未来の殺戮王は愛に溺れる

三日月

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信心する神に選ばれましたが全力でお断りしたい

2 従者に笑われて既に心が折れそうです

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「レオン、私は何かしてしまったのだろうか?」

視線に耐えかね、レオンの指先まで刺青の入った褐色の掌に力を込める。
冷や汗でじっとり濡れている小心さにレオンは心中笑いを堪えた。
御柱と五柱が出席した会合で、神殿の御旗を立てた豪華な馬車を用意することに反対したのはツィードだ。
提案された馬車で来ていれば、ここで止められることなく城内へ入れただろうに。

神への寄附を神官のための馬車に使う必要はない。

ツィードは、誰よりも神の教えに忠実な神官。
盲信しているからこそ言動は自信に満ち、他の神官は何を言ってもこれは無駄だと早々に諦めた。
神殿は、舗装された道路のある最寄り町まで二時間以上かかる森の中にある。
こんな馬車に乗ってまで、出来レースと王族関係者に噂される神事に参加したがる神官はおらず、選択の儀はツィードに押し付けられた。

ツィードはルクアの端にある神殿に近い村に生まれ、毎週末教会への礼拝を欠かさない一般的な家庭で育った。
たまたま、その村に巡礼に訪れた神官が。
たまたま、教典を暗唱していた5歳のツィードに気づき、選ばれた人間しか通えない神学校へ推薦した。
ツィードが入学試験を受ける前、村人は文字の読み書きが出来なかった子どもがいつ教典を覚えたのかと不思議がっていたが。
村から神官を出せるとなった途端、その疑問は誰の頭からも消えていた。

そこから。

たまたま、ツィードを虐めようとした上級生が病気で学校を次々去り。
たまたま、実習として巡礼に行く予定の村で疫病が流行り中止になり。
たまたま、ツィードを押し倒そうとした同僚が発作で倒れ。
たまたま、神殿の隠し扉に気付いて貴重な資料を見つけ。
その功績から、たまたま、空席だった五柱にツィードは滑り込んだ。
ツィードの周りで次々起こる偶然に、神殿では特別待遇。
入学してから今に至るまでの16年間、神学校を内包する女子禁制の神殿敷地内の外へ一歩も出ずにひたすら祈りを捧げていた。
悪路の旅にも、大勢の不躾な視線にも耐性が無かった。

「さぁ?
それより、身体検査があちらの詰所であるそうですよ。
お急ぎください」

降りてこようとしないツィードに詰所の兵士が不審の目を向けている。
レオンは、外堀の視線を遮るようにツィードの脇に立ち促す。
ツィードは急かされやっと地面に足を下ろした。
体格のよいレオンが一回り以上大きく見えるが、実際のところ172cmのレオンと170cmのツィードの差は殆ど無い。
ただ、神殿に引きこもっていたために、長年日に焼けたことがない肌は新雪よりも白く。
教典以上に重いものを持ったことがない身体は、肉付きも薄い。
従者として雑用をこなすレオンに比べると、華奢で小さく見える。
二人が並ぶとそれが顕著に現れた。
ツィードが視線を避けた結果、城を取り囲む外壁側を見ることになった。
姿が映りそうなほど無駄に磨きあげられた石で建造された白の外壁は、いったいどこまで続いているのだろうか。
壁の端が見えない。
ルルドが人と交わりその長子直系が王族とされているが、ツィードはそれを王族が都合よく作ったものだと信じていなかった。
神は神、人は人。
交わるほど親密な関係など有り得ない。
ルルドは、我々をあるべき道へと導いてくださる絶対神。
その神を祀る神殿より、何故城が大きいのだ?
年不相応にぽかーんと口を開けた間抜けな顔を前に、レオンは堪えきらず吹き出した。
ツィードは、慌てて口を閉じて澄ました顔を作ったがその耳は羞恥で赤く染まっていた。

「どうぞこちらへ」

兵士は、口を引き締め詰所へと誘導する。
ツィードは、腹を抱えて笑う従者を睨み付け詰所に向かった。
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