【本編完結】おじ様好きオメガは後輩アルファの視線に気が付かない

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
10 / 110
一章

ハイアルファって

しおりを挟む
「ダーツって楽しいですね!」
「それは良かった。上達が早いから教えてて気持ちがいいよ」

 黒い革のソファーは、子どものように遠慮なく座る藤ヶ谷を難なく受け止めた。体と共に声を弾ませる藤ヶ谷の隣に、蓮池はにこやかに答えながら腰掛ける。

 蓮池は初心者の藤ヶ谷をずっと褒め続けてくれたため、とても気分よくプレイすることが出来た。

(本当に優しいな)

 まさか自分好みの相手と、こんなにも親密な時間を過ごせるなんて。
 好みの条件があまりにも限定的だと自覚がある藤ヶ谷にとっては、夢のような時間だ。

 蓮池が注文してくれていたシャインマスカットのカクテルに、上機嫌で舌鼓を打つ。
 贅沢に薄緑の丸い粒がグラスの底に沈んでおり、秋らしい爽やかな甘さが口内を潤してくれて頬が緩む。

 スローテンポのBGMを聴きながら、会話も弾んだ。
 そうしているうちに、蓮池が杉野を話題に出した。
 そして、意外な単語を口にする。

「杉野が、ハイアルファ?」
「違うのかい?」

 驚いて復唱すると、蓮池も目を丸くして首を傾げた。

 ハイアルファは、アルファの中でも稀有な存在だ。
 彼らは容姿も頭脳も運動能力も、何もかもにおいて最高の存在であるという。
 そして特筆すべきは、ハイアルファの持つフェロモンだ。
 通常のアルファはオメガのヒートに合わせて自身も発情し、ラットと言われる状態になる。
 その点ハイアルファは、オメガをヒートにするフェロモンを自在に出すことができるのだ。

 しかし運命の番と同じくらい、実在するのか分からないような存在だった。

「ハイアルファって伝説の生き物じゃないんですね?」

 杉野は確かに職場では飛び抜けて成績が良いし、取引先でも目立つ。
 道を共に歩けば人が振り返り、ヒソヒソと賞賛しているであろう声を聞くことも多い。

 とはいえ、オメガの藤ヶ谷からすればアルファは皆がそうなのだ。
 フェロモンも心が安らぐ香りがするとは思うが、特別なものは感じない。
 更に言うなら、個人的な好みの兼ね合いで、蓮池や部長の八重樫の方が魅力的に見える。

 不思議そうに首を捻っている藤ヶ谷に、蓮池は苦笑した。
 本気で分からなかったことが伝わっているようだ。

「意外と気が付かないものなんだね。アルファ同士だと、香りの強さは関係なく自分より上級の相手が分かるんだ」
「そうなのか」

 初耳だった。
 アルファのおじさま方にしきりに話しかける藤ヶ谷でも、聞いたことがない。
 自分より上級の人間がいるなどと、わざわざプライドの高いアルファは口にしないせいだろう。

「若い頃に一度だけ会ったことがあるんだ。彼は優秀過ぎてね。アルファでさえ自分以外の人間は足手纏いに感じると言っていたよ」

 どこか懐かしむようにワイングラスを揺らす蓮池の言葉が、藤ヶ谷の胸に刺さった。

「そう言われると、すごく今更だけど……あいつ、誰よりも仕事出来るな……」

 グラスの中で波打つ赤色を見つめて、声のトーンが落ちてしまう。
 いつも涼しい顔で淡々とサポートしてくれる姿を思い浮かべる。
しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

さかなのみるゆめ

ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

処理中です...