【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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婚約破棄後の公爵令嬢

ナディア、奮闘する

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「ぜひ!さあ、いざ厨房へ!行きますよ!!」


 ぐいぐいとオルガに引っ張られるが、これは後で侍女長に怒られるのではないかとハラハラする。が、訳を話すと案外すんなり了承を得られた上に、自分達も欲しいと言ってきた。
 素人が作るお菓子なんておいしい物ではないだろうけれど、そうまで言われるのなら頑張ろうと密かに意気込む。

 そして厨房に入り料理長に頼み込み、スイーツ担当の料理人の男性に手ほどきしてもらう事に。


「いいですか、お嬢様。お菓子は普段食べる食事と違って分量が命!目分量が一番失敗の元ですから!」

「は、はい」

「ではまず最初は何にしますか?クッキーでもいいですし、カップケーキでもいいですよ」

「んー、ではクッキーから教えてください」

「わかりました!」


 若い料理人はゲオルグと言うらしい。
 ゲオルグは丁寧に下準備から教えてくれたので、それをナディアは必死にメモを取る。
 王妃教育とは違い、教わる事が楽しいと思えたのは久しぶりだ。

 そうして手順通りにクッキーを作り、焼きあがったのを食べて少しがっかりした。


「…ちょっと固いですわ」

「でもおいしいですよ!」

「そうかしら…味も何だか薄い気がするけど」

「甘すぎずいい感じです!」


 オルガが試食したらしく、親指を立てていい笑顔を見せる。何だろうかその仕草は。
 反対にゲオルグは何故固くなったのかを丁寧に教えてくれたので、もう一度最初から作ってみる事にした。

 が、この失敗したクッキーをどうするべきか…
 そう悩んでいたが、その時不意に背後から声をかけられた。


「へえ、クッキーなんて作れるのか」

「!?」


 驚いて振り返るとエラディオが興味深そうにナディアの肩の上からクッキーを覗き込み、一つ掴んでひょいっと口に放り込んだ。


「あっ!それは…」

「ん~、ちょっと固いが美味いんじゃね?」

「え…」

「甘さ控えめだな」


 モゴモゴと口元を動かしながらも、すぐに次のクッキーを放り込む。
 その姿を呆然と見ていたナディアだったが、ハッと気付くと慌ててエラディオからクッキーを隠した。


「おっ、王族の方がこんな…毒味もせずに訳の分からない物を食べてはいけません!」

「訳の分からないって、ナディア嬢が作ったんだろ?なら大丈夫だ」


 一体何の根拠があって大丈夫だとか言ってるんだろうか。この人の考えている事がよく分からない。
 頭が痛いとばかりにこめかみを押さえ、ジロリとエラディオを見る。


「…それは、初めて作った物なんです。ですので人にあげるような出来栄えではないので食べないでください」

「ん?何だ、コレ初めてなのか?そうか、それはいいな」

「あ、ちょっと!」


 そう言うと嬉しそうな顔をしてクッキーをお皿事全て取り、そのまま手をヒラヒラと振りながら厨房から出て行ったのだった。

 呆気にとられたナディアだったが、ハッと我に返る。
 当然オルガもゲオルグも驚いていたようで、呆然と立ち尽くしていた。


「全く、何なのもう。あんな失敗作持っていくなんて…」

「それ程失敗と言う事はないですが、一体どこへ持っていくんでしょうね?ザクセン王弟殿下がいらっしゃると言う事は、また殿下が来られてるんでしょうか?」

「…!?」


 それは非常にまずい。というか、アレをジョバンニに食べさせられたら笑い者にされてしまう。
 何故ならサブリナはよくジョバンニに手作りのお菓子を渡していたのだ。それを躊躇いなく食べるのを最初は注意していたが、段々馬鹿らしくなって言わなくなったのを覚えている。

 サブリナの作るお菓子は最高だとか、さすがはサブリナだとか褒めまくってたからだ。


「絶対馬鹿にされるわ…!早く回収しないと!」


   いくら好きでもない相手だったとしても、婚約を破談にしてきた男にばかにされるなんて我慢ならない。
 ナディアは慌てて厨房から飛び出し、エラディオの後を追った。


「お待ちくださいザクセン王弟殿下!」


 後姿を捉えて呼び止めるが、エラディオはチラリとこちらを見ただけでスタスタと歩き続ける。
 というか、勝手に厨房とか入らないでほしい。自由すぎるんじゃないか。
 そもそも絶対聞こえているはずなのに知らんふりをするなんて、どういうつもりなんだろうか。
 そうは思うがそれよりもその手に持ってるクッキーを早く回収したい。


「ザクセン王弟殿下…!」


 やっぱり無視だ。
 イラっと来たナディアは思わず


「エラディオ様!!」


 と、エラディオを名前で呼んでしまった。
 するとエラディオはピタリと足を止め、ニッと笑顔を浮かべて振り返る。


「何だ、俺の名前覚えてるんじゃないか」

「なっ…」


 エラディオの嬉しそうな顔にナディアが思わず言葉を失う。


「それで、そんなに急いで追いかけて来てどうしたんだ?」

「…クッキーを返してください」


 思わず睨みそうになるのをぐっと堪えてナディアが呟くが、エラディオはきょとんとしている。まさかクッキーを取り返しに来ると思わなかったようだ。


「は?コレを返してほしいから追いかけて来たのか?」

「当然です!それは失敗作と言ったじゃないですか!そもそもどこへ持っていくつもりですか!」

「どこへって、応接室」

「まさかジョバンニ殿下に食べさせる気ですか!?」


 顔面蒼白にしてナディアが叫ぶと、エラディオが驚いたように目を丸くする。そして次の瞬間弾けるように笑い出した。


「プッ、ははははは!!何だよその顔!」

「と、当然です!そんな失敗作をジョバンニ殿下が食べでもしたら、どんな嫌味を言われるか分からないじゃないですか!」

「え、あ、そっち?」

「…え?」


 ピタリと笑うのをやめて驚くエラディオにナディアは全くついていけない。
 何がそっちなのか分からずに怪訝な表情をすると、エラディオはナディアに一歩近付きナディアの表情を伺うように眺めてきた。
 それを不快そうに眉を顰めて見返す。


「…何ですか、一体」


 我慢できずに呟くと、エラディオが自身の顎をさすりながらぐっと顔を近づけてくる。それをナディアが避けるように仰け反ると、エラディオがポツリと呟いた。


「…ふーん、やっぱりジョバンニの勘違いか」

「は…?」


 言われてる意味が分からずに首を傾げるが、エラディオは一人納得したように笑みを浮かべる。そしてナディアの頭をポンポンと触り、そのままクルリと向きを変えて応接室へと去ってしまった。

 一連のエラディオの行動についていけないナディアは、ポカンとその場に立ち尽くす。
 そして無意識に自分の頭に手をやり、ようやくハッと覚醒した。


「ちょ、クッキー!!!!」


 ナディアが応接室へ向かったが、すでにエラディオとジョバンニは帰った後だった。





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