【完結】婚約破棄はブーメラン合戦です!

睫毛

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公爵令嬢の婚約事情

ローデウェイク・レオ・サーシス

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 チェスで負けたローデウェイクだったが、それで納得するはずもなく、往生際の悪い王子に呆れたナディアは今度は狩りをしようと申し出た。
 狩りとなれば女よりも男の出番だと、ローデウェイクは意気揚々と勝負に出たのだが。
 意外にも投擲武器の扱いに慣れているナディアは、ローデウェイクと同じ数の獲物を狩ったのだ。


「引き分けですわね」

「…ひ、引き分けだと…!」


 当然男としてのプライドが許さず、最終的にレイナードからの提案で、次の勝負はダンスでと言う事になった。
 お互いにミスする事なく踊れるかを競うと言う、いかにも平和的な勝負だ。

 これに関しては公爵令嬢でいて王太子殿下の婚約者であるナディアも、サーシス国の王子であるローデウェイクも得意分野である。

 二人はお互いに向き合い、手を取り合って踊り出した。


「…なかなかやるな」

「ロイ様も」

「フッ、余裕ぶるのも今の内だ。俺について来れるか?」

「ウフフ、ご期待に添って見せますわ」


 どんどんと難しいステップを踏み、ダンスが激しくなる。が、ナディアもミスする事なく踊り続ける。
 そうこうしているうちに二人の顔に笑顔が浮かび、最終的に3曲踊り終わった時は清々しい表情をしていた。


「ありがとうございます。楽しかったですわ、ロイ様」

「ああ…」


 フワリと微笑んだナディアの表情は、今までのものとは違い本当に楽しそうで。
 ダンスをしていた事もあり、まだ抱き合った状態の至近距離でナディアの笑顔を見たローデウェイクは、その笑顔を見て固まってしまった。
 そんなローデウェイクを不思議に思ったナディアが、そっと体を離して首を傾げる。


「ロイ様?さすがにお疲れになりました?」

「…っ、つ、疲れてなどいない!だ、大丈夫だ!」

「そうですか?それで、勝負はどうしますか?」

「しょ、勝負は…」


 じっと自分を見つめるナディアを正視できず、視線をウロウロと彷徨わせる。徐々に熱を持つ顔に早くなる鼓動。慌ててナディアから距離を取り、視線を逸らして拳で汗を拭うふりをして顔を隠した。


「…お、俺も楽しかった。だから…」

「では引き分けですね。チェスでは私が勝ちましたから、ロイ様はもう私に突っかかって来ないでください」

「う…」

「では私はこれで失礼します。レイナード、また晩餐で」

「はい、姉上」


 振り返る事もせずにナディアがホールから出て行くと同時に、ローデウェイクがその場にしゃがみ込む。訝し気に見ていたレイナードだったが、まさかと嫌な予感がしつつもローデウェイクに駆け寄った。


「ロイ、そんなに疲れたのか?」

「いや…違う…」

「…まさかロイ、姉上の事を好きになったとか言わないよな…?」

「…!」


 バッと顔を上げ、驚いたように目を瞠るローデウェイクを見て、レイナードが「あちゃ~…」と呟く。そしてバツの悪そうな顔をして溜息をついた。


「ロイ、悪い事は言わない。姉上をまだ好きじゃないなら引き返した方がいい」

「…何故だ」

「姉上には婚約者がいるからだよ。ロイも知ってる、この国の王太子殿下だ」

「ジョバンニ・ダッラ・ドルフィーニ…」

「そうだよ。だから…」


 諦めた方がいい。そう言おうと思ったのに。


「まだ、婚約者だ」

「え」

「結婚した訳でもないだろ。ならまだ望みはあるかもしれない」

「あのねぇ…あるわけないでしょうが。王子の婚約者としてもう5年も経ってるんだ。姉上が学園を卒業したらすぐに婚姻だ。それはあと一年後の話だよ」

「まだ後一年ある」

「はぁ…」


 こうなるとローデウェイクは引かないと言う事はレイナードも嫌と言う程分かっていた。
 ヤレヤレと言って立ち上がり、ローデウェイクを引っ張り上げて立たせる。


「ま、好きにすればいいよ。ロイも学園を卒業したらそろそろ婚約者を決めないといけないし、今だけ夢でも見てなよ」

「協力してくれないのか?」

「する訳ないでしょ。僕もサルトレッティ公爵家なんだから」

「俺もサーシス国の第一王子だ。ジョバンニ王子と同じ立場だぞ」

「はいはい、せいぜい頑張ってよ」


 この時はさすがに頭に血が上っているのでこう言っているが、そのうち冷静になれば諦めるだろうとレイナードは楽観視していた。
 だが、事もあろうかローデウェイクはサーシスへ戻るその日まで、ナディアに「突っかかる」事なくそれでいてスマートに声をかけ、最終的には帰るその日にはナディアの印象をひっくり返したのだった。


「ナディア嬢、名残惜しいがお別れだ」

「フフフ、大げさですわ。ですが色々ありましたが楽しかったです」

「俺もだ。また君に会いに来るよ」

「まあ。できない約束はしない方がよろしいですわよ」

「勿論だ」


 そう言ってナディアの手をそっと取り、その甲に軽く口付けをした。


「次に会う時は違う立場で」

「…そうですわね」


 手に口づけをされて少し驚いてはいたが、元々ナディアはローデウェイクの正体を何となく察していたから、今の言葉の意味も「公の場で会う事があるでしょう」としかとらえていなかった。
 けれどローデウェイクの方はニュアンスが違う。
 彼はナディアと次に会う時は、身分を明かして求婚するつもりでいたのだ。

 そんな二人の姿を複雑な思いで見ていたレイナードだったが、出発の時間が来たのでナディアに挨拶をする。


「姉上。弟として色々と複雑ではありますが、姉上の選択がいつも間違いではないと信じてますよ」

「なあに?変な事を言うわね。でもありがとう。レイナードも、また休暇には戻ってきてね」

「はい。では行ってまいります」

「ロイ様もお元気で」

「ああ、またな」


 馬車に乗り込む二人に手を振り、馬車が見えなくなるとようやく手を下ろす。良くも悪くも騒がしい休暇だったなとナディアは笑った。

 その様子を見ていたオルガが複雑そうな顔をしていた事も、フィリップが困ったように頭を押さえていた事も気付かずに、ナディアは屋敷の中へと戻っていった。

 一方馬車の中では。


「…本気なのか?」


 レイナードがローデウェイクに問いかける。すると、窓の外を眺めていたローデウェイクがフッと目を細めて微笑んだ。


「ああ。叶わない事は分かってる。だが何もしないで終わりたくはない」

「…そう。ならもう何も言わない」


 多分ローデウェイクの初めての恋なのだ。その恋を応援してやれないのが少し悲しいが、それでも友人には違いない。


「僕はロイに幸せになって欲しいと思ってる」

「ありがとう」

「本当に思ってるからな?姉上だけが女じゃないから」

「もう振られたみたいに言うなよ」

「一応最初から期待しないように言っておかないと」

「はははは」


 万が一ジョバンニ殿下と破談になったとしても、あの姉ならローデウェイクを選ぶことはないだろう。きっと王族との結婚は避けるに違いない。王子と結婚するにしても、王位継承権の持たない王子を選ぶだろう。
 レイナードにはその確信があった。

 だからこそ、継承権第一位の位置にいるローデウェイクの想いが成就する事はないと確信できる。それが何だか悲しくてつらかった。


「サーシスに戻ったら、ナディア嬢に何か贈り物でもしようかと思うんだが」

「普通にダメでしょ。姉上が不貞を疑われる」

「だよな」

「…手紙でも送れば?全部王家を通されるから、当たり障りない内容にしかできないけど、それでも送らないよりマシじゃない?」

「そうだな、何もしないよりずっといいな」

「…うん」


 今はそのくらいしかできないが、いつかは。

 そう思っていたローデウェイクの元に、ナディアが婚約破棄をされたと伝わったのは、それから一年後の事だった。


「ナディア嬢…、待ってろよ!まずは父上だ…!」


 部下からの報告でナディアがフリーになったと知ったローデウェイクは、流行る気持ちを押さえながらも国王に謁見を申し込む。
 そしてナディアに婚約の申し込みをしたいと告げ、サーシス国王から直々に書状を出したのだ。

 まさかすでに何人もの男達がナディアに婚約の申し込みをしているとは知らずに。
 そしてザクセンの王弟殿下がナディアに接触し、婚約の申し込みをすでにしている事を知った時は、自分の行動の遅さを呪った。
 が、まだ婚約はなされていない。


「ドルフィーニ国へ行くしかない」


 ローデウェイクは最速で準備を整え、訪問の要請を正式に行い、ドルフィーニ国へと向かう事にしたのだった。


 


    
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