【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

ナディアへの求婚者達

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「何て事だ…」


 国王に呼び出されたフィリップは、謁見室で頭を抱えていた。
 それを気の毒そうに眺めていた国王だったが、こちらも溜息をついてこめかみを押さえている。


「サルトレッティ公爵、貴殿の気持ちも分かるが…」

「陛下に何が分かるって言うんです?おたくの息子が愚かにもパーティーの席で娘に婚約破棄なんぞ言わなければ、今のような状況になる事はなかったんですよ!」

「それは散々謝ったであろう?お主も根に持つ男だな」

「娘を蔑ろにされたのに根に持たないとでも?それにあのバ…ジョバンニ殿下はまだ娘を追い回しているんですよ?お陰で領地にすらいられなくなってしまったと言うのに…」

「それについても謝罪しただろう。ジョバンニもすぐに連れ戻すよう命じている」

「大人しく言う事を聞くような人ならば、今頃こんな事になっていませんよ。陛下は息子に甘すぎる」


 そう言われては何も言い返せず、国王は曖昧に笑った。
 サルトレッティ公爵領へ突撃したジョバンニ一行は、言われていた期限を過ぎたと言う事で強制送還処分なのだ。今は逃げ回っているが、そのうち王都に連れ戻されるだろう。
 一緒に行動していた元側近候補達もそれぞれの領地へ戻らないといけない。

 結局ナディアへの謝罪は叶わなかったのだ。


「ナディア嬢は余程あ奴等の謝罪を受けたくないと見たが」

「当然でしょう?男数人に3年間もいじめられていたんですよ?いじめの首謀者と誰が会いたいと思いますか」

「しかし謝りたいと言っているのだぞ?」

「許すつもりがないからですよ。本当に、彼等の家は一体何を教えているのか」


 惚れ薬の効果が切れた後、それぞれの子息達は同じように後悔し、苦しんだようだった。自分達の婚約者を傷付けた事や、冤罪でナディアを公衆の面前で辱めた事も、全て恥ずべき行為だ。
 だがナディアに謝罪したいのは自分達が楽になりたいからだ。それが分かっていたからこそ、ナディアは彼等から逃げるようにザクセンへ向かったのだ。


「…して、コレはどうする?」

「何がですか」


 国王に見せられた山積みの封書を苦々しく見たフィリップだったが、それが何なのかは分かっていた。


「ザクセンの王弟殿下、サーシス国の第一王子、コルト国の大公殿下と、並み居る近隣諸国の王族からの求婚だ。勿論我が国の貴族からも求婚されておるだろう?」

「チッ」


 フィリップが気に入らないとばかりに舌打ちをする。


「全てジョバンニ殿下の婚約者として公務に出た弊害ですね。陛下が何とかしてください」

「無理に決まってるだろ。お主、ちょっとその態度はいくら私でも傷付くぞ」

「いくら友人だからと言って、陛下を許すと思いますな」

「…で、ザクセン王弟殿下はサルトレッティ公爵領に来たであろう?直接お主にも求婚の手紙を出していると聞いているが」

「…」


 確かに受け取っている。ナディアに確認すると、まんざらでもない様子だったのも理解している。


「サーシス国はお主の息子が留学していた国だろう?第一王子はレイナードと交流があったはずだが」

「聞いておりますよ。サーシス国の第一王子、ローデウェイク・レオ・サーシス王子殿下。実は一度我が家にお忍びで遊びに来た事があるんですよね」

「は?それは初耳だぞ?」

「そりゃそうですよ、お忍びですから」


 段々と態度が崩れていくフィリップに国王も苦笑せざるを得ない。そして初めて聞いた事実に驚きはしたが、ナディアに求婚した理由がようやく理解できた。


「なるほど、ではその時にナディア嬢に会っているのだな」

「会いましたが、ナディアは相手が王族だと知りませんでしたので…」

「何かあったのか?」

「…まぁ、色々と」


 言葉を濁すフィリップを怪訝そうに見つめると、フィリップは気まずそうに溜息をつき、観念したように白状した。


「簡潔に言えば叩きのめしたんですよ」

「は?」

「最初はチェスで。次は狩りで。最後はダンスでですね」

「はあ?」


 ローデウェイク王子がサルトレッティ公爵家に訪問したのは、丁度一年前の夏季休暇の頃だった。レイナードが嫌々連れて来たのだが、何かの賭けに負けた為に我が家に招待する事になったと言っていた。

 夏季休暇と言う事もあり、ナディアも領地に戻って来ていたのだが、その時に初めて顔を合わせたのだ。


「姉上、留学先の友人で…」

「ロイだ。よろしく頼む」

「まあ」


 レイナードの紹介をぶった切って簡潔に挨拶したローデウェイク殿下だったが、その尊大な態度にナディアが驚き、そしてニコリと微笑んでローデウェイクに美しいカーテシーをした。


「ナディア・フォン・サルトレッティと申しますわ。ロイ様、レイナードと仲良くしてくださってありがとうございます」

「ああ、気にするな」

「ちょ、ロイお前…」

「何だ?」


 お忍びと言う事でナディアには正体を明かしていなかったのだが、この時ナディアは彼の態度ですぐに正体に気付いたらしく、ニヤリと悪戯っぽく笑って見せた。


「ロイ様。どのような事情でこちらにいらしたのかは存じませんが、ではすぐに正体がバレますわよ」

「は?」

「フフフ、レイナードも苦労しますわね。それに、サーシス国の国王陛下も」

「おい、それはどういう意味だ」


 馬鹿にされたと思ったローデウェイクはムッとした顔をし、ナディアに詰め寄ろうとする。が、ナディアはスッとローデウェイクを除け、そして涼しい顔をして微笑んだ。


「あらあら、このくらいの事でそのようにお顔に出していては先が思いやられますわね」

「何だと?お前、俺が誰だか分かって言っているのか?」

「勿論存じておりますわ、

「クッ…、もういい!おいレイナード、行くぞ!」

「ちょ、あ、姉上すみません!おいロイ!」


 これがローデウェイクとナディアの出会いだった。
 それからと言うもの、何かとナディアに突っかかるローデウェイクだったが、ナディアも別に暇な訳ではない。段々と鬱陶しくなってきたらしく、まとわりつくローデウェイクに一つ提案をしたのだ。


「いい加減にしてくださいまし、ロイ様。私も別に暇を持て余している訳ではありませんのよ」

「フン、どうだか。俺に嫌味を言うくらいの暇はあるのだろう?」

「それはロイ様が事あるごとに私に突っかかるからですわ」

「突っかかってなどいない!」

「では、こうしましょう」


 パチリと扇子を閉じ、スッと目を細めてナディアがローデウェイクを見る。その視線にローデウェイクが一瞬たじろいだが、すぐに平静を装って不敵な笑みを浮かべた。


「何だ、聞こうじゃないか」

「では勝負をしましょう」

「は?」

「私が勝てば、もう私に構わないでください。代わりにロイ様が勝てばもう文句は言いませんわ」

「…面白い。だが俺が勝てばナディア嬢、俺の言う事を聞いてもらうぞ」

「それは不公平では?」

「ナディア嬢が勝てばナディア嬢の望むように俺はお前に話しかけないんだ。なら俺が勝てば俺の望みを聞いてもらってもおかしくないだろう」


 自信ありげに言うローデウェイクにナディアはヤレヤレと溜息をつく。そしてフッと笑みを浮かべて頷いた。


「いいでしょう。では、チェスで勝負です」

「チェス?ははは、この俺が女に負けると思うのか?」

「さあ?負ける事もあるんじゃないですか?」

「…そんな生意気な口を利けないようにしてやる」


 そしてそのまま応接室へ向かい、レイナードを呼んでチェスを打った。

 結果はナディアの勝利だった。


「待て!もう一度だ!」

「勝負はつきましたわ」

「ず、ずるいぞ!さては最初から自分がチェスが得意だからあんな条件を突きつけたんだろ!」

「当然でしょう?自分が有利になるように動く事の何がいけませんの?」


 そう言ってニヤリと笑ったナディアの顔は随分と悪い顔をしていたと、レイナードは後に呟いていた。


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