【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

文字の大きさ
37 / 89
ザクセン国の王弟殿下

動く

しおりを挟む
 ナディアがホテルに帰った後、エラディオは王宮へ向かった。
 今日は休みだったのだが、どうしてもバルテルとすり合わせをしておく必要が出来た為だ。

 王宮の執務室へ着くと、バルテルがエラディオの仕事の振り分けをしている最中だった。
 突然訪れたエラディオに目を丸くしていたが、エラディオの表情を見て手に持っていた書類を机の上に置いた。


「何だ、今日は休みだろ?何かあったのか?」

「…ナディア嬢が来た」

「は?」


 まあそういう反応になるだろう。バルテルの素直な反応にエラディオが苦笑を漏らす。そしてドサッと椅子に座るとバルテルにも視線で座るよう促した。

 そしてさっきまでの事をざっくりと説明すると、バルテルがケタケタと笑い転げる。どうやらナディアの行動がツボだったらしい。
 バルテルが笑い終わるのを冷ややかに眺めていたエラディオだったが、ふいにポツリと呟く。


「ジョバンニ達はドルフィーニの国王にナディア嬢への接触は一週間以内だと言われていたはずだが、何故か彼女を追いかけているようだ」

「またされるんじゃないの」

「だがもう失う物がない奴等だ。アイツ等が今後どうなろうと構わないが、ナディア嬢に付きまとうのなら話は別だ」

「まだエラディオの婚約者じゃないけどね」


 しれっとバルテルが告げるとエラディオはジロリと睨む。その通りなのだが指摘されると面白くない。


「こんな事はしたくなかったが、権力を使って婚約に持ち込んでやる」


 ボソッと不穏な事を口にしたエラディオにバルテルも目を瞠る。そしてパクパクと口を開けてバカみたいな顔をしていたが、エラディオが表情を動かす事なく黙っているのを見て、本気だと感じたようだ。


「…それやっちゃうとナディア嬢に嫌われるかもよ?」

「そんな悠長な事言ってられるか。ジョバンニはともかく、他の三人の男共が怪しいだろ。とにかく一週間でゾーラの街へ行くが、その前に兄上に頼んで来る。滅茶苦茶不本意だがな」


 苦虫を噛み潰したような顔で言い捨てて、エラディオは上着を肩にかけて立ち上がる。休日だった為に正装であるジャケットを椅子に掛けっぱなしだったので、それを乱雑に羽織って歩き出した。
 そんなエラディオを溜息をつきながら眺めていたバルテルだったが、すぐに気を取り直して一緒に歩き出す。
 そして侍従を呼び止め国王への伝言を頼み、そのままエラディオと共に謁見室へと向かった。


「国王陛下に拝謁いたします」

「うむ、顔を上げろ」

「はい」


 謁見室にて国王に対面したエラディオは、礼節を取って礼拝した。そして顔を上げると何故か目をキラキラさせた国王がこちらを興味深そうに見ている。
 その表情がまたムカついて殴りたい気分になったが、ここは謁見室だ。他の文官達もいるこの場でそんな事をできるはずもない。
 エラディオは気を取り直して姿勢を正し、真っすぐに国王を見据えてはっきりとした口調で進言した。


「すでにお話していますが、隣国であるドルフィーニ国のサルトレッティ公爵令嬢に正式に求婚しました」


 エラディオの言葉に文官達、つまりは高位貴族達がざわめき出す。それもそのはず、エラディオの妻の座はとてつもなく倍率が高く、誰しもが欲しいと願っていたのにも関わらず、エラディオは全ての申し出を跳ね除けていたのだ。それなのに突然他国の令嬢と結婚したいと言い出したからだ。


「それで、私に何を求める?」

「陛下からもドルフィーニ国へ後押しをしていただきたい」

「私から正式にドルフィーニ国へ伝える事の意味を分かって言っているのか?」

「勿論です」


 ザクセン国王からドルフィーニ国王に申し出をすれば、よほどの事が無い限り断る事はできないだろう。ここに来てエラディオは思いっきり権力を利用しようとしているのだ。
 それが分かったエーベルハルトは突然大声で笑い出した。


「ははははは!そこまでして彼のご令嬢を所望するのか!よし、いいだろう!早急に書状を出してやる」

「は、有り難き…」

「お、お待ちください!」


 エラディオの言葉を遮り、一人の貴族が声を上げた。
 それを不快そうにエラディオが睨みつける。

 声を発したのは宰相であるゴメス公爵だ。
 ゴメス公爵の顔を見たエラディオは、そう言えば娘であるリシュア令嬢の誕生日パーティーを断った事をぼんやりと思いだす。


「な、何故他国のご令嬢と婚姻されるのですか!」

「そ、そうです!我が国にも年頃の令嬢は沢山います!どうかお考え直しを…!」


 ゴメス公爵に便乗してシルバーバーグ侯爵も声を上げた。それを興味無さそうに眺めた後、吐き捨てるようにエラディオが声を出す。


「俺の婚姻に何故お前達が口を出す?陛下が許可を出したんだ。お前達は陛下の意見に異を唱えるつもりか?」


 エラディオが怒気を含ませて二人に告げると、二人は悔しそうに表情を歪める。それでも諦めないつもりなのだろう。さらにエラディオに言い募った。


「わ、我が娘リシュアは王弟殿下を幼いころからお慕いしております!何故リシュアではダメなのですか!」

「それを言うのならルシアもそうです!いつも王弟殿下の事を…!」

「そんな、うちの娘もですよ!」


 またもや便乗しようとミナージュ伯爵もしゃしゃり出る。そんな三人を冷めた目で見つめたエラディオは、フンと鼻を鳴らして口元を歪ませた。


「だから何だ?」

「え…」

「お前達の娘が俺に気があるからと言って、何故俺が何とも思っていない娘を娶らないといけない」

「そ、そんな…」

「ですが…」


 サッと顔を青ざめる貴族達にエラディオは侮蔑の表情を浮かべた。


「いいか、今ここではっきり言っておく。俺は兄上の為に生涯誰とも沿うつもりはなかった。お前達の娘にも興味が沸かなかったしな。だが、彼女と出会って考えが変わった。彼女と婚姻する事に反対するのなら、俺は当初の予定通り誰とも婚姻しねぇぞ。俺の生き方に意見する気なら、俺はこの国を捨てたって構わねぇ」


 ザワリと周囲がざわめく。聞きようによっては反逆と捉えかねない言い方に、エーベルハルトが苦笑を漏らした。


「その辺でやめろ、エラディオ。皆の者、お前達もだ。エラディオは継承権を放棄する代わりに自由を与えている。公務を務めてもらってはいるが、本来ならするもしないも自由なのだ」

「ですが!王族としての義務がありますぞ!」

「それがお前達の娘との婚姻か?くだらん、下心しか見えんな」

「なっ…!」


 今度はエーベルハルトが吐き捨てるように呟く。そして興がそれたと言わんばかりに手を振る。


「エラディオを縛る事はできんのだ。だが、我が国にはまだこやつの力は必要だ。違うか?」

「…その、通りです…」

「ならお前達の意見は必要ない。めでたい話に水を差すな」

「は…」


 悔しそうに歯噛みし、ゴメス公爵が地面を睨みつける。シルバーバーグ侯爵も、ミナージュ伯爵も同じ様に悔しそうだ。
 だが国王であるエーベルハルトは一転してエラディオに笑みを浮かべ、楽しそうに弟を見つめた。


「ま、可愛い弟の頼みだ。滅多に私に頼らないエラディオが頼ってきたのだから、それに応えるのが兄の役目だろう」

「…有り難き」

「ははは、まあそう固くなるな。ならば明日にでも書状を送ろう」

「いえ、今日お願いします」

「何?」


 明日でも早いのに、今日とは。そこまで早くしたい理由は何なのか国王が目で問う。


「倍率が高いんだよ」


 不貞腐れたように呟く弟の姿を見て、エーベルハルトは再び楽しそうに笑ったのだった。






 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...