愛していました。さようなら。~私が愛した貴方はもういない~

さといち

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「化け物!!」


「お前のせいだ!!」


「死んじまえ!!」


「早く死ねよ!!」



ガツッ! ガンッ! ガツンッ!!


「…っ!!」


手枷、足枷を付けられ、衛兵に引かれるように街中を歩く私に、

罵声を浴びせながら石を投げる人々。

もはや悲鳴をあげる気力も残っていない私には、抵抗することもなく、ただ引き摺られながら歩くだけだ。


そんな私に容赦なく石は飛んできて、体のあちこちにぶつかり、

私の体は傷だらけになってしまった。




私の生はもうすぐ終わる。

いったい、何がいけなかったのだろう。

私は、彼女に何もしていない。もちろん彼にも、民の誰にも、悪いことはしていなかった。

だと言うのに、私は、冤罪をかけられ、


生まれつき強い力を持っていた事も利用されて、冤罪の材料とまでされてしまった私は、

人々にとって化け物とまで貶められた。






「最期に何か言い残す事はあるか?」


処刑台の上に立たされた私に、処刑執行人から声が掛かる。


言い残すこと………。


私が貴方の愛するという彼女を害したと思い込んでいる貴方には、

きっと、私の言葉など………、声すらも聞きたくないと思っているのでしょうね。



処刑台の前で私を見つめている殿下を見る。


今はもう、貴方の心には、私の存在なんて残っていないのでしょう。

それでも。


短い間ではあったけど、あの時、私を見つめる貴方の熱い眼差しは、本物だったと思うから。

私は確かに、その貴方を愛していた。

だから___、












傷付いた重い体を起こし、私は貴方を見つめ。





「愛していました。………さようなら。」



精一杯笑ったつもりだけど、ちゃんと笑えていただろうか?



毒杯を呷る瞬間、貴方の顔が歪み、私に向かって何かを叫んでいたようだったけど、

死にゆく私にはもうどうでも良かった。














◇◇◇◇




隣国で彼女に出会い、俺は彼女に恋をした。

だが、彼女はすでに隣国の王太子と婚約していたから、

俺はこの気持ちを彼女に伝えるつもりはなかった。


学園で学友として彼女と接するうちに、気持ちを抑える所か、彼女を慕う思いばかりが募っていき、

卒業する頃には既に彼女を愛してしまっていた。


どう諦めようかと悩んでいた時に起きた、彼女の婚約破棄。

婚約者であった王太子とは友人ではあったが、馬鹿な女に惑わされた哀れな男だと思うと同時に、

こんな男に彼女が一緒になる等と、という思いもしていた。



そんな王太子からの婚約破棄。しかも冤罪まで掛けて。

もうこれは修復不可能だろう。


そう考えた俺は、閉じ込めておいた心を外に出す決意をした。


冤罪の容疑も晴らし、彼女に気持ちを伝えて、プロポーズまでし、

彼女から良い返事を貰えた時には、もう死んでも良いと思える位に嬉しかった。



その彼女を自分の婚約者として自国の隣国へと一緒に連れて帰った。


そこまでは良かった。

だが、自国へ着いて、幼馴染みのカリナと顔を合わせた瞬間、俺はと思ったのだ。

カリナが俺の、だったのだと。


頭に霞みがかかる。


カリナが唯一愛する?


__本当に?


なら、態々隣国まで連れてきた彼女は何なんだ?


うぅっ、


頭痛が思考を遮る。



“彼女はカリナの代わりだ。カリナに会えずに寂しい思いをしていたから、その心の隙間を彼女で埋めたんだ。”


頭の中で声がした。

そうだ。彼女には悪いが、婚約を解消してもらおう。


彼女は、何も文句すら言わず婚約の解消に同意してくれた。

自国を出てきてしまったから、今さら戻ることは出来ないという彼女に、

俺の我が儘で連れてきてしまった負い目もあって、とりあえずは王宮暮らしを勧めた。

暫くは良い友人関係としてカリナとも上手くいっていたようだった。

そんな中で起きた、聖女でもあるカリナの暗殺未遂。

彼女のもてなした茶会での事だったため、彼女がカリナを毒殺しようとしたと発覚した。


彼女だけはそんな女じゃないと思っていたのに、裏切られたと思った俺は頭に血が上り、彼女を投獄した。



ちゃんと調べれば、彼女が無実なのは解るはずなのに、俺は調べもせず、彼女の話も聞かず、彼女を断罪した。


今思えば、完全に操られて自身の判断も出来なくなっていたのだろう。


あの王太子の事は言えない。俺も同じ穴の狢になっていたなどと。




処刑台で、ボロボロになってふらついている彼女の姿を、俺はどこかぼんやりしながら見ていた。


__本当にこれで良かったのか?


……そうだ。

__本当に彼女がカリナを殺そうとしたのか?


……そうだ。



頭の中で自問自答が続き、

ふと、彼女が俺を見据えていることに気付いた。










「……愛していました。……さようなら」


儚く微笑んだ表情は酷く辛く、胸が締め付けられ……



















「___だめだ!!其れを飲むんじゃない!!!」


俺の体は無意識に彼女に向かって走り出していた。








「うわあああああ!!ファルナ!!!」

久しく呼んでいなかった彼女の名を呼び、倒れた彼女へ駆け付ける。


だが、毒杯を全て飲み込んだ彼女は既に息をしていなかった。



「ファルナ!ファルナ!!何故だ!何故君が死ななければならない!?」


全て自分のせいだと判ってはいるが、そう叫ばずにはいられなかった。




もう動かず、冷たくなっていく彼女を抱き締めながら、俺は慟哭をあげながら涙を流していた。



「許して、許してくれ…………、ファルナっっ、……うぅ」



ファルナ、真実、愛しているのは、君だけなんだ___





全ては後の祭り____



俺は、一番大切なファルナを殺したのだ………




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