1 / 2
1
しおりを挟む「化け物!!」
「お前のせいだ!!」
「死んじまえ!!」
「早く死ねよ!!」
ガツッ! ガンッ! ガツンッ!!
「…っ!!」
手枷、足枷を付けられ、衛兵に引かれるように街中を歩く私に、
罵声を浴びせながら石を投げる人々。
もはや悲鳴をあげる気力も残っていない私には、抵抗することもなく、ただ引き摺られながら歩くだけだ。
そんな私に容赦なく石は飛んできて、体のあちこちにぶつかり、
私の体は傷だらけになってしまった。
私の生はもうすぐ終わる。
いったい、何がいけなかったのだろう。
私は、彼女に何もしていない。もちろん彼にも、民の誰にも、悪いことはしていなかった。
だと言うのに、私はまた、冤罪をかけられ、
生まれつき強い力を持っていた事も利用されて、冤罪の材料とまでされてしまった私は、
人々にとって化け物とまで貶められた。
「最期に何か言い残す事はあるか?」
処刑台の上に立たされた私に、処刑執行人から声が掛かる。
言い残すこと………。
私が貴方の愛するという彼女を害したと思い込んでいる貴方には、
きっと、私の言葉など………、声すらも聞きたくないと思っているのでしょうね。
処刑台の前で私を見つめている殿下を見る。
今はもう、貴方の心には、私の存在なんて残っていないのでしょう。
それでも。
短い間ではあったけど、あの時、私を見つめる貴方の熱い眼差しは、本物だったと思うから。
私は確かに、その貴方を愛していた。
だから___、
傷付いた重い体を起こし、私は貴方を見つめ。
「愛していました。………さようなら。」
精一杯笑ったつもりだけど、ちゃんと笑えていただろうか?
毒杯を呷る瞬間、貴方の顔が歪み、私に向かって何かを叫んでいたようだったけど、
死にゆく私にはもうどうでも良かった。
◇◇◇◇
隣国で彼女に出会い、俺は彼女に恋をした。
だが、彼女はすでに隣国の王太子と婚約していたから、
俺はこの気持ちを彼女に伝えるつもりはなかった。
学園で学友として彼女と接するうちに、気持ちを抑える所か、彼女を慕う思いばかりが募っていき、
卒業する頃には既に彼女を愛してしまっていた。
どう諦めようかと悩んでいた時に起きた、彼女の婚約破棄。
婚約者であった王太子とは友人ではあったが、馬鹿な女に惑わされた哀れな男だと思うと同時に、
こんな男に彼女が一緒になる等と、という思いもしていた。
そんな王太子からの婚約破棄。しかも冤罪まで掛けて。
もうこれは修復不可能だろう。
そう考えた俺は、閉じ込めておいた心を外に出す決意をした。
冤罪の容疑も晴らし、彼女に気持ちを伝えて、プロポーズまでし、
彼女から良い返事を貰えた時には、もう死んでも良いと思える位に嬉しかった。
その彼女を自分の婚約者として自国の隣国へと一緒に連れて帰った。
そこまでは良かった。
だが、自国へ着いて、幼馴染みのカリナと顔を合わせた瞬間、俺は間違いを犯したと思ったのだ。
カリナが俺の、唯一愛する婚約者だったのだと。
頭に霞みがかかる。
カリナが唯一愛する?
__本当に?
なら、態々隣国まで連れてきた彼女は何なんだ?
うぅっ、
頭痛が思考を遮る。
“彼女はカリナの代わりだ。カリナに会えずに寂しい思いをしていたから、その心の隙間を彼女で埋めたんだ。”
頭の中で声がした。
そうだ。彼女には悪いが、婚約を解消してもらおう。
彼女は、何も文句すら言わず婚約の解消に同意してくれた。
自国を出てきてしまったから、今さら戻ることは出来ないという彼女に、
俺の我が儘で連れてきてしまった負い目もあって、とりあえずは王宮暮らしを勧めた。
暫くは良い友人関係としてカリナとも上手くいっていたようだった。
そんな中で起きた、聖女でもあるカリナの暗殺未遂。
彼女のもてなした茶会での事だったため、彼女がカリナを毒殺しようとしたと発覚した。
彼女だけはそんな女じゃないと思っていたのに、裏切られたと思った俺は頭に血が上り、彼女を投獄した。
ちゃんと調べれば、彼女が無実なのは解るはずなのに、俺は調べもせず、彼女の話も聞かず、彼女を断罪した。
今思えば、完全に操られて自身の判断も出来なくなっていたのだろう。
あの王太子の事は言えない。俺も同じ穴の狢になっていたなどと。
処刑台で、ボロボロになってふらついている彼女の姿を、俺はどこかぼんやりしながら見ていた。
__本当にこれで良かったのか?
……そうだ。
__本当に彼女がカリナを殺そうとしたのか?
……そうだ。
頭の中で自問自答が続き、
ふと、彼女が俺を見据えていることに気付いた。
「……愛していました。……さようなら」
儚く微笑んだ表情は酷く辛く、胸が締め付けられ……
「___だめだ!!其れを飲むんじゃない!!!」
俺の体は無意識に彼女に向かって走り出していた。
「うわあああああ!!ファルナ!!!」
久しく呼んでいなかった彼女の名を呼び、倒れた彼女へ駆け付ける。
だが、毒杯を全て飲み込んだ彼女は既に息をしていなかった。
「ファルナ!ファルナ!!何故だ!何故君が死ななければならない!?」
全て自分のせいだと判ってはいるが、そう叫ばずにはいられなかった。
もう動かず、冷たくなっていく彼女を抱き締めながら、俺は慟哭をあげながら涙を流していた。
「許して、許してくれ…………、ファルナっっ、……うぅ」
ファルナ、真実、愛しているのは、君だけなんだ___
全ては後の祭り____
俺は、一番大切なファルナを殺したのだ………
0
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。
豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。
本物の聖女なら本気出してみろと言われたので本気出したら国が滅びました(笑
リオール
恋愛
タイトルが完全なネタバレ(苦笑
勢いで書きました。
何でも許せるかた向け。
ギャグテイストで始まりシリアスに終わります。
恋愛の甘さは皆無です。
全7話。
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
魅了魔法に対抗する方法
碧井 汐桜香
恋愛
ある王国の第一王子は、素晴らしい婚約者に恵まれている。彼女は魔法のマッドサイエンティスト……いや、天才だ。
最近流行りの魅了魔法。隣国でも騒ぎになり、心配した婚約者が第一王子に防御魔法をかけたネックレスをプレゼントした。
次々と現れる魅了魔法の使い手。
天才が防御魔法をかけたネックレスは強大な力で……。
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
黒の聖女、白の聖女に復讐したい
夜桜
恋愛
婚約破棄だ。
その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。
黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。
だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。
だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。
※イラストは登場人物の『アインス』です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる