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第七話
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しおりを挟むただでさえ追われているという状況は体力を消耗しやすい。
それに、とセランは皆の様子を見る。
彼女たちはセランほど体力がないだろう。たとえ体力があったところで、馬車であれほど時間のかかった安全な港町まで逃げられるかどうか。
そして捕まれば再び逃げるのは難しい。今はまだ敵も油断してある程度の自由を許してくれているが、それもなくなる。
「無理は絶対にしない。……だから今日はもう、寝よう」
渋る女たちをなだめ、なにごともなかったかのように絨毯を敷き直す。
ほんの少しの無理が命取りになると思ってしまうのは、ナ・ズの生まれだからかもしれない。
休まずに商隊を進めた結果、疲れのせいで道を誤り、全滅したという話を聞いたことがある。もうすぐ目的の集落に着くからと、荷物にならないようオアシスで水を補給せずに進み、途中で力尽きたという話も知っている。
ことは慎重に運ばねばならなかった。
失敗は許されない。そして、一人の失敗が全員の未来を潰すことになる。
(気を付けて見ておかないと)
そろそろと眠る準備をし始めた女たちを見回す。
今夜、言いつけを聞かずに行動する者はいなさそうだった。
しかしこれがもっと後のことになれば話は変わってくる。
自分たちを売買するという祭の日が近付けば、皆、焦るようになるだろう。急がなければというその思いは危険だった。
(……これで床下になにもありませんでした、なんてなったら笑えない)
隅の方で丸くなりながら、一番起きてほしくない事態を考える。
目的があれば人は生きていける。だが、その目的が潰されればどうなるだろう。
(悲しさがいっぱいになると、なにもかもどうでもよくなる。……私はそれを、ここにいる誰より知っていると思う)
婚約者の嘘、親友の嘘。あの日、セランはどこへ逃げ出したかったのか。
(……本当は死んじゃいたかったのかもしれない)
その瞬間が来るまで自暴自棄だった。そうでなければなにも持たずに砂漠の真ん中へ歩き出したりはしない。
(キッカは大事なときに来てくれたんだね……)
ただ、命を救ってくれただけではないのを思い知る。
あの日、キッカはセランの心もすくいあげてくれた。
生きていると知ったときの驚き。だったら復讐してやると思ったあのときの気持ち。前向きになれたのは、目的があったからだ。
(……どうしてあなたが、自分を魔王だって言わなかったかわかった気がする)
目的があれば人は生きていける。
逆に言えば、目的がなければ生きていけない。
セランが乗り越えられたのは魔王になってみせるという目的があったから。
(でも、もういいんだよ。私の目的は……)
すう、とセランは息を吐いた。
やはり疲れていたのだろう。
それ以上考え続けることができず、すとんと眠りに沈んでいった。
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