龍の巫女は後宮でものんびり暮らしたい~翡翠の置物に宿る龍たちが最強すぎて、嫌がらせが効きません~

月冴桃桜

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第4話:偽りの乙女と、選べぬ末路

――阿鼻叫喚の声を上げながら兵に引きずられていった胡蝶の姿が消えても、玄関先は冷え冷えとした沈黙が支配していた。


そんな中、一人残された麗蘭は、先ほどまでの威勢はどこへいったのやら、今更ながら自分の不利な状況に気が付いたのか、小刻みに震えながら泰山の足元で縮こまっていた。

「――さて、麗蘭。次は、お前の番だ」
泰山の視線には、もはや優しさは欠片も含まれてはおらず、冷たいもので、そう、ただの罪人を検分するようなをしていた。


「……お、お父様、お助けください!私は……私はお母様に言われた通りにしていただけなんです! そうです。ですよ? そして、なんです!」
未だ夢見て頭の中にお花畑を咲かせて、必死に縋り付こうとする麗蘭に、泰山は吐き捨てるように言った。


「……黙れ。お前のような女が龍の巫女だと? ……ふんっ。お前の踊りなど、近所の男たちを誘惑するための卑俗な動きに過ぎん。ましてや神事に不真面目なお前のような不届きな存在が、龍神様に見初められるはずがなかろうが」
明らかに侮辱するように麗蘭の言葉を否定すると、泰山は再び懐から別の書状を取り出した。

――そこには麗蘭がこれまで屋敷内でしてきたこと、そして街で繰り返してきた「」が事細かに記されている。


「立場を利用して屋敷の見目のいい男性使用人に手を出しては、飽きて捨てるということを繰り返し、そのうち屋敷の使用人たちだけでは満足できなくなって、近隣の良家の息子たちを恥ずかしげもなく追い回しては拒絶されて、その尻軽さに鼻で笑われることも気付かずに続けて……挙句の果てには、殿使そうだな?」
という泰山の指摘に蓮華の傍らで見守っていた俊介が、その時のことを思い出したのか、心底不快そうに蓮華から顔を背けていた。

「……挙句にお前は、私の屋敷にいないのをいいことに母親の真似をするように、蓮華を『』と言って罵り続けて、で使用人に身の回りの世話すらさせず、さらに食事を抜くなどの。……血の繋がりもなく、恩義すら感じぬ不忠者を屋敷に置く理由は、我が白家にはない!」
と泰山は冷たく言い放った。


――本来ならその場で叩き出すだけでも良かったのだが、彼はこの「」にも、を用意していた。

「……今からお前にはを与える。は、人里離れた険しい山奥にある修道院へと入り、残りの人生をかけて神にただひたすら祈りを捧げて、これまでの己の罪をすべて悔い改めることだ。……そこで数年、真摯に勤め上げて誰の目にも明らかに反省が見られれば…………」
最初のうちは険しい顔をしていた麗蘭の顔が、よい家へ嫁げると聞いて、パッと明るくなった………が、上げて落とすかのように泰山は続けて「」を突きつける。

「……それが嫌だと言うならば、今すぐこの屋敷を出て、。その男には前妻たちとの間に子が何人もおり、大きくなった子たちの素行に悪く、そのせいで家政は乱れてはいるが……それなりには暮らせる家だ。……さあ、

どこか誤魔化したかのような説明だったが、余裕のない麗蘭は気付かず、
「……そんな……修道院で祈り続けるだけの生活なんて……娯楽もない場所で一生を過ごすなんて死んでも嫌よ! ……そ、そうね。それなら、相手が年寄りでも商人の後妻になる方がマシよ!」

ひたすら祈るだけの規則正しい健全な生活を嫌がり、麗蘭は即座に後者を選んだ。
ーーまだ、自分の若さと美貌さえあれば、その老商人を誘惑して操ってしまえば贅沢ができると踏んだ麗蘭。


「……そうか。ならばにしよう」

泰山はそう言うと、麗蘭の後ろに控えていた兵に行き先を書いた書状を渡すと、受け取った兵とともに麗蘭を目的の場所へ連れていくべく動き出したのだった。


ーー立ち去る前に麗蘭は、
「見てなさいよ蓮華! 私はあんたより幸せになってやるんだから!」
と不適な笑みを浮かべて負け惜しみを叫びながら連れていかれたがーー
ーー


泰山が選んだその「後妻」という立場もまた、

ーーそう、老商人は金にケチで汚く、自身のためにしか金を使わず、複数いる妻たちも、未だ現役の自身の欲望を吐き出す相手として、または、商売をする時に着飾らせて隣を歩かせて、男たちの欲望を煽るためだけの、ただの道具としか思っていない欲望まみれの年寄りで有名だった。

おそらく麗蘭のわがままなどは一蹴されて、己の欲望を吐き出すだけの道具にして、飽きれば闇接待のお相手として商売相手に差し出されるのだろう。

妻たちも気の強いものたちが集まっていると聞く。
その妻たちからの嫌がらせで下女がするような仕事をさせられて朝から晩まで重労働を強いられるはずだ。

ーー彼女が夢見た「」などは、ことに、果たしていつ気付いて、いつ落ちていくだろうか。


ーーようやく静まり返った玄関先では、やっと終わらせることができたと、泰山が深く、深い溜息をついていた。

それから、傍らでずっと黙って見守ってくれていた龍炎に、深々と頭を下げた。

「……我が家の醜態をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。陛下。……お陰さまで、これですべて片が付きました」
きちんと皇帝を認識していた泰山は龍炎に頭を下げてお礼を言った。

それにたいして龍炎は、蓮華を包み込むように彼女の肩を抱き寄せながら、泰山に向かって短く頷いた。

「……。……蓮華の父としても、見事な決断であった」
皇帝として褒めつつ、蓮華の肩を抱いたまま離さなかった龍炎。


ーーそんな状態でも蓮華は、自分を守るために家を、そして自分の立場さえも危うくしてまで戦ってくれた父を見つめて、父の思いを感じながら静かに涙をこらえていたのだった。
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