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第七話
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しおりを挟む「窓は塞がれちゃったけど、まだ諦めないで。この部屋のこと、隅々まで探してみよう?」
外にいる見張りには気付かれないよう、静かに。
女たちはセランの言葉に頷いた。
そっと立ち上がり、部屋を調べ始める。
壁に触れ、申し訳程度の置物を探り、扉も一応確認し――。
「――セランさん」
興奮気味に声を発したのは、セランと同じ組にいたセオだった。
絨毯の端をつまみ、その下に向かって指さしている。
「なにかあった?」
「ここ。ほら」
絨毯の下には床板が張られていた。
その下からほんのわずかに風を感じる。
「板を張るのはこの下に空洞があるからじゃないかしら?」
「なるほど……? じゃあ、この板を剥がしたらもしかすると……」
「大きな屋敷には有事の際に備えて、外へ逃げ出すための通路が隠されてるって聞いたことがあります」
セランたちの近くにいた女が、絨毯の下を覗き込んで言う。
他の女たちも周りに集まってきた。
皆、次になにをするのか理解した顔だった。
「……何人かは見張りについて。一生懸命床板を剥がしてるところなんて見られたら、絶対困ったことになるから」
互いの目を見合って、頷く。
すぐさま、見張りに二つの組をつけることが決まった。
扉の前に陣取り、万が一開かれても奥の様子が見えないようにする。
そしてわざと大きな声で話し始めた。奇妙な物音が外に漏れてしまわないよう、他愛もない話をしたり、泣いたふりをする。
その裏側で残りの女たちはせっせと床板を剥がそうとしていた。
道具もなく、しかも範囲が広い。
それでも、なにもできないよりはよかった。
夜になるまでに剥がせた床板はたった三枚だけだった。
しっかりと組まれた板を道具なしに剥がせたのだから、充分と言えば充分でもある。
だが、労力に見合わない結果は少しだけ気分を落ち込ませた。
「今日は早めに休んで、また明日に備えよう。夜は音も響きやすいだろうから、気付かれるかもしれないし」
まだ大丈夫だ、という気持ちを声に乗せて伝える。
夜は人の行動が鈍くなる。外が静かになってしまえ床板、を剥がすという荒事の音も聞こえてしまいかねない。
「でも、早くなんとかした方がいいんじゃない? この下を探る前に見つかってしまうかも」
「……そうよ、休んでいる暇なんて」
「だめ」
焦りを募らせる女たちに向かって、セランは静かに諭す。
「気持ちはすごくわかるの。でも、もしこの先に逃げ道があったとして、そのあとちゃんと逃げられる?」
「それは……」
「ここが本当にアゼッタの街だとしたら、この屋敷からだけじゃなくて街自体から逃げ出さなきゃいけないんだよね。くたくたの身体じゃ、安全な場所まで逃げ切れないよ」
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