暗闇の中で〜大学生アルファーは元ヤのつくオメガと生きていく〜

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
8 / 8

最終話(仁視点)

しおりを挟む
 嫌な予想が外れることを祈りながら、俺はわななく唇をなんとか動かす。

「……おい、兄貴……いや、俺を、抱いてた奴は……」
「……」

 颯太は、ただ微笑んだ。

 情けねぇことに震えちまう指で、俺は握られている手の甲をさする。
 こんなに不気味な笑顔を颯太がするなんて信じられない。

 人生の暗い部分を知っているはずなのに、泉のように輝く黒い瞳が......今は底のない沼のようだ。

「番を守るためのアルファーの行動は、ある程度法律で守られるんですよ」
「お前……」

 額から頬に手が滑り、柔らかく撫でてくれる。それなのに、俺は背筋の寒気から抜け出せない。萎縮した身体を動かすこともできなかった。

 俺はアルファーの「番に対する執着心」の異常さを舐めていたらしい。

 怖がったら舐められる。だから感情を表に出さず常に薄ら笑いを浮かべる。
 そう訓練したはずの俺の顔は、おそらく化けの皮が剥がれて引き攣っているに違いない。

「あの人、仁さんの大事な人でした?」

 聞いてくる颯太はいつも以上に穏やかに目尻を下げ、口角も上がっている。でも、俺の一挙一動にコロコロ転がされる可愛い坊やのなりは顰めていた。

 兄貴の安否は、どうでも良い。
 だがヤクザ相手に法律が通用すると思うのか。報復があるに決まっている。
 分からなかったわけはないだろう。
 見るからに手を出してはいけない相手に、こいつは一体何をした。

 大事な相手ではないと首を振るしかない俺の上から掛け布団が消える。
 颯太はベッドに上がって、動けない俺に覆い被さってくる。
 目を逸らしたいのに、それすら怖くてできないなんて生まれて初めてだ。

「俺はアルファーで良かったと、初めて心から思いました」
「ま、て……っぁ」

 静かに紡がれる言葉の意味を考える前に、首筋に歯を立てられた。犬が甘噛みしてくるみたいなんじゃなく、容赦なく骨に響いてくる。

 痛みに髪を掴んでしまいながら、それでも全く嫌じゃない。心の底から俺を求めてくるのが分かって、逃げようという気にもならない。

「颯太……っ?」

 俺に噛みつきながら、颯太は指を後ろに突っ込んでくる。ヤったばかりでほぐれているそこは何の抵抗もなく指を飲み込んだ。グチュっと颯太の指を喜んだそこは、きっとすぐにでも挿れられる。

 でもそれが気に入らなかったのか、颯太の眉根はグッと寄った。

「なんで、俺以外と」
「……っ」
「どうして、何も言ってくれないんですか? やっぱり大事な人だった? 俺が、仁さんを番にしちゃったから取り返しにきたんですか?」

 指を引き抜いた颯太は体を起こし、性急な動きで俺の両腿を掴んだ。股を大きく左右に広げられた間抜けな格好で、俺の卑しく濡れたところは空気に晒される。

「ちが、ぁっあああっ!」

 少しでも言い訳しようと口を開いた瞬間だった。颯太の猛ったモノが一気に俺を貫く。ひと突きで最奥まで届いたその衝撃だけで、俺は腹が痙攣するのを感じる。
 案の定、俺の先端からは白濁が飛び出していた。

「はは、挿れただけでイッちゃった。可愛いね仁さん」
「ぅ、ぁあっ! まだ、うごくなぁ!」
「今みたいな可愛い顔も声も、あの人に見せてたの?」

 俺の言葉なんて、本当に聞いちゃいねぇ。
 颯太の獰猛な目は、嫉妬してるなんて言葉じゃ物足りないほど暴力的だ。 
 頭からトびそうなほど、無遠慮に突き上げてくる。肌がぶつかる音が部屋に響き、ベッドもガタガタと鳴る。

「そ……たぁっ! まて、とま……ってぇ」
「ここ、こうするのが好きでしょ」

 確かにそこが好きだと教えた。颯太の言う通りだ。ひたすら良いところだけを突いて欲しかった。
 乱暴に抱かれるのが気持ちよすぎて、受け止めきれない。
 いつもは少し物足りないくらい優しい動きなのに、正反対の動きをするから体がついていかない。

 大人ぶる余裕もなく快感に喘ぐ俺は、颯太の瞳に醜く映ってはいないだろうか。

「……っあ! あっ!」
「仁さん……っ」

 颯太と生でやるのは三か月ぶりだ。
 直接的な温度が腹を行き来する悦楽で脳髄が痺れる。まともな会話もできなくなりそうだ。

 しかし、こんな状態で颯太は質問を投げてくる。

「どうして、体調を悪くしてまであんな人に体を許したか教えて?」

 それ、今答えないとダメか?

 なんて聞けないほどの圧を感じて、俺は喘ぎ声の合間で何とか喋ろうとした。

「く、ぁ……っ、お、前に迷惑……っなるから」
「どういう、こと……っ?」
「ぁあっ!」

 話させる気があるのかわからないほど、颯太は勢いに任せて何度も腰を打ち付けてくる。
 俺はシーツを掴んで悶えながら、デカい口を開けてなんとか胸に酸素を取り込む。
 弁明くらい、落ち着いてさせてくれ。

「……っお前が、ここに住めなくな……っんぅ」

 ようやく言葉になったところで、今度は颯太の唇に飲み込まれた。
 下手だと笑ってやっていたはずなのに、上手く上顎を撫でて舌を絡め取ってくる。
 こいつは俺が愛撫に感じてる演技をしてると思ってるみたいだが、そんな余裕があるはずもない。

 窒息させられるかと思うほどのキスから介抱されたのは、体が汗まみれになって腕も上がらなくなった時だった。

「っはぁ……、ありがとう仁さん」

 頬を赤くして肩で息をしている颯太は色気があって、体を全て差し出したくなるから狡い。
 俺のこめかみに滲む汗に舌を這わせて、颯太はゾワっとするほど深い声で囁いた。

「これからはそんなこと気にしないで。あの人は二度とここに来ないよ、絶対に」
「そりゃ……なんで……わかるんだ」
「仁さんに俺以外が触れる方が嫌だから、ね」

 だから、なんだというんだ。
 追及するのは怖いが、しなければ対策も打てない。
 だが颯太は突然、甘えた目で俺を見た。

「お願い」
「ひ、ぅ……ぁああっ!」

 おねだりする子どもみたいな声が聞こえたかと思うと、凶暴なものが最奥の更に奥まで穿つ。

「ああああっ!」

 明らかに入ってはいけないところまで侵入されて、景色が一瞬見えなくなった。感じたことのない強烈な刺激に、俺はあっという間に絶頂を迎えてしまう。
 俺の中で締め上げられた颯太も、腹に熱いモノを注ぎ込んできた。

 初めて番になった時と同じ幸福感と高揚感に押されるまま、俺は颯太の背中に腕を回す。

「そう、た……っ」

 穢れのない首筋に顔を埋めると、やはりガキの頃に感じたのと同じ香りがする。体の大きさは逆転しても、温もりはあの時のまま。

 泥に塗れて真っ黒な俺の人生の、唯一の光。

「ああ、本当に仁さんは良い匂いだ」

 颯太も俺の髪に鼻を擦り寄せて、うっとりとした声で囁いてくる。

「思い出したよ、お兄さん」

 ああ、なんて狡いクソガキなんだ。
 そんな風にされたら、もう、何もかもどうでも良くなった。
 

            おしまい
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

一ノ瀬麻紀
2025.09.03 一ノ瀬麻紀
ネタバレ含む
2025.09.03 虎ノ威きよひ

麻紀さん、お読みいただきありがとうございます!
そうですよね、どんな手を使ってでも番いを独り占めする執着攻め🫶
美味しいと言っていただいて嬉しいです!

隠蔽のためにアルファの優秀な頭脳をフル回転させたはずです〜こわぁい😚

解除
金浦桃多
2025.09.03 金浦桃多
ネタバレ含む
2025.09.03 虎ノ威きよひ

金浦さん、最後までお付き合いいただきありがとうございました!
アルファの執着覚醒です✨
何があってもどんな手を使ってでも、お互いを守る()番いになることでしょう🥰

ハピエン!良かった!ではこのお話はハピエンです!ヽ(´▽`)/

解除
金浦桃多
2025.09.03 金浦桃多
ネタバレ含む
2025.09.03 虎ノ威きよひ

金浦さん、お読みいただきありがとうございますー!
颯太......無事ですねぇ😉
次で終わりですので、もう少しお付き合いいただけると嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

事故つがいΩとうなじを噛み続けるαの話。

叶崎みお
BL
噛んでも意味がないのに──。 雪弥はΩだが、ヒート事故によってフェロモンが上手く機能しておらず、発情期もなければ大好きな恋人のαとつがいにもなれない。欠陥品の自分では恋人にふさわしくないのでは、と思い悩むが恋人と別れることもできなくて── Ωを長年一途に想い続けている年下α × ヒート事故によりフェロモンが上手く機能していないΩの話です。 受けにはヒート事故で一度だけ攻め以外と関係を持った過去があります。(その時の記憶は曖昧で、詳しい描写はありませんが念のため) じれじれのち、いつもの通りハピエンです。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いします。 こちらの作品は他サイト様にも投稿しております。

【完結】おじさんはΩである

藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ 門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。 何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。 今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。 治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。

孤独の王と後宮の青葉

秋月真鳥
BL
 塔に閉じ込められた居場所のない妾腹の王子は、15歳になってもバース性が判明していなかった。美少女のような彼を、父親はオメガと決め付けて遠い異国の後宮に入れる。  異国の王は孤独だった。誰もが彼をアルファと信じているのに、本当はオメガでそのことを明かすことができない。  筋骨隆々としたアルファらしい孤独なオメガの王と、美少女のようなオメガらしいアルファの王子は、互いの孤独を埋め合い、愛し合う。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。 ※完結まで予約投稿しています。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~

つきよの
BL
●ハッピーエンド● 「勇利先輩……?」  俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。  だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。 (どうして……)  声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。 「東谷……」  俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。  背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。  落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。  誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。  そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。 番になればラット化を抑えられる そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ しかし、アルファだと偽って生きていくには 関係を続けることが必要で…… そんな中、心から愛する人と出会うも 自分には噛み痕が…… 愛したいのに愛することは許されない 社会人オメガバース あの日から三年ぶりに会うアイツは… 敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ

下っ端公務員の俺は派遣のαに恋してる【完結済】

tii
BL
市役所勤めの野々宮は、どこにでもいる平凡なβ。 仕事は無難、恋愛は停滞、毎夜の癒しはゲームとストゼロだけ。 そんな日々に現れたのは、派遣職員として配属された青年――朝比奈。 背が高く、音大卒で、いっけん冷たそうに見えるが、 話せば驚くほど穏やかで優しい。 ただひとつ、彼は自己紹介のときに言った。 「僕、αなんです。迷惑をかけるかもしれませんが……」 軽く流されたその言葉が、 野々宮の中でじわりと残り続ける。 残業続きの夜、偶然居酒屋でふたりきりになり―― その指先が触れた瞬間、世界が音を立てて軋んだ。 「……野々宮さんって、本当にβなんですか?」 揺らぎ始めた日常、 “立場”と“本能”の境界が、静かに崩れていく。 ☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。 【第13回BL小説大賞】にエントリーさせて頂きました! まこxゆず の応援 ぜひよろしくお願いします! ☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。