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二十日後
記録その3
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――記録その三。
しばらく、カナタは人魚を相手に実験を繰り返した。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚などの感覚を調べ、どれもそれが人間とほぼ同程度か、あるいはそれ以上の鋭さを持っているらしいことを知る。
「人魚、餌だぞ」
「…………!」
珍しく起きていた人魚が、カナタを見て水槽の中で身体をばたつかせた。
「喜んでるのか?」
「…………」
「……そうだったら、ちょっとはかわいいと思えたかもしれないけどな」
人魚は、何も応えない。
***
――○月×日。
先日、また面白い話を聞いた。この『人魚』と呼ばれる生き物は、もう何十年に渡ってここで研究され続けているらしい。その年月も『人魚』という呼び名の理由のひとつだと聞いて、ある意味で納得がいった。
だが、そこで気になるのは今までの研究員たちだ。確かに自分以外にもこの人魚を研究していたはずなのに、当人に会ったことは一度もない。ただ、聞いたところによると、この人魚の観察を経て他の部署に配属されるようになると言う。今のうちに人魚に対するあらゆる実験、観察を行い、次の部署でもうまくやっていけるようにしようと思う。
人魚について分かったことをいくつか記しておく。
人魚は餌の時間を楽しみにしているらしい。何となく最近は表情が分かるようになってきた。食事の際のあの気味の悪い触手や、どこを見ているのか分からない虚ろな目は相変わらずだが。
ちなみに、どうやら声帯があるらしいことも分かっている。時折、水槽の中から泡とは違う音が確かに聞こえてくるからだ。例えるなら……。……いや、似ている音がうまく見つけられない。金属のような音にも聞こえるし、ちゃんと動物らしい鳴き声にも聞こえる。ただ、人間の出す音ではないことは確かだ。
***
「やっぱりこれ以外の食べ物には反応しないんだな」
「…………?」
用意した様々な餌を目の前でちらつかせたものの、人魚は餌のペレット以上の反応を見せない。
諦めて、カナタはつい先ほどやったばかりのペレットをもう一度目の前に見せてみた。
「…………!」
「おいおい、さっきも食べただろ。まだ食べ足りないのか?」
「…………!」
人魚は自分では届かない水槽の外へ懸命に向かおうとしていた。
こつん、と音が聞こえ、人魚がガラスの壁から身を引く。
「…………」
「もしかして、壁に頭をぶつけたのか?」
「…………」
しゅんとした人魚は悲しそうにカナタのことを見つめる。身体の各部位も力なく揺れていた。
「はは、自分が水槽の中にいるってことを忘れてたんだな?」
「…………」
「分かった分かった、そんなに怒るなって。ほら」
水槽の蓋を開いて、持っていたペレットを入れてやる。
ちゃぷん、と水の中にペレットが入ってきたのを見て、人魚はぱぁっと顔を輝かせた。
「…………!」
「おお、喜んでる。一日一個までって話だったけど、これくらいなら大丈夫だよな?」
「…………!」
「嬉しいのは分かったから、食べすぎるなよ」
人魚はカナタに向かって口をぱくぱくさせながら、初めて見る笑顔を浮かべた。
「…………!」
「……お前も見慣れると結構かわいいのかもしれないな」
「…………?」
「また明日も来るよ。いい子で待っててくれ」
「…………!」
言葉が通じたのか、人魚は餌を食べるのを止めてその場でくるりと回る。
はしゃいでいる様子は、人間の子どもによく似ていた。
しばらく、カナタは人魚を相手に実験を繰り返した。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚などの感覚を調べ、どれもそれが人間とほぼ同程度か、あるいはそれ以上の鋭さを持っているらしいことを知る。
「人魚、餌だぞ」
「…………!」
珍しく起きていた人魚が、カナタを見て水槽の中で身体をばたつかせた。
「喜んでるのか?」
「…………」
「……そうだったら、ちょっとはかわいいと思えたかもしれないけどな」
人魚は、何も応えない。
***
――○月×日。
先日、また面白い話を聞いた。この『人魚』と呼ばれる生き物は、もう何十年に渡ってここで研究され続けているらしい。その年月も『人魚』という呼び名の理由のひとつだと聞いて、ある意味で納得がいった。
だが、そこで気になるのは今までの研究員たちだ。確かに自分以外にもこの人魚を研究していたはずなのに、当人に会ったことは一度もない。ただ、聞いたところによると、この人魚の観察を経て他の部署に配属されるようになると言う。今のうちに人魚に対するあらゆる実験、観察を行い、次の部署でもうまくやっていけるようにしようと思う。
人魚について分かったことをいくつか記しておく。
人魚は餌の時間を楽しみにしているらしい。何となく最近は表情が分かるようになってきた。食事の際のあの気味の悪い触手や、どこを見ているのか分からない虚ろな目は相変わらずだが。
ちなみに、どうやら声帯があるらしいことも分かっている。時折、水槽の中から泡とは違う音が確かに聞こえてくるからだ。例えるなら……。……いや、似ている音がうまく見つけられない。金属のような音にも聞こえるし、ちゃんと動物らしい鳴き声にも聞こえる。ただ、人間の出す音ではないことは確かだ。
***
「やっぱりこれ以外の食べ物には反応しないんだな」
「…………?」
用意した様々な餌を目の前でちらつかせたものの、人魚は餌のペレット以上の反応を見せない。
諦めて、カナタはつい先ほどやったばかりのペレットをもう一度目の前に見せてみた。
「…………!」
「おいおい、さっきも食べただろ。まだ食べ足りないのか?」
「…………!」
人魚は自分では届かない水槽の外へ懸命に向かおうとしていた。
こつん、と音が聞こえ、人魚がガラスの壁から身を引く。
「…………」
「もしかして、壁に頭をぶつけたのか?」
「…………」
しゅんとした人魚は悲しそうにカナタのことを見つめる。身体の各部位も力なく揺れていた。
「はは、自分が水槽の中にいるってことを忘れてたんだな?」
「…………」
「分かった分かった、そんなに怒るなって。ほら」
水槽の蓋を開いて、持っていたペレットを入れてやる。
ちゃぷん、と水の中にペレットが入ってきたのを見て、人魚はぱぁっと顔を輝かせた。
「…………!」
「おお、喜んでる。一日一個までって話だったけど、これくらいなら大丈夫だよな?」
「…………!」
「嬉しいのは分かったから、食べすぎるなよ」
人魚はカナタに向かって口をぱくぱくさせながら、初めて見る笑顔を浮かべた。
「…………!」
「……お前も見慣れると結構かわいいのかもしれないな」
「…………?」
「また明日も来るよ。いい子で待っててくれ」
「…………!」
言葉が通じたのか、人魚は餌を食べるのを止めてその場でくるりと回る。
はしゃいでいる様子は、人間の子どもによく似ていた。
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