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4、英雄心折れそうになる
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机や床に散らばった書類をぼうっと見つめていたヘンリー。
「………いつからこうなったんだろう……」
と呟くようにようやく疑問を口にしていた。
ーーここ数日……なんて、そんなかわいいものじゃない。
数ヶ月?
それもかわいいくらいだ。
ーーそう、もう何年もこんな状態が続いている気がする。
勿論、皆を助けられる力が欲しかったのは事実だ。だから、努力した。努力しまくったと言っていい。
道のりは長かったけど、きちんと基礎から鍛え上げた。どんなに苦しくても耐えた。
力が偏らないように、剣も魔法も含めたあらゆるジャンルを均等に修行して、それぞれの力を手に入れた。
単独でも戦っていけるほどの力を身に付けられるまで頑張った。
お陰で『英雄』と呼ばれるほどの力を手に入れた。でも、そのお陰で助けたい人を助けられる力を持つことが出来ている。
英雄と呼ばれる地位についたお陰で、人に命令することも出来る。(したくないけど)
英雄は特別な地位だから、仮に自分より上の地位に入る人にでも命令しようと思えば出来る。(出来ないけど)
ーーこれまでできなかったことが、英雄の地位でできるようになった。
勿論、英雄にふさわしくないことをしたりはしない。自分から自分の地位を貶めるようなことはしない。
ーーこれまではどっちに言っても、「無理だ」「○○の許可がいる」と言われて断られてきたことにも手を出せるし、命令だってできる。(命令したいけど本当にできるかはわからない)
でも、これはやらなければいけないから、近いうちに勇気と根性を振り絞ることになるだろう。(と思ってから、きっかけすらない)
また、ため息をつきながら、前髪をくしゃくしゃとかきあげる。
ふと自分の手の横の部分が目に入る。
真っ黒になっていて、自分がどれだけ書くことをしているのがよくわかった。
……最初のうちは他のところを汚してしまわないかと心配で、汚れる度に魔法で綺麗にしていたけど、いつ頃からかそれが面倒になり、ちょっとぐらいは汚れてもいいし、汚れない姿勢や方法を使えばいいし、そもそも他を汚さなければいいと思うようになっていた。
「……あ、爪の中も汚れてるな……」
そう言いながらぼんやりと手や爪の中を何も考えずに、ただ見ていた。
ひとつ気になりだしたら、今度は左手の方が気になり見つめる
その次に手首が気になりはじめて、右手首、左手首と見ていく。
そのままそでの中まで気になって袖口から中を見てると、今度はかなり汚れている袖口が気になりはじめる。
袖口が気になってからは他の服の部分も気になり出して、袖口から肘、腕肩と、それから、胸元や腹部、背中、腰、ズボンまで気になり出すともう靴までいくまで確認を続けた。
ーー自分が今着ている服は、王宮魔術団の制服でしかもこのタイプは魔術師が着ることになっている。
そして、デザイン的に装飾や刺繍が豪華になるほど王宮魔術団での地位が上がっていく。
勿論、英雄である自分も王宮魔術団の地位は高いので嫌みなく豪華な作りをしている。
嫌みの部分を気にしたのは、制服を作る段階で少し……いや、結構ストレスがかかってしまうほどに注意が必要だった。
当時、制服を発注する時に散々悩んだ。あの当時の雑音も最悪で……今でも覚えている言葉は少なくない。
とにかく地味すぎて文句を言われないように、派手すぎて上司に目をつけられないように……。(本当にめんどくさい)
それでいて、目をつけられないように大人しくしているべき。
ーーそれでも豪華さを捨ててはいけない。
「上司に恥をかかせるつまりなのか」といわれてもアウトだ。
苦肉の策を絞り出して、衣装と同系色の糸を使って刺繍をすることに。
そして、完成させた制服を見て、その一見シンプルに見えて豪華な作りに仕上がった制服に満足していた。
制服を作った当時は、本当に誇らしかった。
よく友人たちや弟子たちにも自慢していたな……(苦笑)
ーーああ。そうか、その隠れお洒落制服をほとんどの人に気付かれなかったと思っていたけど、本当は気付かれていて、その隠れ豪華を嫌がられていたのかもしれない……。
ーーもしかしたら、こうしたちょっとしたことの積み重ねが相手を嫌な気持ちにさせていたのかもしれない。
『……そんなの先生のせいじゃないじゃない!!』
ふとある弟子なら、そう怒鳴って自分が受けている不当なことを自分のことのように怒って、その相手に怒鳴り付けたのかもしれない。
そう思うと、思わず吹き出してしまっていた。
「ーーあ。」
良かったと思った。自分がまだちゃんと笑えることに……。
そのことで自分の心がどれだけ折れそうになっていたのかがよくわかったのだった。
「………いつからこうなったんだろう……」
と呟くようにようやく疑問を口にしていた。
ーーここ数日……なんて、そんなかわいいものじゃない。
数ヶ月?
それもかわいいくらいだ。
ーーそう、もう何年もこんな状態が続いている気がする。
勿論、皆を助けられる力が欲しかったのは事実だ。だから、努力した。努力しまくったと言っていい。
道のりは長かったけど、きちんと基礎から鍛え上げた。どんなに苦しくても耐えた。
力が偏らないように、剣も魔法も含めたあらゆるジャンルを均等に修行して、それぞれの力を手に入れた。
単独でも戦っていけるほどの力を身に付けられるまで頑張った。
お陰で『英雄』と呼ばれるほどの力を手に入れた。でも、そのお陰で助けたい人を助けられる力を持つことが出来ている。
英雄と呼ばれる地位についたお陰で、人に命令することも出来る。(したくないけど)
英雄は特別な地位だから、仮に自分より上の地位に入る人にでも命令しようと思えば出来る。(出来ないけど)
ーーこれまでできなかったことが、英雄の地位でできるようになった。
勿論、英雄にふさわしくないことをしたりはしない。自分から自分の地位を貶めるようなことはしない。
ーーこれまではどっちに言っても、「無理だ」「○○の許可がいる」と言われて断られてきたことにも手を出せるし、命令だってできる。(命令したいけど本当にできるかはわからない)
でも、これはやらなければいけないから、近いうちに勇気と根性を振り絞ることになるだろう。(と思ってから、きっかけすらない)
また、ため息をつきながら、前髪をくしゃくしゃとかきあげる。
ふと自分の手の横の部分が目に入る。
真っ黒になっていて、自分がどれだけ書くことをしているのがよくわかった。
……最初のうちは他のところを汚してしまわないかと心配で、汚れる度に魔法で綺麗にしていたけど、いつ頃からかそれが面倒になり、ちょっとぐらいは汚れてもいいし、汚れない姿勢や方法を使えばいいし、そもそも他を汚さなければいいと思うようになっていた。
「……あ、爪の中も汚れてるな……」
そう言いながらぼんやりと手や爪の中を何も考えずに、ただ見ていた。
ひとつ気になりだしたら、今度は左手の方が気になり見つめる
その次に手首が気になりはじめて、右手首、左手首と見ていく。
そのままそでの中まで気になって袖口から中を見てると、今度はかなり汚れている袖口が気になりはじめる。
袖口が気になってからは他の服の部分も気になり出して、袖口から肘、腕肩と、それから、胸元や腹部、背中、腰、ズボンまで気になり出すともう靴までいくまで確認を続けた。
ーー自分が今着ている服は、王宮魔術団の制服でしかもこのタイプは魔術師が着ることになっている。
そして、デザイン的に装飾や刺繍が豪華になるほど王宮魔術団での地位が上がっていく。
勿論、英雄である自分も王宮魔術団の地位は高いので嫌みなく豪華な作りをしている。
嫌みの部分を気にしたのは、制服を作る段階で少し……いや、結構ストレスがかかってしまうほどに注意が必要だった。
当時、制服を発注する時に散々悩んだ。あの当時の雑音も最悪で……今でも覚えている言葉は少なくない。
とにかく地味すぎて文句を言われないように、派手すぎて上司に目をつけられないように……。(本当にめんどくさい)
それでいて、目をつけられないように大人しくしているべき。
ーーそれでも豪華さを捨ててはいけない。
「上司に恥をかかせるつまりなのか」といわれてもアウトだ。
苦肉の策を絞り出して、衣装と同系色の糸を使って刺繍をすることに。
そして、完成させた制服を見て、その一見シンプルに見えて豪華な作りに仕上がった制服に満足していた。
制服を作った当時は、本当に誇らしかった。
よく友人たちや弟子たちにも自慢していたな……(苦笑)
ーーああ。そうか、その隠れお洒落制服をほとんどの人に気付かれなかったと思っていたけど、本当は気付かれていて、その隠れ豪華を嫌がられていたのかもしれない……。
ーーもしかしたら、こうしたちょっとしたことの積み重ねが相手を嫌な気持ちにさせていたのかもしれない。
『……そんなの先生のせいじゃないじゃない!!』
ふとある弟子なら、そう怒鳴って自分が受けている不当なことを自分のことのように怒って、その相手に怒鳴り付けたのかもしれない。
そう思うと、思わず吹き出してしまっていた。
「ーーあ。」
良かったと思った。自分がまだちゃんと笑えることに……。
そのことで自分の心がどれだけ折れそうになっていたのかがよくわかったのだった。
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