10 / 11
10
が、排気口から4階のエレベーター前に戻るとそこは乱闘騒ぎの真っ只中。
池内が孤高奮戦。
見覚えのある男四人相手に大立ち回りをしていた。
小柄な公安部エースは、身長差を諸共しない。
既に一人は廊下中央に倒され、血の気が溢れる雄叫びを上げて向かってきた男の頭を廊下の窓に冴え渡る蹴り一発でふっ飛ばしていた。
「だ、大丈夫ですかっ」
「あー、わりぃ。
カメラの見落としがあったみたいでさ」
池内は肩で息をするものの、大きな負傷を抱えている様子はない。
エレベーター前のスペースが狭いため、壁を背にした池内相手に、四人で一斉に襲い掛かることは出来なかったようだ。
三谷は、天井裏を移動中に慌てて出ていく気配は感じていた⋯すぐにそれが今の状況と結びつかなかったことに申し訳無いと平謝り。
自分がその時急いで戻れば、こんな足止めをして貰わずに一緒に逃げる事もできた筈だ。
起こったことは仕方ないだろうと、池内に「そんな場合じゃねぇ」と睨まれ、慌てて三谷も身構える。
二対三。
先に狙われたのは、体力を消耗している池内だった。
三谷が引き受けようと前に出たが、武術の心得がある男から止まっていたエスカレーターの中に引きずられてしまう。
エレベーターが閉まらないよう、三谷は上着を脱いで扉に噛ませながら男の拳を避けて反撃の様子をうかがう。
外では、池内が羽交い締めにされ正面から頭を消火器で殴打されていた。
三谷の視界に、咄嗟に目眩で動けない池内の首に散々手こずらせた礼だと初老の男の懐から出てきた注射器が刺さるのが見える。
「おいっ、やめろっ」
「メチャクチャ気持ちよくなる薬だぜ。
お前にも打ってやるぜっ」
目の前でせせら笑う男の腹を蹴り上げ、ひるんだ隙に腕を捩じ上げながら体重をかけて床に倒す。
男の肩がボキッと嫌な音を立て、その腕がダラリと伸びて悲鳴が上がったが知ったことか。
三谷は池内を守るため、即座に踵を返したが間に合わない。
池内の首に注入された薬が何か、注射器の保護材が針先から落とされた時点で三谷には匂いでわかってしまった。
開放された池内が、首を掻きむしり倒れる。
戦力外の池内に背を向け、エレベーターの中の三谷に襲いかかる二人。
絶望で動きが止まった三谷に喝を入れたのは、他ならぬ池内だった。
「マトリが、クスリに負けるかぁあっ」
根性で踏み止まり、背を向けた男目掛けて拾った消火器を投げつける。
薬による興奮状態で、力のセーブが効いていない。
投げつけられた男は転倒し沈黙。
驚いて振り返った男目掛け、全力のラリアート。
「ゲヘェッ」と奇声をあげた男は、白目を剥いて仰向けに倒れた。
「おい⋯無事か⋯?」
フラフラと三谷の前まで歩いて来た池内は、尋常ではない汗を全身から吹き出し呂律も怪しかった。
三谷は池内を抱き留め、止めどなく溢れそうになる謝罪の言葉を飲み込み歯を食いしばった。
死かΩか。
選択の時間は、この人に僅かも残されていない。
※ ※ ※
池内が孤高奮戦。
見覚えのある男四人相手に大立ち回りをしていた。
小柄な公安部エースは、身長差を諸共しない。
既に一人は廊下中央に倒され、血の気が溢れる雄叫びを上げて向かってきた男の頭を廊下の窓に冴え渡る蹴り一発でふっ飛ばしていた。
「だ、大丈夫ですかっ」
「あー、わりぃ。
カメラの見落としがあったみたいでさ」
池内は肩で息をするものの、大きな負傷を抱えている様子はない。
エレベーター前のスペースが狭いため、壁を背にした池内相手に、四人で一斉に襲い掛かることは出来なかったようだ。
三谷は、天井裏を移動中に慌てて出ていく気配は感じていた⋯すぐにそれが今の状況と結びつかなかったことに申し訳無いと平謝り。
自分がその時急いで戻れば、こんな足止めをして貰わずに一緒に逃げる事もできた筈だ。
起こったことは仕方ないだろうと、池内に「そんな場合じゃねぇ」と睨まれ、慌てて三谷も身構える。
二対三。
先に狙われたのは、体力を消耗している池内だった。
三谷が引き受けようと前に出たが、武術の心得がある男から止まっていたエスカレーターの中に引きずられてしまう。
エレベーターが閉まらないよう、三谷は上着を脱いで扉に噛ませながら男の拳を避けて反撃の様子をうかがう。
外では、池内が羽交い締めにされ正面から頭を消火器で殴打されていた。
三谷の視界に、咄嗟に目眩で動けない池内の首に散々手こずらせた礼だと初老の男の懐から出てきた注射器が刺さるのが見える。
「おいっ、やめろっ」
「メチャクチャ気持ちよくなる薬だぜ。
お前にも打ってやるぜっ」
目の前でせせら笑う男の腹を蹴り上げ、ひるんだ隙に腕を捩じ上げながら体重をかけて床に倒す。
男の肩がボキッと嫌な音を立て、その腕がダラリと伸びて悲鳴が上がったが知ったことか。
三谷は池内を守るため、即座に踵を返したが間に合わない。
池内の首に注入された薬が何か、注射器の保護材が針先から落とされた時点で三谷には匂いでわかってしまった。
開放された池内が、首を掻きむしり倒れる。
戦力外の池内に背を向け、エレベーターの中の三谷に襲いかかる二人。
絶望で動きが止まった三谷に喝を入れたのは、他ならぬ池内だった。
「マトリが、クスリに負けるかぁあっ」
根性で踏み止まり、背を向けた男目掛けて拾った消火器を投げつける。
薬による興奮状態で、力のセーブが効いていない。
投げつけられた男は転倒し沈黙。
驚いて振り返った男目掛け、全力のラリアート。
「ゲヘェッ」と奇声をあげた男は、白目を剥いて仰向けに倒れた。
「おい⋯無事か⋯?」
フラフラと三谷の前まで歩いて来た池内は、尋常ではない汗を全身から吹き出し呂律も怪しかった。
三谷は池内を抱き留め、止めどなく溢れそうになる謝罪の言葉を飲み込み歯を食いしばった。
死かΩか。
選択の時間は、この人に僅かも残されていない。
※ ※ ※
あなたにおすすめの小説
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
俺以外を見るのは許さないから
朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。
その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。
(女性と付き合うシーンもあります。)
※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。