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7話(仁視点)
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借金に塗れた親が俺を置いて首を吊ったのは、俺が十五の時だった。
他に身寄りがなくて施設に預けられた俺は、その日からヒートがこなくなった。
元から碌でもない親だったが、それでもメンタルにもフィジカルにも影響を及ぼすなんてな。俺も可愛らしいガキだったってことだ。
施設に預けられて家にいる時より圧倒的にまともな生活を送った俺は、無事十七歳まで育った。
ある日、別の施設との交流会なんてものに連れて行かれた。そして、運命の出会いを果たすことになる。
運命の番なんて、そんな夢物語みたいなもんじゃねぇ。でも、間違いなく運命だった。
俺よりも「子ども」というのに相応しいチビ達の中に、そいつはいた。
交流会に居る誰よりも、圧倒的に綺麗な顔をしたガキだった。
第二性診断を待つまでもない。
俺のオメガの本能が、「こいつはアルファーだ」と言っていた。
そしてその日、俺の体に変化が訪れる。
しばらく子ども向けの交流会の手伝いをしていた俺の体は、どんどん熱くなっていった。
久々でも、それが何か分からないわけがねぇ。
周りはベータばかりで気づいてくれる大人はいなかった。
抑制剤を持ち歩く習慣すら無くしていた俺はすぐに部屋を出て、建物の物置みてぇなところに駆け込んだ。
「お兄さん、大丈夫?」
暗い中で独り蹲る俺のところに、アルファーのガキが顔を見せたときは、心臓が止まるかと思ったな。
オメガのフェロモンに充てられたんだろう。
まだ幼い顔を真っ赤にしていたそのガキは、熱を持て余して震える俺を抱きしめた。
同情も下心もなく、ただ心配して抱きしめられたのは、もしかしたら人生で初めてだったかもしれない。
間違いなくラットに入っていたそいつだったが、まだ体が成熟してないのが幸いした。
そもそも、何をどうしたら自分の体の変化を鎮めることが出来るのかも、わかってないみたいだった。
その後は大人が気づいて事なきを得たし、施設が違えば会うこともなかったが。
俺はヒートの時に抱きしめられたあの香りも温もりも忘れられなかった。
ずっとずっと忘れられねぇまま過ごした。
十年経っても、街中ですれ違っただけであいつだって分かるくらいには強烈な思い出だった。
「……っ!」
起きた俺の目に入ったのは、なんの変哲もない白い天井。それから、心配そうに覗き込んでくる愛しい番の顔だ。
「仁さん、大丈夫?」
「……颯、太……あれ?」
昼間だったはずなのに、レースカーテンから差し込む光がない。代わりに部屋を照らすのは、天井についた人工の照明だ。
寝起きで働かない頭のまま体を動かそうとするが、気怠くて動きにくい。足を動かそうとすると腰が異様に痛くて、ようやく乱暴に犯されたことを思い出す。
(こりゃ……ナカのもんも処理されてんな)
痛み以外の違和感はなく、掛け布団の下にある一糸纏わぬ体は綺麗に拭われていた。
兄貴がそんな丁寧なことをするはずはねぇ。ってことは、だ。ヤリ散らかされて放置されたところを颯太が介抱してくれたってことか。
俺が何も言わずに惚けているのに焦れたのか、颯太はギュッと俺の手をキツく握った。
こいつの手は、やっぱり温かくて気持ちいい。でも気持ちよさに浸る間もなく、真剣な声が降ってくる。
「仁さん、何か俺に言うことありませんか?」
「今、何時だ?」
「夜の七時です」
「俺は……いつから寝てた?」
「……仁さん。話を逸らさないで。俺、びっくりしましたよ」
最悪なところを見られた事実から目を逸らしてぇが、颯太はうやむやにする気は無さそうだ。
手を握り直すと、真っ直ぐすぎる瞳で見下ろしてきた。
怒っている様子はない。
ただ静かに、片手が俺の額を撫でた。
「俺以外とやらないでって、言ったじゃないですか。講義の合間にスマホを取りに戻ったらまさかあんな……なんであんな人に抱かれてたんです?」
「いや、え?」
俺は耳を疑った。思わず起きあがろうとするが、額を抑えられているせいか全く動けない。
あんな人、とこいつは言ったのか。じゃあ、兄貴と鉢合わせたってことになる。
部屋の見える範囲に兄貴の痕跡はない。目の前の颯太も、特に怪我をしている様子もない。
様々な恐怖に慣れているはずの心臓が、不穏な音を立て始めた。
他に身寄りがなくて施設に預けられた俺は、その日からヒートがこなくなった。
元から碌でもない親だったが、それでもメンタルにもフィジカルにも影響を及ぼすなんてな。俺も可愛らしいガキだったってことだ。
施設に預けられて家にいる時より圧倒的にまともな生活を送った俺は、無事十七歳まで育った。
ある日、別の施設との交流会なんてものに連れて行かれた。そして、運命の出会いを果たすことになる。
運命の番なんて、そんな夢物語みたいなもんじゃねぇ。でも、間違いなく運命だった。
俺よりも「子ども」というのに相応しいチビ達の中に、そいつはいた。
交流会に居る誰よりも、圧倒的に綺麗な顔をしたガキだった。
第二性診断を待つまでもない。
俺のオメガの本能が、「こいつはアルファーだ」と言っていた。
そしてその日、俺の体に変化が訪れる。
しばらく子ども向けの交流会の手伝いをしていた俺の体は、どんどん熱くなっていった。
久々でも、それが何か分からないわけがねぇ。
周りはベータばかりで気づいてくれる大人はいなかった。
抑制剤を持ち歩く習慣すら無くしていた俺はすぐに部屋を出て、建物の物置みてぇなところに駆け込んだ。
「お兄さん、大丈夫?」
暗い中で独り蹲る俺のところに、アルファーのガキが顔を見せたときは、心臓が止まるかと思ったな。
オメガのフェロモンに充てられたんだろう。
まだ幼い顔を真っ赤にしていたそのガキは、熱を持て余して震える俺を抱きしめた。
同情も下心もなく、ただ心配して抱きしめられたのは、もしかしたら人生で初めてだったかもしれない。
間違いなくラットに入っていたそいつだったが、まだ体が成熟してないのが幸いした。
そもそも、何をどうしたら自分の体の変化を鎮めることが出来るのかも、わかってないみたいだった。
その後は大人が気づいて事なきを得たし、施設が違えば会うこともなかったが。
俺はヒートの時に抱きしめられたあの香りも温もりも忘れられなかった。
ずっとずっと忘れられねぇまま過ごした。
十年経っても、街中ですれ違っただけであいつだって分かるくらいには強烈な思い出だった。
「……っ!」
起きた俺の目に入ったのは、なんの変哲もない白い天井。それから、心配そうに覗き込んでくる愛しい番の顔だ。
「仁さん、大丈夫?」
「……颯、太……あれ?」
昼間だったはずなのに、レースカーテンから差し込む光がない。代わりに部屋を照らすのは、天井についた人工の照明だ。
寝起きで働かない頭のまま体を動かそうとするが、気怠くて動きにくい。足を動かそうとすると腰が異様に痛くて、ようやく乱暴に犯されたことを思い出す。
(こりゃ……ナカのもんも処理されてんな)
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兄貴がそんな丁寧なことをするはずはねぇ。ってことは、だ。ヤリ散らかされて放置されたところを颯太が介抱してくれたってことか。
俺が何も言わずに惚けているのに焦れたのか、颯太はギュッと俺の手をキツく握った。
こいつの手は、やっぱり温かくて気持ちいい。でも気持ちよさに浸る間もなく、真剣な声が降ってくる。
「仁さん、何か俺に言うことありませんか?」
「今、何時だ?」
「夜の七時です」
「俺は……いつから寝てた?」
「……仁さん。話を逸らさないで。俺、びっくりしましたよ」
最悪なところを見られた事実から目を逸らしてぇが、颯太はうやむやにする気は無さそうだ。
手を握り直すと、真っ直ぐすぎる瞳で見下ろしてきた。
怒っている様子はない。
ただ静かに、片手が俺の額を撫でた。
「俺以外とやらないでって、言ったじゃないですか。講義の合間にスマホを取りに戻ったらまさかあんな……なんであんな人に抱かれてたんです?」
「いや、え?」
俺は耳を疑った。思わず起きあがろうとするが、額を抑えられているせいか全く動けない。
あんな人、とこいつは言ったのか。じゃあ、兄貴と鉢合わせたってことになる。
部屋の見える範囲に兄貴の痕跡はない。目の前の颯太も、特に怪我をしている様子もない。
様々な恐怖に慣れているはずの心臓が、不穏な音を立て始めた。
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