【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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婚約破棄後の公爵令嬢

逃げる前に色々

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 エラディオが訪ねて来た翌日、ナディアは王妃宛に手紙を送った。
 内容は、ジョバンニが周囲をうろうろして迷惑している。謝罪を受け入れないと帰らないと言い、こちらもすんなり謝罪を受け入れるつもりはないと言っても納得してくれないと、そのままの内容を綴った。

 そして、ジョバンニの真意がナディアへの心からの謝罪ではなく、サブリナの釈放が目的だと言う事に二重にがっかりした。
 彼を反省させたいのは分かるが、自分は無関係なので巻き込まないで欲しい。とも書いておいた。
 結構失礼な事を思い切って書いたがここは譲れない。一応国王ではなく王妃宛にした事で、間に一段階置いたのだが。

 それにしてもそんなにサブリナと一緒にいたいのなら、5年間サブリナと牢に入ればいいのにと思う。それか刑を軽くしてもらえるように、裁判で奮闘するとか。
 釈放したからと言ってその罪がなかった事にはならない。身分は剥奪されるだろうし、そもそも修道院行きが決まっているのだ。であればジョバンニと結ばれる事は一切ないはずだ。


(陛下はどういう意図でジョバンニ殿下をけしかけたのかしら。…もっと思慮深い人間になって欲しいと思っての命令だとしたら、かなりの荒治療だわ)


 見せてもらった調査報告書には、サブリナは王妃になってから自分のハーレムを築くつもりだったと書かれていた。女性一人に対して複数の男性を侍らす。それができるのは女性の頂点に立つ王妃しかできないと思っていたらしい。
 だからこそ、高位貴族で見目のいい令息達をたぶらかし、学園にいる頃から侍らしていたとか。

 そんな報告書を見てもジョバンニの心が変わらないとは、サブリナはともかくジョバンニにとっては真実の愛なのかもしれない。


「この手紙を見て王妃陛下がどう出るのか分からないけど、とりあえずジョバンニ殿下を王都へ呼び戻してもらいたいわ」


 そうすればジョバンニから逃げるような真似をする必要はなくなる。
 とは言っても5日後にはエルシオンへ逃げるのだ。ジョバンニが頑なに王都へ戻ろうとしなくても、今後会う事はなくなるだろう。


「…ジョバンニ殿下だけなら目くらましも効くでしょうけど、ザクセン王弟殿下は…」


 何だか勘の鋭い人のような気がするのだ。あの飄々とした態度にごまかされがちだが、ザクセン国の王と王弟は頭が切れる事で有名だ。エラディオが諸国を渡り歩いているのもただの観光ではなく、情勢を見定める為でもあるだろう。
 それともう一つ。


「王位継承権の放棄、だったわよね」


 エラディオが王位継承権を早々に放棄した事は有名だ。派閥による闘争を避ける為と、自分自身が兄である王を支える事を望んだとの事。
 ザクセン王にはすでに二人の王子と王女がいる。王宮にいては自分が邪魔だと思っているらしく、あまり戻らないとも聞いていた。


「情勢を読むことにも長けているようだし、何でジョバンニ殿下なんかと一緒にいるのか余計に謎だわ」


 確かにサブリナに会ってからのジョバンニは随分とへっぽこな男に成り下がってしまっていたが、それまでの彼は普通に優秀な王太子だった。
 勉強も剣術もマナーもダンスも、きっちりとこなして吸収していた。それを見ていたナディアも、彼の足を引っ張らないように、少しでも役に立てるようにと日夜研鑽し続けていたのだ。
 だからこそ、学園に入ってからの堕落ぶりに随分と失望させられたものだった。

 この人もただの人の子で、女の誘惑に勝てないのだと。
 恋をすると盲目になってしまうのだなと、他人事のように感じたものだ。


(だからってあんなに人の話を聞かなくなるなんて思わなかったけど)


 それもこれも全部サブリナのせいにする気はないが、大きく影響している事に間違いはない。
 サブリナは良くも悪くも男達を手のひらで転がすのが上手かった。自分の思うように思考を誘導し、行動を起こさせていた。
 今思えば一種の洗脳のような恐ろしさがある。


「洗脳…まさかね…」


 そんな事ができるのは、高位の魔術師による呪いを受けるか、禁止された危険な薬を使う以外にない。
 そこまで考えてふと一つの考えが頭をよぎる。


「失われた魔法に魅了魔法ってあったわよね。アレなら…」


 以前閲覧禁止の禁書になっている魔術書を、王宮の図書館で王妃に見せてもらった事がある。
 そこに書かれていた「魅了魔法」は、特に難しい事もなく誰でも使えるモノだと書かれていた。けれどその魅了魔法を使って過去に国家を転覆させかけた女性がいた事もあり、使用禁止扱いになったと聞いている。
 それ以来王家やそれに準ずる貴族達は、魅了魔法にかからないよう防護のアイテムを持たされていたらしい。


「…でも、今はそんな物持ってないわよね。魅了魔法自体が消えてしまってる訳だし」


 それにあの魔法は持続効果が短いと書かれていた。
 何度も重ね掛けしないとすぐに正気に戻ると。


(でもそれだどジョバンニ殿下が正気に戻っててもおかしくないわ。だってサブリナが投獄されてから一か月以上経つ訳だし、それ程効果が続くはずないもの)


 聞いたところによると、他の元側近候補の令息達もいまだにサブリナを助けてほしいと親に泣きついているそうだ。廃嫡はされていないものの、跡継ぎとしては資格なしと烙印を押され、下働きのようにこき使われている状況にも関わらずだ。


「うーん…、ハーレムを作りたいが為に禁忌の魔法に手を染めたのだとしたら、持続力が長すぎるし…。何か他の方法があったとか…」


 そんな事を今考えても仕方はないが。


「ま、私には関係ないか」


 色々と考えたが、すでにジョバンニの婚約者ではなくなったのだから、もうそんな事を気にする必要はないだろう。
 それよりも5日後にエルシオン領へ行く準備をしないといけない。
 エルシオンは田舎とは言っても、普通に街もあるし店もある。別に村人しかいないような田舎ではない。ただ、農業で生計を立てている地方なので、畑が沢山あるのだ。その風景が長閑でとてものんびりしている。
 ナディアは植物を育てた事はないので、畑仕事は何にもわからない。が、何度か品種改良の案を出し、特産品を作る事にも成功している。
 そういった意味でもナディアにとって繋がりが深い場所でもあった。


「あ、そうだ。エルシオン領のお屋敷の皆にお土産とか買って行こうかしら」


 何となく思いついたナディアは、さっそく専属侍女のオルガに相談する。


「オルガ、エルシオンに行くのに向こうの使用人の人達にお土産を用意したいのだけど、何がいいかしら?」

「まあ!それは皆喜びます!ですが、多分何を持って行っても喜ばれると思いますよ」

「それはそうだろうけど、向こうに無い物とか何か知らない?」

「エルシオンに無い物ですか…」


 オルガがうーんと唸りながら考え込む。そんなオルガをじっと見つめていたが、ふとある事に気付いた。


「…ね、オルガって出身はどこだったかしら?」

「え?お嬢様はご存知なかったですか?父親はドルフィーニ国の男爵家ですが母親はザクセン国の子爵令嬢だったんですよ。ですので私の髪は少し赤みを帯びてるでしょう?」


 そう言って髪をそっと撫でる。そう、ザクセンではよく見かける赤髪に近いブラウンの髪だ。
 と言うか、まさかのザクセンとは。ものすごく偶然だが、今までどうして気付かなかったのか。


「気付かないですよ、普通は。ザクセンだからって誰しもが赤い髪色をしていませんし」

「そうなの?」

「ええ。王家は燃えるような赤い髪ですけど、他はそうでもないんです。それに私はどちらかと言えば父に似てますので、肌もザクセン人よりも白いですし」

「そうよね。言われないと全く分からないわ」


 なるほど、とナディアは頷いた。
 オルガはドルフィーニ国の男爵家の次女だ。上に兄と姉がいて、自分はかなり自由にさせてもらっているとも言っていた。
 赤み掛かったブラウンの髪はふんわりとウェーブがかかっている。癖毛らしいが、本人は嫌だとか言っていた。
 猫のような目は少しキツめで、でも全体を見るとどこか可愛らしい雰囲気をしている。
 そんな彼女がナディアの侍女をしているのは、ジョバンニの14歳の生誕祭の時にナディアを見かけ、一目で心を奪われたとかどうとか。
 つまりはナディアの姿に一目ぼれし、両親を説得して倍率の高いサルトレッティ公爵家の侍女の座を勝ち取った。

 そんな経緯のあるオルガは、ようやく何かを思いついたらしく、パッと笑顔でナディアを見た。


「お嬢様、お料理を覚えましょう!」

「…は?」


 一瞬何を言われたのか分からずきょとんとする。と、オルガは興奮気味にナディアに詰め寄る。


「使用人は男性も女性も、年配も若者もいます!なので皆の気に入る物を買うのは難しいでしょう」

「それはそうね」

「であれば!お嬢様が手料理を!いえ、お菓子を作って皆に振舞えば絶っっっ対感激します!」

「それは…そうかもしれないけど、私お菓子なんて作った事ないわよ?」


 普通公爵令嬢は料理なんてしない。ましてやお菓子作りなんてするはずもない。何故ならお抱えの料理人が沢山いて、そういうモノは不自由した事がないからだ。
 というか、そもそも令嬢が厨房に入るなんて事は絶対にしない。
 それが分かっていてオルガは熱弁している。


「いいですか?お嬢様は高貴な御方。そんな御方が自分達の為だけにお菓子作りを必死で覚えて振舞ってくれる。これ最高です!めちゃ嬉しいです!」

「そういうモノなの…?」

「そういうモノです!もっと言えば男性なんて女性の手料理に憧れ持ってるくらいですからね!」

「へ、へえ…」


 駄目だ、目がいってる。そうは思うがオルガの提案したお菓子作りにちょっとだけ興味が出る。


「…じゃあ教えてもらって作ってみようかしら」



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