69 / 89
公爵令嬢の婚約事情
女性を甘く見た男の末路
しおりを挟む
エラディオと何やら小声で話しているナディアを、ジョバンニは不思議な気持ちで眺めていた。
そんなジョバンニの視線に気付いたローデウェイクが首を傾げる。
「あの二人がどうかしたか?」
「…いや、ナディアのあんな表情、見たことがなかったなと思って」
「表情?」
言われてローデウェイクも二人に視線を向ける。
ナディアを見ると、ほんのりと顔を赤くしながらも、エラディオの腕をペシッと小さく叩いていた。
不満そうな表情の中に、恥ずかしさと嬉しさが入り混じった色を感じ取り、ローデウェイク自身も苦笑をせざるを得なかった。
「…ナディア嬢にあんな顔をさせられるのは、ザクセン王弟殿くらいだろうな」
悔しいけど、と後に続ける。
ローデウェイクの呟きに何も言えないジョバンニだった。
自分はナディアの何を見てきていたのだろうか。
いや、何も見ようとしていなかったのだろう。
あんな風に嬉しそうな顔や、恥ずかしがっている顔を自分に向けた事はなかった。
ただ凪いだ海のような微笑みでジョバンニを見るだけで、そこに感情があったようには思えなかった。
だからこそ、サブリナの奔放な態度が刺激的で、あっさりと陥落したのだ。
「私は、本当に愚かだ…」
ポツリと零した声はローデウェイクの耳に僅かに届く。
が、きっと何かを言ってほしい訳ではないのだろうと思い、ローデウェイクは何も言わなかった。
二人がそんな会話をしていたその時、キャンディスがフラリと倒れそうになった。
それをガブリエルが支える。
「大丈夫か、キャンディス?」
「ええ、すみません。少しめまいが…」
「それはいけない。マティアス、悪いが俺達はここを外す」
「待て、キャンディは私が休憩室に連れて行く」
「エスコートしているのは俺だ。お前じゃない」
「そんなものは関係ないだろう。さあキャンディ、私の手を取るんだ」
「取らなくていい。このまま俺が支えてやろう」
「お二人とも、いい加減にしろ」
気分が悪いと言っていたキャンディスを尻目に二人は言い合いをしだす。そこへ割って入ったのは意外にもローデウェイクだった。
「そんな言い合いをしている場合じゃないだろう。モンセン伯爵令嬢、あの二人は取り込み中のようなので、私が案内します」
「ありがとうございます、お願いします…」
「「キャンディス!」」
案内を申し出たローデウェイクに、キャンディスは躊躇う事なくその手をとった。
それにはさすがにマティアスとガブリエルがぎょっとし、ローデウェイクに抗議しようとした。
が、その時。
「やめよ、見苦しい」
「体調の悪いご令嬢の案内が先だと言うのに、二人とも自分の事しか考えられないのですか?情けないわ」
「あ、兄上…」
「王妃陛下…申し訳ありません…」
コルト国の国王と王妃が二人の前に立ちふさがるように現れたのだ。
そして気分が悪そうにしているキャンディスに、ローデウェイクと共にナディアも付き添い歩き出す。
その様子を見てローデウェイクと二人になるのではないと悟ったガブリエルは、少しホッとしたらしく慌てて表情を引き締めた。
けれどマティアスは真逆の様子だ。
「なぜ止めるのです、兄上」
「馬鹿者、ここで兄と呼ぶな」
「…失礼しました、陛下。ですが彼女は…」
「モンセン伯爵令嬢なら、サーシス第一王子とサルトレッティ公爵令嬢が連れて行った。何も問題あるまい」
「ナディア嬢も…わかりました。では私もすぐに彼女の部屋へ向かいますので」
「ならん」
「え」
踵を返して歩き出そうとしたマティアスを、コルト国王がぴしゃりと引き留める。
驚いて振り返ると、厳しい表情をした国王がマティアスを見つめていた。
「向かってどうする?お前が行っても体調は戻らん」
「ですが彼女が心配なので」
「なぜ心配する?モンセン伯爵令嬢はお前がサルトレッティ公爵令嬢に求婚する為に、手酷くふったと聞いているが」
「それは…!」
「それに、今のモンセン伯爵令嬢にはブラスタ侯爵がいる。婚約も間近だと聞いているぞ」
「え…」
まさか、と目を見開きガブリエルに視線を向ける。
マティアスの視線を受けたガブリエルは、感情の読めない表情でマティアスを見返した。
「婚約など、キャンディがするはずがない。彼女は私を愛しているんだ」
「過去形ですよ。本当に、男性は女性がいつまでも自分を想ってくれてると勘違いするのだから質が悪いわ」
「過去形などでは…」
「では貴女が求婚していたサルトレッティ公爵令嬢はどうするのです?元恋人に未練があるから求婚は取りやめますとでも言うつもりなの?何て恥知らずな」
「…!」
それを言われると何も言い返せない。
だが、実際にナディアに心を奪われ、自分の伴侶として迎えたいと思った気持ちは本物だったのだ。
だからこそ、求婚するのであれば身辺を綺麗にしないと失礼だと、そう思ったからこそキャンディスとの関係を断ち切った。
愛もない。
未練もない。
お互いに割り切った関係で、都合が良かっただけだ。
だからこそ、パーティーでパートナーとして行動した事もなく、街でデートをした事もない。
いつもマティアスの邸で会っていた。
「それは都合のいい存在だったようだな」
「そんな事は…」
「では何故公の場でエスコートをしなかった?何故お前の邸でしか会わなかったのだ?お前のやっていた事は、彼女を娼婦のように扱っていたのと同じだと何故気付かない」
「…!」
国王に指摘され、マティアスは何も言い返せなかった。
そんな彼を見て王妃は呆れたように溜息をつく。
「情けないわね。それで、どうするつもりなのかしら?」
「どう…とは…」
「モンセン伯爵令嬢とサルトレッティ公爵令嬢に決まってるでしょう。貴女は現実問題他国の公爵令嬢に正式に求婚している身。それなのにこのようなおめでたい場で痴情のもつれで騒がせてしまっています。公爵令嬢だけでなく、サルトレッティ公爵にも失礼だと何故わからないの?」
ぐうの音も出ないとはこの事だろう。
マティアスは必至で考えを巡らせるが、言い訳の一つも思い浮かばない。
それについ先程、ナディアに痛い所を突かれ、彼女の言葉に乗っかり、キャンディスを未だに引きずっていると装った。
大声で話していた訳ではないが、近くにいた人達はしっかりと聞いているのだ。
あの発言をなかった事にはできないだろう。
「…ナディア嬢は分かっていただけています」
「サルトレッティ公爵は納得しないのでは?ねえ、公爵」
「え」
「そうですねぇ…」
王妃が向けた視線の先に、ナディアの父であるフィリップ・フォン・サルトレッティ公爵は不敵な笑みを浮かべてこちらに近づいて来た。
「サルトレッティ公爵…これは…」
「カイラモ大公殿下、先程のお話はしっかりと聞かせていただきましたよ。大公殿下は我が娘を利用し、かつての恋人の心をはからんとしたと。いやはや、いくら我が娘がジョバンニ殿下に婚約破棄された傷物令嬢だからと言って、このような茶番に巻き込むのは…はははは、随分と我が家を見くびった行動ですね」
「い、いや、そういう訳では…!」
「ではどういう訳なのでしょう?娘にはすでにザクセン王弟殿下と縁があると申し出たにもかからわず、それでもチャンスを欲しいと熱心に手紙をいただいていましたが、あれは偽りだったと言う事ですよね」
「違…」
ナディアが納得したとしても、父であるフィリップが納得するかどうかは別問題だ。
どうしてこんな簡単な事に気付かなかったのか。
計画が狂ったのは全て…
「ガブリエル…」
そう、ガブリエルがキャンディスをエスコートし、あまつさえこちらに敵意をむき出しにして来たから。
ガブリエルの名前を呟くと、ガブリエルが眉根をピクリと動かす。が、何も言わずにただこちらを静かに見ていた。
「ブラスタ侯爵がいかがされたのか?それよりも、我が娘は自国の王子殿下だけでなく、コルト国の王族にまで衆目で辱めを受けた事になる。嘆かわしいが…こんな娘でもよろしいのですか?」
若干芝居がかった話し方でエラディオを振り返る。
一瞬自分に話を振ってこられると思っていなかったエラディオは、フィリップに問いかけられてキョトンとする。
が、そこは腐っても王族だ。
すぐに表情を変え、エラディオはニヤリと笑みを浮かべてフィリップを見た。
「勿論だぜ。ナディは最高の女だ。むしろカイラモ大公が諦めてくれて嬉しい限りだ」
「二度も辱められた娘でもですか?」
「辱めなんて受けてねぇさ。彼女はいつでも堂々としていて美しい。どんな悪意もナディの前には意味をなさない」
「…過分なお言葉恐れ入ります。やはり娘が選んだお方だ」
「よせ、俺が伴侶にと懇願したんだ」
そう言いながら二人は固く握手をしていた。
(これは一体何なんだ?私は…)
目の前で繰り広げられる二人のやり取りに、マティアスは混乱する。
昨日までは確かに問題なかった。
今日、この場でキャンディスとガブリエルが現れるまでは。
自分はキャンディスに未練などないはずで、だからこそ別れを告げたのだ。
けれど心のどこかで彼女は今も自分を愛しているのだろうと、高を括っていた所はあった。
それなのに、あろうことかキャンディスはあっさりと自分を忘れたかのように、ガブリエルと衣装を揃えてパーティーに現れた。
パーティーで姿を見せるまで、まるで意図したかのように彼女の存在をマティアスが知る事もなかった。
「…まさか、これが王妃陛下の望みだったのですか?」
何かに気付いたようにマティアスが王妃を睨む。
その視線に目を細めて口元を扇で隠し、王妃は優雅に微笑んだ。
「まあ、何の事かしら」
「とぼけないでください。キャンディスをガブリエルにエスコートさせて私を揺さぶるつもりだったのでしょう?私の縁談まで壊すつもりだったとは、そこまで王妃陛下にされる覚えはありませんが」
「おだまりなさい」
ピシャリと王妃が扇を閉じてマティアスを見据える。
そして今度は王妃らしからぬ悪い笑みを浮かべてマティアスに告げた。
「女性を甘く見た男の末路を自分自身で思い知りなさい」
そんなジョバンニの視線に気付いたローデウェイクが首を傾げる。
「あの二人がどうかしたか?」
「…いや、ナディアのあんな表情、見たことがなかったなと思って」
「表情?」
言われてローデウェイクも二人に視線を向ける。
ナディアを見ると、ほんのりと顔を赤くしながらも、エラディオの腕をペシッと小さく叩いていた。
不満そうな表情の中に、恥ずかしさと嬉しさが入り混じった色を感じ取り、ローデウェイク自身も苦笑をせざるを得なかった。
「…ナディア嬢にあんな顔をさせられるのは、ザクセン王弟殿くらいだろうな」
悔しいけど、と後に続ける。
ローデウェイクの呟きに何も言えないジョバンニだった。
自分はナディアの何を見てきていたのだろうか。
いや、何も見ようとしていなかったのだろう。
あんな風に嬉しそうな顔や、恥ずかしがっている顔を自分に向けた事はなかった。
ただ凪いだ海のような微笑みでジョバンニを見るだけで、そこに感情があったようには思えなかった。
だからこそ、サブリナの奔放な態度が刺激的で、あっさりと陥落したのだ。
「私は、本当に愚かだ…」
ポツリと零した声はローデウェイクの耳に僅かに届く。
が、きっと何かを言ってほしい訳ではないのだろうと思い、ローデウェイクは何も言わなかった。
二人がそんな会話をしていたその時、キャンディスがフラリと倒れそうになった。
それをガブリエルが支える。
「大丈夫か、キャンディス?」
「ええ、すみません。少しめまいが…」
「それはいけない。マティアス、悪いが俺達はここを外す」
「待て、キャンディは私が休憩室に連れて行く」
「エスコートしているのは俺だ。お前じゃない」
「そんなものは関係ないだろう。さあキャンディ、私の手を取るんだ」
「取らなくていい。このまま俺が支えてやろう」
「お二人とも、いい加減にしろ」
気分が悪いと言っていたキャンディスを尻目に二人は言い合いをしだす。そこへ割って入ったのは意外にもローデウェイクだった。
「そんな言い合いをしている場合じゃないだろう。モンセン伯爵令嬢、あの二人は取り込み中のようなので、私が案内します」
「ありがとうございます、お願いします…」
「「キャンディス!」」
案内を申し出たローデウェイクに、キャンディスは躊躇う事なくその手をとった。
それにはさすがにマティアスとガブリエルがぎょっとし、ローデウェイクに抗議しようとした。
が、その時。
「やめよ、見苦しい」
「体調の悪いご令嬢の案内が先だと言うのに、二人とも自分の事しか考えられないのですか?情けないわ」
「あ、兄上…」
「王妃陛下…申し訳ありません…」
コルト国の国王と王妃が二人の前に立ちふさがるように現れたのだ。
そして気分が悪そうにしているキャンディスに、ローデウェイクと共にナディアも付き添い歩き出す。
その様子を見てローデウェイクと二人になるのではないと悟ったガブリエルは、少しホッとしたらしく慌てて表情を引き締めた。
けれどマティアスは真逆の様子だ。
「なぜ止めるのです、兄上」
「馬鹿者、ここで兄と呼ぶな」
「…失礼しました、陛下。ですが彼女は…」
「モンセン伯爵令嬢なら、サーシス第一王子とサルトレッティ公爵令嬢が連れて行った。何も問題あるまい」
「ナディア嬢も…わかりました。では私もすぐに彼女の部屋へ向かいますので」
「ならん」
「え」
踵を返して歩き出そうとしたマティアスを、コルト国王がぴしゃりと引き留める。
驚いて振り返ると、厳しい表情をした国王がマティアスを見つめていた。
「向かってどうする?お前が行っても体調は戻らん」
「ですが彼女が心配なので」
「なぜ心配する?モンセン伯爵令嬢はお前がサルトレッティ公爵令嬢に求婚する為に、手酷くふったと聞いているが」
「それは…!」
「それに、今のモンセン伯爵令嬢にはブラスタ侯爵がいる。婚約も間近だと聞いているぞ」
「え…」
まさか、と目を見開きガブリエルに視線を向ける。
マティアスの視線を受けたガブリエルは、感情の読めない表情でマティアスを見返した。
「婚約など、キャンディがするはずがない。彼女は私を愛しているんだ」
「過去形ですよ。本当に、男性は女性がいつまでも自分を想ってくれてると勘違いするのだから質が悪いわ」
「過去形などでは…」
「では貴女が求婚していたサルトレッティ公爵令嬢はどうするのです?元恋人に未練があるから求婚は取りやめますとでも言うつもりなの?何て恥知らずな」
「…!」
それを言われると何も言い返せない。
だが、実際にナディアに心を奪われ、自分の伴侶として迎えたいと思った気持ちは本物だったのだ。
だからこそ、求婚するのであれば身辺を綺麗にしないと失礼だと、そう思ったからこそキャンディスとの関係を断ち切った。
愛もない。
未練もない。
お互いに割り切った関係で、都合が良かっただけだ。
だからこそ、パーティーでパートナーとして行動した事もなく、街でデートをした事もない。
いつもマティアスの邸で会っていた。
「それは都合のいい存在だったようだな」
「そんな事は…」
「では何故公の場でエスコートをしなかった?何故お前の邸でしか会わなかったのだ?お前のやっていた事は、彼女を娼婦のように扱っていたのと同じだと何故気付かない」
「…!」
国王に指摘され、マティアスは何も言い返せなかった。
そんな彼を見て王妃は呆れたように溜息をつく。
「情けないわね。それで、どうするつもりなのかしら?」
「どう…とは…」
「モンセン伯爵令嬢とサルトレッティ公爵令嬢に決まってるでしょう。貴女は現実問題他国の公爵令嬢に正式に求婚している身。それなのにこのようなおめでたい場で痴情のもつれで騒がせてしまっています。公爵令嬢だけでなく、サルトレッティ公爵にも失礼だと何故わからないの?」
ぐうの音も出ないとはこの事だろう。
マティアスは必至で考えを巡らせるが、言い訳の一つも思い浮かばない。
それについ先程、ナディアに痛い所を突かれ、彼女の言葉に乗っかり、キャンディスを未だに引きずっていると装った。
大声で話していた訳ではないが、近くにいた人達はしっかりと聞いているのだ。
あの発言をなかった事にはできないだろう。
「…ナディア嬢は分かっていただけています」
「サルトレッティ公爵は納得しないのでは?ねえ、公爵」
「え」
「そうですねぇ…」
王妃が向けた視線の先に、ナディアの父であるフィリップ・フォン・サルトレッティ公爵は不敵な笑みを浮かべてこちらに近づいて来た。
「サルトレッティ公爵…これは…」
「カイラモ大公殿下、先程のお話はしっかりと聞かせていただきましたよ。大公殿下は我が娘を利用し、かつての恋人の心をはからんとしたと。いやはや、いくら我が娘がジョバンニ殿下に婚約破棄された傷物令嬢だからと言って、このような茶番に巻き込むのは…はははは、随分と我が家を見くびった行動ですね」
「い、いや、そういう訳では…!」
「ではどういう訳なのでしょう?娘にはすでにザクセン王弟殿下と縁があると申し出たにもかからわず、それでもチャンスを欲しいと熱心に手紙をいただいていましたが、あれは偽りだったと言う事ですよね」
「違…」
ナディアが納得したとしても、父であるフィリップが納得するかどうかは別問題だ。
どうしてこんな簡単な事に気付かなかったのか。
計画が狂ったのは全て…
「ガブリエル…」
そう、ガブリエルがキャンディスをエスコートし、あまつさえこちらに敵意をむき出しにして来たから。
ガブリエルの名前を呟くと、ガブリエルが眉根をピクリと動かす。が、何も言わずにただこちらを静かに見ていた。
「ブラスタ侯爵がいかがされたのか?それよりも、我が娘は自国の王子殿下だけでなく、コルト国の王族にまで衆目で辱めを受けた事になる。嘆かわしいが…こんな娘でもよろしいのですか?」
若干芝居がかった話し方でエラディオを振り返る。
一瞬自分に話を振ってこられると思っていなかったエラディオは、フィリップに問いかけられてキョトンとする。
が、そこは腐っても王族だ。
すぐに表情を変え、エラディオはニヤリと笑みを浮かべてフィリップを見た。
「勿論だぜ。ナディは最高の女だ。むしろカイラモ大公が諦めてくれて嬉しい限りだ」
「二度も辱められた娘でもですか?」
「辱めなんて受けてねぇさ。彼女はいつでも堂々としていて美しい。どんな悪意もナディの前には意味をなさない」
「…過分なお言葉恐れ入ります。やはり娘が選んだお方だ」
「よせ、俺が伴侶にと懇願したんだ」
そう言いながら二人は固く握手をしていた。
(これは一体何なんだ?私は…)
目の前で繰り広げられる二人のやり取りに、マティアスは混乱する。
昨日までは確かに問題なかった。
今日、この場でキャンディスとガブリエルが現れるまでは。
自分はキャンディスに未練などないはずで、だからこそ別れを告げたのだ。
けれど心のどこかで彼女は今も自分を愛しているのだろうと、高を括っていた所はあった。
それなのに、あろうことかキャンディスはあっさりと自分を忘れたかのように、ガブリエルと衣装を揃えてパーティーに現れた。
パーティーで姿を見せるまで、まるで意図したかのように彼女の存在をマティアスが知る事もなかった。
「…まさか、これが王妃陛下の望みだったのですか?」
何かに気付いたようにマティアスが王妃を睨む。
その視線に目を細めて口元を扇で隠し、王妃は優雅に微笑んだ。
「まあ、何の事かしら」
「とぼけないでください。キャンディスをガブリエルにエスコートさせて私を揺さぶるつもりだったのでしょう?私の縁談まで壊すつもりだったとは、そこまで王妃陛下にされる覚えはありませんが」
「おだまりなさい」
ピシャリと王妃が扇を閉じてマティアスを見据える。
そして今度は王妃らしからぬ悪い笑みを浮かべてマティアスに告げた。
「女性を甘く見た男の末路を自分自身で思い知りなさい」
11
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる