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ザクセン国の王弟殿下
王弟殿下の旅立ち
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国王であるエーベルハルトに婚姻の申し込みの書状を催促したエラディオは、きちんと今日中に送ったかどうか確認してから屋敷に帰る事にした。
そしてサルトレッティ公爵宛に自分からももう一度書状を送った。
今回、ナディアの返答を待たずして、ザクセン国の王弟の立場を利用し婚姻の申し込みをした事を詫びる文だった。
屋敷にはバルテルも一緒についてきており、応接室で二人は顔を突き合わせる。これからの予定を確認する為だ。
「明日ここを発つ。お前はどうする?」
「勿論一緒に行くさ。メンバーは?」
「いつもの面子でいいだろ。その方が面倒がない」
「だよな」
毎回旅に出る時に一緒に行動する面子が一番楽でいい。改めて関係性を築く必要もなく、意思の疎通もしやすい。エラディオがいつも連れて行く護衛達は6人で、バルテルを入れて8人で行動していた。今回もそれで行く事に異論はない。
「毎回突然だからアイツ等には悪いとは思ってるんだが」
「もう慣れてるって。それに感謝するなら特別手当でも出してやればいいさ」
エラディオの護衛達はエラディオと共に旅に出る事を楽しんでいるのだ。だから小遣いでもやればそれで満足するのだとバルテルが告げる。それにはエラディオも苦笑を漏らして納得していた。
「…ナディア嬢は怒るだろうか」
「さあねぇ…」
他国の王族からの正式な婚約の申し込みは、よほどの事がなければ受理されるだろう。公爵家に届けた申し込みですらそうなのだ。ナディアが頑なに嫌がらない限り、サルトレッティ公爵にしても快諾するはずだ。
けれどそれだけだと足らない。
ナディアは一筋縄ではいかない令嬢だ。
ジョバンニ程度が手綱を握れるはずがない。ナディアはジョバンニには勿体ない。
だが、果たして自分はどうだろうかと考える。そしてすぐさまその考えを振り払った。
王族であるジョバンニやエラディオが相応しくないとあれば、彼女に相応しい人物は一国の王、もしくは皇帝くらいになってしまうだろう。
遠く離れた帝国の王と巡り会う事はないだろうが、エラディオも立派な王族なのだ。
「あの面白い女を他の奴に取られるのは我慢ならねぇ。絶対に手に入れてやる」
「すごい執着だなぁ。ホント珍しいよ」
「何とでも言え。明日は昼前に出立するから、アイツ等にも伝えておいてくれ」
「了解」
そう言ってバルテルは準備の為にエラディオの屋敷から帰って行った。
一人になったエラディオはすぐに家令に旅の準備をするよう命じ、今度はセルゲイを呼ぶ。
「さて、と。セルゲイ、お前には別件で頼みたい事がある」
「はい、何なりと」
「ジョバンニとその元側近候補達がナディア嬢に謝罪しにサルトレッティ公爵家に来たそうだが、ナディア嬢は会いたくないからとザクセンに逃げて来た。だが、本当にそれが理由だと思うか?」
「…確かに、ご令息達を避けるだけなら別の領地へ行けば済みますね」
「ああ。それに門前払いすれば会う事はない。俺の気のせいならいいがドルフィーニ国のカサレス公爵が例の件で失脚しただろ。逆恨みしてる可能性もある」
例の件とはジョバンニの薬物中毒の件だ。サブリナが一服盛ったのは確かだが、あの惚れ薬のレシピを渡したのはカサレス公爵の手の者だ。そこから芋蔓式にカサレス公爵の悪事をナディアの父であるサルトレッティ公爵が暴き、カサレス家は失脚。爵位を剥奪された経緯がある。
「なるほど。だからサルトレッティ公爵令嬢の護衛に、サルトレッティ家の騎士団長が就いているのかもしれませんね」
「そう考えれば彼女の安全の為に他国であるザクセンに来たのかもしれねぇな。一日二日ですぐに次の街に向かったのも気になる」
「一つの場所に留まる事が危険だと判断したのでしょう。分かりました。サルトレッティ公爵令嬢の周囲を嗅ぎまわる輩を探し出して見せましょう」
「頼んだ」
自分の思い過ごしならそれでいい。だが違うのなら少しでも危険を避けれるようにしたい。そう思いエラディオはセルゲイに指示を出した。
そして翌日。
宣言通り昼前には全員が屋敷の門前に集まった。
「よし、全員いるな。いいか、5日でゾーラの街に着くぞ。気合入れろ」
「「「「「はっ!」」」」」
全員が頷き、それをエラディオも満足そうに眺める。そして使用人達に視線を向け、セルゲイに目配せをしたエラディオは、颯爽と馬を走らせた。
「待ってろよ、ナディア嬢…!」
こうして、エラディオはザクセンの街を旅立ったのだった。
そして途中で馬を休めながらもかなり無茶をしながら進み続けたエラディオ達は、宣言通り5日でゾーラの街に辿り着いた。
ナディアと約束していた7日後の当日だ。
「はぁー、疲れたぜ…」
「エラディオ様だけじゃないですよ…」
「今回は参った…」
「そりゃお前が夕べ飲み過ぎたせいだろ」
「バカ、そこまで飲んでないだろ!」
「はいはい、喧嘩はしないように。で、待ち合わせ場所はどこだよ?」
護衛達が口々に好きな事を言い出すのを諫めると、バルテルがエラディオに目的地を訪ねる。
「ゾーラの工業協会だ。そこで落ち合う約束をしてる」
「色気もクソもないとこだな」
もっとましな場所があっただろうとバルテルの視線が物語っているが、如何せんここは工業街だ。そんなおしゃれな場所があるはずもない。
「仕方ねぇだろ。目印になるのはあそこが一番だ。まあ、建物も随分と豪華だし、この街に来れば自然と目につくだろ」
「それはそうだと思うけど」
チラリと工業協会のある方角に視線を向ける。
すると立ち並ぶ建物の奥に一際目立つ造りの建物がある。それが工業協会だ。
工業都市と言われるだけあり、ゾーラの街の協会はその技術力を見せつけるかのような、豪華で頑丈な造りだ。ある意味ゾーラに来たらまず工業協会を見学しろと言われる程だ。
「相変わらずすごい人だな」
「そりゃあね。ここに来れば仕事も沢山あるし、自分の腕を磨くにもいい場所だからね」
「で、肝心のナディア嬢はまだみたいだな」
「まあ来ればすぐに分かるでしょ。あんな目立つ美女…」
バルテルが話している最中に、工業協会の入り口付近がざわめき出す。
エラディオ達は協会の中にあるカフェスペースで休憩中だったのだが、その騒ぎに気付き視線だけ入り口に向けた。
すると見覚えのある美しいシルバーブロンドの髪が視界に入る。
思わず立ち上がったエラディオは、バルテル達の制止も聞かずに入口へと足を向けた。
「ナディア!」
「…!エ、エラディオ様…?」
エラディオが声をかけると、驚いた顔をしたナディアが視界に入った。隣にはいつものメンバーであるオルガとオブライエン、それにチャドがいる。
追いついた、そう思った途端にエラディオの体から力が抜け、ホッと大きく息を吐いた。
「良かった、まだこの街にいたか」
「え、ええ。私も昨日来たばかりでしたので…」
「今日が約束の日だったろ?ちゃんと間に合ったぜ」
「…そうみたいですね」
困ったように笑うナディアを見てエラディオの心臓がギュッと掴まれたように鼓動する。エラディオは無意識のうちに手を伸ばし、ナディアの体を引き寄せて自身の胸に閉じ込めた。
「エ、エラディオ様!?」
「はぁ…、間に合って良かったぜ。置いて行かれたら滅茶苦茶落ち込んでた」
エラディオに抱きしめられたナディアは一瞬で赤面する。あわあわと慌てていると、二人を無理やりチャドが引き剝がし、自分の背にナディアを隠した。
「お戯れはおやめください。そして気安く触らないでいただきたい」
そしてサルトレッティ公爵宛に自分からももう一度書状を送った。
今回、ナディアの返答を待たずして、ザクセン国の王弟の立場を利用し婚姻の申し込みをした事を詫びる文だった。
屋敷にはバルテルも一緒についてきており、応接室で二人は顔を突き合わせる。これからの予定を確認する為だ。
「明日ここを発つ。お前はどうする?」
「勿論一緒に行くさ。メンバーは?」
「いつもの面子でいいだろ。その方が面倒がない」
「だよな」
毎回旅に出る時に一緒に行動する面子が一番楽でいい。改めて関係性を築く必要もなく、意思の疎通もしやすい。エラディオがいつも連れて行く護衛達は6人で、バルテルを入れて8人で行動していた。今回もそれで行く事に異論はない。
「毎回突然だからアイツ等には悪いとは思ってるんだが」
「もう慣れてるって。それに感謝するなら特別手当でも出してやればいいさ」
エラディオの護衛達はエラディオと共に旅に出る事を楽しんでいるのだ。だから小遣いでもやればそれで満足するのだとバルテルが告げる。それにはエラディオも苦笑を漏らして納得していた。
「…ナディア嬢は怒るだろうか」
「さあねぇ…」
他国の王族からの正式な婚約の申し込みは、よほどの事がなければ受理されるだろう。公爵家に届けた申し込みですらそうなのだ。ナディアが頑なに嫌がらない限り、サルトレッティ公爵にしても快諾するはずだ。
けれどそれだけだと足らない。
ナディアは一筋縄ではいかない令嬢だ。
ジョバンニ程度が手綱を握れるはずがない。ナディアはジョバンニには勿体ない。
だが、果たして自分はどうだろうかと考える。そしてすぐさまその考えを振り払った。
王族であるジョバンニやエラディオが相応しくないとあれば、彼女に相応しい人物は一国の王、もしくは皇帝くらいになってしまうだろう。
遠く離れた帝国の王と巡り会う事はないだろうが、エラディオも立派な王族なのだ。
「あの面白い女を他の奴に取られるのは我慢ならねぇ。絶対に手に入れてやる」
「すごい執着だなぁ。ホント珍しいよ」
「何とでも言え。明日は昼前に出立するから、アイツ等にも伝えておいてくれ」
「了解」
そう言ってバルテルは準備の為にエラディオの屋敷から帰って行った。
一人になったエラディオはすぐに家令に旅の準備をするよう命じ、今度はセルゲイを呼ぶ。
「さて、と。セルゲイ、お前には別件で頼みたい事がある」
「はい、何なりと」
「ジョバンニとその元側近候補達がナディア嬢に謝罪しにサルトレッティ公爵家に来たそうだが、ナディア嬢は会いたくないからとザクセンに逃げて来た。だが、本当にそれが理由だと思うか?」
「…確かに、ご令息達を避けるだけなら別の領地へ行けば済みますね」
「ああ。それに門前払いすれば会う事はない。俺の気のせいならいいがドルフィーニ国のカサレス公爵が例の件で失脚しただろ。逆恨みしてる可能性もある」
例の件とはジョバンニの薬物中毒の件だ。サブリナが一服盛ったのは確かだが、あの惚れ薬のレシピを渡したのはカサレス公爵の手の者だ。そこから芋蔓式にカサレス公爵の悪事をナディアの父であるサルトレッティ公爵が暴き、カサレス家は失脚。爵位を剥奪された経緯がある。
「なるほど。だからサルトレッティ公爵令嬢の護衛に、サルトレッティ家の騎士団長が就いているのかもしれませんね」
「そう考えれば彼女の安全の為に他国であるザクセンに来たのかもしれねぇな。一日二日ですぐに次の街に向かったのも気になる」
「一つの場所に留まる事が危険だと判断したのでしょう。分かりました。サルトレッティ公爵令嬢の周囲を嗅ぎまわる輩を探し出して見せましょう」
「頼んだ」
自分の思い過ごしならそれでいい。だが違うのなら少しでも危険を避けれるようにしたい。そう思いエラディオはセルゲイに指示を出した。
そして翌日。
宣言通り昼前には全員が屋敷の門前に集まった。
「よし、全員いるな。いいか、5日でゾーラの街に着くぞ。気合入れろ」
「「「「「はっ!」」」」」
全員が頷き、それをエラディオも満足そうに眺める。そして使用人達に視線を向け、セルゲイに目配せをしたエラディオは、颯爽と馬を走らせた。
「待ってろよ、ナディア嬢…!」
こうして、エラディオはザクセンの街を旅立ったのだった。
そして途中で馬を休めながらもかなり無茶をしながら進み続けたエラディオ達は、宣言通り5日でゾーラの街に辿り着いた。
ナディアと約束していた7日後の当日だ。
「はぁー、疲れたぜ…」
「エラディオ様だけじゃないですよ…」
「今回は参った…」
「そりゃお前が夕べ飲み過ぎたせいだろ」
「バカ、そこまで飲んでないだろ!」
「はいはい、喧嘩はしないように。で、待ち合わせ場所はどこだよ?」
護衛達が口々に好きな事を言い出すのを諫めると、バルテルがエラディオに目的地を訪ねる。
「ゾーラの工業協会だ。そこで落ち合う約束をしてる」
「色気もクソもないとこだな」
もっとましな場所があっただろうとバルテルの視線が物語っているが、如何せんここは工業街だ。そんなおしゃれな場所があるはずもない。
「仕方ねぇだろ。目印になるのはあそこが一番だ。まあ、建物も随分と豪華だし、この街に来れば自然と目につくだろ」
「それはそうだと思うけど」
チラリと工業協会のある方角に視線を向ける。
すると立ち並ぶ建物の奥に一際目立つ造りの建物がある。それが工業協会だ。
工業都市と言われるだけあり、ゾーラの街の協会はその技術力を見せつけるかのような、豪華で頑丈な造りだ。ある意味ゾーラに来たらまず工業協会を見学しろと言われる程だ。
「相変わらずすごい人だな」
「そりゃあね。ここに来れば仕事も沢山あるし、自分の腕を磨くにもいい場所だからね」
「で、肝心のナディア嬢はまだみたいだな」
「まあ来ればすぐに分かるでしょ。あんな目立つ美女…」
バルテルが話している最中に、工業協会の入り口付近がざわめき出す。
エラディオ達は協会の中にあるカフェスペースで休憩中だったのだが、その騒ぎに気付き視線だけ入り口に向けた。
すると見覚えのある美しいシルバーブロンドの髪が視界に入る。
思わず立ち上がったエラディオは、バルテル達の制止も聞かずに入口へと足を向けた。
「ナディア!」
「…!エ、エラディオ様…?」
エラディオが声をかけると、驚いた顔をしたナディアが視界に入った。隣にはいつものメンバーであるオルガとオブライエン、それにチャドがいる。
追いついた、そう思った途端にエラディオの体から力が抜け、ホッと大きく息を吐いた。
「良かった、まだこの街にいたか」
「え、ええ。私も昨日来たばかりでしたので…」
「今日が約束の日だったろ?ちゃんと間に合ったぜ」
「…そうみたいですね」
困ったように笑うナディアを見てエラディオの心臓がギュッと掴まれたように鼓動する。エラディオは無意識のうちに手を伸ばし、ナディアの体を引き寄せて自身の胸に閉じ込めた。
「エ、エラディオ様!?」
「はぁ…、間に合って良かったぜ。置いて行かれたら滅茶苦茶落ち込んでた」
エラディオに抱きしめられたナディアは一瞬で赤面する。あわあわと慌てていると、二人を無理やりチャドが引き剝がし、自分の背にナディアを隠した。
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