自分が一番でなくてはならない。何かにつけてすぐに徒党を組もうとする油断ならない一族だ」
思い当たる節ならいくらでもある、と偉明の声に賛同するように頷く琳華は伯家に黒い噂が立つのは分かる気がした。寄宿楼の一番良い一人部屋を与えられているのも琳華ではなく丹辰だ。客人の格によって部屋が決まるとは言え、本来ならば最年長であり父親の立場的にも琳華が使うような場所。
それに丹辰は入宮の初日から“友人”を作ろうとした。
単なる普通の友人として、ならば良いのだが琳華の目にはあまり良くは映っていない。丹辰は自分が一番であり、場を仕切ろうともしていた。皆に声を掛け、自分の思い通りになりそうな子を探して……よくある話だが琳華は父親の兵法書を熟読した事があるのでそれは明らかに人を掌握する術だと解釈をしている。
「偉明様のおっしゃる通り、ここ数日の丹辰様の動向は……そうですね。わたくしがこの組紐を賜って筆頭となった事にも不満を抱いているようです」
「それはそうだろう。我々の意向により秀女に関わる権限が強い女官たちを意図的に取り込んだのだ」
「意向と言うよりもそれは強硬手段……」
「周先生の教えは」
「先手必勝、勝てば官軍、つまりはヤッたもん勝ち」
うんうん、と頷く偉明に琳華は再び恥ずかしくなる。
彼にも父親の意思が随分と侵食している気がするが別に兵法的に間違ったことは言っていない。
「だがその周先生が若干、遅れをとっているのだ」
「あの父が……?」
「あの周先生が、だ。伯家も名門だが周家とは毛色が違う。伯家は主に武闘派の改革派。武力規模ならば周先生より持ち駒が多いだろう。周先生はわりと中道的でな。そのどちらともつかずの割に権力を使って物事を動かしているのが伯家にとっては大層気に入らないようだ」
「丹辰様にもその強い思いがおありだと考えれば……わたくしのような欲を見せない“公平さ”をかたる者が気に入らないのも分かる気がします」
「だがここ数日でご息女も相当、猫の皮が増えたようだ」
むぐ、と唇を結ぶ琳華。
確かに偉明に言われてから琳華も随分とおしとやかに、しなやかな振る舞いをするようになっていた。
余裕のある大人の女性のように、丹辰との会話にも半分くらいは応えてやりつつも明確に線引きをしている。
「伯家は外戚を狙っている。あからさまであるが元からあの家は豪商の系譜も持っていて欲も強い。他国との物品のやり取りも多いのだが近年、現在の皇帝陛下の代になってからの緊縮政策に反感を抱いていた」
簡単に言えば伯家は今まで出来ていた派手な商売の状況が芳しくない。そんな中で年頃の丹辰は見目や頭も良く統率能力にも優れ……伯家は丹辰を介し宗駿皇子に取り入り、動きが鈍くなっている商売を動かそうとしているのではなかろうか。
それに以前から許可を得ながら他国と取り引きをしていた、ともなれば裏で禁制品も扱っていた可能性も高い。しかし当代の皇帝の緊縮政策によって流通そのものが随分と少なくなった、と偉明は言う。
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