未来の殺戮王は愛に溺れる

三日月

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信心する神に選ばれましたが全力でお断りしたい

4 何が起こっているのかさっぱりわかりません

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アルスが隣に来た気配で、ツィードは我に返った。
誰も選ばれなかった時の段取りを忘れて聞きに来たのだと思い、自分がどこかで失敗してしまったのではないかという不安を抑え向き合う。

「王子、器はあちらの台座に・・・」
「お前の花弁がまだだから来てやったぞ」

小生意気な口調で遮られ、ツィードは初めてその顔を正面から捉えた。
王にも王妃にも、まるで似ていない。
この国で一般的な黒髪黒目ではなく、燃えるように赤い髪と赤い瞳の小柄な少年が王族の正装姿でそこにいた。
まるで、毒した大地を浄化の炎で焼き払い、再生をもたらしたルルド神のようだと心が奪われる。
出発前、王子の誕生の儀に立ち会った御柱から王子はルルドの化身のようだったと聞き、なんと不敬な例えをするのだとその時は眉をひそめたのだが。

「神より託された花弁を手にした者は、全員この水面に浮かべるのが習わしだ」

王子は「自分の儀だから事前に調べている」と得意気に笑い、ツィードに白い花弁が浮いた水面を向ける。
た、確かに、そうなのだが。
私は、この儀を神に代わり進行する神官でしかも男だ。
果たして余った花弁を私に託されたと受け取れるだろうか?
ツィードの知る限り、選択の儀に神官が参加した記録は残っていない。
沈黙を破ったのは、壁際で待たされていた姫君達だった。

「神官様、早く花弁を入れてくださいっ」
「儀を進めてくださいっ」

そうすれば、次は自分が選ばれる番だ。
そこには先程まで真摯に神へ祈っていた姿などなかった。
闇の中で欲望に染まった瞳がギラギラと輝く。
この国の武力と資源を得るために国を背負ってこの場にいるのだ。
ツィードは、その迫力に押されて花弁を摘まんでしまった。
すると、水面を埋めていた白い花弁が流れ中央へ自然と隙間が出来る。
不思議な現象を前に、ツィードと王子は顔を見合わせた。

「神官にも不思議な力があるのだな」
「私は何もしていませんよ?」

首を傾げながら、花弁を慎重に中央へ落とす。
水面に浮かんだ赤い花弁とそれを取り囲む白い花弁。
ゆらゆらと僅かに揺れて止まった。

「・・・変わらんな」
「変わりませんね」

これは、どういうことなのだろう。
異様な空気に気付いた姫君達が、作法を無視して深皿を覗きこみにやって来る。
そこからは、混迷。
ツィードに食って掛かるか、王子に言い寄るか。
二手に別れた姫君達によって、厳かな祈りの間が荒らされる。
外で待機していた兵士が異常に気づいて入ってくるまで、ツィードは姫君達から選択の儀の失敗を責められ詰られ散々な目にあった。
兵士に守られその場を後にしたツィードは、神官の役目を果たせなかった自分に深く落ち込み部屋に戻るなりレオンに泣き付く。

「や、やはり、私には荷が重かったのだ!」
「何か・・・あったんですねぇ」

袖が引きちぎられた衣装と険しいツィードの表情から察するレオン。
選択の儀を台無しにしたと繰り返すツィードに辛抱強く付き合い、事の顛末を聞き出すと成る程と呟き一考。
一度身を清めた方が良いでしょうと、ベットで丸くなった主に無理矢理沐浴を進め、部屋から主を連れ出した。
城内は、神官が王子の運命の相手に選ばれる前代未聞の結果に大騒ぎ。
ツィードは、廊下で人とすれ違うだけで身を縮めて震えていた。
無人の沐浴場に到着すると、下着姿のレオンに水をかけられながらこれからどうするべきかを考える。
まずは、選択の儀のやり直し。
王子と姫君達への謝罪と許可を得て、神殿へ花弁を摘みに・・・いや、その前にルルド神へ私に神官の資格があるのかをまず尋ねなければ。
冷たい水を浴びた身体より、頭が冷える。
信仰を奪われたら、これからどうやって生きていけば良いのだ。
足取り重く沐浴場を出たツィードは、更衣場で用意されていた衣装の珍妙さに動揺。

「こ、こ、ここここっ」
「ツィード様、鳥の鳴き真似ですか?」
「そんなわけ、あるかっっ
なんだ、これはっっ」
「まぁまぁ」

濡れた身体を拭いてやりながら、レオンの服を寄越せとごねるツィードをやり過ごす。
刺繍の施されたシースルーの貫頭衣。
小柄な女性が身につければ扇情的でそそられるのだろうが・・・見慣れたツィードでは滑稽で笑えるな。

「おいっ、まさかこれ一枚で移動しろと言うんじゃないだろうな!」

従者の前では平気で裸体も晒すが、流石に城の中をこれで歩くのは嫌がるか。
その辺りの常識は身に付けているのだなと半ば感心しながら、レオンは嫌がるツィードの手を取り廊下に出てしまった。
先程とは打って変わり、静まり返った廊下。
既に次の儀へ移った城内は人払いがされていた。

「誰もいないのだな?」

レオンを壁にして歩いているツィードは、不思議そうに、だがこの姿を誰にも見られないことに安心して自分がどこに向かっているのかわかっていなかった。
上がったことのない階段や廊下を通り、レオンが向かった先。
そこに待っていたのは、寝室で待つ王子だった。

「待ちかねたぞ。
さぁ、契りの儀を行うぞ」

扉の前で動けなくなったツィードを、レオンは強引にアルスの前へ歩かせる。
口は悪くても優しいレオンから乱暴な扱いを受けていることも、契りの儀を迫る王子もツィードには理解出来なかった。
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