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婚約破棄後の公爵令嬢
エラディオ・ファン・ザクセン王弟殿下
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「……何なのよ」
思わず呟くとエラディオが満面の笑みを浮かべて顔を近づける。
それを不快そうな表情で仰け反ると、さらに楽しそうに近付いてきた。
「いいな、ナディア嬢。気に入った」
「それはどうもありがとうございます」
「いや、そのつれない態度もいい」
「そうですか」
気に入られる要素は皆無だった気がするが、この男の何に触れたのか非常に楽しそうだ。
ふと、冷静になって目の前の男を観察する。
ザクセン特有の赤髪に、少し日焼けした肌。よく見ると程よく筋肉質な体をしていて、背も高い。深緑の目は切れ長で、精悍な顔つきをしている。ジョバンニがキラキラした王子様なら、彼は逞しい騎士のような風貌だ。
じっと無言で見つめていると、エラディオがその視線に気付く。
そして今まで見せた事のない優し気な顔でフッと笑うと、ナディアの手をそっと掴んでそのまま唇を寄せた。
「なっ…、何を…!」
「俺を観察してただろ?感想は?」
「か、感想を聞くだけならそんな事する必要ないでしょう!?」
「ん?ああ、手の甲に口づけした事を言ってんのか?これは俺がお前を気に入ったって証明で…」
「そういうのいりませんから!!」
慌ててエラディオの手を振り払い後ろを向く。
赤くなる頬をどうにか押さえ、落ち着きを取り戻そうと必死になっていると、いつの間にかエラディオに覗き込まれていた。
「うわ、可愛いな」
「…!!」
ボソリと呟かれた言葉に再び治まりかけた熱が沸き上がる。
思わずキッとエラディオを睨みつけ、ナディアはそのまま無言で再び歩き出した。
「おい、何か言えって。てか、エラディオって呼べよ」
「嫌です!」
「何で嫌なんだ?」
「私とザクセン王弟殿下は無関係の赤の他人ですので!」
「無関係じゃなくなりゃいいのか?」
「ずっと無関係です!というか、婚約者の方に不誠実ですわよ!」
「婚約者?誰の?」
「ザクセン王弟殿下のに決まってるでしょう!?」
そう言って振り返ると、エラディオはきょとんとした顔をしていた。
そして「ああ!」と今気付いたように声を上げ、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「俺、婚約者いねぇんだよな。独身のフリー」
「え…そ、そう…なのですか」
「だから問題ねぇだろ?」
「そう…いえ、問題あります!私が殿下と無関係ですから!」
「なら俺と婚約する?」
「お断りします!!」
そういう事をさらっと冗談で言われるなんてとんでもない。
こんな軽いノリで婚約なんて、婚約破棄されたばかりの令嬢に言う事ではない。
それなのに「即答かよ」とかブツブツ呟いているのが信じられない。もう無視しよう、そうしよう。
このままこの人と話をしていると、そのうち墓穴を掘ってしまいそうだ。
それにあと一週間もすればエルシオン領へ逃げるのだ。それまでの辛抱だと思って我慢しないと。
「…それよりもザクセン王弟殿下、今日はジョバンニ殿下はどうしたのですか?」
「それよりもって、何かこうもっと…」
「それで、ジョバンニ殿下はご一緒なのですか?」
「あー…今日は置いて来た」
頭をポリポリ掻きながら呟くエラディオは、どうやら王族として取り繕うのを止めたようだ。普通王族がそんな風に人前で頭を掻いたりしない。それは自分に気を許していると言っているようで、少々複雑な気分になる。
「置いて来たって、ではお一人でこちらへ?」
「ああ。アイツには俺が話をつけてくるって言ってある。護衛もいるし、大人しくしてるだろうよ」
それはもう是非大人しくしていてほしいが。どちらかと言えば王都に帰ってほしい。
「王都へ帰るよう伝えていただけません?私にはもう話す事はなにもないので」
「だがなぁ、ナディア嬢が謝罪を…」
「受け入れませんから。本人にも言いましたが、これからの殿下の態度で示していただかないと無理です」
今まで遊び惚けてたのだ。これからは政務にもしっかり身を入れてもらわないと困る。どうせサブリナではジョバンニの補助等できないだろう。というか、5年間は牢の中だ。
そこまで考えてふとサブリナの事が気になった。
「あの、フェリッリ男爵令嬢は今どうされてますか?」
エラディオが知っているのかは分からないが、とりあえず気になるので尋ねてみる。と、案外すんなりと答えてくれた。
「あの女なら牢の中でわめいているみたいだぜ。ま、ジョバンニもアレを牢から出す為に必死なんだよな」
「え?」
サブリナを牢から出す為に必死とは言っても、ずっとサルトレッティ公爵領に滞在しているのに。
「ひょっとして…」
一つの考えに辿り着く。いや、きっと間違いないだろう。
ナディアは少し考えるような素振りを見せた後、エラディオに質問した。
「もしかしてフェリッリ男爵令嬢が釈放される条件が、私がジョバンニ殿下を許す事なのですか?」
「さすがはナディア嬢、その通りだ。やっぱジョバンニは馬鹿だよなぁ」
最後の「ジョバンニは馬鹿」の意味は分からないが、やはりそうなのか。
だからあんなに必死で許しを請いに来ていたようだ。
「フェリッリ男爵令嬢が釈放されても、辺境の修道院へ行くことが決まってますわよね?それなのに殿下はどうされるおつもりなんですか?」
「ん?ああ、言っていいのかな。まぁいいか。真実の愛が本当なのか確認するとか言ってたぜ」
「なんて馬鹿な事を」
自分が傷つくだけじゃないか。
あの報告書を読んだのなら、サブリナがどんな女なのか理解しているはずなのに、まだ彼女の愛を疑わないだなんて。
「…ジョバンニ殿下は本当にフェリッリ男爵令嬢をお慕いしているのね」
思わずポツリと呟くと、エラディオがピクリと反応する。けれどそれに気付いていないナディアは、何かを決心したように小さく頷き、エラディオに向き直った。
「正直フェリッリ男爵令嬢がどうなろうと知った事ではございませんが、どちらにしても裁判もあるでしょうし…少し考えさせていただきます」
「ん?許してやるのか?」
「それとこれとは別です」
「じゃあどうすんだ?」
不思議に思ったのかエラディオが首を傾げる。
それを悪戯っぽく笑って見せたナディアがシッと唇に人差し指を当てて微笑んだ。
「秘密ですわ」
「…っ」
あまりにも魅惑的な笑みに、エラディオが一瞬息を飲む。
(あいつは本当に馬鹿な男だ…)
ナディアと話をする度にそう感じてしまうエラディオは、少しばかり婚約破棄してくれたジョバンニに感謝する。
思わずフッと口元が緩みそうになるのを必死で隠し、エラディオは平静を装った。
そしてこの日はそのままナディアが自室に戻ってしまったので、エラディオも宿泊先に戻る事にしたのだった。
思わず呟くとエラディオが満面の笑みを浮かべて顔を近づける。
それを不快そうな表情で仰け反ると、さらに楽しそうに近付いてきた。
「いいな、ナディア嬢。気に入った」
「それはどうもありがとうございます」
「いや、そのつれない態度もいい」
「そうですか」
気に入られる要素は皆無だった気がするが、この男の何に触れたのか非常に楽しそうだ。
ふと、冷静になって目の前の男を観察する。
ザクセン特有の赤髪に、少し日焼けした肌。よく見ると程よく筋肉質な体をしていて、背も高い。深緑の目は切れ長で、精悍な顔つきをしている。ジョバンニがキラキラした王子様なら、彼は逞しい騎士のような風貌だ。
じっと無言で見つめていると、エラディオがその視線に気付く。
そして今まで見せた事のない優し気な顔でフッと笑うと、ナディアの手をそっと掴んでそのまま唇を寄せた。
「なっ…、何を…!」
「俺を観察してただろ?感想は?」
「か、感想を聞くだけならそんな事する必要ないでしょう!?」
「ん?ああ、手の甲に口づけした事を言ってんのか?これは俺がお前を気に入ったって証明で…」
「そういうのいりませんから!!」
慌ててエラディオの手を振り払い後ろを向く。
赤くなる頬をどうにか押さえ、落ち着きを取り戻そうと必死になっていると、いつの間にかエラディオに覗き込まれていた。
「うわ、可愛いな」
「…!!」
ボソリと呟かれた言葉に再び治まりかけた熱が沸き上がる。
思わずキッとエラディオを睨みつけ、ナディアはそのまま無言で再び歩き出した。
「おい、何か言えって。てか、エラディオって呼べよ」
「嫌です!」
「何で嫌なんだ?」
「私とザクセン王弟殿下は無関係の赤の他人ですので!」
「無関係じゃなくなりゃいいのか?」
「ずっと無関係です!というか、婚約者の方に不誠実ですわよ!」
「婚約者?誰の?」
「ザクセン王弟殿下のに決まってるでしょう!?」
そう言って振り返ると、エラディオはきょとんとした顔をしていた。
そして「ああ!」と今気付いたように声を上げ、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「俺、婚約者いねぇんだよな。独身のフリー」
「え…そ、そう…なのですか」
「だから問題ねぇだろ?」
「そう…いえ、問題あります!私が殿下と無関係ですから!」
「なら俺と婚約する?」
「お断りします!!」
そういう事をさらっと冗談で言われるなんてとんでもない。
こんな軽いノリで婚約なんて、婚約破棄されたばかりの令嬢に言う事ではない。
それなのに「即答かよ」とかブツブツ呟いているのが信じられない。もう無視しよう、そうしよう。
このままこの人と話をしていると、そのうち墓穴を掘ってしまいそうだ。
それにあと一週間もすればエルシオン領へ逃げるのだ。それまでの辛抱だと思って我慢しないと。
「…それよりもザクセン王弟殿下、今日はジョバンニ殿下はどうしたのですか?」
「それよりもって、何かこうもっと…」
「それで、ジョバンニ殿下はご一緒なのですか?」
「あー…今日は置いて来た」
頭をポリポリ掻きながら呟くエラディオは、どうやら王族として取り繕うのを止めたようだ。普通王族がそんな風に人前で頭を掻いたりしない。それは自分に気を許していると言っているようで、少々複雑な気分になる。
「置いて来たって、ではお一人でこちらへ?」
「ああ。アイツには俺が話をつけてくるって言ってある。護衛もいるし、大人しくしてるだろうよ」
それはもう是非大人しくしていてほしいが。どちらかと言えば王都に帰ってほしい。
「王都へ帰るよう伝えていただけません?私にはもう話す事はなにもないので」
「だがなぁ、ナディア嬢が謝罪を…」
「受け入れませんから。本人にも言いましたが、これからの殿下の態度で示していただかないと無理です」
今まで遊び惚けてたのだ。これからは政務にもしっかり身を入れてもらわないと困る。どうせサブリナではジョバンニの補助等できないだろう。というか、5年間は牢の中だ。
そこまで考えてふとサブリナの事が気になった。
「あの、フェリッリ男爵令嬢は今どうされてますか?」
エラディオが知っているのかは分からないが、とりあえず気になるので尋ねてみる。と、案外すんなりと答えてくれた。
「あの女なら牢の中でわめいているみたいだぜ。ま、ジョバンニもアレを牢から出す為に必死なんだよな」
「え?」
サブリナを牢から出す為に必死とは言っても、ずっとサルトレッティ公爵領に滞在しているのに。
「ひょっとして…」
一つの考えに辿り着く。いや、きっと間違いないだろう。
ナディアは少し考えるような素振りを見せた後、エラディオに質問した。
「もしかしてフェリッリ男爵令嬢が釈放される条件が、私がジョバンニ殿下を許す事なのですか?」
「さすがはナディア嬢、その通りだ。やっぱジョバンニは馬鹿だよなぁ」
最後の「ジョバンニは馬鹿」の意味は分からないが、やはりそうなのか。
だからあんなに必死で許しを請いに来ていたようだ。
「フェリッリ男爵令嬢が釈放されても、辺境の修道院へ行くことが決まってますわよね?それなのに殿下はどうされるおつもりなんですか?」
「ん?ああ、言っていいのかな。まぁいいか。真実の愛が本当なのか確認するとか言ってたぜ」
「なんて馬鹿な事を」
自分が傷つくだけじゃないか。
あの報告書を読んだのなら、サブリナがどんな女なのか理解しているはずなのに、まだ彼女の愛を疑わないだなんて。
「…ジョバンニ殿下は本当にフェリッリ男爵令嬢をお慕いしているのね」
思わずポツリと呟くと、エラディオがピクリと反応する。けれどそれに気付いていないナディアは、何かを決心したように小さく頷き、エラディオに向き直った。
「正直フェリッリ男爵令嬢がどうなろうと知った事ではございませんが、どちらにしても裁判もあるでしょうし…少し考えさせていただきます」
「ん?許してやるのか?」
「それとこれとは別です」
「じゃあどうすんだ?」
不思議に思ったのかエラディオが首を傾げる。
それを悪戯っぽく笑って見せたナディアがシッと唇に人差し指を当てて微笑んだ。
「秘密ですわ」
「…っ」
あまりにも魅惑的な笑みに、エラディオが一瞬息を飲む。
(あいつは本当に馬鹿な男だ…)
ナディアと話をする度にそう感じてしまうエラディオは、少しばかり婚約破棄してくれたジョバンニに感謝する。
思わずフッと口元が緩みそうになるのを必死で隠し、エラディオは平静を装った。
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