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3、英雄暇なし
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国のエリートが多く所属する王宮魔術団は歴史も古く、優秀な魔術師も多く所属していて、一般職員でも優秀な職員も多いことから、そこで働けることは一種のステイタスとなっていたからこそ、試験や面接は厳しかった。
推薦ですら、普通のちょっといい地位ぐらいではたいした力にもならなかった。
だから、それらをクリアした本物の英雄のヘンリーは、大なり小なり反感を買ってしまい、当時の上司に嫌がらせを受けることにもなった。
勿論、それは改善されて、問題の上司はクビになったけど、悪知恵つけた人たちの手によって、バレない嫌がらせは今現在も悲しいかな続いていた。
ーー自分が知らないうちに買ってしまった恨みなどは、正直言ってどうしようもなかった。どうすることも出来ないというのが正しいのかもしれない。
それでも、《困っている人を助けられるようになりたい》といつも思っていたヘンリーにとっては、ここで働くことは、困っている人を助けるためにも必要だったことだった。
だから、《考えないようにしていた》。
だから、人の悪意に気付きにくくなってしまったのかもしれない。
それでもいいと本気で思っていた。
ーーそう、困っている人を助けられるなら、些細なことに構ってる暇はなく、どんな命令であろうと従った。
たとえ、相手が魔族だろうとエルフだろうとドワーフだろうとドライアドだろうと、誰が相手であろうと、最善を尽くして解決のために尽力する。勿論、魔物の討伐であっても率先して依頼を引き受けるその姿は、まさしく正真正銘の本物の英雄であった。
そんな優しくていい人で本物の英雄で最強の力を持っていて、嫌な仕事も笑顔でこなすその姿に人人々に、《英雄》と称えられたけど、それでもヘンリー自身は「そんなことないですよ」と自分の力を自慢したりはしない。むしろ謙虚すぎるほどなのだ。
ーーだからこそ、なめられていた。ヘンリー自身で英雄の地位を示すべきだった。そうすれば、本当なら下っ端がやるような仕事までも押し付けられることもなく、きちんと部下に仕事を任せることも出来て、仕事もうまく機能して回っていたはず。
「(……はぁ。)」
渇いた溜め息をつくと、目の前に積み上げられた書類を見つめる。
「(さすがにこれは俺でも気付くよ。)」
と《英雄》のはずのヘンリーは自分のおかれている状況にひしひしと押し潰されそうになっていた。
それでも、最早それが普通だというように手が書類をまとめて、分類して、計算して、修正して、書類を作成していく。
『カリカリカリカリッ』
書類を作成するペンの音だけが部屋に響く。
完成させる度に隣の《作成済みスペース》に書類を置いていく。
『カリカリカリカリッ』
終わることのない単純で面倒な作業が続いていく。
「……………。」
その時、ノックもなしに部屋のドアが開けられる。
「センパーイ! 終わったっすかぁ?」
と後輩が無遠慮にどかどかと部屋に入ってきて、ほとんどヘンリーを見ないでチラリと積み上げられた書類に目をやると、断りないままに自分が必要場書類を探し始める。
「あ」
ヘンリーが止める間もなく、積み上げられた書類をガサゴソと触りながら目的の書類を探す。
「あったあった~」
書類の内容を読んで確認すると、
「これだこれだ。どうもっすねぇ~」
謝罪もお礼もなしにとっとと出て行った。
呆気にとられて、後輩が出ていったドアと荒らされて床に飛び散った書類をしばらく見つめてしまう。
毎度お馴染みにしろ……
「……もし、書類の中に他部署の重要書類とか、国家機密が書かれた書類とか関係綾以外が見てはいけない書類とか見ちゃったら、どうしたんだろうか?」
ーー流石に処罰されるだろうな、とぼんやりと考えていると、その他の後輩やら部下やらが次々と無遠慮に部屋に入ってきて、勝手に完成してある自分の書類を取って、お礼もなく部屋を出て行った。
自分の書類がなかった者は、
「ちょっと、何で出来てないんですか? 早く完成させてくださいよ!」
と、言葉は丁寧だが目は笑っていない様子で書類を早く完成するように圧をかけてくる。
「……す、すまない」
思わず謝ってしまいながら、残りの書類を作成していく。勿論、書類を完成させても誰一人お礼もなしに書類をひったくるように奪うと、とっとと部屋を出ていくのだった。
ーーこうして、書類作成に追われて部屋に押し込められていたヘンリーは、ようやく一息つけると思って、思いっきり背伸びする。
足も伸ばしながら、自然と渇いた溜め息が出てくる。
「(……これで、ようやく一息つける)」
そう思いながら、大きなあくびが出てくる。
「(ホント、とんだ《ブラック企業》だよ。)」
心の中で呆れながら、自分で自分の肩を押さえてほぐそうとする。
「はあぁぁぁぁっ」
「一体俺は何をしているんだろう」
ここではないどこかを見つめて動けなくなってしまうヘンリーだった。
推薦ですら、普通のちょっといい地位ぐらいではたいした力にもならなかった。
だから、それらをクリアした本物の英雄のヘンリーは、大なり小なり反感を買ってしまい、当時の上司に嫌がらせを受けることにもなった。
勿論、それは改善されて、問題の上司はクビになったけど、悪知恵つけた人たちの手によって、バレない嫌がらせは今現在も悲しいかな続いていた。
ーー自分が知らないうちに買ってしまった恨みなどは、正直言ってどうしようもなかった。どうすることも出来ないというのが正しいのかもしれない。
それでも、《困っている人を助けられるようになりたい》といつも思っていたヘンリーにとっては、ここで働くことは、困っている人を助けるためにも必要だったことだった。
だから、《考えないようにしていた》。
だから、人の悪意に気付きにくくなってしまったのかもしれない。
それでもいいと本気で思っていた。
ーーそう、困っている人を助けられるなら、些細なことに構ってる暇はなく、どんな命令であろうと従った。
たとえ、相手が魔族だろうとエルフだろうとドワーフだろうとドライアドだろうと、誰が相手であろうと、最善を尽くして解決のために尽力する。勿論、魔物の討伐であっても率先して依頼を引き受けるその姿は、まさしく正真正銘の本物の英雄であった。
そんな優しくていい人で本物の英雄で最強の力を持っていて、嫌な仕事も笑顔でこなすその姿に人人々に、《英雄》と称えられたけど、それでもヘンリー自身は「そんなことないですよ」と自分の力を自慢したりはしない。むしろ謙虚すぎるほどなのだ。
ーーだからこそ、なめられていた。ヘンリー自身で英雄の地位を示すべきだった。そうすれば、本当なら下っ端がやるような仕事までも押し付けられることもなく、きちんと部下に仕事を任せることも出来て、仕事もうまく機能して回っていたはず。
「(……はぁ。)」
渇いた溜め息をつくと、目の前に積み上げられた書類を見つめる。
「(さすがにこれは俺でも気付くよ。)」
と《英雄》のはずのヘンリーは自分のおかれている状況にひしひしと押し潰されそうになっていた。
それでも、最早それが普通だというように手が書類をまとめて、分類して、計算して、修正して、書類を作成していく。
『カリカリカリカリッ』
書類を作成するペンの音だけが部屋に響く。
完成させる度に隣の《作成済みスペース》に書類を置いていく。
『カリカリカリカリッ』
終わることのない単純で面倒な作業が続いていく。
「……………。」
その時、ノックもなしに部屋のドアが開けられる。
「センパーイ! 終わったっすかぁ?」
と後輩が無遠慮にどかどかと部屋に入ってきて、ほとんどヘンリーを見ないでチラリと積み上げられた書類に目をやると、断りないままに自分が必要場書類を探し始める。
「あ」
ヘンリーが止める間もなく、積み上げられた書類をガサゴソと触りながら目的の書類を探す。
「あったあった~」
書類の内容を読んで確認すると、
「これだこれだ。どうもっすねぇ~」
謝罪もお礼もなしにとっとと出て行った。
呆気にとられて、後輩が出ていったドアと荒らされて床に飛び散った書類をしばらく見つめてしまう。
毎度お馴染みにしろ……
「……もし、書類の中に他部署の重要書類とか、国家機密が書かれた書類とか関係綾以外が見てはいけない書類とか見ちゃったら、どうしたんだろうか?」
ーー流石に処罰されるだろうな、とぼんやりと考えていると、その他の後輩やら部下やらが次々と無遠慮に部屋に入ってきて、勝手に完成してある自分の書類を取って、お礼もなく部屋を出て行った。
自分の書類がなかった者は、
「ちょっと、何で出来てないんですか? 早く完成させてくださいよ!」
と、言葉は丁寧だが目は笑っていない様子で書類を早く完成するように圧をかけてくる。
「……す、すまない」
思わず謝ってしまいながら、残りの書類を作成していく。勿論、書類を完成させても誰一人お礼もなしに書類をひったくるように奪うと、とっとと部屋を出ていくのだった。
ーーこうして、書類作成に追われて部屋に押し込められていたヘンリーは、ようやく一息つけると思って、思いっきり背伸びする。
足も伸ばしながら、自然と渇いた溜め息が出てくる。
「(……これで、ようやく一息つける)」
そう思いながら、大きなあくびが出てくる。
「(ホント、とんだ《ブラック企業》だよ。)」
心の中で呆れながら、自分で自分の肩を押さえてほぐそうとする。
「はあぁぁぁぁっ」
「一体俺は何をしているんだろう」
ここではないどこかを見つめて動けなくなってしまうヘンリーだった。
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