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第七話
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しおりを挟むセランの指示のもと、攫われた女たちは慎重に作業を進めていった。
男たちが調子に乗って部屋に入り浸る日は諦め、静かな夜ではなく音の多い昼に行動する。
そうして一日が過ぎ、二日が過ぎ、祭の日まであと三日というところまで来た。
「やった……!」
何層にもなっていた板を剥がし終えたとき、思わず大声を出しそうになってしまった。
慌てて口を押さえたセランを見て、埃で汚れた女たちが笑いそうになる。
板の下には空洞があった。
その奥から風が吹いてくる。つまり、この先は外と繋がっているのだ。
「ここから逃げよう。外に出られたらどうするか、ちゃんと覚えてるよね?」
「ええ」
セランが伝えたのは、ただひたすら焦らないことだった。
逃げてきたのだ、と全身で伝えてしまえば、不審に思われる。訝しんだ何者かに声をかけられることは避けなければならなかった。
人のいるところではなるべく平然とする。誰の目もないところでは全力で走る。ただ、体力を使い切るような無茶はしない。
それから、なるべく身を隠すこと。移動は明るい昼ではなく、人目につかない夜のうちに。
最も大切なのは、見知らぬ他人を信用しないことだった。
どこで誰が人攫いたちと繋がっているかわからない。助けを求めた先が次の敵になるようでは意味がないのだ。
信じるのは、顔と名前がわかる仲間だけ。一人で行動するのではなく、先日作った六人の組で動けば心の余裕もできる。
「一人で全部なんとかしようとしたら、必ずどこかで隙ができるの。仲間がいるんだから、ちゃんと頼って」
それはティアリーゼに教えてもらったことだった。
戦いの際になにもかもを一人でこなそうとするのだけは避ける。どう頑張ったところで背中に目はついていないのだから、背後への気が逸れればそこを狙われる。ならば最初から後ろは見ないものとして、信用できる相手に背を預ければいい。
よくそこまで他人を信じられるものだ、と驚いたのを覚えている。
親しい人物に裏切られたセランには、他人に背中を預けることなどできそうになかった。
そう言ったのを聞いてティアリーゼは笑ったのだ。
誰しも行動には理由がある。許すことから始まるのだと。
聖人とはこういう人のことを言うのかとやはり衝撃を受けたセランに、ティアリーゼはまた微笑む。
たとえ許しても、自分を大切に思ってくれる人が代わりに怒ることもある。そのときは受け入れるしかないわ、と。
(大丈夫。ここにいるみんなは敵じゃない)
信じるために、まず互いを理解することから始めた。
それを生かすときがついに来る。
「私、最後に出るよ。みんなは先に行って」
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