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五十七日後
記録その5
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――記録その五。
カナタがその水槽に来たのは、ほぼひと月振りだった。
その間、餌やりは他の研究員がやっていたと聞いたものの、それでも人魚の様子が気になって、珍しく走って水槽までやって来る。
すっかり夜遅くなったせいで、水槽周りは暗くなっている。
ぱちりとライトを付け、人魚のことを照らしながらカナタは口を開いた。
「人魚、俺だ」
「…………?」
「……どうした?」
人魚の動きが以前よりも鈍い。
「…………」
「もしかして、ライトが苦手なのか?」
「…………!」
ライトで人魚の顔を照らした途端、人魚は嫌がってじたばた暴れ始めた。
「強い光は苦手なのか。これはいいことを知ったな」
「…………!」
威嚇するように人魚が顔をしかめる。
「そう怒るなって。俺が帰ってきて嬉しいだろ?」
「…………」
人魚は、何も応えない。
***
――○月×日。
久々の人魚は、あまり以前と変わらなかった。
たまたま時間が遅くなったことで判明したのが、人魚は強い光を嫌がるということだった。もともと水の中でもよく自分のことや、餌や色を判別していることから、それなりの視力があるのではと思ってきていたが、光の強弱が分かるということでその疑問が確信に変わった気がしてならない。
更に、人魚は記憶力もある程度備えているらしい。
自分が人魚の前に立つのは実に九日振りになるが、初対面のときとは違う反応を見せた。久し振りに顔を見せた自分を出迎え、表情をころころ変えながら水槽を泳ぐ。
もし、人魚に記憶力がなければ、最初の頃のように無機質な反応を見せていたことだろう。
今まで、人魚の記憶力について記したデータはなかったはずだ。これを機に、いくつか調べてみたいことができた。だが、人魚の反応自体が曖昧にしかデータを取れていない現時点では、まだ正確な情報を得ることは出来ないだろう。
そういえば、前回やろうと思ってやれなかったことを自分がいない間に試してくれていたのだろうか。報告を受けていないが、聞いてみるべきだろう。
この人魚を任されているのは自分なのだから。
***
「視力がいいっていうのは分かったんだよな」
「…………?」
ひらり、と人魚の目の前で手を動かしてみる。
その動きに合わせて、人魚は顔を動かした。
「これも見えてる、と……。……ん?」
不意に人魚がぺたりとガラスに手を付ける。
「何してるんだ?」
「…………」
カナタのことをじっと見つめ、そして。
「……俺の手に自分の手を重ねようとしてるのか」
「…………」
水槽越しに二つの手が重なる。
「…………」
形容しがたい声を発すると、人魚はもっと近付こうと身じろぎした。
「お前はこっちに来れないんだよ」
「…………!」
「お前は……人間じゃないんだ」
「…………」
懸命に身体を動かしながら、人魚は水槽の壁をどうにかしようとする。
何かを訴えるようにカナタを見つめ、口を開いたり閉じたりを繰り返した。
「…………!」
「俺にはお前を出してやれないんだ」
「…………!」
「……俺に触りたいんだよな」
「…………」
「……俺もお前に触ってみたいよ」
こうして見ると、人魚は人間の女性とあまり大差ないように思えてしまう。
カナタも人魚を見つめたまま、ほんの少し騒いだ胸を押さえつけた。
カナタがその水槽に来たのは、ほぼひと月振りだった。
その間、餌やりは他の研究員がやっていたと聞いたものの、それでも人魚の様子が気になって、珍しく走って水槽までやって来る。
すっかり夜遅くなったせいで、水槽周りは暗くなっている。
ぱちりとライトを付け、人魚のことを照らしながらカナタは口を開いた。
「人魚、俺だ」
「…………?」
「……どうした?」
人魚の動きが以前よりも鈍い。
「…………」
「もしかして、ライトが苦手なのか?」
「…………!」
ライトで人魚の顔を照らした途端、人魚は嫌がってじたばた暴れ始めた。
「強い光は苦手なのか。これはいいことを知ったな」
「…………!」
威嚇するように人魚が顔をしかめる。
「そう怒るなって。俺が帰ってきて嬉しいだろ?」
「…………」
人魚は、何も応えない。
***
――○月×日。
久々の人魚は、あまり以前と変わらなかった。
たまたま時間が遅くなったことで判明したのが、人魚は強い光を嫌がるということだった。もともと水の中でもよく自分のことや、餌や色を判別していることから、それなりの視力があるのではと思ってきていたが、光の強弱が分かるということでその疑問が確信に変わった気がしてならない。
更に、人魚は記憶力もある程度備えているらしい。
自分が人魚の前に立つのは実に九日振りになるが、初対面のときとは違う反応を見せた。久し振りに顔を見せた自分を出迎え、表情をころころ変えながら水槽を泳ぐ。
もし、人魚に記憶力がなければ、最初の頃のように無機質な反応を見せていたことだろう。
今まで、人魚の記憶力について記したデータはなかったはずだ。これを機に、いくつか調べてみたいことができた。だが、人魚の反応自体が曖昧にしかデータを取れていない現時点では、まだ正確な情報を得ることは出来ないだろう。
そういえば、前回やろうと思ってやれなかったことを自分がいない間に試してくれていたのだろうか。報告を受けていないが、聞いてみるべきだろう。
この人魚を任されているのは自分なのだから。
***
「視力がいいっていうのは分かったんだよな」
「…………?」
ひらり、と人魚の目の前で手を動かしてみる。
その動きに合わせて、人魚は顔を動かした。
「これも見えてる、と……。……ん?」
不意に人魚がぺたりとガラスに手を付ける。
「何してるんだ?」
「…………」
カナタのことをじっと見つめ、そして。
「……俺の手に自分の手を重ねようとしてるのか」
「…………」
水槽越しに二つの手が重なる。
「…………」
形容しがたい声を発すると、人魚はもっと近付こうと身じろぎした。
「お前はこっちに来れないんだよ」
「…………!」
「お前は……人間じゃないんだ」
「…………」
懸命に身体を動かしながら、人魚は水槽の壁をどうにかしようとする。
何かを訴えるようにカナタを見つめ、口を開いたり閉じたりを繰り返した。
「…………!」
「俺にはお前を出してやれないんだ」
「…………!」
「……俺に触りたいんだよな」
「…………」
「……俺もお前に触ってみたいよ」
こうして見ると、人魚は人間の女性とあまり大差ないように思えてしまう。
カナタも人魚を見つめたまま、ほんの少し騒いだ胸を押さえつけた。
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