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一章
ハイアルファって
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「ダーツって楽しいですね!」
「それは良かった。上達が早いから教えてて気持ちがいいよ」
黒い革のソファーは、子どものように遠慮なく座る藤ヶ谷を難なく受け止めた。体と共に声を弾ませる藤ヶ谷の隣に、蓮池はにこやかに答えながら腰掛ける。
蓮池は初心者の藤ヶ谷をずっと褒め続けてくれたため、とても気分よくプレイすることが出来た。
(本当に優しいな)
まさか自分好みの相手と、こんなにも親密な時間を過ごせるなんて。
好みの条件があまりにも限定的だと自覚がある藤ヶ谷にとっては、夢のような時間だ。
蓮池が注文してくれていたシャインマスカットのカクテルに、上機嫌で舌鼓を打つ。
贅沢に薄緑の丸い粒がグラスの底に沈んでおり、秋らしい爽やかな甘さが口内を潤してくれて頬が緩む。
スローテンポのBGMを聴きながら、会話も弾んだ。
そうしているうちに、蓮池が杉野を話題に出した。
そして、意外な単語を口にする。
「杉野が、ハイアルファ?」
「違うのかい?」
驚いて復唱すると、蓮池も目を丸くして首を傾げた。
ハイアルファは、アルファの中でも稀有な存在だ。
彼らは容姿も頭脳も運動能力も、何もかもにおいて最高の存在であるという。
そして特筆すべきは、ハイアルファの持つフェロモンだ。
通常のアルファはオメガのヒートに合わせて自身も発情し、ラットと言われる状態になる。
その点ハイアルファは、オメガをヒートにするフェロモンを自在に出すことができるのだ。
しかし運命の番と同じくらい、実在するのか分からないような存在だった。
「ハイアルファって伝説の生き物じゃないんですね?」
杉野は確かに職場では飛び抜けて成績が良いし、取引先でも目立つ。
道を共に歩けば人が振り返り、ヒソヒソと賞賛しているであろう声を聞くことも多い。
とはいえ、オメガの藤ヶ谷からすればアルファは皆がそうなのだ。
フェロモンも心が安らぐ香りがするとは思うが、特別なものは感じない。
更に言うなら、個人的な好みの兼ね合いで、蓮池や部長の八重樫の方が魅力的に見える。
不思議そうに首を捻っている藤ヶ谷に、蓮池は苦笑した。
本気で分からなかったことが伝わっているようだ。
「意外と気が付かないものなんだね。アルファ同士だと、香りの強さは関係なく自分より上級の相手が分かるんだ」
「そうなのか」
初耳だった。
アルファのおじさま方にしきりに話しかける藤ヶ谷でも、聞いたことがない。
自分より上級の人間がいるなどと、わざわざプライドの高いアルファは口にしないせいだろう。
「若い頃に一度だけ会ったことがあるんだ。彼は優秀過ぎてね。アルファでさえ自分以外の人間は足手纏いに感じると言っていたよ」
どこか懐かしむようにワイングラスを揺らす蓮池の言葉が、藤ヶ谷の胸に刺さった。
「そう言われると、すごく今更だけど……あいつ、誰よりも仕事出来るな……」
グラスの中で波打つ赤色を見つめて、声のトーンが落ちてしまう。
いつも涼しい顔で淡々とサポートしてくれる姿を思い浮かべる。
「それは良かった。上達が早いから教えてて気持ちがいいよ」
黒い革のソファーは、子どものように遠慮なく座る藤ヶ谷を難なく受け止めた。体と共に声を弾ませる藤ヶ谷の隣に、蓮池はにこやかに答えながら腰掛ける。
蓮池は初心者の藤ヶ谷をずっと褒め続けてくれたため、とても気分よくプレイすることが出来た。
(本当に優しいな)
まさか自分好みの相手と、こんなにも親密な時間を過ごせるなんて。
好みの条件があまりにも限定的だと自覚がある藤ヶ谷にとっては、夢のような時間だ。
蓮池が注文してくれていたシャインマスカットのカクテルに、上機嫌で舌鼓を打つ。
贅沢に薄緑の丸い粒がグラスの底に沈んでおり、秋らしい爽やかな甘さが口内を潤してくれて頬が緩む。
スローテンポのBGMを聴きながら、会話も弾んだ。
そうしているうちに、蓮池が杉野を話題に出した。
そして、意外な単語を口にする。
「杉野が、ハイアルファ?」
「違うのかい?」
驚いて復唱すると、蓮池も目を丸くして首を傾げた。
ハイアルファは、アルファの中でも稀有な存在だ。
彼らは容姿も頭脳も運動能力も、何もかもにおいて最高の存在であるという。
そして特筆すべきは、ハイアルファの持つフェロモンだ。
通常のアルファはオメガのヒートに合わせて自身も発情し、ラットと言われる状態になる。
その点ハイアルファは、オメガをヒートにするフェロモンを自在に出すことができるのだ。
しかし運命の番と同じくらい、実在するのか分からないような存在だった。
「ハイアルファって伝説の生き物じゃないんですね?」
杉野は確かに職場では飛び抜けて成績が良いし、取引先でも目立つ。
道を共に歩けば人が振り返り、ヒソヒソと賞賛しているであろう声を聞くことも多い。
とはいえ、オメガの藤ヶ谷からすればアルファは皆がそうなのだ。
フェロモンも心が安らぐ香りがするとは思うが、特別なものは感じない。
更に言うなら、個人的な好みの兼ね合いで、蓮池や部長の八重樫の方が魅力的に見える。
不思議そうに首を捻っている藤ヶ谷に、蓮池は苦笑した。
本気で分からなかったことが伝わっているようだ。
「意外と気が付かないものなんだね。アルファ同士だと、香りの強さは関係なく自分より上級の相手が分かるんだ」
「そうなのか」
初耳だった。
アルファのおじさま方にしきりに話しかける藤ヶ谷でも、聞いたことがない。
自分より上級の人間がいるなどと、わざわざプライドの高いアルファは口にしないせいだろう。
「若い頃に一度だけ会ったことがあるんだ。彼は優秀過ぎてね。アルファでさえ自分以外の人間は足手纏いに感じると言っていたよ」
どこか懐かしむようにワイングラスを揺らす蓮池の言葉が、藤ヶ谷の胸に刺さった。
「そう言われると、すごく今更だけど……あいつ、誰よりも仕事出来るな……」
グラスの中で波打つ赤色を見つめて、声のトーンが落ちてしまう。
いつも涼しい顔で淡々とサポートしてくれる姿を思い浮かべる。
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