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第2章 高校1年生 夏休み
第25話 旅行先の定番。
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「で?」
「なんだ?」
「なんだじゃねーよ。何でお前がここにいるんだよ」
「お前のお父上や和泉のお祖父様に頼まれたからだが」
ぶーたれている冬馬に誠が事もなげに答えた。
日付は8月1日。
今日から一週間の予定で東城家の別荘に宿泊することになっている。
みんな都合がついたようで、当初の計画通りの日程だ。
現地集合ということになっていたのだが、別荘に着いたのは私が最後だった。
例の誘拐事件のせいで、子どもたちだけでの宿泊は認められなかった。
祖父も、そして東城のお父上も護衛をつけるということで許可を出したのだ。
姿は見えないが、SPが別荘の周りを常時警戒しているはずである。
一言付け加えておくと、冬馬や私は便宜上SPと呼んでいるが、私たちの護衛は正確には私的警護員である。
SPとは本来セキュリティポリス(Security Police)の略称のことで、警視庁直属の要人警護用人であり、立派な公務員である。
今回私たちに同行してくれるのは、民間の警護会社から派遣された警護員だ。
彼らは一条家と東城家に選ばれたエリート中のエリートであり、本物のSPにも劣るものではない。
彼らが来ることは、事前に冬馬と打ち合わせをしており、他のメンバーにも周知していたので織り込み済みだったのだが――。
「内側を完全に空にするという訳にも行かなくてな。俺が内部護衛兼連絡役をすることになった。よろしく頼む」
と言って、朝紹介されたのが誠であった。
彼は私たちと一緒に行動しながら護衛を行い、必要があれば周囲を固めているSPに連絡を取る役目なのだそうだ。
気安い者がいいだろうということでこの人選になったようなのだが、誠はそんな役目が果たせるほどの能力があるのだろうか。
この辺りのことは、前世の知識にもない。
疑問を言葉にしてみる。
「一応、剣道3段だ。祖父も父も正真正銘のSPで、剣道の指南役をしている。体術など技術面の心得、警護に当っての心得などは分かっているつもりだ」
なんでも幼い頃からたびたび、上流階級の子どもの付き添い役みたいなことをやらされていたそうだ。
彼自身、それなりに裕福な家の子息であるはずなのに、なぜなのだろう。
「昔から、祖父や父にそう育てられた。人を守れる力を持て、というのが真島家の家訓だ」
そう言えば、彼のシナリオには暴漢に襲われて助けられるというシーンがあったなぁ、などと今更思い出す。
先日の事件の時も、誠がいれば違う展開があったのだろうか。
いや、それは冬馬に物凄く失礼だ。
彼は本当に命をかけて私を救ってくれたのだ。
感謝してもしきれない。
「まぁ、知った仲やし、別にええんちゃうの? 見ず知らずのオッサンに近くをウロウロされてもかなわんやろ」
ナキの意見は至極もっともだったので、冬馬以外からは意義申し立てはなかった。
問題の冬馬はといえば、
「何でよりにもよってこいつなんだよ……」
と相変わらずぶーたれていた。
◆◇◆◇◆
最後に到着した私を除いたみんなは、もう荷物を運び込んでいた。
別荘は2階建ての4LDK。
男部屋、女部屋が一つずつと、大きな荷物を置く部屋がもう一つ、最後の一つは使い道がないので空室だ。
女部屋は1階にある。
7人が雑魚寝出来るほどの非常に広い和室だ。
建物自体は洋風だけれど、やっぱり日本人は畳に布団だよね。
私は荷物を隅に下ろすと、皆がいるリビンクへと戻った。
どこも空調が寒くない程度に効いている。
リビングは女部屋よりもさらに広い。
高い天井が空間をさらに広く感じさせる。
ほのかに木の香りがするのがまた風情があっていい。
調度も主張しすぎない上品なものなのが好印象である。
みんなはソファに座って歓談していた。
「この別荘、素敵だよねー」
「二条の別荘とは格が違いますわ」
「いやいや。別荘がある時点でもうおかしいからね?」
「みのりんは庶民よのう」
「幸、あんただって庶民でしょ」
「わ、私、本当にここに居ていいんでしょうか……」
女性陣はくつろいでいるようだ。
遥さんはまだ慣れない様子だが。
「決まったことをあれこれ言っても仕方ない。おい、誠」
「なんだ?」
「お前を護衛として認める」
「ああ」
「でも和泉には手を出すなよ?」
「……お前の頭はお花畑か」
「何だと!?」
「大将、まぁまぁ」
「誠も刺激してくれるなや。こいつ和泉ちゃんのことになるとホンマ面倒なんやから」
男性陣の方もくつろいで……いるようないないような。
取り敢えず女性陣のいる方へ腰を下ろす。
「さてお前ら。まずはミッションだ」
「ミッションー?」
全員が揃ったのを見計らって音頭を取る冬馬の言葉に、いつねさんが首を傾げる。
「この別荘に滞在中は自炊だ。食材はSPの連中に買い出しを頼むが、調理は自分たちで行う」
「なんや、そうなんか」
「てっきり、東城家の一流シェフが腕をふるって下さるのかと思いましたわ」
ナキと仁乃さんは少し不満そうである。
「でだ。お前たち、料理はできるか?」
「まあ、人並みくらいには……」
「だね」
「うん」
実梨さん、佳代さん、幸さんは平気らしい。
「で、でも、冬馬様や和泉様にお出しするようなのはちょっと……」
「だよな。大将やお嬢が普段食ってるもんと比べられたらなぁ」
遥さんと嬉一が懸念を示す。
って、待て。
お嬢って私のことか。
「ばっか。こんな面白いイベントで高級料理作ってどうする」
「どうするんだ?」
誠が疑問を呈する。
「まあ、一週間あるからみんなで色々考える必要があるが、最初は決まってんだろ」
「というと?」
私には冬馬の言いたいことがよく分からない。
「こういう時の鉄板レシピ――カレーだよ」
◆◇◆◇◆
「いずみん、なんか手馴れてるねー」
「お姉さまは完璧超人ですから」
「野菜を切るくらいで大げさですよ」
じゃがいもの皮を剥いている時に、いつねさんと仁乃さんにそんなことを言われた。
お祖父様の教育方針で、女は料理が出来なければならないと躾けられてきた私は、時々シェフと一緒に料理をしていたのだ。
和洋中、基本的なものはひと通り作れる。
カレーなど切って煮るだけの簡単料理である。
「あ。仁乃さん、芽はとらないと。毒がありますから」
「そうなんですの?」
「和泉様より仁乃さんの方が深窓の令嬢っぽいよね」
「不器用な仁乃さん萌え」
3人組が容赦なく仁乃さんにダメ出しする。
幸さんのキャラが怪しくなってきている気がするのは気のせいだろうか。
「どうせなら飯ごうで炊きたかったなー」
「キャンプやないんやから」
「でも、焚き火に飯ごうはロマンだよな」
「火を起こすのは意外と難しいんだがな」
冬馬、ナキ、嬉一、誠の男性陣はご飯を担当してもらっている。
何しろ大人数だ。
炊飯器では追いつかないので、大鍋で炊く。
冬馬が自信満々に任せろというので任せたが、鍋で炊くのも飯ごうほどでないにしても、そこそこ経験がいる。
大丈夫だろうか。
「辛いのダメな人いますか?」
「……」
遥さんの問いかけに、私は無言で手を挙げる。
やめて、生暖かい視線を向けないで。
いやね、全然ダメな訳じゃないんだけど、こういう時って絶対――。
「えー。激辛にしようぜ」
ほら、こういう冬馬が出てくるでしょう?
「アホ。舌がバカになるやないか」
「いやー。でも辛いほうが美味くね?」
「あたしは激辛でも別にいいよー?」
「いつねさん、強者ですわね」
「佳代ちゃんはどう?」
「私も割りと平気」
「辛いのダメな和泉様萌え」
「素材への冒涜にならない程度にしておけ」
好みはそれぞれのようだ。
そして幸さん、キミはどこへ行こうとしているのだ。
何か、出てはいけないものが出ているぞ。
「じゃあ、辛いのが好きな人は、個別で一味入れて貰いましょうか」
遥さん女神。
そうして貰えると助かる。
◆◇◆◇◆
そんなこんなでわいわいしながら何とか完成。
「じゃあ食べよう。お前ら手を合わせろ」
何となく前世の小学生時代の給食を思い出す。
「いただきます」
「「「いただきます!」」」
スプーンでルーをすくってまず一口。
うん、悪くない。
おふくろの味だ。
市販のルーだけど。
「小麦粉の味がしますわ……」
「こんなもんだよー」
スパイス類を追加していないので、いつねさんが言う通りこんなもんである。
次に野菜。
うん、美味しい。
素材はいいものを買ってきて貰ったし、火もしっかり通っている。
人参は柔らかく、玉ねぎはとろけていて、じゃがいもはホコホコだ。
好みでナスやキノコをいれても美味しいよね。
「野菜、大きさがばらばらだね」
「それぞれの家の方法で切ったからでしょ」
「まぁ、美味しいんだけどね」
仲良し3人組はちょっと納得いっていないようだ。
お肉。
これも素材がいい。
軽井沢には信州牛という有名な牛肉がある。
お値段もそれなりに張るのが難点だが、とても美味しい。
煮る前に焼き目をつけたので香ばしい。
「肉、美味いな」
「ええ肉やな」
冬馬とナキが認めるなら十分すぎるだろう。
最後にお米。
うん、固い。
おいこら、男子。
「うわはは、米かてー」
「笑ってる場合ではないと思うが……」
何故か爆笑している嬉一に誠が冷静に突っ込む。
「誰だっけ、任せろとか言ったのはー?」
「まぁ、こういうのも味だろ?」
冬馬の言うことにも一理あるか。
全部上手く行ってもつまらないという意見は分からなくもない。
「わい、おかわり」
「あ。私も頂きます」
お米の固いカレーだったけど、ナキと遙さんを初めとして、全員がおかわりした。
「ちょ、おま、嬉一! 一味入れ過ぎやろ!」
「え? 全然?」
「うわー……」
嬉一のカレーが真っ赤になっている。
当の本人は涼しい顔で次々口に運んでいるが、いつねさんを筆頭にみんなドン引き。
「オレも激辛にしようとは言ったがな……」
「食材に対する冒涜だ」
何かと対立しがちな冬馬と誠も、この件に関しては同意見らしい。
賑やかな食卓に、私はふと我に返った。
私はここにいていいのだろうか。
そんなことを考える。
(ぼっち……とは言えないよね、これは)
皆の笑顔を眺めながら、私は今日初めてのため息をついた。
「なんだ?」
「なんだじゃねーよ。何でお前がここにいるんだよ」
「お前のお父上や和泉のお祖父様に頼まれたからだが」
ぶーたれている冬馬に誠が事もなげに答えた。
日付は8月1日。
今日から一週間の予定で東城家の別荘に宿泊することになっている。
みんな都合がついたようで、当初の計画通りの日程だ。
現地集合ということになっていたのだが、別荘に着いたのは私が最後だった。
例の誘拐事件のせいで、子どもたちだけでの宿泊は認められなかった。
祖父も、そして東城のお父上も護衛をつけるということで許可を出したのだ。
姿は見えないが、SPが別荘の周りを常時警戒しているはずである。
一言付け加えておくと、冬馬や私は便宜上SPと呼んでいるが、私たちの護衛は正確には私的警護員である。
SPとは本来セキュリティポリス(Security Police)の略称のことで、警視庁直属の要人警護用人であり、立派な公務員である。
今回私たちに同行してくれるのは、民間の警護会社から派遣された警護員だ。
彼らは一条家と東城家に選ばれたエリート中のエリートであり、本物のSPにも劣るものではない。
彼らが来ることは、事前に冬馬と打ち合わせをしており、他のメンバーにも周知していたので織り込み済みだったのだが――。
「内側を完全に空にするという訳にも行かなくてな。俺が内部護衛兼連絡役をすることになった。よろしく頼む」
と言って、朝紹介されたのが誠であった。
彼は私たちと一緒に行動しながら護衛を行い、必要があれば周囲を固めているSPに連絡を取る役目なのだそうだ。
気安い者がいいだろうということでこの人選になったようなのだが、誠はそんな役目が果たせるほどの能力があるのだろうか。
この辺りのことは、前世の知識にもない。
疑問を言葉にしてみる。
「一応、剣道3段だ。祖父も父も正真正銘のSPで、剣道の指南役をしている。体術など技術面の心得、警護に当っての心得などは分かっているつもりだ」
なんでも幼い頃からたびたび、上流階級の子どもの付き添い役みたいなことをやらされていたそうだ。
彼自身、それなりに裕福な家の子息であるはずなのに、なぜなのだろう。
「昔から、祖父や父にそう育てられた。人を守れる力を持て、というのが真島家の家訓だ」
そう言えば、彼のシナリオには暴漢に襲われて助けられるというシーンがあったなぁ、などと今更思い出す。
先日の事件の時も、誠がいれば違う展開があったのだろうか。
いや、それは冬馬に物凄く失礼だ。
彼は本当に命をかけて私を救ってくれたのだ。
感謝してもしきれない。
「まぁ、知った仲やし、別にええんちゃうの? 見ず知らずのオッサンに近くをウロウロされてもかなわんやろ」
ナキの意見は至極もっともだったので、冬馬以外からは意義申し立てはなかった。
問題の冬馬はといえば、
「何でよりにもよってこいつなんだよ……」
と相変わらずぶーたれていた。
◆◇◆◇◆
最後に到着した私を除いたみんなは、もう荷物を運び込んでいた。
別荘は2階建ての4LDK。
男部屋、女部屋が一つずつと、大きな荷物を置く部屋がもう一つ、最後の一つは使い道がないので空室だ。
女部屋は1階にある。
7人が雑魚寝出来るほどの非常に広い和室だ。
建物自体は洋風だけれど、やっぱり日本人は畳に布団だよね。
私は荷物を隅に下ろすと、皆がいるリビンクへと戻った。
どこも空調が寒くない程度に効いている。
リビングは女部屋よりもさらに広い。
高い天井が空間をさらに広く感じさせる。
ほのかに木の香りがするのがまた風情があっていい。
調度も主張しすぎない上品なものなのが好印象である。
みんなはソファに座って歓談していた。
「この別荘、素敵だよねー」
「二条の別荘とは格が違いますわ」
「いやいや。別荘がある時点でもうおかしいからね?」
「みのりんは庶民よのう」
「幸、あんただって庶民でしょ」
「わ、私、本当にここに居ていいんでしょうか……」
女性陣はくつろいでいるようだ。
遥さんはまだ慣れない様子だが。
「決まったことをあれこれ言っても仕方ない。おい、誠」
「なんだ?」
「お前を護衛として認める」
「ああ」
「でも和泉には手を出すなよ?」
「……お前の頭はお花畑か」
「何だと!?」
「大将、まぁまぁ」
「誠も刺激してくれるなや。こいつ和泉ちゃんのことになるとホンマ面倒なんやから」
男性陣の方もくつろいで……いるようないないような。
取り敢えず女性陣のいる方へ腰を下ろす。
「さてお前ら。まずはミッションだ」
「ミッションー?」
全員が揃ったのを見計らって音頭を取る冬馬の言葉に、いつねさんが首を傾げる。
「この別荘に滞在中は自炊だ。食材はSPの連中に買い出しを頼むが、調理は自分たちで行う」
「なんや、そうなんか」
「てっきり、東城家の一流シェフが腕をふるって下さるのかと思いましたわ」
ナキと仁乃さんは少し不満そうである。
「でだ。お前たち、料理はできるか?」
「まあ、人並みくらいには……」
「だね」
「うん」
実梨さん、佳代さん、幸さんは平気らしい。
「で、でも、冬馬様や和泉様にお出しするようなのはちょっと……」
「だよな。大将やお嬢が普段食ってるもんと比べられたらなぁ」
遥さんと嬉一が懸念を示す。
って、待て。
お嬢って私のことか。
「ばっか。こんな面白いイベントで高級料理作ってどうする」
「どうするんだ?」
誠が疑問を呈する。
「まあ、一週間あるからみんなで色々考える必要があるが、最初は決まってんだろ」
「というと?」
私には冬馬の言いたいことがよく分からない。
「こういう時の鉄板レシピ――カレーだよ」
◆◇◆◇◆
「いずみん、なんか手馴れてるねー」
「お姉さまは完璧超人ですから」
「野菜を切るくらいで大げさですよ」
じゃがいもの皮を剥いている時に、いつねさんと仁乃さんにそんなことを言われた。
お祖父様の教育方針で、女は料理が出来なければならないと躾けられてきた私は、時々シェフと一緒に料理をしていたのだ。
和洋中、基本的なものはひと通り作れる。
カレーなど切って煮るだけの簡単料理である。
「あ。仁乃さん、芽はとらないと。毒がありますから」
「そうなんですの?」
「和泉様より仁乃さんの方が深窓の令嬢っぽいよね」
「不器用な仁乃さん萌え」
3人組が容赦なく仁乃さんにダメ出しする。
幸さんのキャラが怪しくなってきている気がするのは気のせいだろうか。
「どうせなら飯ごうで炊きたかったなー」
「キャンプやないんやから」
「でも、焚き火に飯ごうはロマンだよな」
「火を起こすのは意外と難しいんだがな」
冬馬、ナキ、嬉一、誠の男性陣はご飯を担当してもらっている。
何しろ大人数だ。
炊飯器では追いつかないので、大鍋で炊く。
冬馬が自信満々に任せろというので任せたが、鍋で炊くのも飯ごうほどでないにしても、そこそこ経験がいる。
大丈夫だろうか。
「辛いのダメな人いますか?」
「……」
遥さんの問いかけに、私は無言で手を挙げる。
やめて、生暖かい視線を向けないで。
いやね、全然ダメな訳じゃないんだけど、こういう時って絶対――。
「えー。激辛にしようぜ」
ほら、こういう冬馬が出てくるでしょう?
「アホ。舌がバカになるやないか」
「いやー。でも辛いほうが美味くね?」
「あたしは激辛でも別にいいよー?」
「いつねさん、強者ですわね」
「佳代ちゃんはどう?」
「私も割りと平気」
「辛いのダメな和泉様萌え」
「素材への冒涜にならない程度にしておけ」
好みはそれぞれのようだ。
そして幸さん、キミはどこへ行こうとしているのだ。
何か、出てはいけないものが出ているぞ。
「じゃあ、辛いのが好きな人は、個別で一味入れて貰いましょうか」
遥さん女神。
そうして貰えると助かる。
◆◇◆◇◆
そんなこんなでわいわいしながら何とか完成。
「じゃあ食べよう。お前ら手を合わせろ」
何となく前世の小学生時代の給食を思い出す。
「いただきます」
「「「いただきます!」」」
スプーンでルーをすくってまず一口。
うん、悪くない。
おふくろの味だ。
市販のルーだけど。
「小麦粉の味がしますわ……」
「こんなもんだよー」
スパイス類を追加していないので、いつねさんが言う通りこんなもんである。
次に野菜。
うん、美味しい。
素材はいいものを買ってきて貰ったし、火もしっかり通っている。
人参は柔らかく、玉ねぎはとろけていて、じゃがいもはホコホコだ。
好みでナスやキノコをいれても美味しいよね。
「野菜、大きさがばらばらだね」
「それぞれの家の方法で切ったからでしょ」
「まぁ、美味しいんだけどね」
仲良し3人組はちょっと納得いっていないようだ。
お肉。
これも素材がいい。
軽井沢には信州牛という有名な牛肉がある。
お値段もそれなりに張るのが難点だが、とても美味しい。
煮る前に焼き目をつけたので香ばしい。
「肉、美味いな」
「ええ肉やな」
冬馬とナキが認めるなら十分すぎるだろう。
最後にお米。
うん、固い。
おいこら、男子。
「うわはは、米かてー」
「笑ってる場合ではないと思うが……」
何故か爆笑している嬉一に誠が冷静に突っ込む。
「誰だっけ、任せろとか言ったのはー?」
「まぁ、こういうのも味だろ?」
冬馬の言うことにも一理あるか。
全部上手く行ってもつまらないという意見は分からなくもない。
「わい、おかわり」
「あ。私も頂きます」
お米の固いカレーだったけど、ナキと遙さんを初めとして、全員がおかわりした。
「ちょ、おま、嬉一! 一味入れ過ぎやろ!」
「え? 全然?」
「うわー……」
嬉一のカレーが真っ赤になっている。
当の本人は涼しい顔で次々口に運んでいるが、いつねさんを筆頭にみんなドン引き。
「オレも激辛にしようとは言ったがな……」
「食材に対する冒涜だ」
何かと対立しがちな冬馬と誠も、この件に関しては同意見らしい。
賑やかな食卓に、私はふと我に返った。
私はここにいていいのだろうか。
そんなことを考える。
(ぼっち……とは言えないよね、これは)
皆の笑顔を眺めながら、私は今日初めてのため息をついた。
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