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第一章 初心者の躍動

第八十四話 鉱山の戦闘(1)

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 そして鉱山を登り始めて程なくして、ナギは急に足を止めて周囲を見回した。

「……?何か、気配があったと思ったんだけど…気のせいか?」

 ナギはそう言いながらも誰もいないはずの周囲を見回す。
 しかし何処にも生き物の影はなく、鉱山特有の岩場が広がっているだけ。だがその光景を見てもナギは何かいると確信しているようで、鋭い視線で周囲をくまなく観察する。

 いくら探しても何者の姿を確認できずナギは潔く諦めた。

「はぁ…しかたない。とりあえず、周囲警戒だな…」

 そう言うとナギはまったく気を抜いていない、警戒しきった雰囲気で周囲を探りながらゆっくりと歩いていく。
 警戒心全開で登り続けるナギだったが、その間は特にこれと言った襲撃はなく。少しナギが警戒しすぎだったか?と考え始めた。ちょうどその時…

 ドァァァァアァッ‼

「っ⁉」

 突然の爆発音にナギは驚いて耳を塞ごうとしたが音の発生源が自身の横、鉱山の上の方から聞こえた事に気が付くと全力で走り出した。
 その次の瞬間、先ほどまでナギが立っていた場所を大量の岩が転がり落ちて来たのだ。
 ナギは振り返ってその光景を確認して避け切れなかった時を想像し、ぞっとしていた。

 しかし先ほどの爆発音を思い出してナギは警戒した様子で音の発信源を確認する。
 だがそこには、何か生物がいる様子はなく、その事に余計に警戒したナギは詳しく確認しようと直接山を登ろうとした。
 ちょうどその時、転がり落ちて来た岩の塊が静かに飛び跳ねてナギへと襲い掛かった。

「⁉」

 完全の不意打ちだった攻撃だが、飛び上がった時に影が出来ていてそれに気が付いたナギは驚きながらも何とか飛び退いて躱した。
 ドンッ‼と躱された岩の塊はどれほどの重量化分かる後を立てながら地面へと激突した。

 それを確認したナギは相手がまだ動かず、少しだが土煙が目隠しになっているうちに鑑定スキルを発動する。

『鑑定』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名前 なし 種族 ストーン・バグ Lv19

 状態 健康

 スキル 擬態Lv7、体当たりLv5、爆発Lv2、跳躍Lv2、石弾Lv1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「うげぇ…」

 その鑑定結果を確認したナギは心底嫌そうに顔を歪める。
 そしてナギが鑑定している間にストーン・バグは体勢を立て直して、ナギの方へと振り向く。

 始めて正面から見たストーン・バグの姿にナギは更に表情を凍らせた。
 その正面からは何処から見ても虫にしか見えないかをと足。更には最初は岩に見えた背中も、正面からよく目を凝らして見るとただの甲殻だったのだ。
 しかもその虫の大きさは軽く1mを超えているのだ。

「……キモイ、いや、これはちょっと…別の意味で戦いたくないんだが…」

 ナギは戦いの怖さとかとは別の、完全な生理的な嫌悪感から少しずつ後ろへと下がっていた。
 しかしストーン・バグが足に力を入れている事に気が付き、慌てて先ほどまでの自分を心の中で打ち消す。

(っこんな理由で戦いから逃げて、もしそれが師匠に知られたら…………うん、それに比べればキモイ敵の10や20怖くもないなっ!うん‼)

 全力で先ほどまでの失態を現実でばれないようにしようと固く決意し、改めて真剣な表情で短剣を引き抜き構える。
 それとほぼ同時にストーン・バグは今まで溜めていた力を一気に解いて高く上空へと跳んだ。
 だがその行動にナギはすぐに気が付き上の敵の姿を確認していると、ストーン・バグは下降し始めた。

 それを確認したナギはすぐさまに近くの斜面を駆け上る。標的を失った事でストーン・バグは地面へそのまま激突した。
 だが、見た目以上に防御力が高いのかHPは数ミリ単位でしか減っていなかった。
 しかし背を向けているナギはその事に気付かず、だからこそ躊躇なく行動に移すことが出来たのだ。

 ナギは音で後ろで墜落したのを確認すると、勢いそのままにその場で宙返りの要領で後ろへ跳ぶ。
 そしてナギの狙い通りストーン・バグは先ほどまで居た場所で止まっていた。

(よし、やっぱり外すと少しの間動けないんだな)

 自身の仮説が正しかった事に満足げに笑みを浮かべていた。しかし落ち始めると気を引き締め直して短剣を構える。
 そのまま自由落下に任せて頭上に短剣を突き立てる。

『っっっっ⁉』

 突然の頭上からの攻撃に声の無い悲鳴を上げるストーン・バグ。
 その時に暴れ出そうとしたのでナギは慌てて飛び降りた。その時、とっさの状況にもかかわらずちゃんと相手の背後へと飛び退いたのは本能に近かっただろう。

 何故ならナギがいなくなったと同時に前方へと体から石の一部を飛ばした。しかもその石は地面へとぶつかった瞬間…

 ドガァァァァァッ!という爆音を上げて爆発した。

「くっ!」

 その爆風を間近で受けたナギは何とか堪え、目の前の爆発に戦々恐々としていた。

(……やば、なにこれ…。時価で受けたら消し飛ぶんじゃないか?一応ゲームだし、防御力なんて言う数値があるわけだし、即死は無いだろうけど……)

 ナギは最初は恐怖を感じていたが、徐々に冷静になると真剣に対策を考え始める。だが何時までも動かないでいる間にストーン・バグの方が先に動き出した。
 先ほどまでの遅い動きが嘘のように素早く動き出し回りナギの方へと向こうとし始めた。
 その突然の行動の変化にナギは慌てて回転に合わせて走り出す。

 だが少しストーン・バグの速度の方が速く、すぐに振り切れないと気付いたナギは急に停止して今度は逆方向へと走り出す。
 突然の方向転換で一瞬ストーン・バグの正面を横切ったが、そんな一瞬で攻撃を飛ばす事はできなかったようでナギは攻撃される事無く通り過ぎた。
 それを確認したストーン・バグも急停止して反対に回転しようとした。しかしナギと違い足が人間の物とは違い、虫類の細い足での急停止だったためにちゃんと止まれずに倒れこんでしまう。

 いきなり相手が倒れたことにナギは一瞬不思議そうにしていたが、すぐにチャンスだと気が付き一気に攻勢に出る。
 まだ耐性を立て直せていないストーンバグの近くに駆け寄ると、必死に立ち上がろうと動かしている足の関節を曲がらない方向へ短剣の柄の部分で全力で叩く。
 するとバコッ!と言うもの凄い音を立て反対側へと軋む。

『ッ⁉』

 声帯の無いため悲鳴を上げる事はできなかったがストーン・バグはもの凄い勢いで暴れ出した。
 それを見てナギはすぐさまにその場から飛び退いて難を逃れ、少し離れたところで不思議そうに首を傾げる。

(虫って確か痛覚なかったよな…何で痛がってるんだ?……魔物だから違うのかな?まぁそう言う事だろ!それよりも、こいつHPまったく減らないな……)

 そう思ってナギがストーン・バグの残りHPを確認すると、ストーン・バグ自身が落下した時のダメージを足してもようやく一割と言ったところだった。
 あまりの相手の硬さにナギは嫌そうに顔を歪めたが、すぐに何か思い出したようではっ!とするとすぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「はははははっ‼いや~完全にやろうと思った事を忘れていたわ…早速試すかな」『ファイヤーエンチャント』

 少し恥ずかしそうにだがそれ以上に楽しそうに笑っていたナギは、すぐに真剣な表情に切り替わり新たな魔法を口にした。すると手にした短剣の刃が赤く光だし小さく火の粉が散りだす。
 それを見たナギは心底楽しそうに笑みを浮かべて走り出した。


 向かうの先ではようやく立直ったストーン・バグがナギを見つけて何とか正面を向けようとしている所だった。
 しかしナギは何故か避けようとはせずにそのまま走り続ける。

 それから少しして完全にストーン・バグがナギに正面を向けた時、ナギは今まで以上に急速に加速して一気に距離を縮める。
 急にナギを見失ったストーン・バグは戸惑ったように思わず動きを止めてしまう。そんな何度も見て来た生物的な動きに、ナギはようやく少しだけ興味が出そうになった。
 だが現在は戦闘中。そのために極限まで集中しているナギの頭はすぐにその興味を追いやって、今やろうとしている事へと集中を戻す。

 そして加速したナギは固まって隙だらけのストーン・バグの顔横に立っていて、体と顔のつなぎ目へと躊躇なく短剣を突き立てた。
 その瞬間、エンチャントの効果なのか切り込んだ周囲に火が燃え移ったのだ。ナギは予想外の事態だったがそのまま短剣を振り下ろしてから移動した。

『ッ⁉ッッッ‼』

 急に首筋?へと突き立てられ更に焼かれたストーン・バグは今度こそ本気でその場に転がった。
 しかしそんな状況の中、攻撃した本にンのナギだけは不思議そうに短絵kんを眺めて首を傾げていた。

(火属性付与って、攻撃したら燃え移るのか?普通に使いづらいんだけど…)

 攻撃してその箇所が急に燃える。その予想外の効果にナギは本当は少し、内心ではビビっていたのだ。
 しかしそれは普通の事なのだ。何故なら初めて使用したちゃんと理解していない方法で、攻撃力が上がる程度の認識で使ったらそれ以上の効果が実はあったと言う事なのだから。
 だがその驚きのせいでナギは相手の残りHPの確認を怠ってしまったのだ。そのために相手がまだ倒れていない事に気が付けなかったのだ……
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