【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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婚約破棄後の公爵令嬢

寂しい

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 エラディオの突然の訪問から数日後、ナディアに熱心に告白したのを忘れたかのように振舞っていたエラディオは、一週間という短い期間でザクセンに帰って行った。
 残されたナディアは拍子抜けし、現在ぼんやりと過ごしている。
 一緒にエルシオンにいたレイナードも、明日には領都に戻る予定だ。ずっと一緒にいてくれたオブライエン騎士団長もレイナードと共にサルトレッティ領へ向かう事になった。


「寂しいわ…」

「そうですねぇ」


 ナディアの呟きをオルガが拾い、苦笑しながらも頷く。
 何だかんだ言ってエラディオやバルテル達がいた一週間は楽しかったのだ。


「それにしてもザクセン王弟殿下はあっさりしてますね」


 オルガが不思議そうに呟く。


「元々そんなに情熱的な方ではないんじゃないの?」

「そうですか?わざわざこんな田舎までお嬢様に会いに来たんですから、情熱はあると思いますよ」


 それでも、帰る時はあっさりしたものだった。
 とてもいい笑顔で「またな」とだけ告げ、颯爽と馬に乗って立ち去ってしまった。
 あんなに惚れただの好きだの言ってた割に、ナディアに何の言葉もなかった。


(まあ別にいいんだけどね)


 何かを期待するなんて馬鹿げている。ジョバンニの時に懲りたはずだ。それに自分もエラディオを知って、それで気持ちを返せたらとは思ったが、一週間では短すぎるだろう。
 エラディオもナディアに気持ちを押し付けるような事はしなかったのだ。
 最初のあの、再会してから一緒に過ごした夜以来、エラディオは色恋を匂わせるような事は一切しなかった。
 ただ親しい友人のように振舞い、ナディアとレイナードと一緒に遊んで過ごした。

 そう、本当に遊んで過ごしたのだ。


「そう言えばお嬢様はチェスが強いんですね!ザクセン王弟殿下に何度か勝たれて凄かったです!」

「レイナードには負けないんだけど、さすがに王弟殿下相手に全勝は無理だったわ」

「あ、それとあの狩りの日も楽しかったですね!お嬢様がブーメランをとても正確に投げるのには感動しました!」

「戻って来るのが楽でいいのよ」


 チェスは毎日一回、晩餐の後に勝負した。
 結果としては3勝3敗1引き分けだ。つまり同点で終わっている。
 狩りは男性だけで行くのかと思っていたが、何故かエラディオに引きずられるように連れて行かれた。
 オルガがブーメランの腕前を褒めていたが当然の結果だ。何故ならナディアは投擲が得意中の得意だからだ。
 投擲の中でも得意だったのが、ブーメランとボーラだ。
 実はナディアの持つ扇子もブーメラン仕様になっていて、投げると戻って来る。


「婚約破棄でもブーメランで撃退…」

「あれは言葉のブーメランよ。行動の、とも言えるけれど」


 あの時は完全にジョバンニ達の分が悪かったと言える。立場を利用した虐めは彼らがナディアにしていた事だし、婚約者を放置して他の女性に懸想していた事もだ。


「ジョバンニ殿下もだけど、側近候補達もそうだったわ。確かフェリッリ男爵令嬢から手渡されていたお菓子に惚れ薬が入っていたようだけど、多分もう抜けている頃でしょうね」

「正気に戻った彼らがどう思うか見ものですねぇ」

「正直どうでもいいわ。結局彼等は婚約者を捨てた気でいたけど、本当は捨てられたという事実に気付くだけね」

「しんどいですねー」

「自業自得ね。薬を盛られてたかもしれないけど、不用意に手作りの物を口にするから悪いのよ。私は再三注意したんだから」


 ジョバンニだけでなく、彼等にもナディアは同じように注意を促していた。
 手作りの食べ物を不用意に口にしてはいけない。するのなら一度持ち帰って検査をしてからにしろと。
 同じ学園の生徒からの贈り物を疑うなんて最低だ、なんて言われたが、普通に考えて王太子とその側近候補に取り入ろうとする女性なんて山ほどいるのだ。
 そういう注意を家で受けているはずなのに、男ってやつは見た目にすぐ騙される。


「…そう言えば、ザクセン王弟殿下はフェリッリ男爵令嬢にお会いした事があったらしいですね」

「そうなの?」


 それは初耳だ。なんでオルガが知っているのか。


「コーレイン様が教えてくださいましたよ。なんでもジョバンニ殿下と一緒に牢に面会に行ったとか。その前にも何度か王宮でジョバンニ殿下と一緒にいる所を見たと言ってました」

「王宮にまで呼んでたの…ホント馬鹿なんだから」

「本当に。それで、ジョバンニ殿下の婚約者はお嬢様なのに、その女は誰だと聞いたらしいです」

「それで?」

「その時は堂々と『私の愛する女性だ』と言われたそうですよ」

「…頭が痛いわ」


 いくら過去の事だとは言え、恥ずかしすぎるだろう。完全にジョバンニの黒歴史だ。


「その時はそれ以上追求もしなかったし、すぐに忘れたそうです。実際ザクセン王弟殿下は今でも覚えていないようですが、コーレイン様はよく覚えていると言ってました」

「エラディオ様にとってどうでもよかったのね」

「ええ。ですが何を勘違いしたのかフェリッリ男爵令嬢がザクセン王弟殿下に擦り寄って来たんだそうです」

「え」

「あ、勿論すぐに振り払われたそうです」


 良かったですねと言わんばかりの笑顔だ。
 そんな顔をされても過去の事だし、どうにもできない。実際エラディオは覚えていないような些細な事のようで、バルテルが覚えているのは主君に害になるかもしれないと感じたからだそうだし。


「とにかく牢に面会した時、目を輝かせて『私を助けに来てくれたのね!』と喜んでいたようですよ」

「そのポジティブさはある意味尊敬するわ」

「本当ですよねぇ」


 何日も牢に閉じ込められているのに、どうして助けてくれると思うのだろう。
 すでに裁判も終わり、実刑判決がされている。サブリナは生涯牢獄で過ごすか、強制労働の二択しかないのだ。
 その選択も後半年後には決定される。半年は猶予期間だ。


「フェリッリ男爵令嬢…は、もう男爵令嬢じゃないのでサブリナさんとお呼びしたらいいのかしら」

「それでいいんじゃないですか?それにしても、殿下も元側近候補の方達も今はとても苦しい時でしょうね」

「人の事を馬鹿にして過ごすからこんな事になるのよ。今の状況だけを見て可哀そうだなんて言わない事ね」

「勿論言いませんよ。何しろお嬢様に実害がありましたし。ですが、親御さん達は気の毒ですよね」

「それも教育不行き届きよ」


 ふうっと溜息をつく。そして何となく窓の外を見た。


「…そろそろ別の領地に移動しようかしら」

「それもいいですね!今度はどこに行きますか?」


 オルガが目を輝かせて尋ねる。ナディアもジョバンニを避けてエルシオン領に来ているだけなので、何となくだが明日レイナードと一緒にサルトレッティ領に戻ってもいいかもしれないと思いだした。


「領都に戻ろうかしら」


 そうすれば両親もいるし、弟とも一緒にいられる。寂しさを感じる事はないだろう。


「オルガ、明日レイナードと一緒に領都に戻るわ。準備してくれる?」

「ええっ!?急ですね!クエントさんが倒れるんじゃないですか?」

「これくらいで倒れるような人じゃないわよ。荷物も最小限でいいから。それと、オブライエンさんにも伝えてくれる?」

「わかりました」


 オルガがペコリとお辞儀をし、部屋から出て行く。
 ナディアもレイナードに伝えるべく部屋を出て、レイナードがいるであろう場所へ移動した。




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