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三章
そういうやつです
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ようやく出てきた言葉は、泣くのを我慢して上擦ってしまって。お世辞にも格好がついているとは言えなかった。
だが伝えてしまえば、胸が少し軽くなる。
藤ヶ谷はもう返事を聞かずに逃げたかったが、手を離そうとすると杉野が手首をしっかりと握ってきて離さない。
言葉に迷っている様子の端正な顔からの返事をひたすら待つしかなかった。
「それ、は……勘違いだと後で撃沈するので聞きます。恋人になりたいとかそういう『好き』ですか」
藤ヶ谷を傷つけないようにしているのか、それとも普段は察しがいいくせに本気で疑問に思っているのか。
すぐには返答せずに質問をしてくる。
ここまで来たら、もう何を言っても結果は変わらない。
本音を晒してしまおうと藤ヶ谷は上手く回らない舌を動かす。
「も、もっと……重いかも……あの、つ、番になりたいとかそういうやつです」
杉野が珍しく下を向き、目を合わせずに大きく息を吐く音がして藤ヶ谷は体を跳ねさせる。
不穏な空気を察知した心臓が、処刑を嫌がる罪人のように暴れていた。
(杉野困ってる。フラれるフラれるフラれ)
「殴ってもらっていいですか」
「なんで!?」
明後日の方向の台詞に、恐怖も涙も全て引っ込んだ。藤ヶ谷はなんとか杉野の顔を確認しようとするが、どうしても頭頂部しか見えない。
杉野は藤ヶ谷の手を解放すると、短く淡々とした声を出す。
「夢かもしれない」
「お前、何言ってんの?」
普段と変わらない口調で、しかし内容は意味不明だ。
フる前に場を和ませようとしてふざけているのかと、望み通りぺちんと軽く頭を叩いてやる。
「痛くないなやっぱり夢か」
「待て待て!」
表情は見えないが、冷静に納得されて思いっきり引っ叩いてやる。
精一杯の告白を、夢オチにされたら敵わない。
いつも涼しげな杉野から喉が潰れたような音が出た。
「……っ何するんですか」
「お前がやれっていった!」
頭を抑えて上げた杉野の顔は、言葉通り痛みに歪んでいた。
叩いた藤ヶ谷の手も、ジンと痺れている。
不可解な杉野の言動に、もう返事を待てるほど心が保てない。
(夢だと思いたいほど迷惑なのか)
藤ヶ谷は再び泣きそうになっているのをなんとか堪え、まだしゃがんだままの杉野を見下ろしながら立ち上がる。
「というわけで、帰るな!」
「なんでですか」
「言いたいこと言ったし! 杉野は好きな人がいるの知ってるから! その人と幸せになってな」
表情筋を駆使してなんとか作り上げた笑顔で、爽やかに終わろうと手を上げる。
自分の口から思ってもない言葉がスラスラと出てくるのを他人事のように思いながら、杉野をまたごうと足を上げた。
「いい逃げ禁止」
肩を掴まれたかと思うと視界が反転する。
背中に柔らかいものが当たって体が物理的に跳ねた。
目の前に広がるのは、満天の星空を背景にした杉野の顔。
「夢みたいなんです」
表情が確認できないほど顔が近づく。
ソファに押し倒されたのだと気がついた時には、唇に柔らかいものが触れた。
「俺も、好きです」
一瞬だけ重なった唇が離れ、吐息がかかる距離で告げられる。
藤ヶ谷は頭が真っ白になった。
だが伝えてしまえば、胸が少し軽くなる。
藤ヶ谷はもう返事を聞かずに逃げたかったが、手を離そうとすると杉野が手首をしっかりと握ってきて離さない。
言葉に迷っている様子の端正な顔からの返事をひたすら待つしかなかった。
「それ、は……勘違いだと後で撃沈するので聞きます。恋人になりたいとかそういう『好き』ですか」
藤ヶ谷を傷つけないようにしているのか、それとも普段は察しがいいくせに本気で疑問に思っているのか。
すぐには返答せずに質問をしてくる。
ここまで来たら、もう何を言っても結果は変わらない。
本音を晒してしまおうと藤ヶ谷は上手く回らない舌を動かす。
「も、もっと……重いかも……あの、つ、番になりたいとかそういうやつです」
杉野が珍しく下を向き、目を合わせずに大きく息を吐く音がして藤ヶ谷は体を跳ねさせる。
不穏な空気を察知した心臓が、処刑を嫌がる罪人のように暴れていた。
(杉野困ってる。フラれるフラれるフラれ)
「殴ってもらっていいですか」
「なんで!?」
明後日の方向の台詞に、恐怖も涙も全て引っ込んだ。藤ヶ谷はなんとか杉野の顔を確認しようとするが、どうしても頭頂部しか見えない。
杉野は藤ヶ谷の手を解放すると、短く淡々とした声を出す。
「夢かもしれない」
「お前、何言ってんの?」
普段と変わらない口調で、しかし内容は意味不明だ。
フる前に場を和ませようとしてふざけているのかと、望み通りぺちんと軽く頭を叩いてやる。
「痛くないなやっぱり夢か」
「待て待て!」
表情は見えないが、冷静に納得されて思いっきり引っ叩いてやる。
精一杯の告白を、夢オチにされたら敵わない。
いつも涼しげな杉野から喉が潰れたような音が出た。
「……っ何するんですか」
「お前がやれっていった!」
頭を抑えて上げた杉野の顔は、言葉通り痛みに歪んでいた。
叩いた藤ヶ谷の手も、ジンと痺れている。
不可解な杉野の言動に、もう返事を待てるほど心が保てない。
(夢だと思いたいほど迷惑なのか)
藤ヶ谷は再び泣きそうになっているのをなんとか堪え、まだしゃがんだままの杉野を見下ろしながら立ち上がる。
「というわけで、帰るな!」
「なんでですか」
「言いたいこと言ったし! 杉野は好きな人がいるの知ってるから! その人と幸せになってな」
表情筋を駆使してなんとか作り上げた笑顔で、爽やかに終わろうと手を上げる。
自分の口から思ってもない言葉がスラスラと出てくるのを他人事のように思いながら、杉野をまたごうと足を上げた。
「いい逃げ禁止」
肩を掴まれたかと思うと視界が反転する。
背中に柔らかいものが当たって体が物理的に跳ねた。
目の前に広がるのは、満天の星空を背景にした杉野の顔。
「夢みたいなんです」
表情が確認できないほど顔が近づく。
ソファに押し倒されたのだと気がついた時には、唇に柔らかいものが触れた。
「俺も、好きです」
一瞬だけ重なった唇が離れ、吐息がかかる距離で告げられる。
藤ヶ谷は頭が真っ白になった。
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